C−Mダイヤグラム上における細粒堆積物

堆積学研究会報,22/23号,54−64・(1985)
J.Sed.Soc・Japan,No・22/23,54−64・(1985)
C−Mダイヤグラム上における細粒堆積物
の基本分布
Basic Patterns()f the Fine Grained Sediments on the C−M diagram
喪
斎 藤 文 紀*
Yoshiki SAlTO
Abstract Basic patternS Ofthe fine grained sediments on the C−Mdiagram〉ln Which Cis theone−
percentile,M themedian ofthe grain−Size distribution,are Summarizedaspelagicsuspension(quiet
waterdeposits)anduniformSuSPensionbyPASSEGA(1957,1964)andPASSEGAetal・(1969)・How−
ever,theformeris,aShemensionedinhis‘69,spaper,basedonalittledataofthefinegrainedsediments・
ThecoursefromuniformsuspensiontopelagicsuspensionontheC−Mdiagramhasnotbeenclarified・
To revealthe grain sizeimage ofthe finegrained sediments,the fine grained sedimentsin the
variOus sedimentary environments were analyzedusingthesamemethodwithhighaccuracy,Sieving
method for the coarserpart than4.5phiandhydrometermethod fortherest・Depositsofvarious
environmentsarelacustline(LakeKasumigaura),bay−eStuarine(TokyoBay,Holocenemarinedeposits
intheLakeKasumigauraregion,LakeHamana),OPentypebay−innershelf(IshikariBay,SendaiBay),
slope−basin(offing of Shimokita Pen.,Offing of Shioyazaki)and pelagiC(Penrhyn Basin etc・)・
Itis revealed that:
1)PatternsofthesedataontheC−MdiagramdonotagreewithpelagiCsuspensionpatternofPASSEGA
et al.(1969)and arelike pattemS Of his basic data.
2)Among deposits ofvariousenviommentsinthe minimum valuesofthe mediangrainsize and
the maximum grain size,the following relationship are recognized.
M=PelagiC(redclay)<lacustline≦bay,eStuarine<hemipelagiC(slope,basin)<innershelf,Open
type bay
C:PelagiC(red clay)<lacus仙ne<bay,eStuarine<hemipelagiC(sIope,basin),inner shelf,OPen
type bay
3)Changesinmaximumgrainsizeaccompaniedwithdecreasingthemediangrainsizearelikeamong
thesedepositsexceptforHolocenemarinedepositsintheLakeKasumigauraregion,SOthesechanges
are considered to be the graln Size properties of suspended deposits・
4)DepositsofvariousenviTOnmentShasahostnodistributionsinthearea(C>4phi,M<8phi)on
the C−M diagram. 、
5)HolocenemarinedepositsintheLakeKasumigauraregionhasdistributionsclosetotheC=Mline
from4to8phiin the median grain size as compared with the others andthenarrowscatteringin
the C values,SO are COnSidered to be deposited under the constant flowing conditions・
*地質調査所・海洋地質部。茨城県筑波郡谷田部町東1−1−3 Marine Geology Department,GeologicalSurvey of
Japan1−1−3Higashi,Yatabe†Tsukuba,Ibaraki,305Japan
−54−
6)Basedonthedataofturbiditespreviouslyreported,turbiditeshasnearerpatternstotheC=M
linethansuspendeddepositsanddistrubutionsinthearea(C>4phi,M<8phi)ontheC−Mdiagram.
1.緒 言
CyClopedia ofSedimentology1978,0rigln Of
粒度分析結果から堆積物の運搬堆積機構を薇別し
たり,粒度分布変化を読みとる方法にC−Mダイヤ
グラム(両対数のグラフの縦軸に最大粒径値,横軸
に中央粒径値をとったもの)上での分布を用いる方
Sedimentary Rocks2nd ed・1980,Depositional
Sedimentary Environments2nd ed.1980,An
Introduction toSedimentology2nded.1982,
堆積学1971,地球表層の物質と環境(岩波地球科学講
法がある(PASSEGA1957,1964,PASSEGA et
座5)1979,堆積物の研究法1983など)。しかし
al・1969)。この方法によって異なった運搬過程
ながら,PASSEGAによって示された分布の中で,
(turbidity currents,bedload,graded suspe−
nsion,uniformsuspension,pelaglC SuSPnSion
など)や堆積環境が識別可能であるとされている。
細粒堆積物に関して,特にpelagicsuspensi。nの
分布位置については,後述するようにPASSEGA
以来の問題点を残したまま今にいたっている。
また,COarSetailgradingやdistributiongrad−
ingも容易に読みとることが可能である(Fig.1)。
そして,いくつかの堆積学の教科書において,この
手法が紹介されている(Ancient Environments
1968,Sedimentary Rock3rd ed.1975,The En−
本論文の目的は,様々な堆積環境における細粒堆
積物を精度の良い同一の粒度分析法を用いて分析し,
C−Mダイヤグラム上での各種環境下の堆積物の分布
位置を明らかにし,粒径像を把握することにある。
また,既に報告された資料を用いて,C−Mダイヤグ
Fig・1・A:堆積環境の違いによるC−Mダイヤグラム上での分布(SCHLEE1973より)
B:C−Mダイヤグラム上での粒径像と運搬様式(PASSEGAetal・1969より)
C:CTMダイヤグラム上に表現されるdistributiongradingとCoarsetail
許ading.
