遺伝子データベースの構築によるイワナ、ヤマメ、アマゴ個体群の 在来

遺伝子データベースの構築によるイワナ、ヤマメ、アマゴ個体群の
在来・非在来判別技術の開発
水産総合研究センター 中央水産研究所
要旨
全国およびロシアの放流履歴のないイワナ集団(189 集団)と全国および台湾からのサ
クラマス集団(49 集団)から標本を収集し、ミトコンドリア DNA の部分塩基配列を指標と
した遺伝子解析を行った。その結果、イワナでは 54 種類のハプロタイプが、サクラマス
類では 53 種類のハプロタイプがそれぞれ確認され、DNA データベースとして蓄積した。ま
た、日高川水系に生息するアマゴ 15 集団からサンプルを収集し、ミトコンドリア DNA と
マイクロサテライト DNA を併用した遺伝子解析を実施し、それぞれの集団について在来・
非在来判別をおこなった。本州各地の飼育施設(養鱒場等)で継代飼育されているイワナ
のミトコンドリア DNA を調べたところ、13 箇所の施設から 14 種類のハプロタイプが確認
され、多様な系統が継代飼育に用いられている現状が明らかとされた。
緒言
イワナ、ヤマメ、アマゴなどの渓流魚は河川の上流部に生息するという生態特性か
ら、河川間での交流が少なく、河川毎に独自の遺伝的構造をもつ場合が多い。このよ
うな集団では、それぞれ独自の進化プロセスを経ていると考えられ、進化的にも将来
の遺伝資源としても貴重な存在といえる。これまで、イワナについてはミトコンドリ
ア DNA を指標とした遺伝子解析が各地で行われ、河川毎の遺伝的特徴がある程度明ら
かにされている(Yamamoto et al. 2004; 北野他, 2006; Kubota et al. 2007; Kikko et
al. 2008; 山本他, 2008; Sato et al. 2010)。1970 年代以降、本州に生息するイワナ、
ヤマメ、アマゴ集団では、増殖の目的から各地で種苗放流が進み、在来集団のみが生
息する河川は年々減少傾向にある。天然集団を保全・管理する目的からは、現存する
在来集団の遺伝的構造を科学的な調査に基づき識別し、保全のための適切な地理的単
位を急ぎ設定していく必要がある(Allendorf and Luikart 2007)。このような保全単
位は、今後における保全・管理施策の構築(たとえば集団間移殖、種苗放流の可否な
ど)のための重要な指針になるものと考えられる。
本研究課題では、イワナ、ヤマメ、アマゴ個体群の在来・非在来判別技術を開発
する。この目的のために、聞き取り調査などで放流履歴のない集団からサンプルを収
集し、ミトコンドリア DNA の塩基配列解析により、河川毎、河川内支流毎、あるいは
1
サイト毎に出現する DNA タイプを整理する。また、ミトコンドリア DNA より変異性が
高いとされるマイクロサテライト DNA 遺伝子座を探索し、ミトコンドリア DNA とマイ
クロサテライト DNA を併用することにより、精度の高い在来・非在来集団判別技術を
開発する。これらを統合して、イワナ、ヤマメ、アマゴ集団について 分布域を網羅す
る遺伝子データベースを構築し、渓流魚の保全・管理技術開発に資する保全の地理的
単位を設計する。本年度では、以下の調査・実験をおこなう。
①
イワナ・サクラマスでは、全国各地から放流履歴のないサンプルを収集し、ミト
コンドリア DNA を指標とした解析をおこない、DNA データベースに蓄積させる。
②
アマゴ研究のモデル河川として設定している和歌山県日高川水系からサンプル
を収集し、マイクロサテライト DNA とミトコンドリア DNA を併用することにより、
水系内支流間レベルでの在来・非在来判別技術を開発する。
③ 養鱒場等で継代飼育されているイワナのミトコンドリア DNA タイプを調べる。
材料と方法
Ⅰ
ミトコンドリア DNA による遺伝子データベースの構築
(1)イワナ
今年度新規に分析をおこなった集団は、北海道二腰川、阿武隈川水系 3 集団、利根
川水系湯西川 2 集団、信濃川水系 2 集団、木曽川水系 1 集団、天竜川水系 1 集団、富
士川水系 12 集団、相模川水系 3 集団である。すでにミトコンドリア DNA による分析が
おこなわれている集団を併せると(Yamamoto et al. 2004; Kubota et al. 2007; 山本
他, 2008)、本報告で扱った集団はロシアからの 17 集団、北海道からの 57 集団、本州
からの 115 集団、合計 189 集団 3113 検体となる(表 1)。標本からの DNA は、99%エタノ
