Document

道
Ⅰ
徳
道徳の時間の特質と「見通す」「振り返る」活動について
道徳の時間の目標は,道徳教育の目標に基づき,各教科等における道徳教育を計画的,発展的
に補充,深化,統合し,道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深
めることを通して,道徳的実践力を育むことである。
この目標を達成するために道徳の時間の授業では,特に,道徳的価値の自覚を深める学習を確
実に行うことが大切であり,学習指導要領解説道徳編には,図1にまとめたように道徳的価値の
自覚を深めるための事柄として,「道徳的価値についての理解」「自分との関わりで道徳的価値が
とらえられること」
「道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題が培われること」
の3つの内容が示されている。
道徳的価値についての理解は,道徳的価値のよさや意義だけではなく,実現することの難しさ
や道徳的価値に対する多様な感じ方,考え方についても理解を図ることが大切である。これらの
道徳的価値の理解を生徒一人一人が自分との関わりで深めていくことが重要である。
また,生徒が道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題が培われるようにす
るためには,ねらいとする道徳的価値に関する現状認識をすることが求められる。道徳的価値に
ついて,これまで自分はどのように考えていたか,どのように行動してきたかなどについて振り
返ることが,自分なりに発展させ
ていくことへの思いや課題を持つ
ことにつながる。
これらのことについて,教師が
一方的に望ましい価値観を教え込
むような指導に終始していては,
生徒が主体的に考えることにはつ
ながらない。道徳の時間において
も,「見通す」「振り返る」活動を
効果的に取り入れ,生徒が自分と
の関わりで道徳的価値について考
えようとする意欲を高める必要が
ある。
◎道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方に
ついての自覚を深めるための3つの事柄
1 道徳的価値の理解
価値理解 ・よさ,大切さ,素晴らしさなど
人間理解 ・人間の弱さ,もろさなど
他者理解 ・自分と異なる多様な感じ方,考え方
2 自分との関わりで道徳的価値をとらえる
自己理解 ・振り返り,今の自分に気付く
3
3 自分なりに発展させていくことへの思いや課題を培う
自分なりに発展させていくことへの思いや課題を培う
道徳的価値に関わる行為,感じ方,考え方につい
道徳的価値に関わる行為,感じ方,考え方につい
て振り返り,自分なりに発展させていくための思い
て振り返り,自分なりに発展させていくための思い
や課題に気付く。
や課題に気付く。
図1
Ⅱ
道徳の時間における「見通す」学習活動について
道徳の時間において,生徒が主体的に学習するためには,生徒が自分との関わりで道徳的価値
について考えようとする意欲を高める必要がある。そのためには,授業の導入時に,本時で考え
る道徳的価値がどのようなものかを生徒が把握できるように工夫することが重要となる。
生徒が主体的に学習するための工夫として,例えば次のことが考えられる。
-中道 1-
(1)指導者が本時で考える道徳的価値や,道徳的価値に関わる日常の生活場面での課題など提示
し生徒に問題意識を持たせる。
例1
例2
友達と親友の違いは,
目標を達成するために必要
どんなことだと考えま
なことは,どんなことでし
すか?
ょう?
これは「なくなればいいと感じ
自 分 が 差別 さ れ る の は 嫌 な
る校則」についてのアンケート
のに,友達に対して偏見をも
結果です。今日は,「決まりは
ってしまうのは,どうしてだ
本当に必要か」ということにつ
と思いますか?
いて考えていきましょう。
例3
例4
(2)生徒に資料を分析的,批判的に読ませ生徒の疑問や問題意識を生かし本時の主題を検討する。
資料「銀色のシャープペンシル」を例に
② 事情を説明すればよかったのに,なんでロッカーに突っ
込んで返したことにしてしまったのかなと思いました。
① 資料を読んで,疑問
③ 周りが騒ぐから,言いにくくなったんじゃないの。
に思ったことや考えて
みたいと感じたことが
⑤ 卓也が謝っているんだから,そのままにしておけば
ありましたか?
