あらすじ

前略 梅花の香りひそやかに漂う頃となりました。お元気のことと思います。
恒例の日立能楽発表会が2月 22 日(日)日立シビックセンターにて開催されま
す。散歩がてらにちょっとお寄りください。小生の日立喜多会の発表曲目につ
いて概要をご紹介いたします。
1、班女:はんじょ(作者:世阿弥)
美濃国不破郡にある野上の地は、壬申の乱のとき大海人皇子(後の天武天皇)
が行宮を定めた地で、近くに不破の関(関ヶ原あたり)があり、駅路として栄
え、遊女が多くいた。この野上の遊女“班女”が、京から東へ向かう吉田少将
と契り再会を約束する。班女は契った男を慕うあまり、他の客をとらず宿を追
われ、都へ狂い上ってゆく。一方、吉田少将は都へ帰る途中、野上に寄ると班
女は不在といわれ都に上る。と偶然にも都にて再会する。
・・当日 発表
のところは、班女が契った男と会えず、会いたくて悶々としている状況を描写
している。能のなかでも著しく濃艶な趣のある曲で知られる。男もまた昔の女
を尋ねる情のあわれさに清純なものを感じさせる。
2、花月:かげつ(作者:世阿弥)
筑紫の彦山のふもとに住む少年“花月”は、あるとき天狗にさらわれて、讃
岐―伯耆―丹後・丹波―と周りめぐり、京に至る。その父は、僧になって我が
息子を探す。京の清水寺で、息子が芸を披露しているところで巡り合い、再会
する。当日発表のところは、再会するところで、少年が、天狗にあちこちの山々、
峰々を引き回される様子を謡う。
美少年の喝食(禅寺で修行する少年)が芸尽くしを演じるところで、鶯が枝
を飛び交い花を散らすので弓矢で狙うしぐさ、清水寺の縁起を曲舞で舞うしぐ
さなど。
3、玉葛:たまかずら(作者:金春禅竹)
旅の僧が、奈良・初瀬の長谷観音へ参拝すると、一人の女性が顕われ、玉葛
が筑紫から都へ逃げ帰り、此処へ来たところ、母夕顔の侍女・右近に巡り合っ
たことなどを語って消える。その夜、僧が読経していると玉葛の霊が現れて、
心みだれて、思いに狂い昔のことを懺悔して妄執を晴らして・・・源氏物語の
玉葛の段からとったもので、玉葛の数奇な運命を描くところに狙いがあったが、
なぜ玉葛が狂乱したのか、能では触れていない。観客は源氏物語を読み、玉葛
のたどった一生は熟知していることを前提にしている。
玉葛は、頭中将と夕顔の間に生まれ、養父である光源氏、兄にあたる柏木を
はじめ多くの男から、密かに或いは激しく思慕され、女官として参内後、心に
染まぬ筑紫の鬚黒大将の妻になり、鬚黒の先妻の兄から心寄せられ、多くの人
の心をも迷わせた業因が彼女の狂乱の原因で・・。
4、西王母:せいおおぼ(作者:世阿弥)
西王母は中国の神仙の名で、人の形をしているが尾は豹、歯は虎のごとし。
それが、美しい仙女の姿となって、三千年に一度花咲き実るという桃を皇帝に
捧げて聖代を祝福するという題材。端厳壮麗な宮殿に、気品高く美しい仙女が
現れ、名君の治世を景仰して、慶祝喜悦の姿で舞う・・・
5、草紙洗小町:そうしあらいこまち(作者:世阿弥)
宮廷での歌会合わせに、大伴黒主の相手は、小野小町に定められ、黒主は詠
歌では到底かなわないので、小町が吟ずる歌を盗み聞きし、その歌を万葉の草
紙に書き入れた。清涼殿の御歌会には、帝、紀貫之、など歌人が居並ぶ。小町
の歌が披露されると、黒主は、その歌は万葉の歌であるといい、草紙を見せる。
小町は、悩み悲しみ、草紙を洗わせてほしいと申し出て、洗ってみると、書き
入れた一首は消える。黒主は非を恥じ自害しようとするが、小町の取成しで、
帝も許され、小町は和歌の徳を讃えた舞をまう。
同時代の人物ではない、小町、黒主、貫之を一堂に会せしめたのは、創作で、
史実にはない。能の流派により、草紙洗小町、草子洗小町、草紙洗、双紙洗な
どと表記します。絶世の美女とされる小野小町ですが、若いころを扱ったのは
この曲だけです。
才色兼備の誉れ高い小野小町が、老衰落剝し、垢と脂に汚れた乞食に落ちぶ
れたという設定を描いたものに、卒塔婆小町があり、老女ものとして、非常に
難度の高い曲として扱われています。
6、敦盛:あつもり(作者:世阿弥)
一の谷の合戦で、当時十六歳の平家の公達・平敦盛を討取った熊谷次郎直実
は、あまりの痛ましさに無常を感じ、武士を捨て出家し蓮生(れんしょう)と
名乗り、一の谷を訪れ敦盛の菩提を弔う。笛の音が聞こえ草刈男がやってきて、
立ち去った後、一人の男がのこる。このようにして、蓮生法師と敦盛の霊がで
あう。
敦盛の付ける面は“十六”という面で、いかにも十六歳の貴公子の面影をと
らえている。平家の雅の内に哀れが漂う、お能の中でも名曲とされている曲で
す。