論文審査の結果の要旨および担当 者 報告番号 ※ 第 氏 論 文 題 号 名 新 畑 智 也 目 コ ム ギ 澱 粉 変 異 体 の 作 出 と そ の 特 性 に 関 す る 研 究 論 文 審 査 担 当 者 主 査 名古屋大学教授 中 野 秀 雄 委 員 名古屋大学教授 北 野 英 己 委 員 名古屋大学准教授 岩 崎 雄 吾 別紙1−2 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 新 畑 智 也 は、新 規 な小 麦 粉 の開 発 を最 終 目 的 として、コムギの種 子 澱 粉 の合 成 に関 わる 2種 類 の酵 素 をターゲットに、その変 異 体 開 発 のための技 術 基 盤 の確 立 と、得 られた種 子 お よび種 子 澱 粉 の特 性 解 析 を目 的 に、研 究 をおこなった。 研 究 内 容 の 一 番 目 は 、 ア ミ ロ ペ ク チ ン の 側 鎖 伸 長 に 関 与 す る 酵 素 の 1 つ で あ る 、 starch synthase IIa(SSIIa)の変 異 体 に関 するものである。具 体 的 には、①SSIIa変 異 体 選 抜 のため のDNAマーカー開 発 、②SSIIa変 異 体 の澱 粉 特 性 の解 析 を行 った。 研 究 内 容 の 二 番 目 は 、 SSIIa と 、 ア ミ ロ ー ス 合 成 を 担 う granule bound starch synthase I (GBSSI)との新 規 二 重 変 異 体 における、種 子 および澱 粉 特 性 の解 析 である。 以 下 に論 文 審 査 の要 旨 を示 す。 1) SSIIa 変 異 体 に関 する研 究 ① SSIIa 変 異 体 選 抜 のための DNA マーカーの開 発 コムギ SSIIa の同 祖 染 色 体 に由 来 する 3 つのアイソザイム(SSIIa-A1、B1 および D1)の欠 失 型 変 異 体 と、その 澱 粉 の 基 本 的 性 質 は、 欠 失 する 酵 素 の数 の 増 加 に伴 うアミロ ペクチン 側 鎖 の相 対 的 な短 鎖 化 、そして 3 つ全 てを欠 失 した完 全 変 異 体 でのアミロース含 量 増 加 (高 アミロースコムギ)として知 られている。こうした特 徴 は、食 品 の加 工 性 や食 感 の改 良 をもたら すことが期 待 されるため、申 請 者 は以 下 の研 究 をおこなった。 先 ず、SSIIa 変 異 体 の選 抜 のための共 優 性 DNA マーカーを開 発 し、従 来 法 (SDS-PAGE を用 いた方 法 )の課 題 である、多 検 体 処 理 が難 しい点 を解 決 し、より効 率 的 な判 定 が可 能 な 方 法 を構 築 した。また、この開 発 過 程 において、SSIIa の全 てを発 現 する野 生 型 のコムギ品 種 である、Chinese Spring のゲノムから、野 生 型 SSIIa-A1 、 B1 および D1 遺 伝 子 をクローニング し、その配 列 を決 定 した。次 に各 酵 素 を欠 失 した変 異 体 コムギ系 統 から、各 々の変 異 型 遺 伝 子 をクローニングし、その配 列 を決 定 した。その結 果 、 SSIIa-A1 遺 伝 子 においては、開 始 コド ン周 辺 領 域 の欠 失 と当 該 部 位 における塩 基 の挿 入 、 SSIIa-B1 遺 伝 子 においては、特 定 の エクソン内 への塩 基 の挿 入 、 SSIIa-D1 遺 伝 子 においては、特 定 のエクソン・イントロンジャンク ション部 位 の欠 失 があることを明 らかとした。これらの情 報 を元 に、申 請 者 が作 成 した DNA マ ーカーは、SSIIa 変 異 体 の作 出 の際 に使 用 され、効 率 的 な選 抜 技 術 であることを示 した。 ② SSIIa 変 異 体 の澱 粉 特 性 解 析 SSIIa 変 異 体 の澱 粉 特 性 に関 する従 来 の知 見 は、食 品 利 用 の観 点 からは十 分 とは言 え ず、より詳 細 な情 報 が必 要 であった。