ネットワークビジネスに生きた女

ネットワークビジネスに生きた女
by情報戦略研究編集部
■普通の主婦が「女王」になったいきさつ
いつしか彼女はまわりから「ネットワークビジネスの女王」と云われるようになっていた。
自分ではなにもたいしたことはしていない、というのだが、人生の後半に入ってからの約20年
間に10種類以上ものネットワークビジネスと関わり、その殆どを大きなビジネスへと育てたの
だから、この呼び名はあながち誇大なものではない。
その彼女は名古屋近郊の土地で5人姉弟の次女として生まれた。
父親は資産家で、彼女は20才を過ぎたあたりから、父の所有する不動産管理を任されるように
なった。
彼女は父の持つ土地にビルを建てたり駐車場として土地活用を図ったりしていたので、当時の彼
女は金回りが良かった。彼女が結婚したのは、そんな金銭的には満たされていた時期だった。
27才の彼女の結婚相手はというと、4才年上の幼なじみ。
「とびっきりのいい男だった」といまでも彼女は夫の男前を誇らしげに振り返る。
男前のご主人はこのころ学習塾の経営者だった。
学習塾とはいえ、れっきとした経営者である。
ここでも彼女はビジネスセンスを発揮する。
内助の功というわけではないが、夫をバックアップして数年で学習塾を8軒にまで拡大させたの
である。
そのうちに娘が生まれた。
家族3人が楽しく暮らす生活がこの後10年くらい続いた。
平安な暮らしに男は時として退屈するものだ。
彼女の夫もまた、自分している仕事に対して自信をなくし、他人の庭が美しく思えたのだろう、
一念発起、不羈独立の精神に駆り立てられたようだ。
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夫は「こんなチマチマした仕事はやってられない」と宣言し、きっと周りから吹き込まれたに違
いない「ネットワークビジネス」を手がけるようになった。
…と、こう書くと夫が全て自分一人でネットビジネスを切り盛りしたように感じられるが、そう
ではない。
だめ男に惚れる女は対外ができる女である。
だめな男のために自分が全エネルギーをつぎ込んで、男のためにがんばる。
自分に惚れている女ががんばればがんばっただけ男はさらに女に頼るようになる。
頼られればさらに女は男のためにがんばる。「わたしがいなくては、この人はだめになる」
それはそうだが、男をだめにするのはこうした女のがんばりだということをほとんどのできる女
は気づかない。きづかないどころか、だめにしたのは自分のせいだ。自分がもっとがんばらなかっ
たからだ、と悔恨の情に駆られたりするのである。
彼女の夫もこれ例に漏れなかった。
「だから、お前、これやってくれ」
全部彼女に丸投げしたのだ。
後年、ネットビジネスの女王と彼女が呼ばれるようなる、そのきっかけは、いまでこそ「ぐうた
ら亭主」と彼女が罵ろうとも、そのぐうたら亭主の気まぐれが発端であったことに間違いはない。
さて彼女が亭主に最初にやらされたネットワークビジネスは「G※※」というものだった。
これをフルネームで書くといろんなところで差し障りが出てくるかもしれない、と彼女が云うの
で、ネットワークビジネスの名称は、以後イニシャルになるケースが多くなるだろう。ともあれ、
まずこのことをお断りしておく。
ところでネットワークビジネスとは何か。
インターネットでのビジネスなので「無店舗販売」とかネット上での営業活動と勘違いする人が
最近多いので、煩雑となることを承知で書いておく。
あ、ネットワークビジネスというものを理解している人は、以下しばらくは飛ばして貰って構わ
ない。
■ネットワークビジネスの基本の基本
ネットワークビジネスでは、まず商品が必要です。
商品が必要だとは書きましたが、本来は何も要りません。お金だけが動けばいいのです。
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ですが、お金だけ動かすと、これはマルチ商法になり、法律で禁止されているビジネスなので、
捕まります。儲けも全て吐き出すハメになります。
簡単に説明します。
例えばお茶。
これはとても凄いお茶だから「50万円」という価格設定にします。
価格設定には「適正価格」はありません。
ものの売買とは、売り手と買い手が納得すればいいのですから、あなたがみたら1000円程度
