実道散布試験による定着剤同時散布手法の実用性に関する検討 近藤 泰光*1 1.はじめに 1.1 研究の背景と目的 現在、福井県における「人の移動」は、自動車交通に 極度に依存しており、代表交通手段における自動車分担 スプレー散水ユニットと 増設ノズルによる散布剤 と定着剤の混合散布 率は、第3回福井都市圏パーソントリップ調査対象圏内 すべての市町(嶺北地域7市4町)で 70%を超えている のが実態である 凍結防止剤 1) 。道路交通管理者にとっては、冬期に おいても恒常的に道路交通を確保し、道路の利用者であ る一般住民の用に供する良好なサービスを提供し続ける ことが大きな社会的役割となっている。 このような背景のもと、福井県においても他県と同様 に、冬期路面対策として凍結防止剤(主に NaCl)の散布 図-1 スプレーノズルによる散布のイメージ図 が行われている。しかしながら、凍結防止剤の散布は、 体はもとより動・植物に対して影響がないもの、土壌や 冬期モビリティーの確保といった面では大きな効果をも 河川等の自然環境に対して影響が少ないものなど、自 たらす一方、その過剰な散布は維持管理コストの増大、 然・社会的要件を満たすものとし、薬品メーカーや土木 環境への負荷、道路利用者や土木構造物への悪影響をも 資材メーカー、肥料メーカー等への照会または個別協議 たらすことなどが懸念されている。特に近年では、凍結 による聞き取り調査を実施した上で、冷水への溶解試験 防止剤散布時に生じる凍結防止剤の飛散およびこの飛散 など当センターにおける室内試験を経て、最終的に ロス量を含めた凍結防止剤の過剰な散布が、鋼橋の腐食 CMC-Na(カルボキシ・メチル・セルロース・ナトリウム) 環境に大きな影響を与えているのではないかと考えられ を選定した。 2) るようになってきている 。 そこで本研究では、凍結防止剤の過剰な散布を抑制し、 凍結防止剤の散布量を低減できる技術として定着剤同時 散布手法を開発した 3) 。本稿では、実際に一般車両が走 行する一般道(実道)にて散布試験を行い、定着剤同時 そして、当センター構内において散布試験を行い、散 布後 4 時間後の残留塩分濃度の変化を計測し、最適な定 着溶液の濃度と散布割合を以下のとおりに設定した。 ・定着溶液の濃度 … 0.3%(重量濃度) ・定着溶液の散布割合 …(凍結防止剤散布重量に対し て)18.5% 散布手法の実用性の検証を行ったので、その結果につい て報告する。 1.2 これまでの研究成果の概要 本研究では、凍結防止剤の散布量を引き上げている主 2.実道散布試験の実施 2.1 散布試験の方法と条件 な原因は、凍結防止剤散布時と散布直後に生じる飛散、 実道(一般道)において、乾式散布車は 10~40 ㎞/h および、この飛散ロス量をカバーするために行う凍結防 程度で走行しながら散布するため、走行に伴う風や自然 止剤の過剰な散布にあるという視点に立って、散布量を 風および一般車両の走行による風や攪拌作用等の外的要 低減できる技術の開発を行った。具体的には、定着溶液 因がスプレー噴霧に対しどの程度の影響を与えるかを検 との混合散布により、凍結防止剤の飛散ロス量を低減で 証するには、構内における散布試験だけでは不十分であ きる散布方式の開発を行った。これは、散布機の回転円 る。そこで本稿では、実際に一般車両が走行する実道に 板上に扇状に拡散するスプレーノズルを配置し、これら て散布試験を行い、実用性の検証を行った。 のスプレーノズルによるミスト(霧状)散布により、上 散布試験には、実際に実道にて用いられている散布車 部ホッパーから回転円盤上に落下してくる凍結防止剤に と同様の散布機構を有する散布機を改良し、定着剤同時 対して、確実に定着溶液を付着させるものである。スプ 散布方式が可能な散布車を用いた。散布試験に用いた散 レーノズルによる散布のイメージ図を図-1 に示す。 布機、スプレーノズルを写真-1~写真-3 に示す。また、 定着剤としての薬剤は、市場にて容易に入手でき、人 *1福井県建設技術研究センター 凍結防止成分がどれだけ路面に定着(滞留)しているか 塩分濃度センサー 写真-1 散布機車載状況 写真-4 塩分濃度測定車両 試験車両進行方向 試験車両進行方向 L=100m L=200m L=100m 塩のみ散布 作業区間 定着剤同時散布 図-2 散布区間のイメージ図 チェックを作業区間で行った後、続く試験区間 100m で 凍結防止剤と定着溶液の混合散布(定着剤同時散布)を 行った。