AALA機関紙京都版 122号 (2015年1月1日発行)

アジア・アフリカ・ラテンアメリカ
京都版 No.122
Asia-Africa-Latin America(AALA) 2015 年 1 月 1 日
京都府アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会
連絡先 〒606-8242 京都市左京区田中高原町 9-3 澤居紀充方 電話/Fax 075-722-3134
[email protected] 年会費(6,600 円)は郵便振替 00970-4-223429 京都府 AALA 連帯委員会へ
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二人の異邦人
ムハンマド・ダルウィッシュ
西山正一郎 訳
男は空を見上げる
そして星を見る
男を見ている星を
男は谷間を見下ろす
そして墓を見る
男を見ている墓を
男は女を見る
悩ませそして喜ばす女を
だけど女は男を見ない
男は鏡を見る
そして自分によく似た異邦人を見る
男を見ている異邦人を
平和・協力・繁栄の東アジア共同体づくりをめざして
東アジア共同体国際シンポジウム
2015 年 5 月 24 日(日)
国連大学国際会議場
■レセプション 5 月 23 日(土) ホテルサンルートプラザ新宿 参加費 8,000 円
■シンポジウム 5 月 24 日(日) 国連大学ウ・タント国際会議場(同時通訳) 定員 360 人
パネラー 中国、韓国、インドネシア、ベトナム各 1 人、日本 2 人
参加費 一般 8,000 円 25 歳以下 5,000 円(昼食代 2,500 円含む)
*チケットは京都AALAで取り扱っています
主催 日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(日本AALA)
1
デイビッド・グロスマンに見るイスラエルの良識
西山
正一郎
アモス・オズ、アブラハム・B・イェホシュア、デイビッド・グロスマンの3氏を含む
イスラエルの著名人800人がパレスチナ国家承認要請を欧州各国の議会へ送付したニュ
ースは世界に希望のある衝撃を与えた。
エルサレムで発行されているオンライン新聞
“THE TIMES OF ISRAEL”はベルギー議会
へ向けて送られた書簡について次のように報じている。
「パレスチナ国家を承認するあなたがたのイニシアティブは平和の展望を前進させ、イス
ラエルとパレスチナの人々が紛争の解決に至ることを励ますものです」。また書簡は、19
67年の国境に基づいてパレスチナ国家を設立することを求めている。そして「イスラエ
ルはパレスチナを認め、またパレスチナもイスラエルを認めなければならない」としてい
る。併せて「イスラエルによる政治的障壁と継続されている占領とセツルメントは、パレ
スチナとの紛争を激化させ、いかなる合意も破壊するもの」とも述べている。
こうした要請に合わせるかのように、12月2日には、フランス下院がパレスチナ国家
承認の決議を採択した。それまでにも、10月30日には西ヨーロッパでは最初にスエー
デン政府が承認を決めている。またイギリス、スペイン、アイルランドでもパレスチナ国
家承認を促す決議を採択した。「しんぶん赤旗」も12月9日付の国際欄で、「イスラエル
のメディアによると」として同様の報道をしている。
以上は、報道の紹介であるが、ここでデイビッド・グロスマンについて触れてみたい。
いまイスラエル社会は、パレスチナに対して残忍な攻撃を繰り返すネタニヤフ政権下にあ
る。そのもとでのイスラエルの良識とは、どのようなものであるかを知る機会になると思
うからだ。
私がグロスマンを知ったのは、BBC の“WORLD BOOK CLUB”という、彼が出演していた番
組をたまたま聴いたことによる。この番組は、世界の著名な作家が登場するもので、その
作家のファンはスタジオで直に著者の話を聞き、質問や感想を述べることが出来るという
