わたしたちの健康「年頭所感」 新年あけましておめでとうございます。市民の皆様には、希望に満ちた新年 を迎えられたことをお慶び申し上げます。 昨年は、8月にデング熱の感染者が東京の代々木公園を中心に発生し、対策 として公園の立ち入り制限や媒介する蚊の駆除が行われました。約160名の 感染者を出しましたが、10月には終息しました。今後の分析が待たれるとこ ろですが、蚊の生息域も北上しており、蚊を媒介とする日本脳炎やマラリアへ の対応を含め、今年の夏も注意が必要です。 懸念されるのは、これまで西アフリカや中央アフリカで発生し、局地性の高 かったエボラ出血熱でしたが、昨年は状況が違いました。アフリカ大陸から飛 び火してスペインやアメリカにおいて医療従事者への二次感染を起こしたこと から、世界的に危機感が高まりました。映画や小説の話が現実の恐怖となって 伝ぱんし、世界をしんかんさせたのです。 本稿執筆時点では、終息が見えない状況ですが、WMA(世界医師会)では、 昨年10月にエボラウイルス病に関する緊急決議を南アフリカのダーバン総会 で採択し、流行と闘うための支援協力を各国の政府、自治体、医師会に対して 要請しております。対策としては、日本国内にエボラウイルスを入れないこと であり、水際となる空港や港における検疫が重要となります。このため政府は、 日本国内にある30の国際空港の検疫を強化しました。 しかし、2009年メキシコ発生の豚インフルエンザ(A/H1N1)の世界 的流行時には、このウイルスの感染力が強かったために、厳重な検疫をあっさ りくぐり抜け、日本国内にまん延してしまいました。 エボラウイルスは、患者の血液などの体液やおう吐物・排せつ物を介して接 触感染する病気です。空気感染や飛まつ感染しないというものの、死亡率が極 めて高い危険なウイルスであり、慎重かつ厳重な治療管理や防疫体制が求めら れております。 感染の拡大が続いているギニア、リベリア、シエラレオネですが、同じ西ア フリカに位置するナイジェリアでは、感染が終息したとWHO(世界保健機関) の発表がありました。ナイジェリア政府の強権的な措置もありますが、全エボ ラ出血熱り患者の徹底した感染経路の追跡と接触者の観察体制が封じ込めに成 功した鍵と言えます。 世界的まん延への次の対策は、予防や治療に向けてのワクチンや抗ウイルス 剤の大量確保となりますが、エボラウイルスについては、どちらも開発が遅れ ており、実用化が急務の課題となっております。日本でインフルエンザ用に開 発していた抗ウイルス剤であるファビピラビル(商品名:アビガン)は、エボ 1 ラウイルスにも有効であると注目されており、実用化前にもかかわらず、試験 的にエボラ患者に投与し効果があったことから、フランスが臨床試験を兼ね、 現地で使い始めました。この日本発の薬剤の有効性に世界が期待を込めて注目 しているところです。 今後、交通の発達及び流通量の増大に伴い世界はますます狭くなり、アフリ カや東南アジア地域からの直行便も増えることから、熱帯や亜熱帯性のウイル ス病が世界的規模でまん延する確率が高まることが予想されております。動物 に限らず人間社会も個体密度が高まれば、病気がまん延し、一挙に人口が激減 してきた歴史があります。 世界の人口が72億人となり、50年後に100億人を突破すると国連は予 測しています。ウイルスによる病気のまん延は、自然界のバランスを崩す人類 への警鐘ともいえますが、人類がどこまでウイルスを制圧することが出来るの か。まさに、自然界との共存をベースに未来を見据えた人間の英知にかかって いると言えます。 市民の皆様が本稿をお読みいただく頃には、エボラ出血熱が終息され、経済 的な影響も少ないことを願っておりますが、今後は、エボラ出血熱のワクチン や有効な抗ウイルス剤が開発されて、予防や治療が確立されなければなりませ ん。更に、近い将来には、天然痘のように根絶しなければならないウイルスで あると言えます。このような感染症を含む、あらゆる病気の根絶は、我々医師 の使命であり闘いでもあります。 市民の皆様の末永いご多幸を心より祈念申し上げ、新春のご挨拶といたしま す。 朝霞地区医師会 2 会長 浅野 修
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