東日本大震災 ─都市を襲った液状化─ 千葉大学大学院 工学研究科特任助教 深さ︵ 岸田忠大 ︶ 砂質土 液状化はこうして起こる 出し︶強度を失う。図 は、千葉 県 美 浜 区で採 取 した液 状 化した 土 で あ る。この 土 の 塊 を 手 で ひ と、 表 面 の 水 は 土 の 中 に 吸 い 込 ねる︵ 大きなせん断 力を加える︶ 砂 質 土に よ る 地 盤 で 生 じ る[ 次 小さな揺れを まれ、 土は強度を発揮する。一方、 ∼ 回加える ︵繰 頁参考資料参照] 。こうした地盤 り返しせん断力を加える︶と、水 液状化は、一般的に地下水位が 高 く、 値 が 程 度 以下の緩い 2 水︵ 間 隙 水 ︶が 存 在 し て い る が、 20 の 地 中 に は、砂 粒 子 の 隙 間 に 含 N 5 砂粒子が接触し合っているため、 失う[図2②] 。 が 表 面 に 浮 か び 上 が り、 強 度 を 支えることができる[図1①] 。 一定 の 強 度 を 保 っ て 建 物 な ど を ところが、地震動によって繰り 返 し 応 力 が 働 く と、接 触 し 合 っ ていた 砂 粒 子 が 崩 れ て 水 圧 が 上 岸 およ び 利 根 川 流 域で 被 害 が見 一般 的 に 埋 立 地 は 液 状 化 し や す く、 今 回 の 地 震 で も 東 京 湾 沿 ら れ た。 埋 立 地 で 液 状 化 が 発 生 昇 し、砂 粒 は 浮 遊 状 態 と な る。 さ ら に、地 表 面 に 向 け て 水 圧 が しゅん つ考えられる。 しやすい要因は せ つ ど ま ず 第一が、 粒 径 が 均一な 浚 渫土[※ ]などを用いて埋立地 だ。 粒 径 が 不 均一な 場 合 は、 粒 を 造 成 す ること が 多 いとい う 点 子 と 粒 子の 間 にさらに小 さな 粒 こ う し た 液 状 化 現 象 は、 砂 よ り も 軟 ら か く、 粒 子 の 細 かい 粘 る。 地 震 前 は 粘 土 地 盤 の ほ う が 粒 径 が 均一な 場 合、 粒 子 と 粒 子 子が入り込んで隙間が埋まるが、 くなる[図 ] 。 低 く な り、 液 状 化 が 起 こ り や す 粒 径 が 均一な 砂 で は 土 の 密 度 が の間に間隙が生じる。そのため、 軟 弱 地 盤 で あ る が、 地 震 後 に は 第 二の 要 因 と し て は、 土 の 強 度が時間とともに増加する﹁年代 古 くて 安 定 した地 層で 形 成され 年代的に新しい埋立土の地盤は、 化 しに くいと さ れていた 地 盤 ま 効果﹂ が挙げられる。逆にいうと、 り返しせん断力には圧縮し︵水を で も が 液 状 化 し、 被 害 が 広 範 囲 一般 的 に、 砂 質 土 は 単 体 の 大 きなせん断力には膨張し︵水を吸 る 自 然 堆 積 地 盤 に 比 べ、 強 度 が 図 5は浦 安 市の水 平 成 分 加 速 度応答スペクトルである。ピーク に及んだ可能性がある。 が 秒から1秒に現れ、比較的長 劣るということになる。 ]により 起こると考えられ ているが、こうした事象は今のと る。 図 周 期 の 揺 れ で あった こ と が 分 か に示すように ︵青・長周期 、 こ ろ 説 明 要 因 に す ぎ ず、設 計 の [※ る こ と や、粒 子 間 の シ リ カ 結 合 年 代 効 果 は、 時 間 と と もに 粒 子 がよ り 安 定 した 構 造 配 列 にな い︶強度を発揮するが、小さな繰 せん断力の 働き方と液状化 可能性があるということになる。 砂 地 盤のほう が軟 弱 地 盤になる 土 地 盤 で は 起 き ないと さ れてい 下などの被害を引き起こす。 消 散 す ること で、 噴 砂 や 地 盤 沈 こ れ が 液 状 化 で あ る[ 図 1 ② ] 。 埋立地が液状化しやすい 理由 通 常の 状 態であ れ ばそれ ぞれの 10 揺れの長さが被害を増大させる 沈下 沈下 応答加速度︵ ︶ 粘性土 も の で は な い。 現 時 点 で 言 え る 段 階で 考 慮できるほど 明 らかな 働くことから、地中内に働く応力 と 地 中では同 じ 方 向に加 速 度 が 赤・短周期︶ 、地震動の周期が長い したがって、浦安市では地中深 部 ま で 液 状 化 被 害 が 起 こ り、 地 くなることが分かる。 深さ方向に積分したもの︶は大き ︵加速度と質量の積を地表面から こ と は、過 去 の 経 験 や 実 験 結 果 から、埋立地で液状化が起こりや すいということに留まる。 揺れの長さが 被害を拡大した と関連しているため、これはすべ ニチュードや震源距離、地盤特性 地 盤 の 状 態 の ほ かに、 地 震 動 の 特 性から も 今 回の 被 害 が大 き た よ う に も 思 わ れ る が、 液 状 化 液状化により地盤沈下が生じ、 地 震 前 に 比 べ 土 の 密 度 が 上 がっ 液状化は再発する い。 ての 地 域に 共 通 す るものでは な る。