学 米倉 隆治・神山 医療法人 あさひ会 かねこクリニック 山角 医療法人 義順顕彰会 田上病院 牧野 独立行政法人国立病院機構 鹿児島医療センター 放射線科 術 拓郎 麻美 正興 はじめに , など画像診断装置の発達により, 撮影件数・スライスが増え, 我々放射線科医 は膨大な数の読影レポートを作成しなければ なりません。 従来のやり方ではこれらの仕事 量をこなすことは困難になっています。 キーボード入力の代わりに音声入力を使用 することで, レポート作成時間を大幅に短縮 することが可能になるといわれています。 現在もっとも一般的に使用されている放射 入力用マイク 線画像診断レポート音声認識システムは株式 会社アドバンスト・メディア社製 「 」 です。 単純 線, , , 血管造 影, 核医学の所見レポートの単語を約 語登録してあり, %以上の高い認識率を誇 ● 「 」 をインストール するに際し, 必要な スペックおよ び音声入力の方法 り, 業務効率を飛躍的にアップさせるといわ : ( れています。 ( ところが音声入力が有用ということは知っ : てはいるものの, 実際使ってみると, 使いこ いても 年ほど前, 「 以上のプロセッサ 以上 ( 」 を導 : 入しました。 しかし購入はしたものの, 当初 では 以上) 以上の空き容量 : ポート以上の空き は誰も十分に使いこなせませんでした。 (ハンドマイク使用時) 筆者は 年前から使用を開始し, 現在, 読 影レポートのほとんどを 「 )各日本語版 メモリ: なせていない施設も多いようです。 当院にお 以上) ドライブ:インストール時に必要 」 を使って作成するようになっています。 音声入力は専用のハンドマイクで行います。 本格的に使用できるまでに解決せねばなら 初期設定の状態ではマイクについているボタ なかった点, 及びその解決方法について, わ ンを押している間のみ, 音声入力が可能となっ れわれの具体的な経験, ています。 実際の方法は起動したアプリケー をここに紹介い たします。 ションの入力したい部位にカーソルを置き, マイクに話しかけることで入力されます。 そ 鹿児島市医報 第 巻第 号 (通巻 号) (平成 年) 学 術 の他, 筆者はあまり使用していませんが, こ 的にもマウスのホイールをまわすことはでき のハンドマイク一つでさまざまな作業をこな ず, ページングを行うことは全く不可能です。 せるよう, マイク本体に音声入力だけでなく, ただしこの点は音声入力を使用していても, 修正 挿入 削除といったコマンド操作機能も 通常の使い方をしている限りは同様です。 装備されています。 「 」 の初期設定ではマイク のスイッチを押した時のみ音声入力が ●迅速な放射線画像診断レポート作成の ための問題点とその解決方法について . モニター画像診断の問題点 に なります。 しかし音声入力を始めても, ペー ジングしようとマウスのカーソルを検査画像 のモニターに移動させてしまうと, スイッチ フィルム画像診断を行っていた時代にはフィ を離し, 音声入力を にしてしまう。 逆に ルムをみながら, 文字入力をパソコンで行っ ページングしている最中に音声入力を行おう ていました。 すなわち目でシャウカステンの とすると, 音声入力の方のモニターにカーソ 画像を追いつつ (すなわち一種のページング ルを移動させてしまうので, ページングはで を行いつつ), 常にレポートの文章を作成す きなくなってしまいます。 やはり画像スライ ることができました。 すなわち つのことを ス変更と, 文字入力は同時には行なえないの 同時に行うことができたわけです。 です。 ところがモニター画像診断の時代になり, . その解決法 この文字入力とモニターでの検査画像スライ 筆者はある時, ハンドマイクのスイッチボ スの変更 (次の画像に進む, あるいは前の画 タンをずっと押し続け, つまり音声入力を常 像に戻る, つまりページング。 通常はマウス に のホイールで行います) は, ともに同一のコ モニターでのページングを試みると, 一時的 ンピュータで制御します。 