ものである。また電話や E-MAIL でも世界中から参加できる。
グロスマンは1954年、エルサレムに生まれた。9歳のとき、認められて国営ラジオ
局で児童俳優として採用される。大学卒業後、同局の番組司会者として働きだすが、19
2
88年、パレスチナ指導部が出した独立宣言についての報道規制を拒否したため解雇され
た。その後、1998年に小説“Duel(決闘)を出版し作家生活に入った。小説やノンフ
ィクションなど多数の著書があり、ノーベル文学賞候補にあがったこともある。
彼の政治思想は左翼的であり、また真摯な平和活動家でもある。2006年のレバノン
戦争の時、グロスマンはアモス・オズとアブラハム・B・イェホシュアと共に即時停戦を
主張した。その2日後、彼の20歳の次男、ウリは戦死した。イスラエルの機甲部隊の戦
車兵として参戦していたのだ。
その2ヶ月後、1995年に暗殺されたラビン元首相の追悼集会で、グロスマンは10万
人の聴衆を前にして、当時のオルメット政権を厳しく批判しながら、こう語った。
「当然のことながら、息子を失った私の悲しみは深いものです。ですが、私の怒りよりも
痛苦の方がはるかに大きいのです。この国の現実と、オルメットとその同調者たちがやっ
ていることへの痛苦が」。
この耐え難い体験が彼の作風を変えたと、ジャクリーヌ・ローズ氏(ロンドン大学教授)
は指摘する。それが2010年に出版された“To the End of the Land ”である。この作品
は、オラという女性の記憶と遍歴をとおして1948年のイスラエル建国以来の戦争の惨
禍をたどる年代記となっている。原作のヘブライ語のタイトルは直訳すると“A Woman
Escaping News ”(戦死公報から逃げる女)である。作品の終盤で、オラは住んでいたエ
ルサレムからガラリアへ徒歩で逃亡を試みる。兵隊にとられた息子の戦死公報を聞きたく
ないからだ。一読をお薦めしたいが邦訳は未だ出版されていない。
奇しくも、そのころイスラエルの留学生に日本語を教えていたので、グロスマンのことを
訊いてみた。すると彼女が好きな作家のひとりだとの答えが返ってきた。帰国直前に書い
てもらった彼女のエッセイの抜粋を紹介してこの稿を終わりたい。彼女も、グロスマン同
様、リベラルな良識派であるから、このエッセイからイスラエルの素顔がよく分かるから
だ。
「イスラエル人には、日本は、寿司と地震だけの国ではないと言い、日本人には、イス
ラエルは、戦争とテロだけの国ではないと説明している自分に気付きました。イスラエル
では、ヨーロッパやアジアの学生と違って、うんざりさせられる徴兵期間が終わってから、
大学に入ります。テルアビブ大学では、政治学とジャーナリズムそして東アジアの研究を
していました。私にとって、京都での学生生活は、学生らしいと感じさせてもらえた最初
の経験だと言わねばなりません。イスラエルでは、授業料や家賃そして交通費などがとて
も高くて、そして、すべての親が子どもたちを支えることができないため、学生は、少な
くとも週に4回は働かなければなりません。正直に言って、私は、いつも働いていたため、
論文を読んだり、家で勉強したりする時間すらありませんでした。私は、ベン・グリオン
空港に到着した時のことを考えると、深いため息とともにイスラエルの現実へ引き戻され
るのです」。
(京都AALA
3
副運営委員長)
正義を識別し不正義を指弾する声は健在だ
須田
稔
▼12月9日、Common Dreams がスタッフ・ラ
イターのアンドレア・ジャーマノスの論評を発信。
「今夏のイスラエルのガザの建物への攻撃は戦
争犯罪になる、とアムネスティ・インターナショ
ナル」という題目。アムネスティの発表も同日。
子ども500人以上を含む2100人以上の
パレスチナ人を殺害した7~8月のイスラエル
の軍事攻勢「へり〔境界線〕防護作戦」の終盤、
ガザの歴史的多層階建造物に対する4度に及ぶ