分からないし,その後も,もめずにすみそうなのに,
なぜ誤りに行くことにしたんだろう。
Ⅲ
④ なるほど。悪気は
⑥ では,今日は,「つい」言い逃れをしてしまうような人間の弱い
ないけれど,「つい」
部分は,どうすることもできないのかということについて考えてい
って感じでしょうか。
くなかで,それを乗り越えるための思いについて深めていくという
他にありますか?
ことでいいですか?
道徳の時間における「振り返る」学習活動について
(1)生徒が1時間の学習状況を振り返る(主に学習の終末段階において)
「自分の考えを発表することができたか」
「友達の考えを聞くことができたか」という内容で
はなく,
「道徳的価値を実現することのよさや難しさ,その多様性を自分との関わりで理解でき
たか」
「道徳的価値に関わる自分の状況を確認することができたか」など,学習をとおして道徳
的価値の自覚を深めることができたかどうかについて生徒が振り返ることが重要である。具体
的な振り返りの視点として,例えば「この時間で何を学んだか」
「○○ということ(価値)につ
いて,どのように考えたか」などが考えられる。
(2)学習内容をもとに,これまでの自分の経験やその時の感じ方,考え方を振り返り,ねらいと
する道徳的価値の自覚を深める(主に学習の展開の中で)
教師がねらいとする道徳的価値に関わる具体的な経験などを振り返らせ,道徳的価値を深める。
-中道 2-
Ⅲ
実践事例
事例1
主題名
「アキラの選択」
(出典:「自分を見つめる」あかつき)を活用した事例
①「自主的な生き方」1-(3)自主・自律の精神
②「よりよい判断」 1-(3)自主・自律の精神
③「自己を見つめる」1-(5)個性の伸長
中学校 第3学年
主題名①「自主的な生き方」
1
目標
深く考えないで人に合わせたり,その時の感情で安易に行動したりすることなく,自分自身で考
え,判断し,実行して生活する態度を育む。
2
指導と評価の計画
過
程
学習活動と主な発問
学習の様子を見取る視点
見通し,振り返り
活動の留意点
1 本時の内容について見通しを持つ。
○アンケートの結果を見て,どんなこと
導
を思いますか。
◇興味を持ってアンケート
結果を見ている。
・提示された事前アンケート結果を見
入
・事前アンケート結果を
黒板に掲示し,実態に
ついて振り返らせたう
て,自分たちの実態を把握する。
えで,
「私たちの道徳」
・
「私たちの道徳」22ページを読む。
を一読することによっ
て,本時に考えていく
ことを明確にする。
2 資料「アキラの選択」前半部分を読
んで考える。
○何かを決める際に,アキラが最も重視
しているのはどのようなことだと思
◇アキラの行動をもとにし
て考えている。
いますか。
3 資料「アキラの選択」後半部分を読
展
んで話し合う。
○アキラが,「なんだか分からないけれ
ど,もやもやした気持ちになった」の
◇アキラの気持ちに寄り添
って考えている。
はなぜだと思いますか。
○リョウタと比べて,選択の基準が他人本意な
ことに気付くアキラを捉える=人間理解
開
○選択授業が始まってから,アキラはど
◇ ここまで のアキ ラの行
のように授業を受けたと思いますか。
動,気持ちをもとにして
○本来はどうすべきだったのか,どのように判
考えている。
断するべきだったのかを考える=価値理解
-中道 3-
◎アキラとリョウタの考え方,行動の
◇ここまでの授業を踏ま
仕方をどう思いますか。また,あな
えて,アキラとリョウタ
たがアキラの立場だったら,どのよ
について,自分の考えを
うに行動していたと思いますか。
持っている。
4 本時の学習を振り返る。
・板書を利用し,話し合
・もう一度,「私たちの道徳」22ペー
ってきたことを振り返
ジを読んで,本時を振り返る。
らせる。