にしか見えなくとも、売り手と買い手の双方が「50万円でいいですよ」と納得すれば売買は成
立します。
これを相対売買といいます。
さて、ネットワークビジネスの最初の一歩は、まず会員になること。
あなたが50万円のお茶を購入すると「会員」になります。
「会員」になったあなたは、以降、誰か知り合いにこのお茶を売ることが出来ます。
あなたのすることは、つまりは新規のお客の獲得であり、同時に新規の会員募集でもあるのです。
仮にあなたが友人3人に50万円のお茶を売ったとします。
ここからネットワークビジネスが始まります。
新規に3人の会員を獲得すればあなたは会社から50万円の報奨金がもらえます。
と同時に新規会員3人を獲得するとあなたは「特約店」という名称だったり「代理店」という名
称が付けられます。会員の中での格付けのアップです。この格付けは収入にも直結します。
商品として流通するお茶の原価は5万円だとしましょう。
会社は代理店となったあなたにこのお茶を10万円で売ります。
3人の会員を作ったことで「特約店」となったあなたは、この先会員一人増やす毎に、つまりお
茶一つ売るたびに代金50万円から仕入れ価格10万円を差し引いた40万円が利益となりま
す。
それだけではなく、あなたが獲得した3人の会員の誰かが、さらに3人の会員を作ったとしたら、
新会員9名が生まれますね。するとあなたはなにもしなくとも、一人あたりたとえば5万円の報
奨金が戻ってくるのです。
だからあなたが獲得した3人の新会員がそれぞれ3人の会員を増やしたならばどうなるか、計算
してみましょう。
5万円×9人=45万円の収入が、あなたは何をしなくても入ってくるのです。
簡単に云えばこういう仕組みです。
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現在は法規制が入ったので、このシステムが続いているかどうかは不明です。
とにかく、ネットワークビジネスとはこういう仕組みなのです。
わかりますよね。本来は商品は不要です。
しかし、前にも書いたように、お金だけが動くと「ねずみ講」と「マルチ商法」といって刑法で
禁止されているビジネスとみなされ厳罰に処されてしまうので注意しなくてはいけません。
つまり、おさらいのために書いておきますが、ネットワークビジネスは商品が介在することで成
立します。
知人が多くいて、その知人はあなたの云うことを信じてくれて「一緒にお金持ちになろう」と手
を組んで進む…というような感じで広がっていくというのがネットワークビジネスというので
す。
しかし、誤解のないように書いておきますが、すでに株式を証券市場に上場している有名な大企
業もあり、一概にネットワークビジネスは「ねずみ講」の亜流だとは言い切れないのです。
商品はお茶ではなくて、歯磨きとか、洗濯用洗剤だったり、あるいは化粧品というのが多いよう
です。
それらの商品の価格が市販品と隔たりがなく、どうせ買うのなら「この商品を」というネットワー
クビジネス商材の場合は当然商品自体の利益が薄く、報奨金の金額も小さくなりますが、継続性
が期待できますから、定期収入につながることは確かです。ですから主婦がお小遣い稼ぎに手を
出すケースが多いのです。
以上がネットワークビジネスの説明です。
■最初に手がけたネットワークビジネスの商材はなんだったのか?
さて彼女が最初に手がけた「G※※」とは、どんなものだったのか。
扱った商品は二つ。最近は普通のご家庭でもよく見られるようになったウォーターサーバーの水
と、敷き布団というかベッド用マット。
両方とも商品の価格は30万円。どちらかを購入することで会員になる仕組み。
ネットワークビジネスを彼女に丸投げした彼女の夫は、家に生活費を入れようとしなかったから、
彼女は必死でこの商品を売りまくった。売ることが生活費の確保となったからだ。
この商材の場合、1カ月に33本売れば代理店になる。
彼女はやりきった。
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1ヶ月に30万円の商品を33本。計算すればわかるが売上代金は1000万円だ。
この数字をみればいかに彼女のセールス技術がすごかったかが理解できよう。
月に1000万円ならば、年間では1億2000万円となる。この金額を一人の主婦が売りさば
いたのだ!