−55−
ラム上でのタービダイト泥との相異を明らかにす
PASSEGA(1964),PASSEGAandBORGH−
ることである。本論ではまずPASSAGAによっ
ETTI(1967)においては,Tyrrhenian Seaの水深
ていかにしてpelagic suspensionの分布位置が求
65−1400mの海底から採取した堆積物とAdriatic
められたかを述べ,次に今回行なった分析とタービ
Seaの水深約50mの大陸棚上から採取した堆積物
ダイト泥との比較について報告する。
の粒度分析結果を考慮して,pelagic suspension
の分布を示した(Fig.2)。
一方,PASSEGA and BYRAMJEE(1969)で
2.PASSEGAの論文に見られるPeJagic suspe−
は,この時点では活用できる粒度分析資料が少なく
nsionの分布 懐
PASSEGA(1957)はTRASK(1932)が示した
かつuniformsuspensionとpelagicsuspenSion
Lake Maracaiboの6ケ,Gulf of Venezuelaの
との明確な境界は存在しないと考えられるので,最
8ケの粒度分析結果から,最大粒径値(C:積算値1
大粒径値が31〟,中央粒径値が3〟より細かい堆積
界に対応する粒径)と中央粒径値(M:積算値50界
物に対してpelagic suspensionと見なしている。
に対応する粒径)を読みとり,C−Mダイヤグラム
しかし,論文中にはこのように記載してあるが,図
上に分布を示した(Fig.2)。そして,これらの資
の分布位置はそれとは異なっている(Fig.2)。
料からC−Mダイヤグラム上に基本分布の一つであ
これら一連の論文の中でC−Mダイヤグラム上に
るquiet water depositsの分布を示した。この基
表現されたquiet water deposits,pelagic susp−
本分布の特徴は,通例C=Mの線から離れていて,
ensionの分布を論文発表順に追っていくと,C値
分布は円型を示し,点が線状に並ばず分散型である
M値ともに,徐々に細粒な方向に分布位置を移動し
としている。PASSEGA(1957)では,他に,Bara−
ている(Fig.2)。これは,PASSEGA et al.(19
69)で述べているように,活用可能な粒度分析結果
taria Bayのquietlagoon deposits,Channel
Islands近くのbasin deposits,Red Sea北部の
が少なかったために生じたものと考えられる。
このようにPASSEGAの一連の論文においては
deep−Sea depositsの例を示している。
MEDIAN(micron)
Fig.2.PASSEGAらの論文に見られるquiet water deposits,pelagic suspension
の分布位置と,もととなった粒度分析値。()内は論文発表年。
ー56−
精度の良い細粒堆積物の粒度分析結果を数多く得ら
れなかったためにpelagicsuspensionの明確な分
布位置は示されていなく,uniformsuspension
からpelagicsuspensionへの移り変わりも不明確
なままになっている。
・試料である。
遠洋性堆積物として用いた試料は,GH82−4航海
(野原ほか1983)において中部太平洋海盆で採取し
たB80(Siliceous ooze),GH83−3(野原ほか
1984)においてManihikiPlateauで採取した886
(calcareous ooze),およびPenrhynBasinで採
5.試・資料
取した柱状試料(red clay,ZeOlitic clay),計48
C−Mダイヤグラム上でのpelagicsuspensionの
分布位置を求めるために各種堆積環境の細粒堆積物
の粒度分析を行なった。各種堆積環境の試・資料を
用いたのは,これらの差異・共通点を兄い出すため
である0対象とした環境は湖沼・内湾・開口性湾・
半遠洋および遠洋である。用いた試・資料は次の通
りである。
湖沼堆積物として用いた試料は,1981年に採取
した霞ケ浦の表層柱状試料(井内1982:st90)と
1982年に掘削採取した霞ケ浦ポーリング試料の最
上部(井内ほか1983‥KBl,KB3,KB5)の計20試
