当社が開発中の製品に関するアイデアを特許出願

藤本昇特許事務所 大川 博之◇弁理士
当社が開発中の製品に関するアイデアを特許出願しようと思い、社内で先行技術の有無を調
査しました。その結果、当社アイデアに近い考案が記載された他社の実用新案公報を発見し
ました。しかも、この実用新案は昨年登録になったばかりで権利存続中です。この実用新案
との関係を考慮し、当社の開発および製品化を安心して行うにはどうすればいいでしょうか。
1.実用新案権とは
実用新案権は、特許権と同じ
(三重県 J.M)
技術評価は、特許庁の審査官が行う
技術評価の調査は法定の限定された
実用新案の登録性
(新規性、進歩性等)
範囲で行われるため、有効評価であっ
く独占排他性のある権利です。このた
に関する評価であり、
6段階の評価が記
たとしても無効資料を見つけられる可
め、もし貴社製品が他社実用新案権を
載された技術評価書が発行されます。
能性があります。
侵害する場合、特許権侵害と同様に差
ちなみに実用新案権の行使は、この
仮に無効資料を発見できた場合、前
止請求権や損害賠償請求権を行使され
技術評価書を提示して警告することが
記無効資料を特許庁に情報提供したう
るおそれがあります。
条件となっています(実用新案法29
えで、再び技術評価を請求することに
ただし、後述のように現在の実用新
条の2)
。評価請求は何人も行うこと
よって、他社実用新案の登録性が否定
案は無審査制度となっていますので、
ができます。実務上、自社の名前を明
される旨の評価を得られることもあり
これを踏まえたうえで、他社実用新案
かさないようにするため、
「ダミー」
ます。
に対して適切に対応すべきでしょう。
で評価請求するのが一般的です。
なお、無効調査を行う場合、請求項
の減縮訂正が1回限り可能であること
2.現在の実用新案制度
4.貴社製品の侵害検討
から(実用新案法14条の2)
、訂正さ
平成6年以降に出願された実用新案
技術評価が他社実用新案の登録性を
れる可能性を見越しつつ、すべての請
は、方式要件と基礎的要件の審査だけが
否定できない旨の評価
(以下、有効評
求項、および明細書の記載も考慮して
なされ
(実用新案法2条の2、6条の
価)
であった場合、貴社製品が他社実用
調査するようにしてください。
2)
、新規性、進歩性等に関する実体審査
新案の技術的範囲に属するか否かを検
を経ずに登録される無審査制度となっ
討すべきです。貴社アイデアは他社の
ています。つまり、現在の実用新案は、
実用新案公報に記載された考案に近い
特許出願の場合であれば拒絶されるよ
ということですが、技術的範囲の属否
貴社製品が他社実用新案の技術的範囲
うな、新規性や進歩性が欠如した考案で
判断には専門知識が必要ですので、弁
に属する可能性が高く、他社実用新案
も登録されるのです。このため、実用新
理士に相談されることをお勧めします。
に無効理由が見つからない場合には、
案権には有効な権利とそうでない権利
が混在していることに注意すべきです。
まずは特許庁に実用新案技術評価
(以下、
技術評価)
を請求してください。
60 The lnvention 2015 No.3
技術評価が有効評価であり、かつ、
そのまま開発を続行するのは危険です
5.他社実用新案の無効調査
前項検討の結果、貴社製品が他社実
3.実用新案技術評価
(書)
の請求
6.侵害回避の検討等
ので、侵害を回避できる設計変更を検
討すべきです。
用新案の技術的範囲に属する可能性が
なお、他社からの実用新案権の譲り
高い場合、他社実用新案の登録性を否
受けや実施許諾を受けることも選択肢
定できる無効資料を探してください。
として考えられます。