権益擁護実践の分類 - 多様な場面での活用のために – 金用得 (聖公会大学校 社会福祉学科教授 ) 1. 序論 擁護は事実について判断するのではなく、力のない人の方に立つことだ。 擁護サービスは福祉サービスの座標とパラダイムを移動させる媒介だ。 擁護実践は、専門性と配置されるのではなく、専門性を完成する要素である。 擁護は全ての障害者福祉サービスの共通基盤にならなければならない。 擁護はすべての人が尊敬され、傾聴される権利、個人の暮らしに影響を及ぼす意思決定に 参加する権利、未来の夢と計画を持つ権利、他の人たちと同等な機会を持つ権利などが保障 されなければならないという原則に基づく。擁護活動は危険に直面した人を助ける活動をい い、また、社会が耳を貸そうとしない人たちのために、自分たちの見解を表現して自分の決 定を行えるよう支援する活動を含む。 社会福祉分野で権益擁護の内容は准法律的水準から非常に個人的な水準まで多様である。 また、問題の程度によっては構造的な問題に対する擁護の類型から微視的なタイプまで多様 な形で存在する。従って、社会福祉で権益擁護活動は様々な状況で多様な要求に対応するた め活動の類型も多様に描写することができる。 権益擁護実践は主に擁護活動が必要な問題に集中する傾向がある。しかし、権益擁護は応 急措置をするだけではなく、政策が形成されるマクロ的な観点から政府に対する意見提示及 び圧力を通じて構造的変化を起こして擁護を必要とする事例がなくなるようにする実践も必 要である。従って、権益擁護の標的となる問題がどんなものかによって発生した問題の解決 に焦点を合わせている問題中心モデルと構造的な変化を求める体系的モデルに分けられる。 また、伝統的なリハビリパラダイムでは専門家の役割を重視していて、問題解決の過程で 統制権は専門家にある。これと反対に自立生活パラダイムでは、障害者が消費者としての権 利と統制権を持つ。このようにプログラムに対する利用者参加と決定の水準の程度によって 専門家主導型と障害者自己主導型がある。権益擁護の実践も同様に利用者である障害者をど のように規定するかによって受動的モデルと積極的モデルに分けられる。受動的モデルは障 害者を受動的で支援と保護が必要な個人としてみていて、積極的なモデルは障害者を市民で ありながら積極的な参加者としてみる。この観点は人権実践を保護に重点を置くのか、力量 強化と積極的な参加に重点を置くかによって区分する観点とも同一のものである。 本稿ではこの二つの基準を適用し、権益擁護の実践と関連した4つの分類を提示する。 2. 分類の基準 (1) 問題中心モデルと体系的モデル(issue-based vs systematic model) 問題中心擁護は、個人または家族のような小集団のために擁護活動するもので、問題が発 生した場合、問題解決のために活動する。問題中心擁護実践は、問題解決に向けた努力の提 供方式によって2種類に区分することができる。予防的実践を重視する事前接近法、発生し た問題の解決に集中する事後接近法がある。 事前接近法は、欲求の調査、関連会議、異議提起などのような状況で意思決定をする場合 に常に擁護人を配置し、権益擁護の実践をすることである。この場合、障害者は擁護人を別 途で探す必要がなく擁護サービスを必要とするなら、その場でサービスの提供を受けること ができる。この場合擁護サービスをあえて必要としない場合のみ擁護サービスを拒否して、 拒否の意思がない場合擁護サービスが提供されたものとなる。擁護には居住施設、寄宿学校 などと一緒に脆弱性が高い状況に置かれている場合について提供される可能性が高い。従っ てこのような脆弱な状況にある障害者を定期的に訪問することにより権益擁護サービスは事 前的に提供されることができる。したがって、事前接近法は擁護支援体系に接近できない障 害者や脆弱な状況に置かれている障害者らに対する擁護接近法である。反面、事後接近法は 特定問題に対する支援を要求する障害者に対して擁護サービスを提供することで、地域社会 に居住する障害者が申請を通じてアクセスすることになる。 体系的擁護はもう少し大きい集団とともに、課業を実践することで、法律、政策、実践と 関連した構造的な変化を目指す。多くの研究は、政策変化に対する擁護実践が重要な理由に ついて明らかにしている。政策の遂行過程を監督できるならば、障害者に利益になる方法で 政策の変化が起きかねない。政策の変化は障害者に必要な改善を増進させるうえで重要な役 割をするということだ。 しかし変化を促進しようとするいかなる実践でも、個別的な水準の問題中心擁護と体系的 レベルでの擁護は必然的に互い関連している。