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名古屋哲学教育研究会セミナー発表報告
「クリティカルシンキング入門・・・・・・一歩手前」
中京大学/名古屋大学非常勤講師 井上 研
●本発表の趣旨:発表者が中京大学で開講している「論理学A・B」の講義実践を報告する。
●発表内容
1.講義概要
論理学A・Bともに履修登録者数は200名弱で、実際に受けに来るのは120名程度である。文系・理系・体育系
の学生がどの学年もまんべんなく登録している。論理学Aは、「論証」とは何かを知り、「論証」を書けるように
なることを目指した論理中心のクリティカルシンキングである。論理学Bの目標は、われわれの判断・選択がいか
に誤りを犯しがちであるかを知るのを目標とした心理学中心のクリティカルシンキングである。
発表では論理中心のクリティカルシンキングを教える論理学Aを主に取り上げた。論理学Aでは、15回の講義
を通して学生に覚えて帰って欲しいことを4点にまとめている。①自分の考えていることは、説明しすぎるほど説
明しなければ、読み手には伝わらない。②論理的な文章を構成する要素はたったの3つ。主張・根拠・根拠の裏
付け。③論理的な文章を書いたり吟味したりするための問いかけはたったの2つ。「え、なんで?」(根拠を問
う)と「それホンマ?」(根拠の信憑性を問う)。④Don t feel, THINK(感覚で書かない。考えて書く)。
2.実践
主張には根拠が必要であることを説明し、与えられたお題について実際に書く練習をする。例えば、「女性車
両についてどう考えるか?」というお題に対して、自分の主張とその根拠を書く。その際、まず主張を明確に書
き、続けて「なぜなら」「∼だから」といった理由表示語を明示して根拠を述べることを強調する。
次に、根拠には裏付けや具体例による説明が必要であることを説明する。学生が書いた主張+根拠の文章を練
習問題として利用する。挙げられた根拠に対して「それホント?」「具体的には?」という問いかけをする。こ
の時、実際に根拠に対する裏付けや具体例が追加されるわけではないが、問いかけをすることの重要性を強調す
る。自分が論証を書く場合にも、他人の論証を吟味する場合にも有用な問いかけであることを指摘する。
論証の最小限の構成要素について学んだ後、今度はお手本にして欲しい論証文を提示し、それを見ながら自分
の論証を作る練習をする。例えば、以下の文章がお手本として提示した文章である。
落書きは、自治体と住民が一体になり、徹底して排除すべきである。理由は二つある。
第一に、落書きは住民の不安をあおるからだ。福岡市中央区警固の住民アンケート調査によれば、「昼間に犯罪に会
いそうな不安を感じるのはどんなところですか?」という質問に対する回答のトップは「落書きのある道」で、70%に
上る(1)。
第二に、犯罪を誘発することにもつながるからだ。札幌方面警察署では、住民と連携して薄野地区で環境浄化活動を
強化した結果、窃盗犯が二年間で15%減少する等の成果を収めたという報告がある(2)。
(1)九州大学有馬隆文研究室(2005)「安全安心まちづくりにむけたアンケート結果」
http://media.arch.kyushu-u.ac.jp/DataRoom/QUESTIONNAIRE/Page1/html
(2)警察庁編(2003)『平成15年版警察白書』ぎょうせい 128ページ
(飯間浩明『非論理的な人のための論理的な文章の書き方入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン)
この文章は、短いながらも論証に必要な主張、根拠、根拠の裏付けから構成されている。このような手本を参
考にして論証文の型を身につけてもらうことを目指した。
反省点の一つ目は、根拠が主張を支えるとはどういうことかの説明が薄弱になってしまったことである。講義
では根拠を挙げることの重要性を強調したが、よい根拠と悪い根拠を見極める練習ができなかった。論理学とい
う看板を掲げながら、論理の部分の解説が弱いと自己評価している。反省点の二つ目は、講義の中で根拠を裏付
ける練習ができなかったことである。というのも、根拠を裏付けるには丹念な調査が必要であり、その場のアド
リブで書けるものではないからである。もし仮に宿題として、調べ物をして論証を書いてきてもらったとしても、
それを逐一確認しフィードバックするのはかなり骨の折れる作業になる。
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