全文ダウンロード(577KB)

ニッセイ基礎研究所
No.14-181
14 Jan. 2015
12 月マネー統計
~マネーの波及は貸出次第
経済研究部
上野 剛志
E-mail: [email protected]
シニアエコノミスト
TEL:03-3512-1870
1.貸出動向: 伸び率は小幅に鈍化
日銀が 1 月 13 日に発表した貸出・預金動向(速報)によると、12 月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は
前年比 2.7%(前月は 2.8%)と小幅に縮小した。業態別に見ると、地銀の伸び率は前年比 3.7%(前月も同
じ)と横ばいを維持したが、都銀等が前年比 1.7%(前月は 2.0%)と減速した。
比較対象である 13 年 12 月に大口貸出があった反動が出たとのことで、従来同様、貸出の増勢自体に
変化はないと見られる。なお、昨年後半は急激な円安進行によって外貨建て貸出の円換算残高が膨らん
だことも伸び率増加に寄与してきたが、12 月については前年比での円安進行ペースがやや鈍っており、こ
のことも貸出の伸び率縮小に働いたようだ(図表 1~4)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率
(%)
(兆円)
5
425
5
420
4
4
(図表2) 業態別の貸出残高増減率
(前年比、%)
都銀等
貸出残高(右軸)
前年比
地銀
信金
3
3
415
2
410
1
405
2
1
0
-1
0
400
-1
395
-2
390
-4
-3
200801
385
-5
200801
-2
-3
200901
201001
201101
201201
201301
201401
(図表3)貸出先別貸出金
(前年比、%)
(%)
20
200901
201001
201101
201201
201301
201401
(資料)日本銀行
(年/月)
(資料)日本銀行
(年/月)
(図表4) 銀行貸出とドル円レート(月次平均の前年比)
(%)
3.0
30
2.0
20
1.0
10
大・中堅企業
中小企業
15
地方公共団体
10
5
0
-5
銀行貸出
-10
0801
0901
1001
1101
1201
1301
(年/月)
(資料)日本銀行
1|
(注)11月分まで(末残ベース)、大・中堅企業は「法人」-「中小企業」にて算出
ドル円レート(右軸)
0.0
1401
0
13/1
4
7
10
14/1
|経済・金融フラッシュ No.14-181|Copyright ©2015 NLI Research Institute
4
7
10
(年/月)
(資料)日本銀行
All rights reserved
ちなみに、11 月の新規貸出金利については、短期
(図表5)国内銀行の新規貸出金利
(%)
1.5
(一年未満)が 0.868%、長期(1 年以上)が 0.996%
新規/短期(一年未満)
新規/長期(一年以上)
となった。毎月の振れが大きい指標のため、トレンド
1.3
を見るべく 3 ヵ月移動平均で見ると(図表 5)
、短期
には下げ止まり傾向、長期にはやや持ち直しの動きが
1.1
見られる。
0.9
これまでの貸出金利低下で逆ザヤの発生など厳し
い状況に置かれている銀行が、採算確保の動きを強め
0.7
10
た可能性があるが、利回り確保のために貸出期間を長
11
(資料)日本銀行
12
13
14
(年)
(注)3ヵ月移動平均値(直近は14年11月分)
期化しただけかもしれない。10 年国債利回りなどの
市場金利は 12 月以降に過去最低を更新しているだけに、未だ予断を許さない状況にある。
2.マネタリーベース: 年末の見通しを達成
1月 6 日に発表されたマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中のお金)
を示すマネタリーベースの 12 月平均残高は 267.4 兆円と過去最高を更新、その前年比伸び率は 38.2%
(前月は 36.7%)と、前月からやや拡大した。日銀当座預金の伸び率が 69.5%(前月は 65.7%)と拡大した
ためである。
一方、季節調整済みの平均残高は前月比 2.4 兆円減と減少。前月比での減少は 1 年ぶりとなる。12 月
は季節柄マネタリーベース減少要因である国債発行超が多くないことから、マネタリーベースが増加しやす
いことが季節要因として調整されたためと考えられ、特段問題ない。
なお、日銀の金融政策運営との関係で最も注目度が高かった 12 月末のマネタリーベース残高は過去最
高の 275.9 兆円となり、日銀が自ら示していた 14 年末見通し(275 兆円)を達成した。
今後については日銀の残高見通しが示されていないことから、金融政策上のマネタリーベース増加ペー
スである「年間約 80 兆円」増がメルクマールとなる。単純計算で月当たり 6.7 兆円増のペースが維持できる
かが円滑な政策運営を図る目安となる(図表 6~8)。
6
(図表6) マネタリーベース伸び率(平残)
(前年比、%)
(前年比、%)
日銀券発行残高
貨幣流通高
マネタリーベース(右メモリ)
5
60
