Title Author(s) 高精度放射線治療における,位置的・線量的精度向上に 関する研究 髙倉, 亨 Citation Issue Date Text Version none URL http://hdl.handle.net/11094/50493 DOI Rights Osaka University 様式3 論 〔 題 名 文 内 容 の 要 旨 〕 高精度放射線治療における,位置的・線量的精度向上に関する研究 学位申請者 髙倉 亨 近年,コンピュータ性能の向上などに代表される工学の発展にともない放射線治療の高度化が進んでいる.そ の結果,多くの施設で画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy: IGRT)や強度変調放射線治療 (Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)が臨床使用されている.それらの技術を活用し,照射位置 精 度 と 投 与 線 量 精 度 を 向 上 す る た め に , 品 質 管 理 ( Quality Control: QC ) な ど の 品 質 保 証 ( Quality Assurance: QA)活動が重要になる.正確なQAを行うには適切な幾何学的変動の表現方法が必要であり,正確な 線量投与を行うにはさまざまな位置誤差要因を考慮に入れた放射線治療計画を立案する必要がある. 本研究 では,IGRT機能を有した放射線治療装置の幾何学的精度評価方法と,息止めIMRT法における投与線量精度を向 上する治療計画方法を開発し,有用性の検討を行った. 本論文は,「第1章 IGRTとIMRTの概要」,「第2章 放射線治療装置の幾何学的評価方法の検討」,「第 3章 息止めIMRTの息止め位置誤差による線量分布への影響」,「第4章 息止め時間短縮と線量分布誤差の 平坦化を目的とした放射線治療計画法の開発と検討」より構成される. 第1章では,IGRTとIMRTの特徴や原理について概説し,それらに関するQA / QCについて解説した. 第2章では,IGRT機能が搭載された放射線治療装置の幾何学的精度評価の表現方法に「不確かさ」の概念を 取り入れて検討を行った.これまでの一般的な合算方法は正規分布誤差を前提としたデータ処理であるが,矩 形分布形状の誤差分布を示す項目は最大値と対応する分割係数を用いて合算し,位置変動範囲を表現すること を確立した.これによって,個々の項目に分けられていた品質管理結果と,総合位置精度評価を関連付けるこ とが可能になった. 第3章では,すい臓がんに対する息止めIMRTにおいて,照射門間で発生する息止め位置誤差による線量分布 への影響を検討した.また,全照射回数を重ねたときに発生する線量分布の平坦化を証明した.これまでに, 位置誤差による線量分布への影響は報告されているが,それらは照射回間の位置誤差による影響であるため, 本研究は,新たに息止め IMRT特有の“照射門間”の位置誤差による線量分布への影響をシミュレーションによ って確認した. 第4章では,第3章の結果をもとに,すい臓がんに対する息止めIMRTにおいて,同じ照射門の回数を増やすこ とで線量分布誤差を軽減し,長時間の息止めによる基準位置変動の発生を軽減する新たな放射線治療計画法を 開発した. 本研究は高精度放射線治療において重要な「位置精度」と「投与線量精度」の向上について研究を行った. 放射線治療における総合幾何学的精度解析に「不確かさ」の概念を組み込むことで新たな評価方法を確立した. また,多くの患者に息止めIMRTの適切な線量投与を実現するための新しい放射線治療計画法を開発した. 1 様式7 論文審査の結果の要旨及び担当者 氏 名 ( 髙倉 亨 (職) 論文審査担 当者 ) 氏 名 主 査 教授 小 泉 雅 彦 副 査 教授 村 瀬 研 也 副 査 教授 福 地 一 樹 論文審査の結果の要旨 本論文では,高精度放射線治療において重要な位置精度と線量精度に関して,新たな評価方法と放射線治療 計画法を開発した. 画像誘導放射線治療(Image Guided Radiation Therapy: IGRT)の機能が搭載された放射線治療装置に対し 幾何学的精度の評価方法に「不確かさ」の概念を取り入れた検討を行った.本研究の評価法に取り入れた「不 確かさ」の概念は,近年ISOから計測の表現方法を統一するために発行された世界標準のものである.さらに, IGRT装置特有の照射系中心と照合系中心の変位量を包括的に計測する方法を立案した.