知られざる工業国バングラデシュ

村山真弓・山形辰史 編
ュに工場を設立したりして、輸出向け
シュ企業と提携したり、バングラデシ
七〇年代末には韓国企業がバングラデ
代替的な生産基地を探していた。一九
せられた輸入数量制限を逃れるために、
国のアパレル・メーカーが、欧米に課
一九七〇年代半ばから、東アジア諸
一億六〇〇〇万人ともいわれる人口大
●次は何でショナル・バングラ
ジアの雁行に追いついた感がある。
れていたバングラデシュが、遂に東ア
滞のアジア﹂の代表として位置づけら
ジア﹄
︵東洋経済新報社︶において、﹁停
利 夫 の 名 著﹃ 成 長 の ア ジ ア 停 滞 の ア
らかになっていた。一九八五年に渡辺
製品産業、家電産業やIT産業や製薬
●﹁ 黄 金 の ベ ン
ガル﹂に縛ら
れた過去
縫製業が興った。それまで工場労働に
国である。一人あたり所得の上昇につ
産業、ひいては造船業︵船の解体では
バングラデシュ
は全く動員されなかった女性労働力を
れて、国内市場が拡大していくことが
したエルシャド政権へと移るにつれて、
主要産品は米とジ
は英領時代からパ
活用し、一九八五年に輸入数量制限を
徐々に呪縛が解けていった。
ュートと知られて
キスタン時代に至
アメリカ、カナダから課されるように
ない︶の顕著な拡大を導いたことが明
いる。バングラデ
るまで、ジュート
●縫い合わされた工業化
シュは漁業国でも
や米を中心とした
必定である。事実、拡大する国内市場
は 農 業 国 で あ る。
アジ研選書三七、アジア経済研究所 二〇一四年
ある。大きな川魚
なった後も、輸出向け縫製業は右肩上
バングラデシュ
が主要なタンパク
農業を担うことが
工業 の 中 心 は 、 衣 類や靴といった労働
ト の 紡 績・ 織 布 工 場 さ え 東 ベ ン ガ ル
ことになった。英領時代には、ジュー
にバングラデシュを農業に縛りつける
しかし、農業に根差した繁栄が、逆
〇年代から二〇〇〇年代にかけて輸出
ばれている。バングラデシュは一九九
ることから、雁行形態型産業発展と呼
が連なって飛ぶように発展を後追いす
う発展パターンは、先導国に続き、雁
品の生産へと業種を拡大していくとい
の後、電気機械の組み立てや、その部
牽引される形で産業発展を開始し、そ
縫製業に代表される労働集約産業に
世界のなかでどのような役割を果たし、
黄金に輝いたバングラデシュが、今後、
入門書である。かつて米やジュートで
者に紹介する、バングラデシュ産業の
シュの産業化の動きを捉えて日本の読
シュの可能性に注目し始めている。
が、日系企業などの外資もバングラデ
したのは地場の企業グループであった
いる。このような工業化の拡大を牽引
ーなどの小売業も目にみえて伸長して
に、家電やバイク、加工食品、医薬品、
集約 的 製 品 、 そ し てジュート製品や食
︵後にバングラデシュとして独立する︶
品に占める衣服の割合が四分の三にま
新たな輝きをみせてくれるのか、我々
ITサービスが供給され始め、スーパ
品といった一次産品加工製品である
には立地しなかったし、パキスタン時
で高まり、製造業に関しては、輸出向
著者達自身がとても楽しみにしている
がりの成長を続けていく。
が、 そ れ ら に 加 え て、家電や造船、バ
代には西パキスタン資本が東パキスタ
け縫製業のモノカルチャー︵一つの産
●群れに追いついた雁
イク や 自 転 車 、 医 薬品といった製品へ
ン︵東ベンガル︶経済において支配的
業が支配的な経済︶とみられていたの
求められた。長い間、黄金色のジュー
も、 工 業 化 の 広 が りがみられる。さら
であった。さらに独立後は、それらの
ト や 米 が 豊 か さ の 象 徴 で あ っ た た め、
には、IT関連サービスやスーパーマ
西パキスタン資本による工場の多くが
のである。
し か し 、 い く つ かの側面からみると、
重要 な 輸 出 産 品 で ある。
ーケ ッ ト ビ ジ ネ ス といったサービス産
であるが、本書の出版を考えるように
バングラデシュを含むベンガル地域は
業に も 顕 著 な 展 開 がある。このように、
国有化の対象となったため、バングラ
なった二〇一〇年代前半には、輸出向
け縫製業が国際競争に勝ち残ったこと
ラ︶﹂と呼ばれた。
た。一九七〇年代後半のジアウル・ラ
から得られた自信が、靴を含む革・革
側面 を 伝 え る た め に、本書を出版した。
この バ ン グ ラ デ シ ュの工業国としての
る。多くの読者にとって意外であろう、 ﹁ 黄 金 の ベ ン ガ ル︵ シ ョ ナ ル・ バ ン グ
最貧 国 と 呼 ば れ て 久しいバングラデシ
デシュの工業化はなかなか進まなかっ
な手 ご た え が あ る ということを伝えた
フマン政権、一九八〇年代初めに成立
︵やまがた たつふみ/アジア経済研究
所 国 際 交 流・ 研 修 室、 む ら や ま ま ゆ
同 新領域研究センター︶ み
本書はこのような新しいバングラデ
ュ に、﹁ 知 ら れ ざ る ﹂ 産 業 発 展 の 確 か
バン グ ラ デ シ ュ は 既に工業国なのであ
バングラデシュはそもそも、人口が
源である。エビも
﹃ 知られざる工業国バングラデシュ﹄
山形辰史・村山真弓
くて 、 我 々 は 本 書 を出版した。
アジ研ワールド・トレンド No.233(2015. 3)
65
新刊
紹介