コミュニティスクール

【課題:コミュニティスクール】
千葉市立磯辺小学校 教諭 山田 哲三
1 研究主題
児童が生き生きと活動し、心弾む学びを創造するための場づくり
~地域との連携・共助の体制を通して~
2 主題設定の理由
本年度6月に閣議決定された第2期教育振興基本計画の4つ目の柱となっている「地域との絆づく
り」構想で明確にされたとおり、今、文科省は地域とともにある学校づくりを推進している。そのよ
うな国の動向の中で、磯辺小学校区(以下本校区)は、本年度より千葉市のモデル校として指定を受
け、9月から本格的に「学校支援地域本部事業」を展開しているところである。
これまでも本校区では、放課後子ども教室など、地域住民の方々が主体となり活発に活動が行われ
てきた。しかし、我々学級担任からすると活動が行われていることは知っていてもその細かな内容や
仕組みまでは理解していないという実態がある。また、放課後子ども教室もすべての児童が参加して
いるわけではなく、あくまで教育課程外の活動に留まっていた。
そこで、本校では、
「学校支援地域本部事業」を始めるにあたって、学校(児童・教職員)と地域・
保護者が活動のねらいを共有し、一緒になって取り組む中で、子どもたちに心弾む感動体験をさせ、
豊かな学びを創造する場づくりを目指すこととなった。
まず初めに、学年主任会で各学年の年間指導計画をもとに支援が必要な単元や活動についての要望
をまとめ、
地域教育協議会に投げかけた。
学校が求めている支援や活動のねらいを理解していただき、
9月から12月までの間に、活動に講師として協力してくださる方、手伝いや指導補助などの支援を
してくださる方など多くのボランティアが活動に参加してくださった。例えば、総合的な学習の時間
では、伝統文化の体験学習(6年)や磯辺の街づくりの歴史を学ぶ学習(3年)
、国際理解・国際交流
の体験学習(4年)を地域の講師を迎えて行った。また、音楽科(1・2年)生活科(2年)
、家庭科
(5・6年)などでも支援をいただいた。課外活動でも、近隣の高校生による陸上競技の指導(特設
部活動)などの取組が行われた。
これらの支援活動がなければ、児童が心弾ませる感動体験をすることができなかったであろう場面
は多く見られた。事後のアンケート結果から、児童は教師以外の大人、特に、専門家の指導に触れる
ことで意識の変容や技能の向上が見られ、地域ボランティアの方々への感謝の気持ちをもつようにな
ってきたことがわかった。我々教職員も、地域の方々と共に活動することで、今後の教育活動の糧と
なる姿勢や技術に感銘を受けたとしている。同時に、ボランティアをしてくださった地域の方々も、
やりがいや手応えを感じたという回答が多かった。
以上のことから、地域の方々に学校経営方針や活動のねらいを理解・共有していただき、ともに学
校づくりを進めていけば、地域も活性化し、学校(児童・教職員)
・地域の双方にとって大いに意義あ
るものと考えた。
主題にある「生き生きと活動」する姿とは、活動に対し、積極的に関わり、地域の方々や教師と共
に活動する姿である。また、
「心弾む学び」とは、感動や喜びをより多く感じることのできる学びだと
考える。本研究ではそのような児童の姿がより多く見られるように、地域と連携・共助の体制を通し
た学習の場について模索していきたい。
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3 研究仮説
学校の全教育課程において、学校と地域の方とねらいの共有と共助の体制をつくり、共に活動する
ことができれば、より一層児童が生き生きと活動し、豊かな学びを創造する場となるだろう。
4 派遣先と期間
場所
1/27(月)
京都市内
時間
8:00
内容
・千葉出発
・市内見学(訪問地域の実態把握)
8:00
・挨拶
・研究概要の説明
1/28 (火) 京都市立御所南小学校
・授業参観
・御所南コミュニティ(学校運営協議会)の
20:00
8:00
会議への参加
・挨拶
・研究概要の説明
1/29 (水) 京都市立京都御池中学校
・授業参観
・中学生と地域の方による「しゃべり場」へ
17:00
8:00
の参加
・挨拶
・研究概要の説明
1/30(木)
京都市立高倉小学校
・授業参観
・スマイル21プラン委員会(学校運営協議
20:30
9:00
1/31 (金) 京都市教育委員会
会)の会議への参加
・挨拶および情報交換
京都市の研修体系について
16:30
・千葉着
5 派遣先の概要
(1)京都市立御所南小学校
京都市中心部の児童数減少にともない、段階的に近隣の5校を統合して、平成7年4月に