終
○これからの生活でも,選択を要する場
◇他人任せではなく,自分
・ここまでの意見交流を
末
面は数えきれないほど出てくるでし
自身の考えを大切にして
基にして芽生えた考え
ょう。そのような時,どのようなこと
選択しようという気持ち
を,これからの日常生
に気を付けて判断していけばよいで
になっている。
活に生かしていこうと
しょうか。
いう視点を持たせる。
3 学習指導の様子
(1) 見通す,振り返る活動について
①見通す活動「本時の主題に関わる問題意識を持たせる工夫」
導入において,事前に生徒が回答したアンケート結果のグラフを提示した。視覚的に捉えさせる
ことによって,自分たちがどのような考え方に基づいて生活しているかを振り返ることができると
考えたためである。自分や友達の思考の実態をつかませたうえで本時のねらいを確認したことによ
り,「何をテーマとした授業なのか」
「何を考えていく
授業なのか」ということを明確にすることができた。
また,
「自分たちの実態」であるだけに,生徒も興味深
ウ
ア
質問1
く学習を行うことにつながった。
また,アンケート結果提示の後に「私たちの道徳(P
イ
22)
」を読むことによって,授業の趣旨がさらに明確
になり,見通しを持つために有効だったと実感してい
る。
イ
ウ
ア
質問2
イ
ア
私たちは,日常生活のあらゆる場面で選択する機会に立ち合って生きています。
みなさんはそのような際,何を重視して選択していますか。
黒板のアンケート結果を見ると,質問1に対して,クラスの80%以上の人が「そうい
う経験がある」と回答しています。この現状を,みなさんはどう思いますか。今日は,『私
たちは何に気を付けて選択する生き方が望ましいのか』について考えていきましょう。
-中道 4-
質問3
②振り返る活動
ア 導入に用いた資料の再登場
終末において,導入時に読んだ,「私たちの道徳(P22)」を再度音読した。この活動は,
本時を振り返らせる過程として有用な手法のひとつになったと実感している。様々な意見交流
をした後,導入時の資料に戻ることによって「この授業において何を考え,何を話し合ってき
たのか」
「授業を通して自分の考え方はどのように変化したのか」を改めて感じ取る場となっ
た。
ここまで,アキラとリョウタの行動を基にして考えてきました。いろいろな人
の考え方に触れ,自分の考え方も初めとは変わってきているかもしれませんね。
ここで,もう一度「私たちの道徳」を音読してみましょう。
今日の授業のテーマ『私たちは何に気を付けて選択する生き方が望ましいのか』に
ついて,自分の考えは深まったでしょうか。
イ 思考の流れが分かる板書
充実した振り返りのためには,授業の流れが分かりやすいように板書の工夫をすることも大
切な要素だと考える。しかし,板書を考えるためだけに膨大な時間を費やしたり,大がかりな
掲示物を作ったりしていたら,週に一度ある道徳授業の準備は,大変なものになってしまう。
大がかりなものではなく,本時に生徒が何を話し合ってきたか視覚的に分かりやすくまとめる
ような思いを持って意図的になされた板書には,明解さがあり,振り返りには欠かせないもの
になる。
し
て
い
け
ば
よ
い
の
だ
ろ
う
?
私
た
ち
は
,
ど
の
よ
う
な
こ
と
に
気
を
付
け
て
判
断
○
実
際
に
自
分
が
選
択
す
る
場
面
を
想
像
し
て
…
・
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・
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―
。
だ
っ
た
ら
,
ど
う
し
て
い
た
だ
ろ
う
?
う
思
い
ま
す
か
?
