超高層ビルに木材を使用する研究会 ■設立趣意書 1.はじめに 「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたこともあって、 建築分野では木質材料の活用に注目が集まっている。同法律が制定された背景としては、 戦後、植林された木材が資源として利用可能な時期を迎える一方、木材価格の下落等の影 響により森林の手入れが十分に行き届かず、国土保全などの観点から森林の多面的機能の 低下が懸念されること、および、地球温暖化対策の観点からも、植林することにより再生 可能という点でエコマテリアルである木質材料を、再評価しようという機運が盛り上がっ ていることが上げられよう。 本研究会は、我国では従来殆ど木質構造が適用されることのなかった、非住宅中大規模 建築物の内でも、特に超高層ビルにターゲットを絞り、従来コンクリートで構成された床・ 壁・天井などを、国産の木質材料に置き換えることにより、木材の大量使用を促進し、木 質材料の新たな市場の開拓を通して、国土保全と地球環境の両面からの、問題の解決を図 ろうとするものである。 我国の木質構造建物の新築着工床面積は、総着工床面積の約 35%を占めるが、その多く は低層の戸建住宅であり、今日の少子化の状況等を考えると、今後戸建て住宅の需要が大 幅に増加することは見込めない。従って、国産木材の利用促進を低層戸建住宅市場に求め るためには、床面積の増加ではなく、外材を国産材に置き換えることが、現実的な対応と なるが、実はそれはあまり得策とは言えない。なぜならば、地球温暖化問題が、全地球規 模の問題であることを考えると、外材を国産材に置き換えるだけでは、本質的な問題の解 決にはならないと思われるからである。 我が国の国産木材の利用促進を図るためには、国内に新たな木材市場を開拓することが 必要である。近年北米および北欧、スイス、北イタリアなどの先進諸国を中心に、中大規 模木造建築の増加傾向が見られる。その多くは、クロスラミナパネルやツーバイフォー等 の壁式工法であるが、木材が地球環境にも優しい高級な建築構造材料として、見直されて いることが背景にあるものと思われる。建設段階の構造資材製造時に排出されるCO2量 が無視できない量であることを考慮すると、植林により再生可能な木材の新たな市場の開 拓を図ることは有意義なことと思われる。以上により、従来我国では木材の積極的利用が 行われることの無かった超高層ビルへの木質材料の使用促進を進めることを目的として、 本研究会の設立を提案する。 2.超高層ビルで木材を大量に使用することの意義 超高層ビルに木床・木壁・木天井など、木質材料を大量に使用することの意義は以下で ある。 1)建物の軽量化 ・耐震性の確保を考える場合、建物の軽量化は、極めて有効な方法の一つである。 ・超高層ビルを考える場合、当該敷地で想定される地震動の卓越周期と建物の固有周期 が合致することは、共振現象を引き起こし、耐震性の観点からは大きな脅威となる。 この現象を回避する方法は、従来は建物の剛性を調整するしか方法がなかったが、木 室材料を大量に採用して軽量化を図ることにより、その調整の幅を大幅に広げること が可能となる。 2)建築計画上の自由度の拡大 ・超高層オフィスビルでは、従来より上下隣接する2層のフロアを階段で繋ぎたい等の テナントニーズが潜在的に存在したが、床がコンクリートでは、そのような要求に対 し応えることは殆ど不可能であった。床を木造とすることにより、そのようなテナン トニーズに対しても、建物竣工後も柔軟に対応が可能となる。 3)環境価値の創出 ・床・壁は建物の中でも最も多くのコンクリート材料を使用する部位である。コンクリ ートはその製造段階において、最も CO2 排出が多いことが知られるが、その床・壁の コンクリートを木に置き換えることは、大量の CO2 排出削減に繋がる。これが、環境 価値として制度的にも評価されるようになれば、結果としては、ビル事業者に対し、 多大な環境価値をもたらす可能性がある。 4)森林資源の有効活用 ・従来殆ど使用されることのなかった非住宅大規模建物の床・壁・天井等に、木材の大 量使用を進めることは、森林資源の新しい市場分野の開拓の観点からも極めて有意義 である。 5)製品化の容易さ ・例えば木床を考える場合、オフィスビルの床は、モジュールも3~4mと、概ね統一 化が図られており、製品化を進めることは比較的容易である。 3.超高層ビルで木材を大量使用する場合の克服すべき課題 1)防耐火の問題 ・想定する木床・木壁の厚さは、150mm から 210mm 程度と、十分な厚みがあり、2時間 程度の耐火性能は十分確保は可能と思われる。 2)遮音性能について ・住宅とは異なり、オフィスに求められる遮音性能は、それほど厳しいものではなく、 十分対応は可能と考えている。 3)構造性能について ・木床について考えても、剛床の確保、鉄骨梁との接合方法等課題はあるが、柱梁とは 異なり弾性論の範囲で解決可能なことから、十分対応は可能と考えている。 4.研究会の設置の意義 以上より、超高層ビルにおいて木材の大量使用を進めることは、地球環境保全、林業活 性化等の観点からも、極めて有益であることが明らかとなった。しかし、その普及を迅速 に進めるためには、建築生産に携わる様々な人々の間で、その有益性と課題についての共 通認識を得ることが不可欠である。そのためには、社会から広く賛同者を募り、幅広い関 係者間の連携を図ることが不可欠である。そのような、目標達成に向けての活動を一丸と なって進める主旨から、本研究会の立ち上げを提案する。 設立発起人代表 福岡大学工学部 稲田達夫
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