ールで固定した供試魚のアブラビレから GenElute Mammalian Genomic DNA kit (Sigma
社, USA)または QIAGEN DNeasy Blood & Tissue kit (Qiagen 社)を用いて抽出した。
PCR 反応には、L15285(5’-CCCTAACCCGVTTCTTYGC-3’Inoue et al. 2000)および
H15915(5’-ACCTCCGATCTYCGGATTACAAGAC-3’Aoyama et al. 2000)のプライマーセット
を使用し、ExTaq ポリメラーゼ(タカラバイオ社、東京)または AmpliTaq Gold 360 Master
Mix (Applied Biosystem 社、 東京)を用いて 50℃のアニーリング温度、40 サイクルの
条件で増幅した。PCR 産物の塩基配列の決定には、ABI3100 Genetic Analyzer(Applied
Biosystem 社、 USA)を用いた。なお、検出された多くのハプロタイプは Yamamoto et al.
(2004), Kubota et al. (2007), Kikko et al. (2008), 山本他 (2008)において既に
報告されているため、それぞれのハプロタイプ名はこれらの文献に準じるようにした。
本研究で見出されたハプロタイプおよび既往文献により報告されているハプロタイプ
2
とを併せて,Arlequin ソフトウエア(Schneider et al. 2001)により最節約ネットワー
クを構築し、日本およびロシア産イワナの遺伝的特徴を解析した。
3
4
5
(2)サクラマス
サクラマスについては本年度新たに北海道天塩川水系名寄川 1 集団、北海道大釜谷
川 1 集団、青森県大畑川 1 集団、宮城県伊里前川 1 集団、鳥取県陸上川の 1 集団をサ
ンプリングし、合計 49 集団 1231 個体を分析した(表 2)。なお、大畑川産サクラマスと
伊里前川産サクラマスは、青森県水産総合研究センターおよび宮城県水産技術総合セ
ンター内でそれぞれ継代飼育されている個体である。サクラマス類のミトコンドリア
DNA 分析では、サイトクローム b 領域の部分塩基配列と ND-5 領域の部分塩基配列とを
併せて解析をおこなった。それぞれのプライマーセットは下記のとおりである。
Cytochrome-b 領域
cyto-F(5’-RACACGATTTTTCGCCTTTC-3’山本未発表)
H15915(5’-ACCTCCGATCTYCGGATTACAAGAC-3’Aoyama et al. 2000)、
ND-5 領域
ND5-1F(5’-TACCCCAATTGCCCTGTACG-3’Kitanishi et al. 2007)
ND5-3R(5’-CTAACACGTGGGTTAGGTCG-3’Kitanishi et al. 2007)
PCR 反応には、ExTaq ポリメラーゼ(タカラバイオ社、東京)を用いて 55℃のアニー
リング温度、37 サイクルの条件で増幅した。
6
Ⅱ
アマゴモデル河川における在来・非在来判別分析
2008,2009,2010 年に和歌山県日高川水系の 15 集団でサンプルを収集し、ミトコン
ドリア DNA とマイクロサテライト DNA を分析した。ミトコンドリア DNA については、
サイトクローム b 領域の部分塩基配列 557bp を分析し、マイクロサテライト DNA では
12 集団について 9 遺伝子座を分析し各個体の遺伝子型を決定した。今回アマゴで使用
したマイクロサテライト DNA9 遺伝子座のプライマー配列を表 3 に示す。
マイクロサテライト DNA のデータについては、プログラム Arlequin ver
3.01(Schneider et al. 2001)を用いて、遺伝子座毎、集団毎に対立遺伝子数、ヘテロ
接合度、ハーディーワインベルグ平衡の検定結果 をまとめた。また、個体の遺伝子型
の情報に基づくグループ分けをプログラム STRUCTURE ver 2.0 (Prichard et al. 2000)
7
を用いて推定した。解析では、マイクロサテライト DNA 遺伝子座に基づく対立遺伝子
頻度によって特徴づけられる K 個の任意交配集団を仮定し、個体を確率的に集団 に割
り当てていくとき、データセットを最も良く説明する集団数( K)を求めた。
K=1-10 に対してそれぞれマルコフ連鎖のモンテカルロシミュレーションを 10 回試行
し、分集団 K を与えたときの個体の遺伝子型が生じる対数尤度を求め、 Evanno et al.
