増淵宗一先生

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ますぶち・そういち:日本女子大
学人間社会学部文化学科教授。
専門領域 美学・芸術学・人形論。
著書に『東西喫茶文化論 形象美
学の視点から』
(淡交社)
、
『茶道
と十字架』
(角川選)
、
『少女文化
論 禁断の百年王国』
(講談社)
『リ
カちゃんの少女不思議学』
(新潮
社)など。
りかちゃんの研究の第一人者
増淵宗一先生
(日本女子大学 教授)
“可愛さ”をテーマにした授業「美学」
。
とりあげるのは、
「リカちゃん人形」だったり、
「ハローキティ」だったり、
「ちびまる子ちゃん」
。
ユニークな視点で進められる授業は
学生に大人気だそうです。
学問って、こんなに自由だったんですね。
リカちゃんの魅力は、やっぱり「可愛い」っていうところですね。
大
学で勉強する『リカちゃん』
。
「ユニコな先
──着せ替えや、ごっこ遊びをするのも、そういっ
生(ユニーク×コミュニケーション)
」第1
た人形ですね。
──それは、女性の意識の変化とも言えますか?
回目は、学問への意識を変えてくれる先
増淵 関連グッズに『リカちゃんハウス』という
増淵 そうでしょうね。かつては、
“可愛い”は通
生の登場です。
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つきますね。
のがあって、これがすごく時代を反映しているんで
過価値で大人になったら卒業するものだった。で
す。日本のマイホームドリームの歴史を表している
も、今の学生からすると「可愛い大人はあり」なん
──先生は、タカラトミーの『リカちゃん』の研究
んじゃないかっていうくらい。人形とハウスを通す
ですね。
「可愛いおばあちゃんになりたい」なんて
をされていて、お詳しいという印象があります。本
と、
戦後 40 年の歴史が見えてきちゃうというくらい。
意見もある。20 年前とは全然違いますよ。
来の専門はどういったジャンルなのでしょうか。
マクドナルドや回転寿司のハウスなんかもあるし、
──時代の変化ですね。
増淵 僕の専門は、人形美学。大学院時代から
かなり世相が分かりますよ。
それは、
実際に手にとっ
増淵 昔ね、こんなことを言った学生がいました。
やっていました。今から 30 数年前に、縁あって日
て遊ぶ人形だからこその特徴でしょう。あと、面白
「リカちゃん人形とリカちゃんハウスを持ってる子は
本女子大学に就職したのですが、授業の中で、
「君
いのは地域によって遊びかたが違うんです。雪が
お金持ちの家の子。リカちゃん人形を持っている
たちが遊んだ人形ってどんなのがあるの?」って訊
多い地域は基本的にインドアだけど、南の暖かい
子は普通の家の子。何も持っていない子は貧乏人
くと、ある世代から突然、みんながリカちゃん人形
エリアはそうでなかったり。こういう南北の問題も
の家の子」
。それは、リカちゃんが生まれた当時、
で遊んだ、と言うんですね。それ以前はてんでバラ
研究すると面白いですよ。
約 40 年前は貧富の差が結構あったということ。で
バラで、バービー人形やミルクのみ人形などで遊ん
──リカちゃんの魅力ってなんでしょう?
も、今はもうそういうことはない。逆に、お金があっ
たってリカちゃん人形を買わない。
でいた。でも、ある時期から突然、リカちゃんにな
増淵 やっぱり「可愛い」っていうところでしょう。
るんです。発売された当時の子どもたち大学に進学
まず、顔がバービー人形や、それまでに出てきたス
──研究テーマは尽きませんね。
し、
「リカちゃん世代という共通項があれば、それ
カーレットという大人っぽい人形と違う。非常に日
増淵 リカちゃんに限らず、ハローキティ、マイメ
を通して定量観測ができ、少女民族学という新し
本的な可愛さ。同様に、バービー人形なんかだと、
ロディなどのサンリオキャラクターなど、日本には
い分野を開拓できるんじゃないか」と考えて研究を
サイズが 30 センチ前後で大きいのですが、
リカちゃ
可愛い文化がたくさんあります。今はそれらが少女
始めたんです。
んは約 21 センチ。当時は、小学校 5 年生が遊び
文化財みたいになってきているんです。いずれそう
──女子大は絶好のロケーションですね
手の中心層だったので、いちばんしっくりくるサイ
いうものを集めて、
「少女文化財博物館」みたいな
増淵 そうですね。自分で遊んでいた人形を研究
ズなんですよ。手でつかみやすい大きさということ。
のができるといいですよね。日本の少女が戦後遊
資料として寄贈してもらったり。最初は、何も知ら
──その可愛さは、普遍的なものなのでしょうか。
んできた人形玩具を一堂に会して(笑)
。
ないから学生に教えられながら聞き取り調査をして
増淵 変わってきてますよね。今の小学5年生でリ
いました。でも、
その積み重ねでどんどん、
詳しくなり、
カちゃんで遊ぶ子は減り、対象購買層は低年齢化
いつのまにかリカちゃん博士とか言われて(笑)
。
してます。いま幼稚園の子どもたちが、リカちゃん
──人形美学とはどういう研究内容なのでしょう
で遊んでいる。そういうことも含めて可愛さの基準
増淵 本来はね、飾るというよりはむしろ、手でこ
はかなり変わってきています。
“エロカワイイ”みた
う握るのが人形なんですよ。生活に密な存在のも
いな、新しい価値観も出てきてますし。
のです。僕はそれに興味があった。それを介して美
──“可愛い”のバリエーション化でしょうか
意識とか美的価値とか研究したいっていうのがス
増淵 キモカワイイ、ヤスカワイイ。
“可愛い”の
タートです。
多様化、高年齢化で、なんだかやたらに形容詞が
2007年10月20 〜 21日に、日本
女子大学西生田校舎で行われる
学園祭「日女祭」において、文
化学科の学生有志による「リカち
ゃん展」が開催されます。