リサーチ TODAY 2015 年 2 月 20 日 ドイツ国債の日本化、日独金利逆転は今後も続く 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 今から半年前のTODAYで、ドイツと米国の10年国債金利が日本国債の金利と連動している「日本化」が 生じていると問題提起をしたが、下記の図表のように今月、日本とドイツの長期金利に初めて逆転現象が 生じた。この背景には日本の長期金利が1月下旬以降、調整を続けているという側面もあるが、基本的にド イツの長期金利が急速に低下したことが逆転現象の原因である。ドイツ10年国債の金利は、2014年初に 2%近い水準であったが、2014年後半には1%を割って史上最低となり、今や0.3%台と最低水準を更新中 である。図表で示したように、ドイツの金利は、2012年半ばまでほとんど米国債と連動した状況にあったが、 2012年後半以降米国との連動から乖離し、その後、日本の金利水準に吸い寄せられるかの状況にある。ま さにドイツ国債の「日本化」、「JGB化」である。 ■図表:日米独の10年国債金利推移 3.5 (%) 米国 日本 ドイツ 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 12/1 12/7 13/1 13/7 14/1 14/7 15/1 (年/月) (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 図表から、ドイツ国債の「JGB化」が始まった2012年半ばは、ECBドラギ総裁が「Whatever it takes(できる ことは何でもやる)」と発言した時期であり、欧州の分裂を回避すべく「なんでもやる」という彼の意思表示は、 市場に強いメッセージとして伝わった。今年1月22日にECBは欧州版QE導入に踏み切ることを発表したが、 既に2014年後半以降、ECBの国債購入を含めた量的緩和の実行を織り込む形で、ドイツの長期国債の金 利低下が進んでいた。ECBによる月額600億ユーロの債券買い入れという量的緩和の決定は、近隣のユー ロ非加盟国にとって自国通貨高を意味し、強力な金融引き締めになりうる。今年1月にスイスとデンマーク 1 リサーチTODAY 2015 年 2 月 20 日 が一段の金融緩和に踏み出したのは、ECBの対応を受けたものだ。また、2月12日にはスウェーデンも金 融緩和した。しかも、2月10日にイスタンブールで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の声明で はECBの緩和対応が物価安定のための措置としてお墨付きを得たことから、各国のQEの流れは継続しよ う。 ECBの月額600億ユーロの債券買い入れという量的緩和の実行は今年3月以降に開始されるが、これが 国債市場の需給に与える影響を具体的に認識する必要がある1。緊縮的な財政政策と相まって、ユーロ圏 全体ではQEによるECBの国債購入の結果、QEの期限である2016年時点で約4,000億円ユーロの国債購 入可能額(民間の保有するアベイラビリティ)が減少する計算になる。そのなかでも2015年以降に新規債発 行を行わないドイツの影響が大きく、民間アベイラビリティが約1,700億ユーロ低下する見込である。また、 期間別には5~10年の中期ゾーンの供給減の影響が大きい。ドイツの債券市場はすでに中期ゾーンまで マイナス金利の状態にあるが、こうした動きは今後のQEの影響を織り込んだものといえる。 ■図表:QEによるドイツ国債の民間アベイラビリティ喪失(残存期間別) (10億ユーロ) 800 700 600 500 400 2年超~5 年以内, 421億 ユーロ 10年超~ 30年, 278 億ユーロ ▲1,699億ユーロ 300 200 100 0 2016年9月時点で市場参加者 の購入可能な独国債残高 QEによる累積購入額 供給側の影響による2016年9 月末時点までの変化額 QE開始時(2015年3月末)の 予想残高 合計 1,699 5年超~ 10年以内, 1,000億 ユーロ (資料)独 Finance Agency、ECB 等よりみずほ総合研究所作成 今日、欧州は世界最大の経常収支黒字地域であるなかで、緊縮財政を続ける状況にある。2月のG20で も結局、金融緩和が追認されただけで、財政政策による自律的な成長の回復は示されていない。日本の 金利低下は国債の大量供給が続く中で、日銀が大量購入していることにより、もたらされているものだ。一 方、欧州、なかでもドイツでは緊縮財政が強まる中で、さらに中央銀行の国債購入が加わり強力に需給が 調整されている。冒頭の日独の逆転状況はまだ続くと展望される。 1 欧州経済の概況については、『みずほ欧州経済情報』 (2015 年 1 月号 2015 年 1 月 30 日)を参照いただきたい。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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