優秀賞(NHK札幌放送局賞) ⼀つの境⽬ 札幌市⽴⼋軒中学校三年 相 いつもと変わらない通学路で、ある⽇私は⼀ ⼈の⼥性に挨拶をされた。 その⽇は学校のある平⽇だった。いつもより 早く仕度を終えた私は家を出る時間を五分早め、 ゆっくりと歩いていた。 毎⽇パトロールをしている⼈に挨拶をし、交 ⽥ ⼩ 春 その時、知⼈の⾔っていた「本当の意味」がわ かったような気がした。そして同時に私のした ことは差別だった。そのことに気が付いた。 「その⼈の考え⽅の⼀つの境⽬が差別を⽣み 出し、傷つけ、⼼を殺す」 このような⾔葉を聞いたことがある。私はあの 差点のところまできた。すると突然、 ⽇出会った⼥性を「他の⼈と違うから」と⾃分 「おはようございます。 」 の中に⼀つの境⽬を引き、冷たく突き離して、 と、後ろから⾔われた。驚いて振り向いてみる 逃げてしまった。 と、⼀⼈の⼥性が⽴っていた。おそらく、知脳 ⾃分でできている、⼤丈夫と思っていても、 に障害のある⼈なのだろう。⼀つひとつの動作 その多くはできていなくて、⼤丈夫とはかけ離 が妙にソワソワしていて、落ち付きがなかった。 れていて、⼤きく間違えている。⼈間は⼀⼈ひ 私はその⼈を⾒た瞬間に、 とり、個性や⼼をもっていて、その⼈によって 「気持ち悪い。」 価値観や考え⽅が違うのも当たり前だ。けれど、 そう思い、無⾔で前に向き直った。 時にはそれが⼈を傷つけるものになってしまう。 私は信号が⻘に変わるのと同時に、その場を ⾛り去り、少しでも距離をとろうと後ろを⼀度 も振り返らなかった。 数⽇後、そのことを知⼈に話すと、 反対に⼈を癒すこともできる。 私は最近、学校のある⽇は五分だけ早く家を 出るようにしている。いつもと変わらない通学 路。その中に⼀⼈の⼥性が新しく加わった。 「可愛想だね。その⼈を⾒て、その⼈を軽蔑し 「おはようございます。 」 てしまった貴⽅が何より可愛想。」 の、たった⼀⾔だけの短い、やりとり。三⽇に その時、私はその意味をよく理解していなかっ ⼀度、会うか会わないかのペース。私がその⼥ た。 性にしてしまった「差別」は事実で挨拶をする また別の⽇、私は外出先であの⼥性と同じよ ことで薄れることも、消えることもない。けれ うな⼈を⾒かけた。その⼈はすれ違う⼈に⽚端 ど初めてその⼈と⾔葉をかわした時、素直に嬉 から話しかけていた。 しいと思った。 「こんにちは」「いい天気ですね」 「⼀つの境⽬」で、⾃分の考え⽅が変わり、 その⼈の⾔うことは私も⽇常でよく⾔うことだ たった⼀⾔で私の「いつも」が変わった。境⽬ った。だが、その⼈に話しかけられたほとんど を引くのは⾃分⾃⾝。時には必要だし、時には の⼈は、冷たい⽬で⼀瞥するだけで、返事をす ⼈を傷つける。善悪を⾒分けるのは難しい。け ることは無かった。 れど、もう⼀度⾒直してみて欲しい。 「あぁ、私もあんな⾵にあの⼥性のこと⾒てた んだ。」 あなたのつくっている、その「境⽬」が、本 当に正しいものかどうかを。
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