第1回 「自己紹介と英語論文を読むメリット・デメリット」

第1回 「自己紹介と英語論文を読むメリット・デメリット」
STROKE LAB メルマガ登録の皆様、はじめまして。
順天堂大学医学部附属順天堂医院で作業療法士をしています金子唯史と申します。
今月より月 1 回、英語論文を読めるようになるスキルを身につけるためのポイントを記事にして皆様に提
供していきます。なおこの内容は働き方・学び方サイト POST で掲載している内容を一部編集しています。
自己紹介をさせていただきます。前置きが長くなりますが、初回ですのでもう少しだけ辛抱して読んで頂け
れば幸いです。
1981 年長崎県生まれ。3 年制の長崎医療技術専門学校を卒業。高知県の近森リハビリテーション病
院に約 2 年勤め、その後順天堂医院に就職し、現在 12 年目になります。
来年度より脳と身体の治療院「STROKE LAB」という自費診療の治療院を都内に開業します。
英語に関連する実績としましては、「近代ボバース概念 理論と実践」「エビデンスに基づく脳卒中後の上
肢と手のリハビリテーション」という翻訳書を出版しています。
また、2012,2013,2014 年にボバース概念の本場であるイギリスで専門コースを受け修了していま
す。2014 年は世界作業療法学会が横浜で開かれ、そこでも英語で発表させていただきました。最近の
11月4日には「エビデンスに基づく高齢者の作業療法」という翻訳書籍の監修を行いました。
私の実績をみて、不思議に思う読者がいると思います。
・何故、療法士なのに英語の翻訳書を出版しているのか?
・専門学校卒業で何百ページもある専門書籍を翻訳できるなんて怪しい。
・もともと英語が得意だったり、海外経験があるのではないか。
<自身の英語力について>
まず僕の専門学校時代の英語レベルはひどいレベルでした。
センター試験は 200 点満点中 100 点位、当然専門学校にしか入れないレベルでした。
専門学校時代の英語授業での宿題は、いつも得意なクラスメイトのノートをコピーしていました。会話は
Hello や This is a book 位なら出るレベル。就職してからも 5 年目位までは一切英語と関わらず。いざ
英論文を翻訳しようとすると 3 行に 30 分費やしていました。電子辞書使いまくりです。当時英語の論文
を読む PT 実習生がいて、びびりまくり!!!自分とは違う世界の人、という感じで劣等感だらけでした。
そんな自分ですが、5年目以降、様々な工夫をしながら英語を習慣化させ、今では英語は生活の一部
になりました。
現在の自分のレベルは客観的な資格は残念ながらありません。TOEIC は受けていません。英検は3年
前に 2 級を取りましたが、それ以降は一度も受けていません。予想模試は受けて、英検準一級や
TOEIC780 点 位 は 出 ま し た 。 他 に も Weblio 英 単 語 の ネ ッ ト ゲ ー ム で 単 語 レ ベ ル
http://uwl.weblio.jp/vocab-index は 14001-15000 語が出ました(ちなみにセンター試験は
4000 語レベル、難関私立大は 8000 語レベルです)。
リハビリテーションに関わる英論文は月に 20 本位は最低読んでいます。英会話学校も長期の海外経
験(研修の 1 週間×3 回のみ)も一切ないです。大学院にも通っていないので英語論文を強制的に読む
環境にはいません。加えて英語はあくまでサブで、治療技術を追求している療法士です。英語の専門家
ではありません。ですので、英語の先生や予備校講師のような英文読解、テクニック方法の提示はできま
せん。
しかし、多くの英語に興味のない苦手な読者の皆さんに近い中学レベルの英語能力から、お金をかけず、
英語でお金を貰えるレベル、日常の治療に活用できるレベルにまでスキルを上げた療法士です。そういう
意味ではレアな人物かもしれません。
ですので、僕の強みは中学レベルからお金をかけずに「英文なんて見るのも嫌!!」というヒトの気持ちが
切実にわかります。かつ、そのレベルの人が効率的に英語能力を獲得するための手助けはできるかもしれ
ません。
前置きが長くなりましたが、今回は以下の 3 点を述べさせて頂きます。
1:療法士は英語論文を読める必要はあるのか?そのメリット・デメリット
2:英語を楽に身につける(英語論文を楽にスラスラ読めるようになる)方法はあるか
3:今回の「ちょっと気になる英文読解」
それでは最初の
1:療法士は英語論文を読める必要はあるのか?そのメリット・デメリット
から述べさせて頂きたいと思います。
結論から言いますと、「英語論文は読めなくても問題ないです」……ぶっちゃけました。
この答えによりこの講座、意味をなさなくなりました。
その理由としましては、英論文読めなくても日本語の教科書、あるいは翻訳書で十分に仕事ができ、給