ま
た
,
あ
な
た
が
ア
キ
ラ
の
立
場
ア
キ
ラ
と
リ
ョ
ウ
タ
の
考
え
方
,
行
動
の
仕
方
を
ど
○
こ
こ
ま
で
の
授
業
を
踏
ま
え
…
・
―
―
―
―
―
―
―
―
―
―
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―
―
―
―
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―
―
。
ア
キ
ラ
は
ど
の
よ
う
に
選
択
授
業
を
受
け
た
の
だ
ろ
う
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・
―
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―
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・
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―
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―
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―
―
―
―
―
。
なア
ぜキ
だラ
ろが
う,
?も
や
も
や
し
た
気
持
ち
に
な
っ
た
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考
え
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い
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自
分
の
や
り
た
い
こ
と
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か
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キ
ラ
・
リ
ョ
ウ
タ
が
一
緒
か
ど
う
か
。
・
友
人
が
選
択
の
基
準
。
何
を
考
え
て
選
択
す
る
生
き
方
が
望
ま
し
い
の
か
ウ 授業の成果が明確に表れる問いの設定
終末での発問,
「これからの生活でも,選択を要する場面は数えきれないほど出てくるでし
ょう。そのような時,どのようなことに気を付けて判断していけばよいでしょうか。
」がこれ
にあたる。授業においては,
「授業前の自分」→「資料を通して思考した自分」→「級友の考
えに触れ,新しい視点を持った自分」というように,1時間の中で自身の考え方が変容した
生徒がほとんであった。それゆえ,授業を通して思考したことや最終的に行き着いた考えを
表出させることは,自然な形で本時を振り返ることになった。
(2) 道徳的価値の自覚を深めるために行った言語活動について
①付箋による意見交流
中心発問及び終末での発問に対する思考の時間,意見交流の時間を十分に確保するため,ワー
クシートに記述するのは2点に絞り,じっくり記入させることとした。それ以外の発問は,付箋
を利用し,短時間で自分の意思を表現し,交流する手法を用いた。ワークシートへの記入は時間
がかかってしまう生徒も,この方法ならば気軽に記入でき,短時間で済むことが多い。今回は,
-中道 5-
30秒で付箋へ記入し,2分間で付箋を活用した意見交流を2度行った。付箋による意見交流は
非常に便利で,その手法に慣れると話合いの際に考え方の違いごとに生徒が自由に付箋を動かし
たりまとめたりするようになる。また,短時間で済むこともあり,授業の効率化が図られる。
②小集団による意見交流場面の設定
4人グループによる意見交換の場を多用し,多くの考え方に触れる機会を増やすことで,自分
の考えを深める一助とした。道徳の時間においては,自己理解や他者理解を深めるために多くの
考え方に触れさせたい。
「そう考えるのか,自分にはない考え方だ」という発見をさせたり,他
者の考えに感心や驚きを覚えたりさせることが,考えを深める最良の手段になると考える。
そこで,本授業では4人グループを主体として,他者の意見を自己の内に収める場を多めに設
定した。この型での意見交流の発展系として,話合いの度に生徒を代えて,新たな4人組で話合
いを進めていく手法も考えられる。
学習シートへの記述からは,
「アキラの気持ちも分からないではない」という,
「流されやすい人間