評価モデルとして,最 も位置精度が必要とされている頭蓋内定位照射を想定し,頭部ファントムを用いた位置精度評価を行った.位 置精度の個別の評価項目には,1)寝台補正精度,2)外部照射装置の中心精度,3)外部照射装置中心と照 合系システム中心の精度がある.これまでの一般的な合算方法は正規分布誤差を前提としたデータ処理であっ たが,本研究では矩形分布形状の誤差分布を示す項目は最大値と対応する分割係数を用いて合算し,位置変動 範囲を表現することを提案した.さらに,直線型加速器により発生させる治療用X線と異なる位置照合機構で構 成されるIGRT装置の照合系中心と照射系中心の変位を計測する新たな方法を開発した.個別の評価項目の結果 は,1)寝台補正精度の変位量は0.07 mm, 変動量は0.22 mm,2)外部照射装置の中心精度の変動量はガント リ系で0.39 mm,寝台回転系で0.38 mm,3)外部照射装置中心と照合系システム中心の精度の変位量は0.30 mm,変動量は0.04 mmであった.これらを「不確かさ」を用いて合算すると本装置の総合位置精度は0.31 +/0.77 mm (k=2)と包括的に評価できた.本研究の方法を用いることで,個々の項目に分けられていた品質管理の 結果と,総合位置精度評価を関連付けることを可能にした. 次に,すい臓がんに対する息止め強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)にお いて,照射門間で発生する息止め位置誤差による線量分布への影響を検討した.これまでに,位置誤差による 線量分布への影響は報告されているが,それらは照射回間の位置誤差による影響であったため,本研究は,新 たに息止めIMRT特有の“照射門間”の位置誤差による線量分布への影響をシミュレーションによって確認し た.本研究の対象は過去に従来の方法で放射線治療を実施した10症例(それぞれ,5 門 * 15 回)とした.照 射回ごとの線量分布において,D98%, D2%, D50%における 基準計画との差は最大で-16.58, -0.69, -6.69%point, HIは0.17point,胃と十二指腸のD1ccはそれぞれ最大で-16.85, -4.86%pointと大きな差があった.しかし,全照 射回で合算すれば,PTVのD98%, D2%, D50%における 基準計画との差は最大で-1.03, -0.44, -0.71%point,HIは 0.01point,胃と十二指腸のD1ccはそれぞれの最大で-6.34, -1.57%pointと全ての指標で差が小さくなった.こ の結果から照射回数が増えることで線量分布誤差の平滑化が発生し,位置誤差を考慮した線量分布が計画値と 同等になることが確認された. これらの知見に基づき,すい臓がんに対する息止めIMRTの新たな放射線治療計画法として,Double Exposure Half Dose (DEHD)法を開発した.DEHD法は従来の息止めIMRT計画を基に毎回2分割して計画と照射する.すなわ ち,1)1回あたりの線量を半分に設定,2)照射回数を2倍に設定,3)MLCの位置設定ファイルと線量分布の 再計算,4)患者への照射は,1回の位置決めに対して同じ照射門を2回分照射する方法である.本法と従来法 について線量体積関係の比較を行った結果,PTVのD98%, D2%, D50%, における基準計画との差は最大で-0.64, 0.39, -0.71%point, HI は0.01point未満,胃と十二指腸のD1ccはそれぞれ最大で-0.60, -0.51%pointで,全て の線量指標において有意差は認められず,同等な線量分布を実現できた.必要な息止め時間について,従来法 は平均13.3秒であったが,DEHD法では平均8.9秒になり,平均で32.7%と有意に短縮された.また,従来法は全 ての照射門で10秒以上の息止めが必要であったが,DEHD法で10秒以上の息止めが必要な照射門は6門と,全体の 12%に軽減できた.これらの結果から,DEHD法は従来の放射線治療計画と同等の線量分布を作成しつつ,同じ照 射門の回数を増やすことで線量分布誤差を軽減できた.さらに,長時間の息止めによる基準位置変動の発生を 軽減し,呼吸状態が悪い患者の息止めの負担も減らすことができた. 本研究は,今後の高精度放射線治療の包括的精度評価や放射線治療計画に新たな方法を提示でき,放射線治 療の質向上への貢献が期待できる. 以上より、本研究論文は、博士(保健学)の学位を授与する価値があると認定する。 2 3
© Copyright 2025 ExpyDoc