料を貰えるからです。
ですので、全く興味のない方は、そのまま普通に仕事をし、療法士生活を満喫してほしいです。
ですが…働き方によって英語論文はめちゃくちゃ必要になります。
<英語論文を読めることのメリット>
・第三者のチェックが入った最新の信頼ある情報を知ることができる
教科書は著者がある程度適当に書けるのです。論文のように凝縮された内容とは全然違います。若い
頃はいいですが、ある程度年齢を重ねると公の場で発言したり執筆する機会が出てくるかもしれませんが、
その時に教科書から引用していては相手にされない可能性も出てきます。論文の方が凝縮されているの
で頭にも入りやすいです。
・欲しい情報を即時に手に入れられる
仕事をしていて思うのですが、この情報のピンポイントが欲しい時に直ぐに手に入れる可能性が大幅に増
えます。例えば、自分が担当しているパーキンソン病の患者さんに失行のような症状が出ているとします。
「パーキンソン病 失行」とグーグルで検索したとすると、一発目に情報としてはいらない大脳基底核変性
症(CBD)の難病センターの情報が出てきました。悪くはないですが、パーキンソン病に失行症状が生じる
のか?という疑問からすると的を射てはおらず、信頼ある情報とも言えないかもしれません。
それを「parkinson disease apraxia」と検索すると……出ました。いきなり信頼性のある論文です。
http://brain.oxfordjournals.org/content/120/1/75
「Based on apraxia assessment scores, bilateral ideomotor apraxia for transitive
movements was found in eight (75%) and 12 (27%) of PSP and PD patients,
respectively.」
という風に、両側の観念運動失行が PSP(進行性核上性麻痺)には 75%,PD には 27%出現するとい
う実験データが得られます。
これがあれば地方学会や全国学会でのケースに引用できる情報になります。
知識って、教科書読んで沢山増やすより、臨床ではピンポイントのデータを得られた方が臨床アイデアとし
て広がりやすく脳にも定着しやすいですよね。臨床では知識量の多さより使える知識が重宝されます。国
試のような知識とは全く違います。ある知識をどれだけ臨床に応用できるかが勝負です。
・副業としてのお小遣い稼ぎになるかも
ある程度の英語能力を磨けば、私のように医学書を翻訳して 20 代で本の表紙を飾り、世に出版できる
かもしれません。もちろんそこにはお金も発生します。費やした時間から考えると翻訳料というのは安いです。
しかしお小遣い程度にはなります。その書籍をきっかけに講師業の依頼が入るようになれば、十分な講師
料が得られるかもしれません。他にも、学校の英語講座の講師、海外講師が来た時の通訳、近所の中
学生の英語指導など、英語ができるようになることで様々な活躍の幅が拡がることは間違いないです。
・海外で働いたり研修会に参加して最新の情報を持ってこれる
英語論文を読むためのトレーニングをうまく活用すれば、リスニングスキルやスピーキングスキルも磨けます。
青年海外協力隊をはじめ、日本の療法士の技術を世界に発信していける時代です。特に発展途上国
では日本の療法士の技術が重宝されやすいと聞きます。もちろんヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなどの
リハビリ先進国に出向いて情報を収集したり大学入学などの可能性やビジネスチャンスも増えます。
・周囲のセラピストとの差別化
私の学生時代から「これからの時代は何かのスペシャリストになることが重宝される」、と先生方から教わっ
てきました。英語論文が読めれば自身の得意分野の最先端の情報を拾えますし、外国人が入院してこ
ればスピーキングやリスニングスキルを同時に磨いておくことで担当にもなれます。つまり職場の中で一目を
置かれるチャンスが増えるのです。一目置かれれば出世のチャンスやスタッフから尊敬されるかもしれません
(もちろん人間性が大前提ですが)。
<デメリット>
・最初の頃は英論文読む間に日本語の論文 30 本位読めるかもしれません。時間的投資としては成功
しなければリスキーです。日本語を読むスピードの 3 分の 1 位までは上げればメリットは得られるかもしれま
せんが、その段階まで持ち上げるには労力が必要です。英語の勉強の時間を治療技術の練習にあてる、
家族やプライベートの時間にあてる、など英語をやらないことで、プラスになる面があることも忘れてはいけま
せん。
2:英語を楽に身につける(英語論文を楽にスラスラ読めるようになる)方法はあるか?