(2005)に従い連続する対数尤度の変化量ΔK が最大となる K を求めた。
Ⅲ
各地で継代飼育されているイワナのミトコンドリア DNA 分析
Kubota et al. (2007)により報告された各地の飼育施設において継代飼育されてい
るイワナのミトコンドリア DNA タイプを整理するとともに、新たに山形県、兵庫県の
飼育施設にて飼育されているイワナをサンプルし、ミトコンドリア DNA サイトクロー
ム b 領域の部分塩基配列 557bp を分析した。
結果および考察
Ⅰ
ミトコンドリア DNA による遺伝子データベースの構築
(1)イワナ
収集した 3113 検体のイワナサンプルから、計 54 種類のハプロタイプが検出された。
これらのハプロタイプは 51 箇所の塩基置換によって識別され、転位型置換が 43 箇所、
8
転換型置換が 8 箇所であった(図 1、表 1)。これらのうち、最も高い頻度で出現するハ
プロタイプは Hap-3 であり、この遺伝子型はロシアから本州南部に至る広域に出現す
るものであった。また、ハプロタイプネットワーク全体はこのハプロタイプを中心と
する星状樹形を形成した。
これら 54 種類のハプロタイプのうち北海道集団から見出されたハプロタイプは、
Hap-1、Hap-2、Hap-3、Hap-4、Hap-5、Hap-7、Hap-37、Hap-38、Hap-42、Hap-43、Hap-44、
Hap-45 の 12 種類であった。ロシア集団からは、Hap-1、Hap-3、Hap-4、Hap-5、Hap-36、
Hap-39、Hap-40、Hap-41、Hap-46、Hap-47、Hap-48、Hap-49、Hap-50 の 13 種類のハプ
ロタイプが見出され、そのうち北海道集団と共通して出現するハプロタイプは Hap-1、
Hap-3、Hap-4、Hap-5 の 4 種類であった。本州の集団から確認されたハプロタイプは、
9
Hap-1、Hap-3、Hap-5、Hap-6、Hap-7、Hap-8、Hap-9、Hap-10、Hap-11、Hap-12、Hap-13、
Hap-14、Hap-15、Hap-16、Hap-17、Hap-18、Hap-19、Hap-20、Hap-21、Hap-22、Hap-23、
Hap-24、Hap-25、Hap-26、Hap-27、Hap-28、Hap-29、Hap-30、Hap-35、Hap-45、Hap-51、
Hap-52、Hap-55、Hap-new36、Hap-new39、Hap-new40 の 36 種類であり、北海道・ロシ
アを合わせたハプロタイプ数よりも多くの種類が確認された。また、本州集団と北海
道集団で共通して出現するハプロタイプは、Hap-1、Hap-3、Hap-5、Hap-7、Hap-45 の
5 種類であった。
ハプロタイプネットワークにおける特徴的な DNA グループを挙げると、琵琶湖集団
および琵琶湖周辺河川集団は Hap-17,18,19 を持つことで特徴づけられ、比較的高い遺
伝的分化を遂げていた。また、熊野川集団、木曽川水系の各集団、矢作川に分布する
イワナは、Hap-28、29 を持つことで特徴づけられ、やはり大きな遺伝的分化を示した。
大井川に生息するイワナは、Hap-23 Hap-24 Hap-25 Hap-26 をもち、これらのハプロタ
イプはこれまでのところ他河川から確認されていない。 また、宮城県相川沢のイワナ
集団は Hap-12 をもち、このハプロタイプも他所からは確認されていない。
今年度、新たに分析をおこなった集団において確認されたハプロタイプは、二腰
川から Hap-3,Hap-4,Hap-38、阿武隈川水系 3 集団から Hap-3,Hap-45、富士川水系の 12
集団から Hap-1,Hap-3,Hap-55、相模川水系 2 集団から Hap-55、信濃川水系から Hap-1、
木曽川水系から Hap-28、天竜川水系から Hap-22、天神川水系から Hap-20 がそれぞれ
確認された。
(2)サクラマス類
収集した 1231 個体のサクラマスサンプルから、計 53 種類のハプロタイプが検出さ
