外国人観光案内所認定制度

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外国人観光案内所認定制度
増加傾向にある訪日外国人旅行者
訪日旅行者誘致活動が本格的に始まったのは、2003年に当時の小泉内閣が打ち出したわが国初
となるインバウンド政策“2010年までに外国人旅行者数1,000万人”を目標とする「VJC(ビジッ
ト・ジャパン・キャンペーン)」からである。しかし、2007年の世界金融危機、続く08年のリー
マン・ショックによる世界不況の発生により目標達成に至らず、さらに11年には東日本大震災の
発生により、旅行者数は大きく落ち込んだ。ところが、12年末から始まった経済施策“アベノミ
クス”による円安の進行などから、13年に初めて1,000万人を突破、さらに昨年(2014年)は1,300
万人を超えた(図表1)。
図表1 訪日外客数推移
(千人)
15,000
13,414
10,364
10,000
8,611
8,351
6,790
5,000
0
6,219
5,212
2003
2008
2009
2010
2011
2013
2014(年)
※2009年は前年のリーマン・ショックの影響による減少。2011年は東日本大震災が発生。
併せてわが国では、2020年に『オリンピック・パラリンピック東京大会』の開催も決定してお
り、来るべき訪日外国人3,000万人時代を見据えて、国はこれからインバウンド対策を強力に推
進していくこととしている。
外国人旅行者受け入れ体制の整備
わが国では、訪日した外国人旅行者が国内をスムーズに旅することができるようその受け入れ
体制を整備しておかなければならない、という声は以前から上がっていたが、訪日旅行者数1,300
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万人超えの現実にオリンピックの開催も控えている現在、その整備を加速させる必要がでてきた。
そこで、観光庁は外国人旅行者が安心して日本国内を旅行することができる環境を実現するた
めに、全国各地の観光案内所を「情報やサービスを的確に提供し、快適な旅行ができるようサポー
トする施設」として、質の向上と質の担保を図ることにした。ところが、案内所のなかには「必
要とされていない場所に設置されている」「満足な情報提供が行われていない」など、利用者目
線で見るとその質が十分でない所も見受けられた。このため同庁では、一定の質が担保された外
国人観光案内所を国内各地に増やすことで、外国人旅行客の国内回遊をサポートし、地域観光に
も貢献させることを目的として2012年1月、『外国人観光案内所の設置・運営のあり方指針』を
策定した。
外国人観光案内所認定制度
前述の指針に基づき、JNTO(日本政府観光局)は「観光案内を専業とする案内所」をサービ
ス内容の充実度により3つのカテゴリーに、また「観光案内を専業としない案内所」を“パート
ナー施設”というカテゴリーにそれぞれ分類し認定する『外国人観光案内所認定制度』の運用を
2012年度より始めた。JNTOでは、当制度の認定申請募集を年1回行っており、認定された外国
人観光案内所は昨年(2014年)12月現在、全国で465件を数える(図表2)。
図表2 カテゴリー別要件と認定件数(2014年12月現在)
前回までの
認定数
今回認定数
( )内は
カテゴリー変更数
合計数
主 な 要 件
全国レベルの観光案内を提供
英語のスタッフが常駐かつ英語以外の2言語対応
が常時可能等
カテゴリー3
7件
11件( 9)
18件※
カテゴリー2
115件
19件( 9)
125件※
広域の観光案内を提供
英語のスタッフが常駐等
カテゴリー1
210件
54件( 1)
257件※
地域の観光案内を提供
パートタイムや電話通訳等で英語対応が可能等
パートナー施設
33件
35件 67件 合 計
365件
119件(19)
465件※
観光案内を専業としない施設であっても、外国人
旅行者を積極的に受け入れる意欲があり、公平・
中立な立場で地域の案内を提供
パートタイムや電話通訳等で英語対応が可能等
※パートナー施設からカテゴリー1への変更が1件、カテゴリー1から2への変更が9件、カテゴリー2から3への変更が9件
あったため、合計は一致しない。
外国人観光案内所の認定は、国土交通省の各地方運輸局が管内の観光案内所をJNTOに推薦し、
JNTOが認定する形をとっている。認定自体は、受けた案内所の質を保つため3年ごとの更新制
となっており、適合性の再審査が行われる。さらに、基準にあったサービスが提供されているか
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どうか、設備が適切かどうかなどを確認する覆面検査の実施も予定されており、質の担保を図る
ことにしている。
認定によるインセンティブ
JNTOから認定された外国人観光案内所は、同組織から次のような支援が受けられる。