ですが、答えは「No」です。世間では聞くだけで喋れるようになる、この講座を受ければ英語ペラペラなど
の謳い文句があふれていますが、あれは商法です。
英語を話せたり、スラスラ読めるということは自分の脳を開拓すること(可塑性)なのです。日本語で固
まった脳内ネットワークを変えるということは大変なことです。それは運動学習をベースにパフォーマンスをみ
ている療法士が一番良くわかっておくべきことです。最低ラインとして1日30分程度は英語と接する時
間をつくり、習慣化する必要があります。ですので、労力をかけるという前提で、効率的に勉強する具体
的方法は第2回目以降に掲載していきます。
3:今回の「ちょっと気になる英文読解シリーズ」
毎回数行のリハビリに関わる英文を提示し、読解していきます。この程度の英語であればスラスラ読め
る読者もいると思います。そういう読者は自分で論文たくさん読んでください。このメルマガでの対象は「英
語が苦手でおそらく中学レベルに毛が生えた程度」「今は全く読めないし、英語の文字を見るのも嫌。でも
将来英論文を読めるようになってカッコいいセラピストになりたい」というような読者の方を対象にしています。
ですので、短い英語フレーズにします。短い英文から少しずつ生活の中で英語に触れる機会を作ってみて
ください。私のメルマガの目標は、英論文に触れたり、英語を話せるきっかけを作ることです。私のメルマガ
のみで英論文をスラスラ読めるようになることは絶対に無理です。あくまで効率的な方法論を提示するだ
けで、やるかやらないかは読者次第であることを念頭に置いてください。
Flexion is from 0 to 180 degrees, and extension is the return to the anatomical
position. There are approximately 45 degrees of hyperextension possible from
anatomical position. Abduction and adduction occur in the frontal plane around the
sagittal axis with 180 degrees of motion possible.
赤は主語(S)
青は動詞(V)
翻訳:「屈曲は 0°~180°であり、伸展は解剖学位置へと反転(リターン)である。解剖学的位置よりおよ
そ 45 °過伸展が可能である。外転と内転は 180°運動可能な矢状軸周囲の前額面で生じる。」
いかがでしたか?馴染みのある内容なので、ある程度であればイメージできたかもしれません。主語と動詞は見
抜けましたか?最初の行は主語や動詞はわかりやすいですが、2行目には「There 構文」が出てきました。
3行目は be 動詞ではない自動詞である occur が出てます。この辺は文法や構文の回で触れようと思います
が、英語教師ではないのであまり期待しないでください。最低限知っておいたほうが良いことを述べる程度です。
また、今回講義用に翻訳をしていますが、本来は翻訳せず英語のままある程度意味を理解できることが理想
です。したがって、初級者は翻訳をしながら学習しても構いませんが、おおまかに理解できれば翻訳する必要は
ないと考えています。受験のように 100 点を目指す翻訳ではないのです。理解することが目的です。
<今後の予定>
これから英語論文を読めるようになるスキルをおよそ1年スパンで皆様に月1回届けます。先に述べておきま
すと、英論文を読む小手先のテクニックではなく、本物のスキルを身につけるためのルールを提示していきます。
具体的には「第○○回 英文法について」「第○○回 英単語について」など、専門的な指導ではないですが
僕が実際行ったトレーニング経験を伝えます。英単語を覚えなければスラスラなんて読めませんし、英文法は最
低限理解していないと内容はわかりません。ですので、受験恐怖症がある方にはおすすめできないかもしれませ
んが、できるだけ取っ付き易い内容にしたいです。
それでは第1回「自己紹介と英語論文を読むメリット・デメリット」を読んで頂きありがとうございました。
ツイッターアカウントを掲載しておきますので気軽にフォローしてください。質問もツイッターにお願いします。
第2回は「英語論文を読む前に必要な準備、心構え」です。 乞うご期待…
順天堂大学医学部附属順天堂医院
作業療法士 金子 唯史
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