の姿」を捉えながらも,やはり選択する際には,自主性が大切だと結論付けているものが見られた。
生徒に「見通す・振り返る」活動を意識させたことで,授業テーマ「私たちは何に気を付けて選択す
る生き方が望ましいのか」について,考えを深めることができた。
-中道 6-
主題名②「よりよい判断」
1
目標
自分自身で考えて判断し,実行しようとする判断力を育む。
2
指導と評価の計画
過
学習活動と主な発問
程
学習の様子を見取る視点
見通し,振り返り
活動の留意点
1 自分自身のこれまでを振り返り,
本時の活動について見通しを持
つ。
○あなたが,部活動を決めた理由はな
導
入
◇自分自身を振り返ってい
んですか。
る。
・自分のこれまでをしっ
かり振り返り,自分の
考え方を確認させる。
○今日は,物事を選択するときに,何を大切に判断すればい
いのかということを考えていきます。
2
・さまざまな考え方があ
ることに触れ,主題に
迫る出発点とする。
資料「アキラの選択」を読み,
二人の選択について,グループで
意見を出し合う。
○二人の選択の仕方について,どう
◇アキラ,リョウタの物事
思いますか。
の選択方法について理解
し,自分の考えを持って
いる。
展
3
アキラの選択の仕方について考
えを深める。
○もし,リョウタと一緒に理科の選
択授業を受けることができていた
としたら,アキラはどうなってい
開
くでしょうか。
◎2学期に選択教科を新たに決め
◇自己を見つめた判断がで ・自己を見つめた判断を
直すことになりました。あなたな
きるようにアドバイスし
すると,その先にどん
ら,アキラにどんなアドバイスを
ようとしている。
ないいことがあるの
送りますか。(そうすることで,
かを考えさせる。
どんないいことがあるのかもふ
まえて考えよう。
)
☆期待する反応が見られなかった場合の指導
・
「なぜアキラの頭が真っ白になったのか」など,アキラの心情に寄り添わせ,どうすれば同
じ結果にならないかを考えさせる。
-中道 7-
4 これからの自分について考える
○これから,選択をする場面に直面
◇二人の選択仕方を通し
していくとき,何を大切にして
て,自分自身について考
選択していきたいですか。
えている。
5 本時を振り返り,まとめをする。
終
○これまでの自分や今日の授業を振
末
り返り,思うことはなんですか。
◇これまでの自分自身と本 ・
「選択する際に何を大切
時の授業を振り返りなが
にするべきか」につい
ら,価値について考えを
て,これまでの自分と,
深めている。
本時について振り返る
ことができるようにす
る。
3 学習指導の様子
(1) 見通す,振り返る活動について
①見通す活動
本時で考えさせたい価値を,自分との関わりで考えようという思いを高めるため,部活動を選
択したときのことを想起させた。「部活動を決めた理由はなんですか」という問いに対し,生徒
の答えは大きく分けて3種類であった。
ア 自分の考えを大切にして決めた (15名)
「楽しそう」
「興味があった」「得意なものだった」
イ 周囲の意見を大切にして決めた (15名)
「顧問のすすめ」
「友達が一緒」
「親に言われた」
ウ 小さい頃からの経験があり,それ以外考えられなかった(6名)
(30人学級,複数回答)
選択の理由には,人それぞれの考え方があることや,自分の選択基準もひとつではなかったこ
とを改めて確認し,本時の活動を考えていくきっかけとした。生徒にとって身近な話題がきっか
けであったため,見通しを持つ方法としては有効であったと考える。
②振り返る活動
本時では,自分自身を振り返る活動を2回行った。
1回目(導入)
:本時の活動を見通すきっかけとして,これまでの経験を振り返る。
2回目(終末)
:道徳的価値の自覚を深めるため,本時の学習とこれまでの考え方を振り返る。
2回目の振り返りについては,
「アキラのように,友人に合わせる考え方」が自分の中に少な
からずあることを振り返り,これから出会うであろう選択を求められる場面について,「自分自
身で判断する」という価値について考える生徒が多かった。
しかし,中学1年生という発達段階からか,
「これまで,人に頼ることが多かったので,これ
からは自分で決めていきたい」と簡単に記述する生徒も見られた。自分自身で判断することで,
その先にどんないいことがあるのかということまで考えさせたかったが,記述には現れていなか
った。展開の中で「アキラへアドバイスを送り,そうすることで,どんないいことがあるのかも
アキラに教えてあげよう」という活動を行ったが,その考えが反映されていなかった。それは「自
分自身の振り返り」はうまくできたが,
「授業の振り返り」がうまくできなかったからだと考え
