第112号「いつまでも残したい民俗的行事」

共創・共育・共感
尾鷲市教育長だより
2015.2.13.(金)
第112号
いつまでも残したい民俗的行事
民俗的行事が家庭のなかや子どもの生活からだんだんと消えつつあります。
豆まきのような、民俗的な年中行事は、四季おりおりに子どもの歳時を飾
り、子どもたちの夢を育んできました。2月3日(火)節分の日、家庭や学
校、園で豆まきをしたところもあるかと思います。こうした民俗的行事は、
いつまでも大切に残していきたいものです。
学級担任をしていた頃、毎年節分の日には、豆まきの会を開いていました。
椅 子 と 机 は 廊 下 に 出 し て 、 円 陣 を 組 ん で 、 ま ず 、 み ん な で 歌 を 歌 い 、「 こ れ
から豆まきの会をはじめます」と司会が開会を宣言してはじまります。
各班から1名ずつ選ばれた福男・福女が黒板の前に立ち、
「 福 は 内 、鬼 は 外 」
と豆をまきます。みんなそれを空中で手に受けます。
「福は内の福は幸福の福です。じょうぶなからだ、クラスの団結、いじめの
ないクラス、勉強がよくできるようになること、親に心配かけないこと、そ
ういう福をまねきましょう!」と司会者が宣言します。大きな拍手でそれを
承認します。
「 つ ぎ は 、『 鬼 は 外 』 で す 。 ど ん な 鬼 が い る で し ょ う 。 1 人 目 の 鬼 は 、 な ま
け鬼です」そういうと、鬼の面をかぶりながら、鬼役の子が教卓に立ちます。
鬼は自分で自分の面をつくってきます。
「2人目の鬼は、不正鬼です。3人目の鬼は、きまり破り鬼です。4人目の
鬼は、病気鬼。5人目の鬼は、いばり鬼です。さあみなさん、この5つの鬼
をこの教室から、そして、自分の心から追い出しましょう」
そう言うと、みんなで「鬼は外、鬼は外」と鬼に豆をぶつけていきます。
鬼は教室中を逃げまわります。やがて、教室から退散します。
鬼 役 の 5 人 は 廊 下 へ 出 て 、 鬼 の 面 を ぬ い で 、 ほ っ と 一 息 。「 痛 か っ た な あ 、
ご苦労さん」といって鬼になった子どもたちを慰めて教室へ入れます。
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もう教室から鬼はいなくなりました。鬼は面を逆さにして、今度は笑い顔
の 福 男 ・ 福 女 に 変 身 し て 、 教 室 へ 入 り 、「 福 は 内 !
福は内!」と豆をまきま
す。子どもたちは空中で豆を受けて、年の数だけ確保します。あとで自分の
年の数だけ豆を食べます。
豆を食べ終わったところで、炭火を入れた火鉢を出してきて、炭火の灰に、
1 年 12月 分 、 12個 の 豆 を 並 べ 、 焦 げ る の を み つ め ま す 。
「昔の人はこうやって、その年の月々の天候を占ったんだよ。こっちのはし
か ら 1 月 、 2 月 、 3 月 … … 12月 ま で 。 真 っ 黒 な 煙 が 出 た ら 風 の 強 い 月 、 白 く
焼ければ日照り、ふつうに焦げればまあまあの月。あっ、3月豆から黒煙が
あがりはじめたぞ。今年の3月は、風強しだ。風が強いと作物によくないな。
やっ。8月豆が白く焼けてきた。8月は日照りだ。8月の日照りは凶作をま
ねく。昔の人は、こうして天気を占った。それは農業が天候とはきってもき
り は な せ な い 関 係 に あ る か ら だ 。」 な ど と 祖 先 の 知 恵 を 語 り ま す 。
ところで、豆まきは、土地土地によってだいぶ違いがあるようです。
年の数だけ豆を食べるところもあれば、年の数より1つだけ多く食べると
ころもあります。
地 方 に よ っ て は 、 男 の 子 が 豆 を 炒 っ て 一 升 枡 ( 約 1.8リ ッ ト ル ) に 入 れ て 、
「鬼は外、福は内」と言いながらまき、そのうしろからすりこぎをもった子
どもがついていって、すりこぎをすりながら「ごもっとも、ごもっとも」と
やるところもあるそうです。また、家族が仕事で長い間外に出ている家など
で は 、「 福 は 内 」 だ け 言 い な が ら 豆 を ま い た り し ま す 。
吉 田 兼 好 の 徒 然 草 に 、 豆 ま き の 追 儺 の 行 事 を 12月 大 晦 日 に も や っ た と あ り
ます。昔は、一年に2回豆をまいたようです。この風習は今も残っていて、
すす
大晦日、煤払いのあと豆をまいて、これで一年が終わるというところもある
と聞いたことがあります。
土地土地によって、いろいろな節分の迎え方・豆まきの作法があります。
その土地の風習にしたがって、子どもとともに民俗的な行事を楽しみたいも
のです。ただ、重要なことは、民俗的な行事を楽しむだけでなく、それをと
おして、仲間とともに行事を創り出す自主的な力を育て、同時に、日本人の
自然観や労働観といった昔の人々の生活の知恵も学ばせたいと思います。
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