ネタばらしをしておくが、「少しだけ数字が足らなかったので家族のためにクレジットを組んで
購入し、33本というノルマをクリアしたの」と彼女は弁解する。
ネットワークビジネスに限らず、リゾートマンションでも保険レディでも、ノルマの不足分をこ
うして補填することはよくあるこものだ。こういうことはこれらの業界ならば誰でも行うと思っ
て間違いない。
あと5万円売上を上げればバックマージンの数字や比率ががあがるなら、出費と返還金を計算す
るまでもなく普通に行なわれて当然だ。
会社にしてみれば、誰が購入しようと関係ない。売れればいいのだから。
前にも書いたが、生保レディと同じで、新入社員の親戚一同を囲い込んでそれで力つきたにしろ、
彼女の周りの人間に保険加入させただけでもとりあえずはいいという、それと同じ発想だ。
あ、そうそう。
前に書いたが、彼女には子供がいる。
27才で結婚して31才の時に子供が生まれた。
その子供が3才になってそろそろ手が離れだした頃、友人から「こんな仕事があるんだけど、や
らないか」と持ちかけられたのが下着販売の「シャルレ」だった。
これは単に下着の販売である。ネットワークビジネスではない。ただし、ここもまた会員になる
と25%オフで商品が購入できるので、それを知人に定価で売れば売った金額の25%が収入に
なるという仕事だ。
だいたい下着セットで1万円。売上が月間40万円を超せば特約店という地位に格上げされる。
すると仕入れ価格がさらに下がり、定価の60%で買えるから、売上利益が25%から40%へ
と跳ね上がる。
となると毎月40万円の売上でも、それまでは10万円の利益だったものが16万円の利益とな
るわけだ。
この仕事は実質的にはネットワークビジネスではない。だからというわけではないが、彼女は平
成4年までシャルレの販売を続けた。
■24時間給湯システムで月に数百万の収入に。
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彼女が周囲から「ネットワークビジネスの女王」と呼ばれるようになったのがいつのことだった
のか、彼女自身も知らない。
気づいたら、そう呼ばれていた。
彼女がネットワークビジネスに関わって20年。
そのうちの10年以上にわたって彼女は「女王」として君臨していたという。
ここからはネットワークビジネスに深く関わるようになったターニングポイント商品ともいうべ
き「24時間風呂」のことを書く。
「最近のことだけどね」と彼女は話し出した。
外出する直前にシャワーを出して、そのことを忘れて外出したというのだ。どうしてシャワーを
出しっぱなしにしたのか、とわたしが聞いたとき、彼女が何を云っているのか意味が分からなかっ
た。だが、じっくりと説明を聞いてやっと納得できた。
彼女のマンションの浴室は、シャワーからでる熱湯でバスタブのお湯を溜める方式。つまりカラ
ンからお湯を出して浴槽にお湯を溜めるものではないから、彼女は風呂に浸かるつもりでシャ
ワーを出した。そうしてシャワーを出していることを忘れるほどの急用が起きたので、急遽外出
することになったのだ、という。
はたして、どうなったのか。
彼女はやるべきことをして、それで家に帰った。
その間、約2時間半。
帰宅してやっとシャワーのことを思い出して浴室を覗いたら「シャワーは水になってた」ようだ。
「長時間出しっぱなしにするとガスが消える安全装置がついていたのでしょうね、きっと。わた
しが24時間給湯システムを始めた当時でも、家のお風呂がこういうシステムだったら、わたし
このビジネスには手を出していなかったと思う」
彼女が話したのは、ずっと昔の苦い経験だった。
やはりこのときも同じようなシーンだったという。
