【銀賞】 氏 名 = 小野 修司(岐阜市) 書 名 = もったいない 著者名 = ワンガリ・マータイ 題 名 = 温故知新の「もったいない」 先の東京五輪招致の際、 「おもてなし」の一言が、その優雅な語感とともに、世界に広がった。言葉の持つ重み を実感するとともに、日本語、さらに、日本人の精神性が認められたようで、とても誇りに感じた。一方、一人 の外国人がそのよさを啓発し、世界に通じる日本語として有名になったのが、 「もったいない(MOTTAINA I) 」 。発信者は、元ケニア環境副大臣の故ワンガリ・マータイ氏だ。 「3つのR(リデュース・リユース・リサイ クル) 」をスローガンに掲げ、環境問題に地球規模で取り組んでいた氏が、深い感銘とともに出あい、その後、折 に触れて、世界へと発信し続けた「もったいない」の一言。その裏にある、日本人さえも忘れかけていた深い精 神性を、日本文化はもちろん、今月の環境問題から国際情勢、とりわけ、発展途上国の苛酷な貧困問題を交え紹 介したのが本書だ。 私自身、 「もったいない」はよく口にする。幼少時、わが家には、使われなくなった井戸が残っていた。祖母は その井戸を前に、水を汲み上げる大変さ、また、枯れてしまった井戸を通じ、資源には限りがあることを、孫に 言い聞かせた。子ども心に聞いた「一滴の水も大切に」の教えは、今日の私の「もったいない精神」につながっ ていると思う。一方で、年を重ねるごとに、物質至上主義、経済至上主義に影響され、モノや時間の「損失」ば かりを指すことが増えた「もったいない」は、幼き日、純真な思いで口にしてきたそれとは、大きく趣を変えて いると言わざるを得ない。そんな中、氏の考える「もったいない」を読み終え、幼き日の祖母の教えの先を見た 思いがした。 氏は、モノはもちろん、この世に生きとし生けるものすべてには、生まれながらにして、個々の能力があり、 その本性が生かせない、その本性を生かさないことが「もったいない」の本質だと述べている。モノは使い切る。 食物は食べ切る。人はその持てる能力すべてを使い切ってこそ、互いを敬愛する心、感謝と感動が生まれ、世界 が変わると期待している。 「もったいない」を起点とした、モノと人、人と人との豊かなつながりの先に、自身の 推進する環境問題解決の糸口を見出している。実用的で、先見性ある氏の主張の精神的な支柱に、 「もったいない」 を据えていただいたことに、日本人の一人としての感謝と誇り、また、少なからぬ責任感を今、私は感じる。温 故知新のごとく、氏から逆輸入された「もったいない」は、日本再生の鍵ともなろう。 本文47ページの本書は、良質で豊富なイラストを活用すれば、幼児への読み聞かせに最適だ。小学生であれ ば、具体的な数字を交えた事例を見て、個々の生活を見直す機会になるだろう。中高生ともなれば、対訳も適宜 活用しつつ、原文(英文)にチャレンジしていただきたい。老若男女問わず、日本の古きよき文化を、また、誇 れる精神を見直すきっかけとして、自信を持って本書を推薦したい。
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