個別的なレベルでの状況は、法律、体制、政 策での変化を促進するのに必要なデータを供給するために、問題中心擁護と体系的擁護間の 関係は必須的である。問題中心の状況の相当の部分が解決模索を求めていても現在の法律、 政策など、現在体系内では解決が可能ではない場合もある。障害者が経験する多くの問題の 根源的な原因が体系的であるためである。このような状況に対し体系的な擁護活動のための 情報を収集することができどんな体系的変化が必要かを知ることができる。これに応じて、 体系的擁護が実践されれば、体系的な擁護活動に応じて体系の変化が生じる。このような体 系の変化は、個別擁護が必要な問題を減少させたり、問題中心擁護実践の解決策を提示でき るようになる。 したがって、問題中心擁護と体系的擁護はお互いに区分されて実践されるのではなく、互 いに関連しており、相互作用するのだ。そうだとしてある機関が、問題中心擁護と体系的擁 護活動をすべてする必要はないのだ。ひとつの機関で機関の特性に合わせて問題中心擁護と 体系的擁護活動を選択して実践できるだろう。 (2) 受動的モデルと積極的モデル(passive vs active model) 障害をどう受け止めるかによって障害者の人権を増進させるための方策も変わっていく。 障害者を能力が不足した人とみる場合、障害者の人権を増進させるためには障害者を保護 することが必要となり、障害者を社会から迫害されている存在と規定すれば、障害者の人権 を増進させるためには障害者の自律と自己決定のための機会をさらに増やす必要が生じる。 前者が保護主義者の視点なら、後者は解放主義者の見方である。 もう一つの区分は、受動的擁護と積極的擁護に区分する方式だ。この区分方式は障害者を 見る観点と関連しており、両擁護は別に区分されるものがなくて二つの擁護の間に連続線が 存在するものとみなければならない。両アプローチは障害者を支援と保護が必要な個人と見 るのか、でなければ障害者を市民でありながら積極的な参加者と見るかによって受動的擁護 と積極的擁護に区分することができる。 受動的擁護は市民擁護の場合のように擁護人が誰かのために代弁する。こうような接近法 は主に障害者の保護に関心を持つ。これは権利に対する保護主義者の観点と繋がっている。 積極的擁護は自己擁護の場合のように自分を代弁するものであり、依存的な状況に対抗して 障害者が自ら行動を取ることができるように力量強化させることに関心がある。 これは権 利に対する解放主義者の観点と繋がっている。 これらの各アプローチは連続的な属性を持っている。連続性に対する理解が必要な理由は 以下の二つとなる。 一つ、実際の現場で、両アプローチがすべて使用される可能性がある ということ。二つ、本当の意味での擁護は何なのか、特に擁護の概念がどれほど権利認識を 前提しているのかに対する見解が継続的に変化していくからである。 3. 分類の適用 擁護が必要な問題と、これについての実践によって擁護が必要な問題を持っている個人や 集団に焦点を合わせた問題中心モデルと、問題解決のために、法令、政策、体系の変化に焦 点を合わせた体系的モデルについて概観した。また、障害概念による人権実践の類型によっ て保護的な受動的モデルと自律性を重視する積極的モデルを探ってみた。 '問題中心モデル'と'体系的モデル'に立脚し、権利擁護の類型の特性を理解すると、問題 中心モデルは自分自身を代弁しにくい個人または家族のような小さな集団に向けた権利擁護 実践であり、体系的モデルは、法令、政策などの体系の変化を目的とする大きな集団のため の権益擁護実践を意味する。そして'受動的モデル'と'積極的モデル'に立脚し、権利擁護の 類型を区分すると、受動的モデルは市民擁護などと一緒に本人のいない、誰かが代わりに主 張をするものである。そして積極的なモデルは自己擁護と一緒に本人のために自ら主張する。 このような区分を基に、様々な権益擁護の実践類型がそれぞれどのように作動を理解できる ように次の<絵>のように擁護活動を分類することができる。 <絵擁>擁護活動の分類 領域 C 個別-自己主導的模型 ↑ 自 律 · 積 極 的 領域 D 構造-自己主導的模型 ←問題中心、個別的 領域 B 個別-擁護人主導的模型 構造的、体系的→ 保護 · 受 動 的 ↓ 領域 A 構造-擁護人主導的模型 領域Aは構造的かつ体系的な問題について、専門家中心の擁護活動を展開する類型で構造擁護人道主導的な模型と呼ぶことができる。この模型は国家単位であれ地域単位であれ、法 令や政策など体系的な問題によって権益を侵害される問題が発生し、これを改善するための 擁護活動で障害者より専門家を中心にシステムの改善のために努力するモデル。 