ニッセイ基礎研究所 No.14-198 12 Feb. 2015 1 月マネー統計 ~マネーの伸びは鈍化したが、投信は堅調をキープ 経済研究部 上野 剛志 E-mail: [email protected] シニアエコノミスト TEL:03-3512-1870 1.貸出動向: 貸出の伸びは鈍化 日銀が 2 月 9 日に発表した貸出・預金動向(速報)によると、1 月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前 年比 2.6%と前月(改定値 2.8%)からやや縮小した。地銀の伸び率は前年比 3.8%(前月は 3.7%)と小幅 に拡大したが、都銀等が前年比 1.4%(前月は 1.7%)とかなり縮小した。 12 月の一時的な賞与支払い用資金などが返済された影響が出たほか、1月の為替がやや円高ドル安 に振れたことで前年比での円安ペースが鈍化し、外貨建て貸出の円換算残高が減少したことも貸出の伸 び率縮小に作用したようだ(図表 1~3)。 上記とは多少ベースが異なるが、14 年 12 月末時点での業種別貸出の前年比伸び率を見ると(図表 4)、 伸び率の水準では引き続き非製造業が上位に並び、製造業が下位に並ぶ構図にある。ただし、製造業に ついても、鉄鋼や電気機械、輸送用機械を中心に 9 月末からは伸び率が顕著に改善している。賞与支払 い用資金等で一時的に押し上げられている可能性もあるが、明るい兆しではある。 (図表1) 銀行貸出残高の増減率 (%) (兆円) 5 425 4 5 (図表2) 業態別の貸出残高増減率 (前年比、%) 都銀等 貸出残高(右軸) 420 前年比 4 地銀 信金 3 3 415 2 410 1 405 2 0 400 -1 395 -2 390 -3 200801 385 1 0 -1 -2 -3 200901 201001 201101 201201 201301 201401 -5 200801 (年/月) (資料)日本銀行 (%) 201501 -4 (図表3) 銀行貸出とドル円レート(月次平均の前年比) (%) 3.0 30 200901 201001 201101 201201 201301 201401 (資料)日本銀行 201501 (年/月) (図表4)業種別貸出の伸び率(前年比) (%) 20 14/9末時点 14/12末時点 15 10 2.0 20 5 0 -5 1.0 10 4 (資料)日本銀行 1| 7 10 14/1 4 7 10 15/1 (年/月) (資料)日本銀行 (注)末残ベース |経済・金融フラッシュ No.14-198|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved 電気機械 輸送用機械 鉄鋼 運輸・郵便 建設 繊維 小売 はん用・生産用等機械 0 13/1 不動産 卸売 化学 医療・福祉 電気・ガス等 情報通信 金融・保険 ドル円レート(右軸) 物品賃貸 食料 銀行貸出 0.0 海外円借款 -10 なお、12 月の新規貸出金利については、短期(一 年未満)が 1.023%(前月は 0.868%)と上昇する一 (図表5)国内銀行の新規貸出金利 (%) 1.5 新規/短期(一年未満) 方、長期(1 年以上)が 0.875%(前月は 0.996%) 新規/長期(一年以上) 1.3 と低下した。毎月の振れが大きい指標である点には留 意が必要だが、最近持ち直し傾向にあった長期が再び 1.1 大きく低下した点は気がかりだ(図表 5) 。 10 年国債利回りなどの市場金利は 12 月以降大き く水準を切り下げ、未だ 11 月以前の水準には回復し 0.9 0.7 10 ていないだけに、今後の動向が注目される。 (資料)日本銀行 11 12 13 14 (年) (注)3ヵ月移動平均値(直近は14年12月分) 2.主要銀行貸出動向アンケート調査: 個人向け貸出の持ち直しが継続 1 月 22 日に公表された主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2014 年 10-12 月期の(銀行から見 た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断 D.I.は、前回(5)から小幅改善の 6 となった。改善 は 4 四半期ぶりとなる。D.I.はプラス圏(すなわち「増加」が優勢)での推移が続いており、緩やかながら安定 した増勢が続いている(図表 6)。企業規模別では、大企業が 4(前回比 4 ポイント上昇)、中堅企業が 3(同 1 ポイント低下)、中小企業が 5(同1ポイント上昇)と、大企業向けの増勢改善が目立ち(図表 7)、中でも建 設・不動産向けの寄与が大きい。 また、個人向け D.I.も 8 と、前回比で 2 ポイントの上昇を示した。D.I.の改善は 2 期連続となる。消費税率 引き上げに伴って一旦大きく落ち込んだ個人の資金需要だが、その後は住宅ローンを中心に持ち直しが 続いている。 今後 3 ヵ月の資金需要については、企業向けが 3(10-12 月期比 3 ポイント低下)、個人向けが 0(同 8 ポイント低下)となった。企業向けは直近よりも増勢が弱まり、個人向けは横ばいになるとの見立てになって おり、銀行は先行きに対してそれほど楽観的ではないようだ(図表 6)。 50 (図表6)資金需要判断DI (DI、ポイント) (DI、ポイント) (図表7)資金需要判断DI (大・中小企業) 50 企業向け 大企業向け 個人向け 40 40 中小企業向け 地公体向け 30 30 見通し 20 20 10 10 0 0 -10 -10 -20 0801 0803 0901 (資料)日本銀行 2| 0903 1001 1003 1101 1103 1201 1203 1301 1303 1401 1403 1501 (年/四半期) -20 0701 0703 0801 0803 0901 0903 1001 1003 1101 1103 1201 1203 1301 1303 1401 1403 (資料)日本銀行 |経済・金融フラッシュ No.14-198|Copyright ©2015 NLI Research Institute (年/四半期) All rights reserved 3.