試料である。
7
4.分析法
細粒堆積物の粒度分析を行なう場合,分析法のち
がいや下処理の仕方によって同一の試料でも分析値
にかなりの差異(分散の程度やペレットなどの分解
の程度により・最高Md¢約2¢)が生じる場合が
多い。そこで,分析法は,すべての試料について,
4・5¢より粗粒な部分については1/4¢間隔でふる
い分け振とう法,4,5¢より細粒な部分については,
料である。
約0・5¢間隔で比重計法を用いた。今回の試料につ
いて行なった下処理は,次の様である。また,比重
内湾堆積物として用いた試料は,次の3種である。
1981年に採取した東京湾表層柱状試料(松本・斎
計法の分析精度を明らかにするために同一試料によ
る分析値のばらつきを求め,細粒堆積物の代表的な
藤1984)の最上部の31試軋1982年に掘削採取し
分析法であるピペット法との比較を試みた。それら
についても詳述する。
た霞ケ浦ポーリング試料(井内ほか1983)のうち,
KBl,KB2,KB3,KB4の計115試料,そして,19
84年秋エクマンパージ採泥器により採取した浜名
湖表層堆積物の9試料である。分析した霞ケ浦のボ
 ̄リング試料は,古鬼怒湾(ENDOetal.1981)
4−1 下処理および分析法
3)は,脱塩処理
採取した試料(
後,乾燥させて重量を測定し,過酸化水素を加えて
有機物を分解した。分解の手順は,おもにBADER
の堆積物であり,海成完新枕である。
etal・(1970)に従った。分解の完了は,堆積物が
開口性湾堆積物として用いた資料は,GH8ト2.3
航海(本座ほか1982)において,仙台湾で採取した
脱色され,団粒がなくなり,過酸化水素を加えても
発泡がないことを目安とした。分解が終了した試料
表層堆積物の粒度分析資料(西村ほかの未公表資料)
は,過剰の過酸化水素をホットプレートかウオータ
と大嶋ほか(1978)で報告された石狩湾の資料であ
ーバスにて完全に除去し,比重計法用の試料とした。
る。両資料共に,比重計法とふ射、分け振とう法と
を用いて粒度分析を行なっている。仙台湾の資料は,
筆者と同一の下処理,分析によってなされている。
比重計法は,12のシリンダーとCasagrande比重
計とを用いて,主にJISA1204に従った。分散剤に
はヘキサメタリン酸ソーダを用いた。補正は,分散
半遠洋性堆積物として用いた資・試料は,GH82_
3航海(本座ほか1983)において下北半島沖で採取
した表層堆積物の粒度分析資料(西村ほかの未公表
資札水深299m−1017m),同じくGH82−3下北
半島沖で採取した試料869(水深1085m),そして
GH81−3航海において塩屋崎沖で採取した試料P2
媒補正,メニスカス補正,温度補正を行ない,読み
とりは,約0・5¢間隔(静置後1,2,5,15,30,60,120,
240,480,1440分後の読み)で行なった。4−6¢の
読み取り値(1,2,5分後の値)に対しては,1440分
後の読み取り終了後,すべてについて再現性の確認
を行なった。粒子密度は,2.65g/Ⅷ3と仮定して計
17(水深2168m)である。これらの試・資料の分析
法と下処理はすべて同じであり,分析数は,計74資
−57−
算した。
比重計法による分析の終了した試料は,4.5¢の
ふるいを用いて水洗しながら分割した。ふるい上の
粗粒な部分は,乾燥後,1/4¢間隔のふるい(AS
TM規格)と電磁式ふるい振とう器(MRK−Re−
ts。h)を用いて,15分間振とう後各々のふるい上
の残査を0.01g感量の電子はかりを用いて秤量した。
4.5¢より細粒な部分は,一部の試料について・濃
集・乾燥後秤量した。
比重計法の分析精度を求め愛ために,霞ケ浦から
採取した均質と考えられる試料を6分割して分析し
た結果,6試料間のばらつきは,中央粒径値で7・77
±0.37¢(2¢以下同じ),砂含有率で12・4±2・1
界,シルト含有率で40.9±6.0野,粘土含有率で
46.7±4.8界,平均粒径値で8.46±0・64¢であっ
た。
4−3 ピペット法との比較
細粒堆積物の粒度分析法のうち最も一般的である
ピペット法との比較を東京湾の底泥の3試料を用い
Fig.3.東京湾底泥試料による比重計法とピペッ
て行なった。比重計法測定終了後,シリンダー内の
ト法との比較。
試料をそのまま下処理済のピペット法の試料とした。
