北陸新幹線開業で拡大する北陸観光需要

マーケットウィークリー・817号
産業ニュース
2015.2.27
原油価格下落がもたらす市場への影響
作成者:兵藤三郎
原油価格、直近高
値から約半分の水
準に下落
1バーレル当たり100ドルを超えていた原油価格は、2014年夏以降下落に転じ、
年明けには40ドル前後まで急落した。その後は、足元50ドル台後半にまで回復し
ている。若干落ち着きを取り戻したとはいえ、ピークからは半値に近い水準とな
った。先進国の景気回復、地政学リスクの増大、新興国需要の拡大等を背景に上
昇してきた原油価格は、シェールオイル開発による需給の緩みや中国をはじめと
する新興国での成長鈍化懸念の台頭で、一転下落に転じた。さらに11月のOPE
C総会で減産が見送られたことで、下落に拍車がかかった。
原油価格変動が世
界経済に及ぼす影
響は大きい
原油は燃料用途以外にも「産業のコメ」などと称されるように様々な製品の原
料として用いられているため、その価格変動が世界経済に及ぼす影響は大きい。
下落は、主要エネルギー源のほとんどを輸入原油に依存する国においては、製品
価格下落、購買力の向上、消費拡大による景気押し上げ要因となろう。一方懸念
材料もある。1970年代に起きた2回のオイルショックを契機に上昇している原油価
格は、1986年、2008年の2度逆オイルショックとも呼ばれる大きな下落局面があっ
た。外貨獲得手段を原油輸出に依存している、一部の産油国で信用不安が拡大し、
世界経済が混乱した。今回の下落でも、世界最大の産油国ロシアの通貨・ルーブ
ルが急落、米シェールガス開発会社の経営悪化なども報道されている。
シェール開発、コ
スト割れで開発中
止続出か
シェールオイルとは、地表から2-3kmと深度にある頁岩(シェール)層内に存在
する石油や天然ガス。採掘には従来方法とは違う新たな技術を必要とするため、
原油下落により採算割れしている模様。その採算ラインは60-70ドルと言われてお
り、現状レベルで価格が推移すれば、今後も開発中止等のケースは増加しよう。
原油価格下落の最
大メリット享受業
界は化学
国内企業に限定すれば、JX(5020)、出光興産(5019)、東燃ゼネ(5012)
等、大量の備蓄を抱え、価格下落により評価損を計上せざるを得ない石油関連企
業や、米国でシェール開発に携わる大手商社、資源開発関連企業等を除けば、燃
料安・原料安を通じて総じて業績にプラスサイドで働こう。中でも原油価格下落
で最大のメリットを享受するのが化学業界と考える。今回の産業ニュースでは化
学業界中心に原油下落の業績に及ぼす影響等を考察した。
◇原油安による2次的影響(メリット)
要因
発電用重油価格下落
電気料金値下げ、燃料価格値下げ
ガソリン価格下落、輸送費削減
ジェット燃料費、燃油サーチャージ下落
(出所)各種資料よりCAM作成
下落影響の浸透遅
れ、今決算には物
足らなさが残った
業界
電力業界
鉄鋼、紙パ等
運輸、輸送用機器
空運、サービス
関連銘柄等
電力9社
東京製鉄、王子紙、日本製紙
ヤマトHD、自動車メーカー
ANA、HIS
10-12月期業績を見ると、総じて良好であったものの、マーケットでの期待値に
届かなかった企業も多く、物足らなさが残った決算であった。その傾向は、円安
メリットの享受が期待されていた電機メーカーも含め経営環境が好転している業
種に多く見られた。要因はマーケットが想定したほどその影響が浸透していない
ことにあろう。化学業界もその例外ではなかった。しかし、さらなる原油価格の
下落には不透明さは残るが、一方で再度シェール開発が活況となる水準への原油
マーケットウィークリー・817号
2015.2.27
価格急騰も考えにくい。来期にかけては、原油価格下落→原油由来原材料(ナフ
サ等)価格下落→化学メーカーへの好影響のサイクルが示現すると考えられる。
原油価格下落影響
は徐々に川下分野
に波及を予想
石油化学製品は原油を蒸留し分離したナフサを原料として基礎製品のエチレ
ン、プロピレン、ブタジエン等が生産される。その基礎製品からポリエチレン、
ポリプロピレン等の中間体を経て、合成繊維、医薬品原料、農薬、塗料・インキ、
電子部品材料などの最終製品となる。原油価格下落の影響は徐々に川下の分野に
も及んでこようが時間はかかる。現在の法律では70日以上の民間備蓄が義務付け
られていることも長期化の要因となっている。比較的上流部物の多いのが総合化
学メーカー。国内大手3社の今決算は、石油化学関連の事業で原油安に伴う在庫評
価損発生等があったものの、原料安メリットは享受し、採算は改善した。三井化
学(4183)は上方修正、住友化(4005)も業績予想の上振れを示唆、三菱ケミH
D(4188)は大陽日酸(4091)の子会社化もあり昨年既に上方修正済み。
◇主要石化製品と用途・原料等
石化製品
用途・原料等
ナフサ
原油を蒸留分離して得られる、エチレンやベンゼン等の原料
エチレン
ナフサ等の熱分解で生産、ポリエチレン、アセチレン等の原料
アクリロニトリル
石油精製の過程で生じるプロピレンから製造、合成繊維等の原料
ベンゼン
ナフサの改質、エチレン製造工程で産出される、他の化学物質の原料
ブタジエン
エチレンの製造過程等で作られる、合成ゴムやナイロン生産における中間体
(出所)各種資料よりCAM作成
個々製品ごとの状
況の違いに留意は
必要
ただし、個々の中間製品間には、最終製品の需要状況、生産能力及び増産余力、
新規設備及び稼働設備の定修計画の有無など様々な製品スプレッドの変化が生ず
ることには留意する必要があろう。たとえば足元、原料価格上昇に伴い一時的に
採算が悪化しているアクリロニトリル(AN)では、今後の市況改善が予想され
る。ANは原料のプロピレン生産設備の定修、中国での新設備稼働による影響で
需給が緩んだことが採算性の悪化につながったものの、今後はプロピレンの生産
増に加え、新規のAN増設計画がないため、需給の好転を予想する。関連銘柄で
は旭化成(3407)、住友化、三菱ケミHDなど。
無機化学ではNF
3に注目、関連銘柄
は関電化
その他、無機化合物ではあるが半導体向け等の需要が好調な三フッ化窒素(N
F3)等に注目したい。NF3は半導体製造における成膜工程数増加に伴い需要が
急拡大した一方で、大手メーカーによる増産余力が乏しいため価格が上昇した。
最大手の韓国メーカーが増産を計画するものの、新設備稼働は15年10月以降とな
ろう。半導体の生産も活況、当面需給タイトな状況が続こう。国内の関連銘柄は
関電化(4047)。
◇主な半導体関連の注目企業の株価とコメント
(単位:円、倍)
銘柄
コード
株価
PER
コメント
東レ
3402
997.0
19.9 繊維、プラスチックの売上高構成高く原油安メリット大
関電化
4047
814
12.3 半導体、液晶用の特殊ガスの販売好調
ダイセル
4202
1,590
18.6 合成樹脂事業、セルロース事業の貢献で増益
DIC
4631
322
9.7 印字用インキ世界首位、溶剤価格下落で利益率向上
積水化
4204
1,472
13.9 高機能プラスチックがモバイル端末向け製品需要好調
(注)株価は2月23日終値、PERは今期予想