1.認定された全案内所は外国語ウェブサイトや海外事務所を通じて紹介され、世界に向け
て情報発信が行われる。
2.言語に関する支援
簡易通訳サポート。英語・中国語・韓国語の電話通訳サービス(無料)が受けられる。
3.情報の提供
(1)ビジット・ジャパン案内所通信(他地域の案内所事例、各地の最新観光情報などを掲
載。観光案内所同士のネットワークを拡大し、全国の案内所間での情報共有が可能)の
配信。
(2)認定案内所専用サイトの利用が可能
(3)各種資料の提供
①日英・日中・日韓・日仏・日タイ版会話筆談集の提供
②英文日本地図の提供
③外国人観光案内所外客対応マニュアルの提供
(4)各種研修会の開催
認定件数の状況
1.全国
地域別認定件数の状況は【図表3】の通り
図表3 地域別認定件数
北海道
東北
カテゴリー3
関東
中部
近畿
9
2
6
中国
四国
九州・沖縄
計
1
18
カテゴリー2
12
11
28
25
12
8
6
23
125
カテゴリー1
15
20
46
89
36
18
4
27
255
パートナー施設
2
1
20
25
12
5
1
1
67
合 計
29
32
103
141
66
31
11
52
465
※都道府県別での上位ベスト5は、1位:東京都(43件)、2位:静岡県(34件)、3位:北海道(29件)、4位長野&岐阜県(各
20件)となっており、次点が石川県の19件。
※「カテゴリー3」の認定案内所は、東京都(7件)、大阪府(5件)、千葉&愛知県(各2件)、京都府&福岡県(各1件)
の6都道府県。
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2.九州・沖縄
九州・沖縄における認定件数の状況は【図表4】の通り
図表4 九州・沖縄地域の認定件数
福岡
熊本
宮崎
沖縄
大分
カテゴリー3
1
カテゴリー2
8
6
2
2
2
カテゴリー1
4
1
5
5
3
鹿児島
長崎
5
1
2
23
3
1
27
1
13
計
1
パートナー施設
合 計
佐賀
7
7
7
6
1
5
4
3
52
※地区内唯一のパートナー施設は、湯布院温泉の『蓮輪旅館』。
少ない県内の認定件数
長崎県内で認定を受けている外国人観光案内
所は、「カテゴリー2」の長崎市にある長崎市
総合観光案内所と佐世保市にある佐世保観光情
報センター、
「カテゴリー1」の長崎空港内に
ある長崎空港案内所の計3ヶ所である。
これは、茨城・群馬・福井・鳥取・香川の各
県と同数であり、九州・沖縄地区で最も少なく、
これより件数が少ない自治体は、
“2件”の山形・
「長崎空港案内所」(長崎空港ホームページより)
徳島・高知の3県しかない。
長崎県ではこのような状況に危機感を持っており、まず「カテゴリー1」からでも認定数を増
やすべく、県内各地の観光案内所を設置・運営している自治体や観光協会に対し、昨年(2014年)
は計3回の働きかけを行っているが、これに対する県内自治体等の反応は鈍い。現状、県が設置・
運営している観光案内所はないため、県内自治体等がJNTOの募集に応じなければ、長崎県にお
ける外国人観光案内所認定件数がこれ以上増えることはない。
おわりに
訪日外国人旅行者が増加するなか、ここ長崎県でも、今年(2015年)はクルーズ船の入港数が
過去最高となる150回超となる見込みであり、また同年『明治日本の産業革命遺産−九州・山口
と関連地域』が、翌2016年には『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』が、それぞれ国内他地域
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認定案内所シンボルマーク
に例のない2年連続の世界遺産登録予定が控えているなど、本県を
訪れる外国人旅行者は今後飛躍的に増える要素が多い。このような
状況のなか、長崎県でJNTOから認定された外国人観光客案内所が
現状3件にとどまっているのは、やはり他地域に比べて見劣りして
いると言わざるを得ない。例えば、隣の佐賀県では計5箇所の案内
所が認定されているが、佐賀市・鳥栖市といった地域の中心都市だ
※「平成26年度JNTO認定
外国人観光案内所認定募
集のご案内」より
けでなく、武雄市と唐津市、有田町の各案内所が「カテゴリー1」
の認定(全てJR駅構内設置の案内所。鳥栖市は新鳥栖駅、武雄市
は武雄温泉駅)を受けている。
この『外国人観光案内所認定制度』は、外国人観光客の受け入れ体制を整備するうえで、比較
的取組みやすい制度であると思われる。長崎県内の各地に認定案内所シンボルマークをつけた観
光案内所が点在することで、異国を訪れた外国人旅行者に安心感をもたらすとともに、彼らの長
崎観光における利便性の向上につながることにもなろう。
(杉本 士郎)
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