ただし、地震動の周期はマグ 盤 沈 下 が 大 き かっ た 可 能 性 が あ かった理由を推測できる。 ガル と 図 4 は、 今 回 記 録 さ れ た 千 葉 県 浦 安 市 の 加 速 度 記 録 で あ る。 浦 安 市の最 大 加 速 度は ]にもとづく継続 比 較 的 小 さ かった も の の、エ リ アス強度[※ 震︵ 計 測 値 鷹 取 ︶ 、2 0 0 4 年 た。1 9 9 5 年 の 兵 庫 県 南 部 地 ば、 地 表 面 付 近 で は 土 の 体 積 が により 発 生した 水 圧 が消 散 す れ 秒 に 及 ぶ こ と が 分 かっ 新潟県中越地震︵同 小千谷︶で 時間は 秒 程 度 で あった 膨 張 し、 地 盤 が 局 所 的 に 緩 く な の継続時間が こ と を 考 え る と、 今 回 の 揺 れ が る と 考 え ら れ る。 液 状 化 は 再 び し液状化が確認されている。 フ ラ ン シ スコ 湾 近 郊 で は 繰 り 返 生 じ る の で、 利 根 川 流 域、 サ ン 非 常 に 長 い も の で あった こ と が 分かる。 この 結 果、 地 震 動 に よ る 繰 り 返 し 回 数 も 多 く な り、 本 来 液 状 ※ 1:浚渫とは、河川や運河などの底面を浚(さら) って土砂などを取り去る作業のことを指す。浚渫土はこのときに生じる土砂のこと ※ 2:土粒子間の間隙水に含まれるシリカが、長年にわたり土粒子間に沈殿して化学的に結合させること ※ 3:地震動の揺れの強さを表す指標。加速度の二乗の積分から求まり、最大加速度などと違い累積エネルギーを表現できる地震動強さ。継続時間を定義する際によく用いられる 5〜10回細かく揺 すると液状化する 土の塊をひねる (大きな せん断力を加える) と、水 が引いて土は自立する 2 ム 5.0 m 1 ニ 加速度(g) 3 カ 今 回の被 害は地 震 動の継 続 時 間が関 係している可能性が高い 参考資料│N値と地盤の状態 6 ひねる 0.4 0.2 0 −0.2 1│液状化が起こる仕組み 032 建築知識 2011 06 東日本大震災 ─ 都市を襲った液状化 ─ 033 備考 硬軟 N値 3 ズ 0~4 軟らかい 中位を要する軟弱地盤。精密な土質調査を行う必要有り 5~14 中位~硬い 安定についてはおおむね問題ないが、沈下の可能性有り 15以上 非常に 安定および沈下の対象としなくてよいが、中小構造物の基礎地 硬い 盤としては20以上が望ましい 0~10 ゆるい 沈下は短期間に終わるが考慮する必要有り。地震時に液状化 の恐れがある 1 0~30 中位~硬い 中小構造物の基礎地盤となりうる場合もあるが, 一般に不十分 30以上 密 大構造物の基礎としては, 50以上 (非常に密) が望ましい 周期(秒) 2│せん断力の働き方と液状化のイメージ 図 6│地震動周期と地盤内応力の模式図 図 ー 0.1 −0.4 0.0 300 (秒) 200 100 0 ー 0.2 11 メ 0.2秒∼1.0秒に ピークが現れる 0.0 2 の 10 1 0.1 砂粒子 間隙水 液状化が終わると、水圧 が消散し、砂粒子は沈下 する。このとき、上部の建 物も沈下する 0.1 0.4 振動によって、接触し合って いた砂粒子接点の摩擦力が なくなる。砂粒子は圧縮しよ うとするため間 隙 水に圧 力 がかかり、液状化する 間隙水を含みながらも、地 中の砂粒子どうしが接触し 合っているため、上部の建 物を支えることができる 0.0 0.01 近年の他の地震に比べ 継続時間が長い (g)0.2 は加速度 が働く方向 状 NS component EW component 粒径が均一な場合、粒の すきまに空 間ができ、緩 い地盤となる (左) 。粒径 が不 均 一な場 合、粒 子 の間に砂などが入り込ん で隙間が埋まり、強度の ある地盤となる (右) = 短周期 = 長周期 化 g 0.2 4│K-NET 浦安での NS 加速度記録 図 10.0 液 ③液状化した後の状態 ②液状化した状態 ①液状化前の状態 K-NET 浦 安の加 速 度 応 答スペクトルで は、0.2秒〜1.0秒あ たりにピークがあり、 比 較 的 長 周 期の振 動であったと言える。 図中のNSは南北方 向を、EWは東 西 方 向を指す 0.6 図 5│K-NET 浦安での加速度応答スペクトル 図 3│粒径の大きさと液状化被害 図 周 期が長い場 合、地 中深くでも同じ方向に 加速度が働くことから、 加速度×質量の地表 面からの積 分も漸 増 していく。一方、周期 が短い場 合、地 表 面 と地 中 深くでは加 速 度の方 向が逆になる ことから、加速度×質 量の積 分が相 殺しあ い、地中深くでは応力 が働かなくなる 標準貫入試験で得られるN値は、地盤の土層の硬軟や締まり具合などの相対 的な強さの目安とされている。N値は標準貫入試験における打撃口数で、N値 が小さいほど、軟弱地盤であることを示す ! 説 解 底 徹
© Copyright 2024 ExpyDoc