領域Bは個別的な問題について、専門家中心の擁護活動を展開する類型で個別-擁護人主導 的模型と呼ぶことができる。この模型は、個人や集団、家族などが権利侵害を受けたが、そ の原因が個別的水準であり、これを擁護するため、障害者より専門家が直接乗り出して権益 被害問題を解決するために努力するモデル。 領域Cは個別的な問題に対し障害者が中心となって専門家が支援してくれる擁護活動をす る類型で個別・自己主導的模型と呼ぶことができる。この模型は、個人や集団、家族などが 権利侵害を受けたが、その原因が個別的水準であり、このような権益被害を解決するため、 専門擁護人の支援を受けることはせず、障害者自ら問題解決に向けて努力するモデル。 領域Dは構造的かつ体系的な問題について擁護人の支援を受けて、障害者自ら擁護活動を 展開する類型で構造-自己主導的な模型と呼ぶことができる。この模型は法令や政策など体 系的な問題によって権益を侵害される問題が発生していて、これを改善するための擁護活動 で擁護人の支援を受けることはせず、障害者自らのキャンペーンや立法運動をするなど、問 題解決のために努力するモデル。 4. 分類の活用 すべての擁護活動がこの模型の中で一つのモデルに該当するものではない。最初は個別擁護人主導的模型で擁護活動が開始されたが、障害者の力量が強化されて問題認識が変わっ たことによって擁護人中心よりも、障害者中心に活動が変わって個別・自己主導的模型に移 動することもできる。また、個別的な問題解決に向けて努力し、体系的問題に対する理解が 深まって個別的問題解決よりも、体系的擁護活動に集中する場合、構造-自己主導的な模型 へ移動することもできる。 また、一度に様々な模型が現れる可能性もある。単一の問題に見られるが、個別的問題と 体系的問題が同時に含まれている場合、様々な模型の結合が可能だろう。まず、すべての問 題について擁護人中心となった保護主義者の観点を取るならば、個別-擁護人主導的模型と 構造-擁護人主導的模型の擁護活動が同時に現れかねない。同様に擁護人は、支援に集中し て障害者自らが権益擁護活動を主導することになれば、個別・自己主導的模型と構造-自己 主導的な模型の擁護活動が同時に現れることができる。また個別的問題については擁護人が 主に活動をして体系的問題については障害者自ら擁護活動をすると個別-擁護人主導的模型 と構造-自己主導的な模型が同時に現れることだ。個別的問題については障害者が直接擁護 活動をして、体系的問題については擁護人が主に活動をする場合は個別・自己主導的模型と 構造-擁護人主導的模型の擁護活動が同時に現れるだろう。このように単一モデルの混合形 態がいろいろと存在することができる。 このような分類はお互いに相異なっている状況にある組織が自分に適切な擁護を開発する 上で活用されることができる。政府から補助金を受けながら監督を受ける位置にあり、地域 社会の障害者たちの権利意識が高くない状況なら、個別- 擁護人主導的模型が適している。 政府から自由ではないが、地域社会の障害者の権利意識が高い水準なら、個別・自己主導的 模型が適合することができる。逆に、政府と一定の距離をおいている人権団体の場合に、地 域社会の障害者の権利意識が高くない場合には構造-擁護人主導的模型が適合する政府と独 立的で、地域社会の障害者の権利意識が高い水準なら、構造-自己主導的な擁護モデルが相 応しいことができる。政府と独立的で、地域社会の障害者の権利意識が高い水準なら、構造 -自己主導的な擁護モデルが相応しいことができる。 権益擁護を一つのモデルにアクセスする場合、擁護実践は特別な組織、特別な人たちがし ている仕事に思われる傾向がある。しかし、実際に障害者たちが直面する問題はとても微視 的な個人の日常と関連した問題から社会的な巨大な障壁に対する問題にまで広く関係するこ とができる。特に、知的障害者のように認知的な困難を持っている人たちの場合は、擁護に 接近しなければならない問題がはるかに多様化する。このような点のために擁護実践の重要 性が高まっているのだ。擁護実践は、障害者の問題にもっと近付くための努力だ。そして擁 護実践を分類して、多様なアプローチを提示するのは障害者を支援する全ての組織等が、そ れぞれに最も適した地点から擁護活動を始められるようにするためである。 “本稿は<金用得・尹ジェヨン・李ドンソク・李ホソン・金ジェフン。2013、知的障害者 のための権益擁護の原理と実践。EMコミュニティ>の内容を基に作成された。”
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