そのため, それぞ に画像が動かないことがありますが, しばら れ別のモニターを使用しているものの, 通常, くホイールを動かし続けると次第にページン この二つの作業を同時に行うことはできませ グが可能になることに気づきました。 すなわ ん。 たとえば, 同じコンピュータでワープロ ち音声入力による文字入力とスライス変更と ソフトと表計算ソフトを両方立ち上げていて いう, いままで同時に行えなかったことが, も, 同時には入力ができないのと同じ, 一方 可能になったのです。 の を の状態にし, 入力をしつづけたまま, 別 この点で音声入力はキーボード入力に比べ, にしていれば, 他方は使用 はるかにすぐれた方法となり, キーボード入 できないことと同じです。 文字入力を開始するとページングが行えず, 力を凌駕してしまいました。 逆にページングを行っていると, 文字入力が さらに初期設定では, いままで述べたよう できない。 一方が全く中断してしまい, スムー に, ハンドマイクのボタンを押している間だ ズなレポート作成とはほど遠い, きわめて効 け, 音声入力が可能ですが, 設定変更で一度 率の悪いものとなっています。 モニター診断 ボタンを押すと, 再び押すまで, 音声入力が は我々の診断能を飛躍的に向上させてくれま 常に したが, この点のみが逆に退歩してしまった す。 そうするとボタンをずっと押し続ける必 といえます。 要もなくなり, さらに使いやすいものになり 特にキーボード入力の際には文字入力を行 の状態になるように設定変更できま ました。 うと, 両手ともふさがってしまうため, 物理 鹿児島市医報 第 巻第 号 (通巻 号) (平成 年) 学 . 音声認識システムの認識率の低さ 術 文章ではだめで, すらすらと読みあげるとよ 次に音声入力を行う上で問題となるのが, いようです。 こういったやり方で行うと, メー %以上という認識率は確かに正 実際に使用してみた時の認識率の低さです。 カーのいう 読影医の思うように変換してくれなければ, しいようです。 診断の役には立ちません。 多くの放射線科医 もう一つ重要な問題があります。 作成する が音声入力の利用を頓挫してしまう理由はこ 文書が頭のなかですでに整理され完成されて れでありましょう。 いるのなら, そのまましゃべればいいわけで の す。 しかし, 実際の現場で, 読影し, 所見を , そしてミレニアムというアプリ 考えながらではそういった訳にはなかなかい ケーションを購入し, 音声入力での読影レポー きません。 そこでもう一つ考えついたことが, トの作成を試みたことがありますが, 実用に 検査画像を見て, 所見を考えながら入力して は至りませんでした。 そういった経験があり 作成した文章 (認識率の悪いもの) について ましたので, 「 は, それをメモと割り切ってしまうのです。 以前, 筆者はフィルム診断の時代に 」 について は大いに期待していました。 しかし使用して まともな文章になっていなくても自分で入 みると, その結果は同様であり, はかばかし 力したものであり, ある程度内容は推測がで いものではありませんでした。 メーカーは きます。 そこでそのメモをみながら, もう一 %以上の認識率とうたっていますが, はた 度, 最初から読み上げて入力するのです。 そ してどうしたらそういった数字になるのか, の時はほぼ完成した文章にできるため, スムー 全くわかりませんでした。 ズに読み上げることが可能となります。 キー . その解決法 ボード入力なら長い文章を最初からもう一度 学会の展示会場のアドバンスト・メディア 入力するとなると大変ですが, 読み上げる場 社ブースにおいて, メーカーの用意した文章 合にはあまり苦にはなりません。 そういった を読ませてもらうと, その認識率はきわめて やり方を行うとおもしろいように変換してく 良好でした。 その時, 思い出したのが, れるようになりました。 