散布条件を以下に示し、散布試験時の気象条件 等を表-1 に示す。 ・散布幅:3.5m(車道幅員と同じ) ・散布量:40g/ m2 (福井県が定める当該路線散布箇所 写真-2 の標準散布量) スプレーノズル状況 1 ・試験車両運行速度 表-1 約 10km/h 散布試験時の気象条件 試験 回数 試験日 (H26 年) 天候 気温 路面状態 1回目 3/3(月) くもり 0℃ 乾燥 2回目 3/4(火) 晴れ -2℃ 乾燥 3回目 3/5(水) 雨 2℃ 湿潤 降雨・降雪 の有無 降雨・降雪 なし 降雨・降雪 なし 降雨あり・ 降雪なし 次に、移動式の塩分濃度測定車を用いた非接触式測定 方法にて、凍結防止剤(NaCl)のみの散布区間と定着剤 同時散布区間の路面残留塩分濃度を測定した。 写真-3 スプレーノズル状況 2 を定量的に評価するために、路面に残留している塩分濃 度を測定した。今回用いた塩分濃度測定車を写真-4 に示 す。 最後に、両区間の塩分濃度を比較検討することで、定 着剤同時散布手法の実用性の検証を行った。 なお、今回の散布試験では、塩分濃度の測定によって 実用性の検証を行っているため、 「路面の凍結の有無」を はじめに、散布試験は図-2 に示すように、福井県管理 前提とはしていない。そのため、実際の散布状況とは異 道路の直線区間約 400m の片側車線を占用し、試験区間 なり、日中の交通量が比較的多い時間帯で散布試験を行 100m で凍結防止剤(NaCl)のみの散布を行い、凍結防止 っている。 剤の補充と定着溶液噴霧のための圧力調整やノズルの再 2.2 散布試験の実施 散布試験を行った実道は、福井市街部と福井市郊外部 を結ぶ一般県道(H22 交通センサス 8,874 台/12 時間)で あり、散水消雪や凍結抑制舗装等の施設はなく、冬期の 通勤通学時間帯には「非常に滑りやすい圧雪」路面の発 生により、交通混雑が生じやすい路線の 1 つである。対 象路線および散布区間を以下に示す。 試験対象路線:一般県道東郷福井線(福井県立図書館前) 直線区間約 400m の片側車線(単路部) 写真-6 散布試験状況(塩のみ散布・乾燥路面) 写真-5 試験対象区間(片側片道散布) 散布試験状況を写真-6~写真-8 に示す。 3.散布試験(塩分濃度測定)結果 写真-7 凍結防止剤・定着溶液補充状況 塩分濃度の測定は、前章の図-2 に示したように、凍結 防止剤(NaCl)のみの散布(図中赤色で示した部分)と 定着剤同時散布(図中青色で示した部分)とを行い、そ の後、図中で示した進行方向に、塩分濃度測定車を用い た非接触式測定方法によって行った。その結果を図-3~ 図-5 に示す。この結果から以下の点を考察できる。 1. 図-3 および図-4 から、散布試験2時間後および散布 試験4時間半後ともに、凍結防止剤のみ散布に比べ て定着剤同時散布の方が塩分濃度が高くなっている。 このことから、実道(乾燥路面)においても、定着 溶液によって凍結防止成分の路面定着効果が高めら れていることが確認できる。 2. 福井地方気象台の福井観測所における試験当日の風 3.散布試験の結果 実道における凍結防止剤の塩分濃度の測定方法として は、①人が道路上の液体を直接採取し塩分濃度計にて測 写真-8 散布状況(定着剤同時・乾燥路面) 速を表-2 に示す。図-3 および図-4 の比較から、凍結 験では、凍結防止剤のみ散布においても定着剤同時 防止剤のみ散布の場合は、散布2時間後の時点で、 散布と同程度の塩分濃度が確認できる。これらは、 すでに塩分濃度がほとんど見られない。また、図-4 一般車両の走行による風や攪拌作用による飛散とい および図-5 の比較から、散布後約4時間経過した時 うよりも、主に自然風による飛散の影響であると思 点で、凍結防止剤のみ散布の塩分濃度に大きな違い われる。一方、定着剤同時散布の場合は、自然風に が見られる。つまり、3/3 の試験では、凍結防止剤の よると思われる飛散が少なく、3/3 と 3/4 の両日と み散布の塩分濃度はほとんど見られないが、3/4 の試 もに凍結防止成分が路面に残留していることが確認 できる。 