彼女はある用件ができたことで、突然江南に出かけることになった。
このときもお風呂が問題だった。
彼女のマンションのお風呂は追い炊き方式。
いまのひとには分からないかもしれないが、湯船にお湯が張ってあるとして、それが冷めたとき
どうするか。追い炊き、という方法があった。湯船のお湯がガスの火がついている湯沸かし器の
上に環流し、ガスで熱せられて熱湯となり再び湯船に戻るという仕組みだ。
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問題は当時の追い炊きには、自動消火システムがなかった点にあった。
バスタブの湯の温度を確かめて、自分でガスを止めなくてはならないのだ。
ガスを止めないと、いつまでも熱湯を送り続ける。
このとき、彼女は江南に向かう急行列車の車内で「しまった。追い炊きしたままだった」と気づ
いた。
江南の仕事はうっちゃっ て、とんぼ返り。
部屋に入ると、なんだか室内が湯気で籠もっている。
風呂場ではプラスチック製のふたが熱でふにゃふにゃになっていた。しかも湯船のお湯は環流す
るための丸い口あたりスレスレの深さしかなかった。万が一、このまま戻るのが遅くなって水が
なくなってしまったら…。
湯沸かし器のガスがつきっぱなしということは…。
家には家族が誰もいなかったのが幸いしたのかどうかはともかくとして、彼女の帰宅がもう少し
遅れていたら、きっと大事になっていたに違いない。
こんなときだった。夫が彼女に持ち込んだ次のネットワークビジネスの商品は、なんと云う偶然
かお風呂だった。人間の出会いで云うならまさに合縁奇縁。
■家族に暖かな食事が作れないから
せめてお風呂はいつでも暖かにしたい。
これが商品名「Y※※」という24時間お湯が沸くというお風呂の給湯システム。Yとは、推理
するのは簡単で「湯」という名称が頭に着いた商品名である。
「わたしね、いつも仕事で外を出回っているから、家族に温かい御飯は作れないけど、これがあ
れば毎日暖かなお風呂にいつでも入れるからうれしいわ」
当初彼女はわたしにこの「Y」を始めた理由をこのように語ってくれた。
しかし2回目のヒヤリングでは同じ話を口にしたあと「実はわたしね、当時はこういうセールス
トークをしていたのよ」と種明かしをしてくれた。
そうだろうな。あまりにできすぎたストーリーだったから…。
この24時間給湯システムは38万5000円。
1台売れれば売った人間に3万円が入ってくる。1台でも売ることが会員資格となる条件。会員
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となり、3人に売れば、以後は1台売る毎に12万4000円が入ってくる。
売れば売るだけ収入が増大する仕組みだ。
ネットワークビジネスの最初に彼女が扱った商品の「G」。
Gはウォーターサーバーの水とマットを商材として売ったのだが、そのGに参加した人たちを引
き抜いて…そうなんですね。この世界では有能なセールスマンは引き抜かれる。新しいシステム
が生まれれば売れっ子たちはすぐに新しい世界へと移っていくものなのだ。
それは何を売るかではなく、扱う商品がなんであれ、ネットワークビジネスに足を踏み入れた人
たちは「セールスマシン」となる。
彼女はいまでもこう云う。
「なんでも好いのよ、商品は。売るものがあれば、それを全国回って売るだけなの。売る自身は
あるわ。いまでも」
この給湯システムに関わったとき、45人から50人のネットビジネスの経験者を引き入れた。
「最高は1日に10件売ったこともありますよ」
これで月に450万円の収入があったこともある。
単純計算すると年間5000万円超。
10年も続けたら5億円!!