の を使用した時にも, コンピュータ . その後 のマニュアルのようなすでに書かれている文 いままで述べたような工夫を重ねたことで, 章を一気に読むと認識率は良好であったのに 音声入力は筆者にとって実用的で, もっとも 対し, 読影しながらのレポート作成に使用す 有力なツールとなりました。 現在, 画像診断レ ると満足なものとならなかったことです。 そ ポートのほとんどすべてを, 音声入力を使用 こで所見を考えながら, たどたどしい調子で して作成しています。 また筆者の行っている 入力するからだめなのではないかと考え, な やり方を教えることで, 当院の他の放射線科 るべくスムーズに所見を読み上げてみると確 医も音声入力を使用するようになっています。 かに認識率は改善されました。 実際, 我々が . 音声入力使用の利点と欠点 これまで使用してきましたが, 考えられる 人の話を聞く場合でも, ゆっくり考えながら たどたどしく話をされるよりは, スムーズに 利点として 話してもらった方が理解しやすいことはよく ①入力スピードがキーボード入力より遙かに 経験しますが, それと同じことなのかもしれ 速い。 ません。 検査画像をみながら, 「エーッ」 と 筆者も あるいは 「ウーン」 となど間延びしながらの 鹿児島市医報 第 の シリーズの時代に管理工学 研究所のワープロソフト松茸でレポート作成 巻第 号 (通巻 号) (平成 年) 学 術 を始めました。 決してキーボード入力が遅い ●まとめ 訳ではありません。 またブラインドタッチも 多量の画像診断レポートを作成しなければ 可能です。 しかしそれでも全く速度が違いま ならない我々放射線科医にとって, 音声入力 す。 さらに驚くことに, できる限り早口で入 は極めて有力なツールとなりえます。 しかし, 力した方が, 正確に変換されるようです。 実際に使用している放射線科医は意外と少な ②キーボード入力に比べ疲労感が全く違う。 いのが実情で, 使いはじめてもうまくいかず, キーボード入力では腕, 手, 肩などの筋肉 に疲労が生じますが, 音声入力では当然そう 使用されないままになっている施設もけっし て少なくないものと思われます。 いったことはありません。 同じ量の作業を行っ 我々は工夫を重ねることで, 音声入力を実 ても, 音声入力なら, 感じる疲労ははるかに 用レベルまで使いこなせるようになり, 現在 少なくてすみます。 また毎日の多量のキーボー レポートのほとんどは音声入力を使用して作 ド入力で腱鞘炎になっているものもいると聞 成しています。 きますが, そういった心配もありません。 ③所見の挙げ忘れが少なくなる。 施設ごとに使用している機器, コンピュー タ, ソフト, 環境などが異なるため, 筆者ら 画像をみながら入力していき, 気づいた所見 の経験がそのまま役に立つとは申せませんが, はメモとして内容が残っているため, 入力し 今回の内容が, 今後音声入力を使用する放射 忘れることもずっと少なくなりました。 線科医の参考になれば幸いです。 一方欠点としては ①予測のつかない変換をすることがある キーボード入力での変換間違いは, ほとん どが同音異義語なので, 単語の音 (おん) を 考えると元々入力した内容を容易に推測でき ます。 しかし音声入力では全く予測のつかな い変換をしてしまうことがあり, その単語だ けをみていると, 入力しようとしていた内容 の推測が困難な場合があります。 ②周囲に読影者がいるとうるさくて使用でき ない (と一般的に考えられている)。 しかしこの点については, マイクの音量設 定をかなり小さくしても十分に実用になるた め, 他の読影者のあまり邪魔にならない程度 の音量での使用が可能です。 全くの無音の環 境では若干気になるかもしれませんが (こう いった所ではキーボードを叩く音の方が問題 かもしれません), などが流れているよ うな場所ではほとんど問題となることはない と思われます。 鹿児島市医報 第 巻第 号 (通巻 号) (平成 年)
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