れた(図 2、表 2)。亜種毎にみていくと、サクラマスからは Hap-1、Hap-2、Hap-3、Hap-4、
Hap-5、Hap-6、Hap-7、Hap-8、Hap-9、Hap-10、Hap-11、Hap-12、Hap-13、Hap-14、Hap-15、
Hap-16、Hap-25、Hap-26、Hap-27、Hap-29、Hap-32、Hap-33、Hap-36、Hap-37、Hap-39、
Hap-40、Hap-42、Hap-43、Hap-44、Hap-45、Hap-46、Hap-51、Hap-53、Hap-55、Hap-64
の 35 種類、アマゴからは Hap-1、Hap-2、Hap-7、Hap-11、Hap-22、Hap-27、Hap-28、
Hap-30、Hap-31、Hap-34、Hap-35、Hap-38、Hap-29、Hap-47、Hap-49 の 15 種類、ビワ
マスからは Hap-18、Hap-19、Hap-20、Hap-21、Hap-48 の 5 種類、サラマオマスからは
Hap-52 の 1 種類が確認された。亜種間で重複して出現するハプロタイプは 、サクラマ
ス・アマゴ間で Hap-1、Hap-2、Hap-7、Hap-11、Hap-27、Hap-29 の 6 種類が確認され
た。ビワマスから見出された 5 種類のハプロタイプはいずれも比較的近い遺伝的距離
でグルーピングされるが、最も遺伝的距離の近いアマゴのハプロタイプ( Hap-33)と
は 5 つの塩基置換が存在することから、これらのハプロタイプはビワマス固有のハプ
10
ロタイプと考えられる。サラマオマスから見出されたハプロタイプ (Hap-52)は、現在
のところ台湾からのみ認められるが、アマゴ・サクラマスから見出される Hap-7 とは
遺伝的距離が近いものであった。
今回新たにサンプルした天塩川水系名寄川からは Hap-2、Hap-7、Hap-9、Hap-11、
Hap-17、Hap-53、Hap-55、Hap-64、大釜谷川からは Hap-2、Hap-3、Hap-7、Hap-9、大
畑川からは Hap-3、伊里前川からは Hap-7、Hap-36、陸上川からは Hap-2、Hap-27 が確
認された。
これまで、Hap-27、Hap-28、Hap-30、Hap-31、Hap-34、Hap-49 を含むグループは、
天竜川から紀伊半島、四国に生息するアマゴ集団からのみ確認され、これらのハプ ロ
タイプは西日本のアマゴを特徴づける DNA タイプであると考えられていた。今回、鳥
取県の陸上川に生息するサクラマスから Hap-27 が新たに確認されたことから、このハ
プロタイプはサクラマス・アマゴ域に共通して出現するハプロタイプである 可能性が
示された。ただし、現時点では移殖放流の可能性も否定できないため、今後は陸上川
近隣の河川集団も分析に加える必要がある。
11
Ⅱ
アマゴモデル河川における集団遺伝解析
和歌山県日高川水系の 15 集団において収集した標本を用いて、ミトコンドリア DNA
サイトクローム b 領域の分析をおこなったところ、この水系では Hap-3、Hap-8、Hap-15、
Hap-17、Hap-18、Hap-19、Hap-20、Hap-21、Hap-22、Hap-27、Hap-30 の 11 種類のハプ
ロタイプが確認された(図 3、表 4)。これらのうち、最も優占するハプロタイプは Hap-3
であり、寒川新行谷以外の全ての集団で認められた 。調査をおこなった集団のうち、
西ノ河では種苗放流がおこなわれた記録が残されており(和歌山県農林水産総合技術
センター私信)、ここでは 6 種類のハプロタイプが確認され多型的であった。また、西
ノ河で確認されたハプロタイプのうち、Hap-15、Hap-20、Hap-22 は日高川水系の他の
集団からは確認されておらず、他水系由来の個体が 移殖された可能性が考えられる。
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マイクロサテライト DNA9 遺伝子座を解析したところ、平均対立遺伝子数の範囲は