徹底した空爆。之は「集団的懲罰行為」だと、ア
ムネスティは言う。この大規模な破壊行為は用意
周到に、軍事的に正当化される余地なく行われた、
とアムネスティのフィリップ・ルーサーは語る。
先月、この人権団体が公表した報告書は、この
夏の攻撃で、イスラエル軍は何世帯もの家族が暮
らす住宅を無警告で標的にするという冷酷非情
の例を8件示していた。ヒューマン・ライツ・ウ
オッチ(人権監視)が9月に発表したレポートで、
家を追われた数千人の避難先となっているいく
つかの国連の学校をも砲撃したイスラエルは「戦
争に関する法律」のすべてに違反している」と指
摘している。
アムネスティは、国連の調査委員会が妨害を受
けずに調査できること、アムネスティなどの人権
組織のガザ立ち入りを認めることをイスラエル
に要請している。(12・9「アムネスティ国際
ニュース」より)
▼同じ12月9日、Common Dreams のスタッ
フ・ライターのローレン・マッコウレイが「警鐘
鳴り響く。絞殺されたエリック・ガーナー、銃殺
されたマイク・ブラウンの死に対する抗議活動が
終熄しない。スポーツ選手から環境保護運動家・
ファースト・フーズ労働者・教育指導者まで、人
種的正義を求める普遍的叫びがわき起こる」と書
いている。
人種差別・あらゆる分野での不正義に対する抗
議活動が広がる一方で、これを弾圧する動きもあ
る。アメリカ教師連盟会長のランディ・ワインガ
ーテンは、彼女のパートナーのシャロン・クライ
ンバウムほか数人のユダヤ律法学者とともに逮
捕された。ガーナー絞殺に対する大陪審の不起訴
決定にニューヨークで抗議中にだ。カリフォルニ
アのバークレイで3度目になる月曜夜、13日土
4
曜日にニューヨークで大動員をと呼びかけがな
された。アル・シャープトン牧師と彼の「全国行
動ネットワーク」は、警察の暴虐に対処すべく議
会が行動せよと求めるワシントン行進を組織中
だ。「マーティン・ルーサー・キング牧師は、か
つて‘革命を眠り過ごす危険’を語った」とジョ
ージタウン大学の正義と平和プログラム所長ラ
ンドール・アムスターが書いている。「今日、至
る所の町の広場、都市の街路で、警鐘が鳴り響い
ている。より公正な世界への希求を持ち続けるす
べての人は、起ち上がりその実現に奮闘すべき
だ」と。
▼京都朝鮮学校襲撃事件裁判で、12月9日、最
高裁は在特会らの上告を棄却、在特会側への賠償
命令が確定した。
2009年12月からの5年間の、民族差別反
対の闘いが司法で勝利した。学校法人京都朝鮮学
園のコメントを抜粋しよう。「日本の公権力はこ
れまで私たちの民族教育権を否定し続け、民族学
校を弾圧し続けてきました。それゆえ、・・・民族
教育の実践に関する膨大な証拠資料を検討し、法
廷証言を通して父母や教員達の強い思いに触れ、
慎重な審理を経た結論として、在日朝鮮人が民族
教育を行う利益を正当なものと認め、日本の法の
もとで保護される対象と判断したことは、私たち
にとってはもちろんのこと、日本社会の歴史の上
でも画期的な一歩であると評価しておりま
す。・・・今日、日本のみならず世界各国において、
社会に横行するヘイトクライムやヘイトスピー
チに警鐘を鳴らす運動が広がりを見せています。
私たちは、今回の最高裁判断を契機に、日本全国
の朝鮮学校に通う児童・生徒が、朝鮮人の民族的
誇りを育み、また社会の一員としての自覚を持っ
た人材として成長していく学習環境を守って行
くため、今まで以上に努力していく所存です。
在日朝鮮人に対する差別や偏見が根強くある
中、正しい裁きをしてくださった裁判官たちに謝
意と敬意を表します。また、この間、子どもたち
にあたたかく寄り添い、私たちの運動を力強く支
援してくださった多くの皆さんに、心から感謝い
たします。
」
ヘイト・スピーチは日本社会の隠然たる差別感
情の表出だから、問われるのは私達自身だ、と言
う新聞論調がある。『社会の木鐸』の自覚を研い
でほしい。
2014/12/12