られる。本実践では,同時に2つの振り返りを行ったが,授業の振り返りをしっかり行うための
板書や発問の工夫が必要である。
-中道 8-
◇2回目の振り返る活動 生徒の記述
・人の意見に惑わされてきたけれど,これからたくさん選択をするときがあるので,そのとき
には,自分の意見を必ず持つ。アキラのように人に流されてしまうことがあるかもしれない
けれど,自分の意見があることはすばらしいことだから,人の意見に惑わされたとしても,
1つは自分の意見を持つようにしたい。
・これまでの自分は,いろいろな選択をするときに○○(双子の兄)が決めて「おれもそれに
する」みたいな感じだったけど,今日の授業を受けて,次からは○○に頼らないで自分自身
で決めたい。
・今まで,自分のやりたいことを結構やってきた。委員会を決めるときも,本当は入りたかっ
た委員会を譲ったりして,今の選択方法も悪くないと思った。
・今までは,友達と同じことばかりしていました。だけど今日の授業で,友達と同じことをす
るのもいいけど,自分の確かなことをすることも大切だと思いました。今日の授業では,今
まで友達と同じ部に入り,同じことをしていた私を考えさせてくれました。
・部活を決める時に,友達と一緒だからという理由もあったので,アキラのことも分からなく
ないなと思いました。でも,自分のやりたいことも大切にしていきたいと思います。
・私はアキラとは逆で,「人に合わせる」ということが苦手なので,アキラのいいところをま
ねしたいと思います。そして,ものを選択することきには,先のことまで考えられるように
なりたいと思いました。
(2) 道徳的価値の自覚を深めるために行った言語活動について
まず,資料を読んですぐに「アキラ」と「リョウタ」二人の人物の選択方法について5人グル
ープで話し合った。結論を出すのではなく,様々な角度から意見を出し合った。グループで意見
を言い合うことで,資料の人物を客観的に捉え,評価していくことができていた。そして,クラ
スで共有する中で,
「みんなが気になっていること」に注目し,問題を焦点化することができた。
また,
「アキラが理科にしなければ,リョウタの枠が空いたのに」という発言に「そんな考えも
あるのか」と驚く声も上がり,生徒が積極的に資料を読む手助けになっていたと考えられる。
一方で,
「二人の選択の仕方についてどう思いますか」という抽象的な問いを生徒に投げかけ
たため,「何を言えばいいのか分からない」と戸惑うグループもあった。そのグループには「二
人が物事を決めるときに,大切にしているものを比べてみよう」という補助的な発問を行った。
また,自由に意見を出し合うという雰囲気からか,アキラのことを考えないリョウタを批判す
るといった,授業者の意図しない発言が出ることもあった。この意見をその後の展開に生かすこ
とができたか反省が残る。グループで意見を交換する場面では,生徒の状況に応じて,発問を変
えていく必要があると感じた。
次に,中学1年生という発達段階を踏まえ,「アキラへのアドバイスを送る」という活動を設
定した。物事を選択するときに,
「何を大切にすればい
いのか」
,そして「そうすることでどんないいことがあ
るのか」ということを考えさせる前段階として,有効
であったと考えられる。
-中道 9-
◇アキラへのアドバイス 生徒の記述
・二学期決める時は,自分の好きなものに入ればいいと思うよ。そうすれば,友達がいっぱい
増えると思うよ。
・今度は自分のやりたいようにやればいい。このままだったら,同じ高校に行ってしまうよ。
・リョウタと一緒の教科になりたいという考えではなく,自分の考えを優先してもいいと思う。
その方が自分もリョウタもやりたいことができる。
・ずっとリョウタと一緒もいいけど,未来を考えて。
・いつまでもリョウタのことを考えず,これからのことを考えて選んだ方がいいと思う。ずっ
とリョウタと一緒にはいられないよ。
・二学期決める時には,自分に自信を持って,後悔しないものに入ればいいと思う。
・自分の意見を優先して,本当に親友でありたいのなら,もっとリョウタの気持ちも考えてあ
げよう。自分の好きなものを選べば,リョウタと一緒にいるのと同じくらい楽しいと思うよ。
・一度でいいから自分を優先した方がいいと思う。そうすれば,自分のやりたいことができ,
運がよければリョウタと一緒にいられるかもしれない。そして,自分の決断をしっかり持っ
て,自分を強くしたらいいと思う。
・友達を優先するんじゃなくて,自分のやりたいことを優先した方がいいよ。そうすれば,前
みたいに後悔せずに,楽しめるよ。自分なりが大切。
-中道 10-
主題名③「自己を見つめる」
1
目標