表-2 3. 図-5 より、3/4 の試験においては、作業区間および 福井観測所) 試験日 平均風速 最大風速 試験時平均風速 試験区間外の一部においても残留塩分濃度が確認で 3/3 4.9m/s 8.3m/s 6.7m/s きることから、一般車両の走行による風や攪拌作用 3/4 2.3m/s 6.1m/s 1.4m/s (車両への付着を含む)による飛散の影響が確認で 3/5 2.9m/s 8.1m/s 1.4m/s きる。 なお、3/5 においては、塩分濃度測定車を用いること 6 3/3 5 が出来ず、接触式の測定方法によって塩分濃度を測定し 塩のみ散布区間 散布試験2時間後の 路面残留塩分濃度 定着剤混合散布区間 たため、本稿ではその結果を割愛させて頂く。 作業区間 余裕区間 塩のみ散布平均値 残留塩分濃度(%) 試験当日の風速(福井地方気象台 定着剤混合散布平均値 4 0.00 1.00 4.まとめ 本稿では、実際に一般車両が走行する実道にて散布試 3 験を行い、定着剤同時散布手法の実用性の検証を行った。 その結果、定着剤同時散布方式によって、凍結防止成 2 分の路面定着効果が高められ、自然風等による凍結防止 1 剤の飛散ロスを抑制できることが確認でき、実用性が十 分にあることを示すことができた。 13:17:01 13:16:51 13:16:41 13:16:31 13:14:54 13:14:44 13:14:34 13:14:24 0 今後の実用面での課題を列挙すると以下の通りとなる。 ① 試験状況および試験後の路面状況を観察した結果、 測定時間 図-3 塩分濃度測定結果(3/3 依然として飛散ロスが発生し、凍結防止剤が路側帯 散布 2 時間後) に粒として残留している状況が確認できた。これは、 5 4.5 塩のみ散布区間 定着剤混合散布区間 定着水溶液のミスト散布が十分ではなかったためと 作業区間 余裕区間 思われる。そのため、現在のミスト散布機構を見直 4 塩のみ散布平均値 定着剤混合散布平均値 し、十分に凍結防止剤をコーティングできるものに 0.00 1.61 改良する必要がある。 3 3/3 2.5 ② 今回の散布試験は、路面凍結の有無を評価基準とは 散布試験4時間半後 の路面残留塩分濃度 飛散ロスやミスト散布に対する自然風の影響は確認 15:39:29 0 15:39:19 えず、特殊な環境下での試験となっている。そして、 15:39:09 0.5 15:38:59 よる湿潤状態など、実際の平均的な散布状況とは言 15:38:10 1 15:38:00 ず日中に行った。また、路面状態も乾燥状態や雨に 15:37:50 1.5 15:37:40 していないため、実務にて散布している夜間とはせ 15:37:30 2 できたが、 (散布車を含む)一般車両の走行による風 の影響は確認できなかった。今後は現場での交通量 測定時間 図-4 塩分濃度測定結果(3/3 の観測も含めた交通による影響の検討も加えていく 散布 4 時間半後) 8 3/4 塩のみ散布区間 7 定着剤混合散布区間 必要がある。 散布試験4時間後の 路面残留塩分濃度 謝辞 作業区間 試験等を行うにあたり、福井土木事務所道路保全課を 余裕区間 6 5 塩のみ散布平均値 3.78 定着剤混合散布平均値 4.61 はじめ、山田技研㈱の方々、その他の企業・団体の関係 者に多大なるご協力・ご助言を頂いた。ここに記して感 4 謝の意を表します。 3 参考文献 2 1) 平成 18 年度福井都市圏総合都市交通体系調査報告書;福井 県,2007 1 2) 14:38:07 14:37:57 14:37:47 14:37:37 14:37:16 14:37:06 14:36:56 14:36:46 0 14:36:36 残留塩分濃度(%) 残留塩分濃度(%) 3.5 測定時間 図-5 塩分濃度測定結果(3/4 散布 4 時間後) 吉田翔太,鈴木啓悟,佐々木栄一,近藤泰光:日本海沿岸地域に位置 する鋼橋の付着塩分量調査研究;鋼構造年次論文報告集,2014 3) 路面定着効果向上による凍結防止剤の散布量低減に関する研究; 第 28 回北陸雪氷シンポジウム論文集,pp.103-108,2013
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