と叫んだら「なに、バカな計算してるのよ。収入は確かにあるけれど、わたしは日本中を回り、
その都度お金を使うのよ。自分の分だけでなく、一緒に売り歩く仲間達の分も負担するのよ。交
通費、宿泊代、お土産…。出ていくお金もハンパじゃないのよ」
■彼女はいまでも
24時間給湯システムを使っている
この時期、彼女は歌の世界にも興味があった。
24時間給湯システムを売ろうとして、その話をしていたら、たまたま売り込んでいたひとから
紹介されたのがあるテレビ局の部長だった。彼女が歌がうまいことも周りに知られていたので、
部長さんとカラオケに出かけた。
彼女のカラオケを聞いた部長は自分が企画した自動車販売会社の「N社主催カラオケ大会」に参
加するよう、彼女を誘った。
彼女は『離別』を唄って優勝した。
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「このとき、歌手になる道もあったのですが、テレビ局の部長さんから、どっちかを選べと言わ
れたとき、わたしはネットワークビジネスを選んだ」
まだ子供が小さく、ダメ亭主は稼ぎがない。
自分の収入だけで家族を養う使命感があったのだろう。
ともかく彼女は、Yの仕事をこのあと4年間くらいやり続けた。
ネットワークビジネスに関わる人間は義理も人情もないように思われるかもしれないが、こんな
話しもあるのだ。
彼女の友人を紹介しておこう。
彼女の友人、女性なので混乱をさけるため「彼女」とは呼ばないで友人と書くことにする。
友人はあることでお金が必要となり、彼女にお金を無心した。彼女はいやな顔ひとつせず、黙っ
て自分のマンションを担保に入れて友人のために200万円を借りてやった。
友人はこのことに恩義を感じ、給湯システムのお客を何人も紹介してくれた。
このとき彼女の売上から行くと月500万円の収入となるはずだった。
するとどういうわけか「Y」の売り元は、新たに販社を作り、彼女への商品供給を販社通しにす
ると通告してきた。迂回するわけだから当然利益も薄くなる。彼女はクレームをつ けた。
当たり前だ、話が違うのだ。
すると売り元は、彼女がクレジットで取ってきた契約を止めてしまった。あげく彼女への商品の
供給をストップした。
とんでもなくひどい話である。
これが平成5年から5年間彼女が関わったYのビジネスだ。
余談だが、彼女は当時自分が売っていた24時間給湯システムを今でも自宅で使っているという。
あ、友人に貸した200万円は「利子を付けて返してもらいましたよ」という。
■ダイヤモンドマネージャーという位置
彼女がSというネットワークビジネスで、扱った商品は陶器だった。
その食器には磁気が埋め込まれていて、この器に食品を載せると「自然食品になる」というのが
うたい文句。
そこで彼女はこの商品を自然食品のお店に売り込んだ。
たかがそれだけの関係だけで、そんなの売れるわけがないだろう、と私が思うくらいだから、読
者諸兄もまた同じように思うはずだ 。
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なにしろこの商品、安くはない。
1枚1万2000円。
だが、驚いたことに彼女はこれを2000枚以上売りさばいている。
売り上げ代金だけでも軽く2000万円を超えている。
それだけではない。
このSというネットワークビジネスに関わっていたとき、彼女のラインの下についたある女性が
新しいアイデアを持ち込んだ。
この陶器を化粧品を商品とするネットワークビジネスにつなごうと考えたのだ。
彼女の感は的中した。出だしは順調だった。
ところが好事魔多しである。
ネットワークビジネスSを企画した会社の社長が、この化粧品ビジネスに触手を伸ばし、あろう
ことか彼女たちを飛ばしてビジネスを始めたのだ。
これはビジネスの世界では禁じ手だ。
普通ならやらない。
しかしネットワークビジネスの世界は普通ではない。何でもありの下克上。
ただ彼女もまた、そこいら辺の主婦ではないから、黙っていない。
裏切りには裏切りで対抗する。
これは報復ではない。戦争だ。
別のネットワークビジネスに乗り換えた。
こちらも化粧品を扱うのだが、一つ5000円の商品を5個セット。これがいわゆる会員になる