自分自身を見つめ,個性を伸ばしてよりよく生きていくために必要なことは何かについて考えを
深める。
2
指導と評価の計画
過
程
学習活動と主な発問
1
導
入
○
1枚ポートフォリオの設問に答え
学習の様子を見取る視点
活動の留意点
◇設問に対して,自分なりの
・1枚ポートフォリオ
る。
考えを記述するように努
の設問を通して,本
個性を伸ばすために必要なことは
力している。
時の学習の見通しを
どんなことだと考えますか。
2
見通し,振り返り
持たせる。
資料「アキラの選択」を読んで話
し合う。
○ 「リョウタは何を選ぶだろうか。
」 ◇リョウタと一緒にいたい
○
と考えるアキラについてどう思う
と思っているアキラにつ
か。
いて考えている。
アキラがもやもやした気持ちにな
◇リョウタとは違う自分に
ったのは,どうしてだと思うか。
ついて考えるアキラの立
場になって考えている。
展
◎「頭の中が真っ白になった。
」後に
◇自らの行為についてアキ
アキラはどのように自分の行動を
ラがどう感じているのか
振り返っただろうか。
考えている。
開
・1枚ポートフォリオ
に自分の意見を記
入させる。
☆期待する反応が見られなかった場合の指導
・
「リョウタと同じ選択教科のクラスになれなかったことで,アキラはどんなことを考えたと
思うか。
」という質問に替えて考えさせる。
○ 選択教科を「体育」ではなく,
「理
◇自分の意志ではなく,他の
・1枚ポートフォリオ
科」にしたアキラの行動について
人に合わせた行動につい
に自分の考えを記入
どう思うか。
て考えている。
した後,グループで
意見交換を行う。
3
終
末
○
1枚ポートフォリオの設問に答え
◇設問に対して,自分なりの
・1枚ポートフォリオ
る。
考えを記述するように努
を使って授業前と同
個性を伸ばすために必要なことは
力している。
じ設問を与え,授業
どんなことだと考えますか。
○
前と授業後の記述内
授業前と授業後の記述内容を比べ
◇授業前と授業後の記述内
容を比較して,本時
てみて,思ったこと,考えたこと
容を比べ,思ったこと,考
の学習の振り返りを
を書いてみよう。
えたことを書いている。
行う。
-中道 11-
板書計画
「アキラの選択」
①「リョウタは何を選ぶだろうか。」
と考えるアキラについてどう思う
か。
②アキラがもやもやした気持ちにな
ったのは,どうしてだと思うか。
・自分で決められない自分が,未熟だ
・リョウタのことしか考えていないの
で,気持ち悪い。
・深く考えすぎ。
③「頭の中が真っ白になった。」後に
アキラはどのように自分の行動を
振り返っただろうか。
・周りに惑わされていると気付いた。
と思った。
・リョウタは俺と一緒じゃなくてもよ
いのか。
・自分が「体育」を選んでおけば,リ
ョウタは「理科」に入れたかも。
・リョウタのことが好きなんだな。
・自分の好きなものにしておけばよか
・いつまでも自立しない感じ
った。
④選択教科を「体育」ではなく,
「理科」にしたアキラの行動についてどう思うか。
・自分で選んだことだから,自分の責任
・自分だったら自分の好きなところへ行く。
・周囲を気にすることも大切だけど,自分自身の考えで行動することの方が大切だと思う。
3 学習指導の様子
(1) 見通す,振り返る活動について
①見通す活動
1枚ポートフォリオを活用することによって,学習内容の見通しを行えるようにした。この活
動を行うことによって,学習前の生徒の価値項目に対する考え方や思いを確認することもできた。
考えの記入は,3分間など時間を決めて行うようにした。
今回は,個性の伸長に関わる内容であったので,「個性を伸ばすために必要なことはどんなこ
とだと考えますか」という質問を設定した。
※1枚ポートフォリオの形式について
授業前と授業後を比較す
るために変形させたもの
表
面
裏 面
-中道 12-
②振り返る活動
1枚ポートフォリオを活用し,授業前と授業後に同じ設問に記述し比較することで,本時の学
習の振り返りを行った。これにより,個人内の考え方の変容を捉えることができ,道徳的価値の
自覚が深まったのかどうかを確認することができた。
【授業前と授業後を比較するために変形させたポートフォリオの記述例】
-中道 13-
(2) 道徳的価値の自覚を深めるために行った言語活動について
「選択教科を『体育』ではなく,
『理科』にしたアキラの行動についてどう思うか。
」という,ア
キラの取った行動に対して自分自身の考えを発表する場面で,小グループ(4人グループ)で意見
交換を行った。クラス全体では意見を言えない生徒も小グループでは意見を交換することができ,
他者とのやりとりによって,道徳的価値の自覚を深めることにつながった。
-中道 14-