開校した。校舎にはオープンスペースが設置され、学級の枠をはずした活動も多く行われて
いる。
平成14年度からは、文部科学省「新しいタイプの学校運営に関する実践研究」の指定を
受け、コミュニティスクールの在り方を研究してきた。さらに平成18年度から京都市小中
一貫教育特区の認定を受け、高倉小学校、京都御池中学校の3校で小中一貫教育を研究、推
進している。読解力の育成を柱として、各教科等で読解力に視点をあてた授業を展開してい
る。
(2)京都市立京都御池中学校
明治2年に全国に先駆けて町衆の手により創設された「番組小学校」以来の歴史と伝統を
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継承する城巽・柳池・滋野の3中学校を統合し、平成15年4月に開校した。学校区にある
中京もえぎ幼稚園、御所南小学校、高倉小学校、堀川高等学校と連携して教育を行っている。
PFI手法で新しく建設された複合施設の校舎で、小中一貫教育校として6年生から9年生
(中学3年生)がともに活動を行っている。
義務教育9年間で子どもを育てるOGT小中一貫教育や学校運営協議会(けやきプロジェ
クト)を柱に小中一貫コミュニティスクールを目指している。
(3)京都市立高倉小学校
段階的に近隣の5校が統合し、平成7年4月に開校した。御所南小学校、京都御池中学校
とともに、OGT小中一貫教育に取り組んでいる。小学校と中学校の義務教育の9年間を一
貫としてとらえ、9年間で「自ら学び、自ら考え、学んだことを実社会や実生活に生かす力」
をつけることをねらいとしている。6年生は京都御池中学校で学んでいる。
また、地域ぐるみで子どもを育てる「スマイル21プラン委員会」の取り組みとして、学
校・家庭・地域が協動している。7部会あり、それぞれが特色ある活動に取り組んでいる。
平成19年度より、
「読解科」を設置するとともに、各教科・領域等を通して「生きる力」
を培う読解力の育成を目指して研究を進めている。
6 派遣先の研究内容
(1)京都市立御所南小学校
研究主題は「学ぶ力と読解力を活用し、探究し続ける子どもの育成」とし、サブテーマに
「思考表現力を育てる生活科・総合的な学習」を掲げている。御所南小学校では、これまで
の研究において、
「生きる力」を付けるために、
「読解力」と「学ぶ力」の育成に力を注いで
きた。本年度は、子どもたちが身に付けた「基礎的・基本的知識・技能」が発展的に活用で
き、体験や実践を伴った学習の中でより「思考表現力」が効果的に育成されると考え、特に
生活科と総合的な学習の時間に重きを置いた。そして、
「探究力」
「読解力」
「学ぶ力」の3つ
の視点を設けて研究を進めている。これらの3つの視点をまとめると、
「子ども主体」の学習
をすすめ、そこで身に付けた「学ぶ力」や「読解力」を「探究的な学び」に効果的に生かし
ていくことで、より質の高い「思考表現力」を育成していこうとしている。
(2)京都市立京都御池中学校
研究主題は「読解力の育成方法を基盤とした授業力の向上」とし、サブテーマに「関心・
意欲・態度を育てる評価方法の工夫」を掲げている。学力の三要素のなかでも特に「関心・
意欲・態度」に焦点をあて、各教科が対象としている学習内容に関心をもち、自らが課題に
取り組もうとする意欲や態度を生徒に身に付けさせるにはどうすればよいのかについて研究
を進めている。
また京都御池中ブロックの3校(京都御池中、御所南小、高倉小)は、OGT 小中一貫教
育プロジェクトという組織を構成し、小中一貫教育に取り組んでおり、2校の小学校の6年
生が京都御池中学校の校舎(京都御池創生館)で生活している。小中一貫のカリキュラムの
作成や、小中学生の交流に力を入れている。
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(3)京都市立高倉小学校
研究主題は「自ら学び、すすんで表現する子」とし、サブテーマに「
『生きる力』を培う読
解力の育成」を掲げている。ここでの読解力とは、いわゆるPISA型の読解力であり、高
倉小学校ではそれを「課題設定力・情報活用力・記述力・コミュニケーション力」の4つの
力と設定し、これらの力をそれぞれの教科・領域の中で効果的につけることができるように
単元を計画したり、学習を進めたりしている。各教科で身に付けたり高めたりした力を効果
的に評価するための手段として、算数科でパフォーマンス課題について取り組んでいる。子
どもたちが身につけてきた力をどのようなパフォーマンス課題を設定すれば適切に自分たち