このため新 畑 は、上 記 の方 法 で育 種 選 抜 された、SSIIa の部 分 変 異 体 および完 全 変 異 体 を用 いて、その種 子 澱 粉 の特 性 を、野 生 型 である親 系 統 と の比 較 で、詳 細 に解 析 した。その結 果 、従 来 の知 見 を確 認 し、さらに以 下 の知 見 を得 た。即 ち、澱 粉 の糊 化 ピーク温 度 、糊 化 に要 する熱 量 、糊 化 澱 粉 の粘 度 、消 化 酵 素 に対 する抵 抗 性 、老 化 特 性 等 を解 析 した結 果 、SSIIa アイソザイム間 に、SSIIa-B1>D1>A1 の順 で、澱 粉 特 性 への寄 与 度 に違 いがあることが示 された。こうした結 果 は、特 定 のゲノムに由 来 する SSIIa の欠 失 を指 標 にした、新 しいコムギ原 料 の開 発 への道 を開 いた。 2) GBSSI との新 規 二 重 変 異 体 における種 子 および澱 粉 特 性 の解 析 コムギにおける GBSSI の完 全 変 異 体 (モチコムギ)は既 に開 発 されており、差 別 化 された原 料 として利 用 が進 んでいる。GBSSI に加 え、SSIIa も欠 失 した二 重 (欠 失 )変 異 体 は、特 徴 的 な澱 粉 特 性 を示 すことが予 測 された。そこで申 請 者 は、モチコムギと高 アミロースコムギの交 配 から選 抜 された二 重 変 異 体 の種 子 特 性 について、澱 粉 特 性 、成 分 的 特 性 の観 点 から、そ の特 徴 を明 らかにした。二 重 変 異 体 の種 子 は、登 熟 過 程 において開 花 後 35 日 目 以 降 、水 分 の減 少 に伴 って皺 粒 になった。成 分 分 析 の結 果 、開 花 後 25 日 目 の未 熟 種 子 にはスクロ ースやマルトースの高 い蓄 積 が認 められ、コムギでは初 めての甘 味 種 となる変 異 体 であること が明 らかになった。さらに、完 熟 した種 子 では、脂 質 、食 物 繊 維 (オリゴ糖 の一 種 であるフルク タンを含 む)、低 分 子 糖 、遊 離 アミノ酸 の蓄 積 が上 昇 し、澱 粉 含 量 が低 くなることを明 らかにし た。また、その澱 粉 は、澱 粉 粒 子 の変 形 と微 小 化 が見 られ、アミロースは含 まれないことを示 した。アミロペクチンの構 造 については、低 分 子 化 と側 鎖 の極 端 な短 鎖 化 を示 した。さらに、 低 分 子 量 の分 岐 グルカンおよび直 鎖 グルカンの存 在 も示 した。 これらの結 果 から、主 要 な澱 粉 合 成 酵 素 2 種 の欠 失 は、種 子 の形 状 や成 分 含 量 、澱 粉 の 特 性 に多 面 的 な影 響 を及 ぼすことを明 らかにした。最 後 に、酵 素 の欠 失 が引 き起 こす影 響 の メカニズムと、この変 異 体 の実 用 的 利 用 の可 能 性 について考 察 した。 以 上 のように、新 畑 智 也 は、1)SSIIa 変 異 体 選 抜 用 DNA マーカーを開 発 し、このマーカー を用 いて選 抜 された SSIIa 変 異 体 澱 粉 の特 徴 を明 らかにした。2)GBSSI と SSIIa を欠 失 した 新 規 二 重 変 異 体 の、種 子 における成 分 的 、澱 粉 構 造 的 分 析 から、2つの酵 素 の欠 失 による 種 子 特 性 への影 響 を明 らかにした。 本 研 究 によって得 られた成 果 は、澱 粉 特 性 に特 徴 を持 つコムギの開 発 、あるいは新 規 な 用 途 につながるコムギの開 発 に向 けた科 学 技 術 基 盤 を提 供 し、今 後 のコムギ育 種 や特 徴 の ある小 麦 粉 を使 った商 品 の開 発 に応 用 できるものである。よって本 委 員 会 は、本 論 文 が博 士 (農 学 )の学 位 論 文 として十 分 価 値 あるものと認 め、論 文 審 査 に合 格 と判 定 した。
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