マネタリーベース: 増勢は鈍化したが問題なし 2 月 3 日に発表されたマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中のお金) を示すマネタリーベースの 1 月平均残高は 275.4 兆円と過去最高を更新。その前年比伸び率は 37.4%(前 月は 38.2%)と、前月からやや縮小した。日銀当座預金の伸び率が 66.2%(前月は 69.5%)と縮小したため である(図表 8~9)。 現行の金融政策におけるマネタリーベース増加ペースは「年間約 80 兆円増」であり、単純計算で月当た り 6.7 兆円増が必要になるが、1月はこのペースを下回ったことになる。 ただし、1 月は季節柄マネタリーベースの増加要因である国債償還が少なく、マネタリーベースが減少し やすいことが影響したと考えられる。季節調整済みのマネタリーベース平均残高は前月比で 9.2 兆円増と 大きく増加していることから、今のところは特段問題ない状況と考えられる(図表 10)。 6 (図表8) マネタリーベース伸び率(平残) (前年比、%) (前年比、%) 日銀券発行残高 貨幣流通高 マネタリーベース(右メモリ) 5 (図表9) 日銀当座預金残高(平残) (兆円) 60 50 (前年比、%) 200 200 日銀当座預金残高 180 同伸び率(右軸) 160 4 40 3 30 2 20 1 10 0 0 150 140 120 100 100 80 50 60 40 0 20 -1 -10 0801 0901 1001 1101 1201 1301 1401 (兆円) 1501 (図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移 -50 0901 1001 1101 1201 1301 1401 1501 (年/月) (資料)日本銀行 (兆円) 12 季節調整済み前月差(右軸) 280 0 0801 (年/月) (資料)日本銀行 マネタリーベース末残(原数値) 7 230 2 180 -3 130 80 -8 0801 0901 1001 1101 1201 1301 1401 1501 (年月) (資料)日本銀行 4.マネーストック: 投資信託は堅調をキープ 日銀が 2 月 10 日に発表した 1 月のマネーストック統計によると、市中通貨量の代表的指標であ る M2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比 3.4%(前月は 3.6%) 、M3(M2 にゆうちょ 銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)は同 2.8%(前月は 2.9%)と、それぞれ前月からやや伸びが 縮小した。 M3 の内訳では、現金通貨(前年比 3.6%→3.7%)の伸びが若干拡大した一方で、預金通貨(普 通預金など、4.9%→4.6%)の伸びが縮小した。賞与支払い資金の返済などに伴う貸出の伸び率鈍 3| |経済・金融フラッシュ No.14-198|Copyright ©2015 NLI Research Institute All rights reserved 化が影響したとみられる。 また、M3 に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率も前年比 3.4%(前 月は 3.5%)とやや縮小した。内訳では、M3 の伸びが鈍化したうえ、金銭の信託(5.1%→4.5%) 、 外債(16.5%→14.9%)などの伸びが鈍化した(図表 11~12) 。 なお、こうした中でも投資信託は堅調を維持した。1月は原油安やギリシャ不安などから株式・ 為替市場が神経質な展開となったが、投資信託(元本ベース、5.9%→7.4%)の伸び率は拡大した (図表 13)。その月次平均残高(元本ベース)も 88.1 兆円と過去最高を更新している。 13 年半ば以降における投資信託の増勢は 06 年から 07 年にかけての急増に次ぐ勢いをキープして いる。NISA の普及もあり、家計のリスク性資産投資の受け皿として選好されているようだ。 (図表11) M2、M3、広義流動性の動き (前年比、%) 5 (図表12) 現金・預金の動き (前年比、%) 7 M2 広義流動性 M3 4 M1 6 現金通貨 預金通貨 5 3 4 3 2 2 1 1 0 0 -1 -2 -1 0801 0901 1001 1101 1201 1301 1401 (図表13) 投資信託と準通貨の動き 4.0 投資信託 20 準通貨(右メモリ) 1001 1101 1201 1301 1401 1501 (年/月) (図表14)投資信託の残高と前年差増減 (兆円) (前年比、%) 25 0901 (資料)日本銀行 (年/月) (資料)日本銀行 (前年比、%) 0801 1501 投資信託残高 (兆円) 前年差(右軸) 80 20 60 15 40 10 20 5 0 0 3.0 15 2.0 10 5 1.0 0 0.0 -5 -10 -1.0 0801 0901 (資料)日本銀行 1001 1101 1201 1301 1401 1501 (年/月) (20) (5) 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 (資料)日本銀行 (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情 報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。 4| |経済・金融フラッシュ No.14-198|Copyright ©2015 NLI Research 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