「みらい」北極航海 MR14-05 における 西部北極海融氷域の海洋混合層の発達過程についての研究 ○竹田大樹・川口悠介(海洋研究開発機構) 1.はじめに MR14-05 航海では、海洋地球研究船「みらい」を用いて、西部北極海のノースウィンド深海平原(北 緯 74.75 度 西経 162.00 度,Fig.1)において、 2014 年 9 月 6 日から 9 月 25 日の 3 週間、定点観測を 実施した。今航海において海洋表層混合層の発達過程や大気イベントに対する海洋の応答を調べるた めに、高頻度の大気観測と CTD 、乱流計、船底 ADCP、漂流ブイを用いた海洋観測を行った。 2.手法 本研究では、MR14-05 航海の観測結果を用いて、海氷融氷域における海洋混合層の発達過程の変化 について研究した。先行研究の 2013 年の MR13-06 航海では、チャクチ海陸棚での海洋混合層内の 変化が、近慣性の内部重力波と風による直接的な混合で支配されていることがわかっている (Kawaguchi et al.,2015)。MR14-05 航海での観測地点は、MR13-06 航海と比べて氷縁に近く、塩分濃度 の小さい融氷水に覆われた海域であった。また、海底の深さは、昨年よりも深い約 1900m であった。 そのため、混合層内の成層構造、潮汐の強さ、慣性振動の影響など、昨年とは観測現場での海洋物理 的な環境が異なる。この観測では、CTD や乱流計から水温塩分、微小スケールの流速シアなどを取 得し、表層混合層内の物理現象を調査することで、混合層の発達過程について考察した。 3.結果 観測の結果、定点には厚さ約 20m の密度躍層が存在していた。3 週間の観測期間中、表層混合層は 一様に低温・低塩化する傾向にあった。気象場との関係から、定点期間を期間 1 から 4 にわけて、そ れぞれの海洋混合層の特徴について考察する(Fig.2)。期間 1 から 2 にかけて前線が通過した際、SST(海 面水温)は SAT(海上気温)より大きくなり、SST と SAT は逆転したが、正味の海面熱フラックスは ほとんどなく、期間 3 以降は負になり、大気に熱が逃げるセンスになっている。Fig.1 の▼では、表層 の高水温が混合層下にまで到達しているので、躍層を破るような密度逆転が起きており、躍層を壊す 強い鉛直混合があったことを示唆する。また期間 2 では、氷上の高気圧の影響で風速が弱かったにも かかわらず、海洋混合層は深化し、エネルギー散逸率も混合層周辺の広い範囲で極大値が観測された。 この期間中の混合層発達の要因として、9 月 9 日から 12 日にかけて、水深 100m から 200m に高気圧 性の寒冷渦が近慣性周期の内部波を周囲に放射している(Kawaguchi et al., in prep.)ことから、表層混 合層下部への内部波の影響が示唆される。 混合層の発達により混合層が深くなり、表層の低塩分化が 進行することで、海氷生成の促進に寄与するのではないかと考えられ、本研究では、結氷に至るまで の混合層発達の物理過程を解明することが目的である。 4.謝辞 今回の研究にあたり、MR14-05 では GODI と MWJ の観測技術員の皆様に大変お世話になりました。 また、国立極地研究所の猪上淳准教授、佐藤和敏先輩、指導教員である佐藤尚毅先生には多くの知識 とご示唆をいただきましたことに、感謝の意を表します。 5.参考文献 ・Y. Kawaguchi, S. Nishino, and J. Inoue, 2015 :Fixed observation of mixed layer evolution in the seasonally ice-free Chukchi Sea:turbulent mixing due to gale winds and internal gravity waves , JPO , in press . ・Y. Kawaguchi, S. Nishino, J. Inoue, K. Maeno, and H. Takeda : Internal gravity waves and enhanced mixing associated with an anti-cylconic cold-core eddy in the Arctic Ocean , to be submitted. Figure1:MR13-06 と MR14-05 の定点観測の地点。☆は MR14-05,◇は MR13-06 での定点を表している。SIC は海氷密接度 (%) , SST は海面水温(℃),contour は海底地形を表している。 Figure2:MR14-05 定点期間中における各パラメータの時系列。 (a)水温(shade,℃) ,(b)塩分(psu)であり、太線はポテンシャ ル密度アノマリー(上から 22.5,23.0, 23.5 kg/m3)。 (c)風速(点線・m/s)・風応力(実線・N/m2),(d)乱流観測によるエネル ギー散逸率(W/m2)。▼では、表層の高水温が混合層下にまで到達し、躍層を壊す強い鉛直混合があったことを示唆する。
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