の力を表現できるのか、研究を重ねている。
7 派遣先で学んだこと
コミュニティスクールの視点から学んだことについて以下に述べる。
○京都市立御所南小学校
とても地域との結び付きが強いと感じた。コミュニティスク
ールの指定を受ける以前は、本校が現在行っているように、地
域の方に学年や学級の担任がお願いをして、人材リストを作成
していた。このような取組がコミュニティスクールの基盤とな
ることをうかがった。つまりどの学校においてもコミュニテ
地域コミュニティ支援委員会の活動
ィスクールの基盤はできているのだと感じた。
では、いざコミュニティスクールとして、地域と学校が連携しあっていくにはどうすれば
よいのか。視察をし、一番強く感じたことは、
「コミュニティスクールのために新しいことを
しなければならない」ではなく、
「今まで行ってきた地域の方々との取組をもっとスムーズに
し、組織化していくこと」ことが大切となってくることを感じた。
基本的な考え方は「地域・学校・保護者が連携・参画」していくことである。
「参画」する
とは地域・保護者が学校運営方針を理解し、直接子どもに関わり運営できるように、授業や
課外活動において取組をしていくことである。
「御所南コミュニティ」
(学校運営協議会)で
は、授業よりは、土曜学習や放課後の活動に重点を置いていた。
「御所南コミュニティ」は、
「地域コミュニティ委員会」
「学び支援コミュニティ委員会」
「スクールコミュニティ委員会」と3つの委員会に分かれ、それぞれの委員会の中にさらに
複数の部会があり、それぞれの部会が活動を企画・運営している。例えば「地域コミュニテ
ィ委員会」では、文化、福祉、野外、地域歴史と4つの部会があり、各部会が、地域の運動
会を企画したり、お年寄りとのふれ合いデーというものを企画したりしている。また「学び
支援コミュニティ」では、年度当初にボランティアを募集し、授業内でもできる読み聞かせ
やパソコンの指導などに取り組んでいる。
私の所属する磯辺小でも、統合前の一小、二小、四小のそれぞれの地域に学校に協力して
くださる地域の方が多いので、このような組織をつくることは可能だと感じた。また読み聞
かせを実施していたり、地域の運動会や敬老会といった行事も多かったりするので、それら
を整理して組織として運営していくことができるだろう。組織づくりの面で非常に勉強にな
った。
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○京都市立京都御池中学校
「けやきプロジェクト」という学校運営協議会がある。
「御所南コミュニティ」と同様に、
複数の委員会に分かれ、そこからさらに部会に分かれている。今回の研修では、そのうちの
一つである「しゃべり場部会」が実際に活動を行っていたので参加させてもらった。この活
動は、生徒と地域の方が集まって、与えられたテーマについて1分間お互いが話すというも
のである。一つのテーマが終わると生徒が席をずれて、別の地域の方とまた新しいテーマで
話していく。
1分間という短い時間で、
しかもその場でテーマが与えられるという状況の中、
生徒がしっかりと自分の話したいことをまとめていることに
驚いた。また話を聴くときもしっかりと目を向き、頷きなが
ら聴いていることにも驚いた。
このような活動を行うことで、
コミュニケーション能力が育てられると強く感じた。また、
地域の方と話すので、学校外においても挨拶することができ
しゃべり場(1対1)
るようになり、地域の方々と生徒との距離がより近くなると
感じた。小学生でもできることだと思うので、ぜひ取り組ん
でいきたいと思った。磯辺小の児童は、素直だが、まだまだ
地域の方々への挨拶や人間関係を築く上でのコミュニケーシ
ョン能力に課題があると感じるので、このような取組は効果
しゃべり場(グループ)
的だろう。
地域の方と生徒が話をするという活動は、地域と学校を結び付けるのにより効果的な取組
だと実際に参加して思った。
○京都市立高倉小学校
「スマイル21プラン委員会」という名称で学校運営協議会を組織している。他の2校に
比べると教科・領域の活動の中に地域の方が入っている割合が多いと感じた。その活動は読
み聞かせや、昔遊び、地域の達人の授業など、磯辺小でも行っている取組に似ているものが
多かった。違うのは、磯辺小は学校が中心となって動いているが、高倉小では、
「スマイル2
1プラン委員会」の中の、各部会が中心となっていることだ。磯辺小においても十分にでき
ると思うので、学校が年間計画をしっかり立てて、地域の方に主体的に運営していただくと
