女は天国!? - 関西クィア映画祭 2014

辻上 奈美江
調査者とリフレクシヴィティ
郡司みさお
――
―
ポスター制作:ひらまつ、じゅんぺい
出典:イスラーム世界研究 第 2 巻 1 号(2008 年)238-249 頁
サウディアラビアを訪れた日本人女性の言説を題材に
―
いったん結婚しちゃえば、女は天国!? 一 人 前 で は な い が 故 に 責 任 義 務 が な い 女 性 は、む し ろ 自 由
竹下節子
――
だけを謳歌し、教養を身につけ、ひたすら消費に励めばよいパ
ラサイト妻で、天国のような状態にあるとも言える これらは、日本人女性が著したサウディ人女性に関する言説の一部である。
映画『少女は自転車にのって』を観る私たちの視線について考える資料として、サウジアラビア社
会のジェンダー秩序を研究している辻上奈美江さんの論文を紹介します。全文は『関西クィア映画
祭 2014 参考資料集』に掲載しておりますので、ご自由にお持ち帰りください。
1.はじめに
サウディ人女性と直接交流した経験を有する彼女らは、いったいなぜ女性の地位に関する一般的
﹁ 天 国 ﹂ とまで呼んで羨望視すらするのか。
イメージを覆すのみならず、それを
2.二つのアプローチ:抑圧論と脱抑圧論
の と は か な り 違 っ て く る 。﹁ 実 は 、 女 性 が と て も大 事 に さ れ て い る
﹂社会
る。女 性 の 権 利 が な い と い っ て も、女 性 が 虐 げ ら れ て い る と か 奴 隷 状 態 で あ る と い う
これまでサウディ人女性に付与されてきた抑圧や差別のイメージを塗り替えようとす
脱 抑 圧 論 は 、個 々 の 女 性 の 声 や 経 験 に 着 目 し 、女 性 の 自 立 性 や 戦 略 性 を 見 出 す こ と で 、
額 さ れ る不 当 さ
治 的 権 利 の 不 在、女 性 に 不 利 な 行 動・服 装 規 範、女 性 な ら 遺 産 相 続 は 男 性 の 半 分 に 減
彼 女 ら の 声 や 経 験 に 無 関 心 で、欧 米 的 価 値 観 の 押 し 付 け に 陥 る こ と が あ る。女 性 の 政
抑 圧 論 は、サ ウ デ ィ 女 性 の 置 か れ た 法 的 立 場 を 明 確 に 指 摘 し て は い る も の の、時 に
?
?
3.リフレクシヴィティ
なぜ日本人女性作家らは脱抑圧論を採用するのだろうか。抑圧論と脱抑圧論のいずれの捉え方
家
) 父長制が女性によっても支持され、専業主婦であることが女性にとってのひとつの戦
も 著者らの信念や価値体系 と無関係ではない。
中
( 略
略 性 を 形 成 し て い た こ と は 、日 本 人 女 性 と サ ウ デ ィ 人 女 性 の ジ ェ ン ダ ー 観 を 探 る
上 で 鍵 と な る共 通 点 で あ る よ う に 思 わ れ る 。
4.知の定義権の占有者のアイデンティティ
筆 者 は、女 性 と し て の 言 葉 づ か い や ふ と し た 仕 草 ま で の あ ら ゆ る こ と が、男 性 支 配 を 受 容 し、
再生産し、強化するものであると考えるに至った。けれども、このような筆者を悲憤させてきた
のは、まさに男性支配が社会構造に埋め込まれてしまっているがために、当の女性自身が問題の
根深さに気づいていないことである。/一部の女性たちにとっての
﹁ パ ラ ダ イ ス ﹂は 、マ イ ノ リ テ ィ
を再生産する諸刃の剣でもあるのではないだろうか。
が 生 き に く い閉 塞 的 な 社 会 の 裏 返 し な の か も し れ な い 。さ ら に 、﹁ 保 護 ﹂と い う 一 見 体 裁 の
良 い概念 は 、支 配 ・ 服 従 関 係