2.3-6.9 となり、新行谷で最も低く、西ノ河で最も高かった(表 5)。ヘテロ接合度の範
囲は、0.32-0.60 となり、新行谷で最も低く、立花川で最も高かった。西ノ河で対立遺
伝子数が多いとする結果は、ミトコンドリア DNA の結果と整合するものである。プロ
グラム STRUCTURE を用いて、個体の遺伝情報を基に分集団数を推定したところ、分集
団数は K=3 で最も高いΔK が得られた(図 4)。各個体を事後確率の最も高いクラスター
に割り当てたところ、北又谷では緑色の遺伝的要素をもつ個体が優占し、蟻合谷、新
行谷では青色の遺伝要素を持つ個体が優占することが示された。これら 3 河川で見出
されるミトコンドリア DNA ハプロタイプは、北又谷では Hap-3、Hap-17 の 2 種類、蟻
合谷では Hap-3 の単型、新行谷では Hap-21 の単型であり、マイクロサテライト DNA の
結果と同様に遺伝的変異が少ない。したがって、聞き取り調査、ミトコンドリア DNA、
15
マイクロサテライト DNA の結果を併せて、これら 3 集団は放流履歴のない在来集団と
判断される。一方、西ノ河集団では、3 つの遺伝的要素が混合するパターンが確認され
た。ミトコンドリア DNA の結果とも併せて解釈すると、この集団に放流魚が混じる可
能性はきわめて高いと考えられる。同様に、初湯川本流集団および古川本流集団はマ
イクロサテライト DNA により 3 つの遺伝的要素が確認され、これらの 2 集団について
も放流魚が含まれる可能性がある。
Ⅲ
養鱒場などで継代飼育されたイワナのミトコンドリア DNA タイプ
本州の渓流魚飼育施設 13 箇所において継代飼育されているイワナのミトコンド
リア DNA のタイプを表6にまとめた。ハプロタイプの番号は表1、図 1 と対応する。
13 箇所の飼育施設から、Hap-1、Hap-3、Hap-5、Hap-7、Hap-8、Hap-10、Hap-11、Hap-13、
Hap-16、Hap-19、Hap-22、Hap-30、Hap-31、Hap-32 の 14 種類のハプロタイプが確認さ
れた。これらのうち最も出現頻度の高いハプロタイプは Hap-7 であり、調べた 13 箇所
の施設のうち 11 箇所で確認された。各飼育施設に多様なハプロタイプが確認され、複
数の系統が継代飼育に使用されている現状がうかがえた。
16
要約
イワナに関して、北海道・本州を網羅するサンプリングをおこない、一部ロシアか
らの集団を加えて遺伝子解析をおこなった。ミトコンドリア DNA サイトクローム b 領
域の塩基配列を分析した結果、合計 54 種類の DNA タイプ(ハプロタイプ)を確認する
ことができた。これらのうち本州集団から見出されたハプロタイプは 36 種類であり、
琵琶湖集団や熊野川・木曽川集団などいくつか特徴的なハプロタイプをもつ集団 が特
定された。サクラマス類では、北海道・本州・四国・九州・台湾からの 49 集団をミト
コンドリア DNA サイトクローム b 領域と ND-5 領域で分析した。その結果、合計 53 種
類のハプロタイプを確認することができた。これらのうち、サクラマ スとアマゴの 2
亜種間で共通して出現するハプロタイプが 6 種類確認された。ビワマスからは 5 種類
のハプロタイプが確認されたが、いずれの遺伝子型もビワマス特異的なものであった。
また、西日本太平洋側の河川に生息するアマゴ集団は、いくつか特徴的なハプロタイ
プによってグルーピングされることがわかった。
和歌山県日高川水系に生息するアマゴ 15 集団をミトコンドリア DNA と高感度マーカ
ーであるマイクロサテライト DNA を用いて分析し、それぞれの集団について在来・非
在来の判別をおこなった。本課題でおこなったミトコンドリア DNA とマイクロサテラ
イト DNA を併用する在来・非在来判別手法は、今後、移殖をおこなう際の意志決定や
保全管理単位の設定などの遺伝的管理において応用が可能と考えられる。
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