(図表7) 日銀当座預金残高(平残)
(兆円)
(前年比、%)
180
200
日銀当座預金残高
50
160
同伸び率(右軸)
150
140
4
40
3
30
2
20
1
10
0
0
120
100
100
80
50
60
40
-1
-10
0801
(資料)日本銀行
2|
0901
1001
1101
1201
1301
1401
0
20
0
-50
0801
(年/月)
0901
1001
1101
|経済・金融フラッシュ No.14-181|Copyright ©2015 NLI Research Institute
1201
1301
1401
(年/月)
(資料)日本銀行
All rights reserved
(兆円)
(図表8)マネタリーベース残高と前月比の推移
(兆円)
280
12
季節調整済み前月差(右軸)
260
マネタリーベース末残(原数値)
240
7
220
200
180
2
160
140
-3
120
100
80
-8
0801
0901
1001
1101
1201
1301
1401
(年月)
(資料)日本銀行
3.マネーストック: マネーの伸びは一服
日銀が 1 月 14 日に発表した 12 月のマネーストック統計によると、市中通貨量の代表的指標であ
る M2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比 3.6%(前月も同じ)、M3(M2 にゆうちょ銀
など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)は同
2.9%(前月も同じ)とそれぞれ前月から横ばいであった。
M3 の内訳では、現金通貨(前年比 3.8%→3.6%)と預金通貨(普通預金など、5.0%→4.8%)
の伸びが縮小する一方で、準通貨(定期預金など、0.7%→0.8%)と CD(譲渡性預金、7.1%→9.7%)
が伸び率を拡大しており、まちまちな内容。M2 は 4 ヵ月ぶり、M3 は 3 ヵ月ぶりに伸び率の拡大が
止まったことになるが、法人税の支払いや貸出の伸び鈍化が影響したとみられる。
一方、M3 に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比 3.5%(前
月改定値は 3.4%)とやや拡大した。投資信託(元本ベース、5.8%→5.9%)、金銭の信託(4.6%
→5.1%)といったリスク性資産が牽引役となった(図表 9~11)
。
ちなみに、マネーストック M2 のマネタリーベースに対する倍率(貨幣乗数)は異次元緩和前に
6.2 倍であったが、直近では 3.3 倍まで低下している。M2 も増加を続けているものの、マネタリー
ベースの増加ペースには到底及んでいないためだ。この間、銀行貸出のマネタリーベースに対する
倍率も 3.0 倍から 1.6 倍に低下しており、信用創造の伸び悩みがマネーストックの伸び悩みに繋が
っている姿が鮮明になっている(図表 12)
。
14 年の銀行貸出の前年比伸び率は 2.5%(1 月)で始まり、2.7%(12 月)で終了と、伸び悩みが
目立つ一年であった(図表1)。マネーストック M2 の伸び率も 4.2%(1 月)から 3.5%(12 月)
と鈍化している。昨年 10 月末の追加緩和によって、マネタリーベースの増加ペースは既に上がっ
ている。今年は「マネタリーベース→貸出→マネーストック」というマネーの波及が活発化するか、
貸出の動向が焦点となる。
3|
|経済・金融フラッシュ No.14-181|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved
(図表9) M2、M3、広義流動性の動き
(前年比、%)
5
(図表10) 現金・預金の動き
(前年比、%)
7
M2
広義流動性
M3
4
M1
6
現金通貨
預金通貨
5
3
4
3
2
2
1
1
0
0
-1
-2
-1
0801
0901
1001
1101
1201
1301
0801
1401
(図表11) 投資信託と準通貨の動き
(前年比、%)
(倍)
(前年比、%)
25
0901
4.0
1001
1101
1201
1401
(年/月)
(図表12)M2と貸出のマネタリーベース比
9
M2/マネタリーベース倍率
銀行貸出/マネタリーベース倍率
8
投資信託
20
1301
(資料)日本銀行
(年/月)
(資料)日本銀行
準通貨(右メモリ)
3.0
7
15
6
2.0
10
5
5
1.0
4
3
0
0.0
2
-5
1
-10
-1.0
0801
0901
(資料)日本銀行
1001
1101
1201
1301
1401
0
10
(年/月)
11
12
13
14
(資料)日本銀行
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情
報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
4|
|経済・金融フラッシュ No.14-181|Copyright ©2015 NLI Research Institute
All rights reserved
(年)