ための入会費用だと思えばいい。だから2万5000円が最初に必要なお金となる。
彼女はこのビジネスでがんばった。
というか力を思う存分に発揮して、なんと1ヶ月半で「ダイヤモンドマネージャー」にまで上り
詰めたのだ。
ランクの説明をしておこう。
まずルビーという肩書きがある。
これは400万円の売り上げが必要。
ルビーの上の位置にあるダイヤモンドになるためには、自分の下に5人のルビーをつくらなけれ
ばならない。
このときばかりは亡くなったご主人もビジネスを手伝った。
彼女は全国を回った。
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九州に出かけた足で奄美大島、沖縄にも足をのばした。
こうした努力の成果が1ヶ月半でのダイヤモンドマネージャーの獲得であろう。
ダイヤモンドマネージャーになったお祝いにアメリカ西海岸にスタッフ一度とともにでかけた。
そのときの記念写真では満面笑みの彼女が誇らしげに写っている。
しかし、しばらくすると、それまで月間70万円くらいあった収入が月に30万円くらいまでに
半減した。さらに、あまりに営業に力を入れて日本国中を歩き回ったことで足を骨折してしまっ
た。
これでこの仕事は半年で辞めた。
続いてご主人が持ち込んだのがBというブレスレット。
やはりこれも磁気が入った商品。
11万5000円の4本セット。だから約47万円がスタートに必要となる。
英国製をうたい文句にこの価格設定となったようだ。
「自分でも使っていたが、なんだかそのときは効果があったような気がした」と彼女は云うが、
現在も使っているわけではない。
「1本売れば1万円、2本売れば2万円、3本売れば4万円が戻ってくる。つまり3本売りさえ
すれば7万円が戻ってくることになる。だから売れさえすればすぐに最初の投資資金は戻ってく
る」と新規会員を誘い募った。
この商品ばかりは、東京を拠点とした。
東京のネットの子供が名古屋まで来れないと云うと、二つ返事で彼女が東京に出向いていった。
そのせいがあってか、あっという間に彼女は代理店となった。
しかし、この会社もとんでもない会社だった。
当初、彼女はこんな規約を聞かされていた。
「規定に達する数の会員を獲得すれば理事になれる」というのだ。
理事になれば「会社が上場した後、企業年金が死ぬまで下りる」という甘い言葉にもそそられた。
つまりこの会社は上場を目指し、上場した暁には企業年金制度でもって理事には終身年金を支給
する、と説明を受けたのだ。
結果を書いておくがこの会社は5年でつぶれてしまうのだ。
■ある女性と出会ったことで一気に100会員を獲得した!
ブレスレットを売っているとき、あるおばさんと出会った。
彼女とは新宿南口で待ち合わせた。彼女は宝石の仲介を業としていた。
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このおばさんは彼女から説明を聞いた後「ああ。わたしに11万5000円あったらな」と嘆いた。
この一言に彼女はぴんときた。
おばさんに最初に必要な資金を貸与したのだ。
おばさんを会員にするやいなや、おばさんのツテを全面的に利用した。
そのおばさんと一緒に回って、なんと一気に100人のメンバーを加入させたのだ。
このネットワークビジネスの仕組みはまず自分の下に7人1組になった流れを3組つくる。これ
が第1目。すると2段目は3×7だから21人になる。4段目まで行けば会員は189人にまで
拡大する。
ここまでネットワークをつくれば、これで理事になれる。
コミッションは月に50万円から80万円。
しかし前にも書いたが、会社は5年と持たなかった。
彼女が最後に手がけたのはエステに関連したビジネスだ。。
これは正確にはネットワークビジネスではないのでここでは書かない。
しかし彼女はこのエステ関連のビジネスで毎月100万円ほどの収入を得た。
さて、多くのネットワークビジネスを手がけてきた彼女のひとこと。
「ネットワークビジネスはね、会社が儲けを独り占めするだけ。こんなものやるもんじゃない。
やりたいというひとがいたら、わたしは勧めませんね、絶対に」
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