よいと感じた。
また「放課後学び教室」という地域の方が、放課後空いている教室を使って児童の宿題を
見たり、プリントを用意して学習を促したりという活動も新鮮であった。例えば保護者が働
いていて、音読の宿題が出された時に、なかなか聞いてもらう時間が少ない児童にはとても
ありがたいのではないかと思う。磯辺小にも「いそっ子キャンパス」という組織があり、地
域の方が主体となって、スポーツやお菓子作り、音楽などに取り組む活動がある。これは十
分にコミュニティスクールの基盤となりうる。高倉小の「スマイル21プラン委員会」は今
の磯辺小が目指すべき方向性を見せてくれたように感じた。
8 研究内容と成果
コミュニティスクールの先進校への視察を通して、学校・地域・保護者が連携・参画して取り組む
ことは子どもの学びだけでなく、自分の地域への愛着感、帰属意識をはぐくむうえで非常に効果的な
ことがわかった。コミュニティスクールは組織をしっかり構成していかなければならない。したがっ
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て、コミュニティスクールという課題の性質上、研修したことを受けて授業実践を行うことは、今年
度は難しい。まずは次年度、どのような組織にするのか、何ができるのか、それを考えていかなけれ
ばならない。先行実践をしている地域・学校を視察し、その組織作りや取り組みについて学べたこと
が成果である。それをうけて、次年度の方向性について、次項で述べていく。
9 今後の研究の方向
まずは先行実践校の組織形態を参考に、もう一度
学校運営協議会
組織の見直しを図っていく必要がある。
学び支援委員会
図1はあくまで一つの例ではあるが、まずは学校
運営協議会の下に、学校の教育課程内で関わりがあ
地域コミュニティ委員会
〈図書部会〉
・読み聞かせ
・選書会
〈安全部会〉
・防災に関する取り組み
・地域での避難訓練
〈体力向上部会〉
・特設部活動の補助
・業間の鉄棒教室等
〈福祉部会〉
・お年寄りや障害のある方
とのふれあい活動
画し、運営するグループをいくつか設けていくとよ
〈コミュニケーション部会〉
いだろう。それぞれのグループで何ができそうかは
・昔遊び
・伝統文化の体験
〈野外活動部会〉
・ウォークラリーなどの野
外体験活動
・星空観察
るものと、地域行事などの教育課程外で関わりがあ
るものの2つの中心となるグループにわけるとよい
かと考える。
そしてそれぞれのグループの下に実際に活動を企
立ち上げ当初は、しっかり学校運営協議会で吟味し
ていく必要がある。また、教職員も意見を出し、よ
りよい活動にしていかなければならないと考える。今年
図1:コミュニティスクールの組織図例
度の磯辺小学校区は、地域教育協議会を立ち上げたばかりである。また、コミュニティスクールとは
異なるため、先行実践校と同じ組織をつくることは難しいが、教職員がしっかりと関わっていくこと
が大切だと考える。
今後の方向性としては、
①どのような活動が子どもの学びを深めるのに有効な活動なのかを考える。
②活動の年間指導計画を立てる。③組織の見直しを図る。この3点についてまず取り組んでいくこと
が必要だと考える。
10 千葉市学校教育の質的向上のための提言
千葉市ではコミュニティスクールという実践はない。今後取り入れていくとすれば、コミュニティ
スクールは、新しいものをつくっていくのではなく、既存のものをもとにつくっていくと考えてれば
よい。組織の立ち上げには、解決しなければ課題があるが、立ち上げて軌道にのれば、学校、地域、
保護者と連携して子どもにとって有効な活動を毎年計画的に実施でき、学びも深まってくる。京都と
比較すると、地域との結び付きがまだ弱い学校区が多い。しかし、どの学校にも今まで地域と連携し
て活動している組織はある。学校を支えるための基盤は存在するので、今後それらをもとに、現在磯
辺地区で実施されている「学校支援地域本部事業」が多くの地域で実践されていくことが望ましいと
考える。
【参考文献】
・けやきプロジェクト 御所南コミュニティ スマイル 21 プラン委員会 「未来に輝く小中一貫コミュニティ・スク
ールの創造」 平成24年11月
・京都市立高倉小学校 「
『確かな学力』
『豊かな心』
『健やかな体』を育む高倉教育」 平成25年
・京都市立高倉小学校 「高倉の教育」 平成25年
・御所南コミュニティ 「学校大好き!コミュニティスクール」 平成25年11月
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