ピペット法は,20cmまたは10皿の深度から5cc採取し,
値1界の粒径)と中央粒径値(粗粒部から積算値50
50。。のビーカーに入れ1050Cで乾燥後,0・1mg感
界の粒径)とを求めた。
量の電子ばかりを用いて秤量した。粒子密度を2・65
g/皿3と仮定して採取時間を設定し,4・5¢から9・5
5.分析結果
¢の粒径まで0・5¢間隔でこの手順を行なった。補
正は,温度補正,分散剤補正を行なった。結果を
粒度分析結果をC−Mダイヤグラム上におとした
のがFig.4である。各堆積環境ごとの分析結果のう
Fig.3に示す。図から明らかなように系統的な分析
ち中央粒径値が4¢以上の部分について述べる。
〔聯沼堆積物〕
値の差異はなく,かつ比重計法の分析誤差内である。
霞ケ浦:分析値の範囲は,中央粒径値で,7・1¢
今回の分析においては,沈降法(比重計法)とふ
るい分け振とう法とを用いて粒度分析を行なったが,
(7.5J上ト9.9¢(1.1/上),最大粒径値で2・3¢(202
各々の手法から求まる粒径が一致するという仮定の
〟)−6.4¢(11.9/‘)である。
を通過する粒径は,砕屑物が黄門球ではないことか
〔内湾堆積物〕
東京湾:分析値の範囲は,中央粒径値で・4・7¢
下に分析を行なっている。しかし,ふるいの目開き
ら「殻には目開きよりも大きくなることが知られて
(37.6〟)−9.4¢(1.4〟),最大粒径値で ̄0・48¢
いる(KOMAR etal.1984によると粒径で32%
(1396〟ト4.75¢(37・1〟)である。湾中部では,
増,0.4¢の差)。今回行なった粒度分析において
は,上記の差違が系統的に現われなかった。分析精
M:9±0.5¢,C:4±1.0¢に値が集中している0
度と分析範囲とを考慮すれば,細粒堆積物のC−M
ダイヤグラム上での分布(特に中央粒径値で4¢以
で4.2¢(55・8〟ト9・8¢(1・1〟),最大粒径値で
上)を明らかにすることに対して,特に影響はない
値が200〟を超えているものは,ほとんどが火山灰
と考えられることから,分析法の違いによる粒径の
霞ケ浦海成完新統:分析値の範囲は,中央粒径値
0.17¢(887〝ト4・6¢(42・4〟)である。最大粒径
(軽石・スコリア)の混合によるものである0中央
粒径値が4−8¢の間においては,C値,M値が(4
差異は,特に考慮しなかった。
測定された結果から最大粒径値(粗粒部から積算
−58−
¢,8¢)と(2.5¢,4¢)の2点を線ぷ線上にほと
モOJ0−月▼ 叫一−トZuU∝︼■嘗ち
kh胱art
Bay
T
50享.$慧慧鑑Ota●・1978}
ldh且hl汀はlOt al.1978)
川Iohtmura otal.MS)
き:罰琵≡蔓認慧r仙
川oIo¢OnOmarlnodopostt$I
A Lako Kaさum19aura
X Ponrhyn Ba$ln ote.
HEDIAN(mlでl011I
Fig.4 各種堆積環境の堆積物のC−Mダイヤグラム上での分布
線上に位置している点は,測定限界を約0.5¢以上
んど分布している。
浜名湖:分析値の範囲は,中央粒径値で,4・1¢
超えている試料であり,1Jlより細かいことを意味す
(60.3/‘)−8.7¢(2.4〟),最大粒径値で1・4¢(
る。分析値の範囲は,中央粒径値で,5.9¢(16.7/カ
383/上)−4.3¢(50・6/‘)である。
ー<10¢(1〟),最大粒径値で0.8¢(591/l)−8.2
〔開口性湾堆積物〕
¢(3.5/l)である。今回分析したsiliceous ooze
仙台湾:‘分析値の範囲は,中央粒径値で,4・1¢
においては,中央粒径値で8.6¢(2,6/上)−8.8¢
(58.6/上)−7.6¢(5.3/上),最大粒径値で−0・37¢
(2.3/り,最大粒径値で2.4¢(191/上)−2.6¢(162
(1293/上)−2.9¢(134/l)である。
jL)であり,Calcareous oozeでは,中央粒径値で
石狩湾:分析値の範囲は,中央粒径値で,4.0¢
6.0¢(15.3/‘)−6,3¢(12.8/鉦 最大粒径値では
0.76¢(590/上)−0.78¢(584ノ上)であった。それ以
(63/上)−7.5¢(5.5/l),最大粒径値で1・3¢(406
外の試料のうち,最大粒径値が50〟を超える試料の
〟)一3.8¢(72/‘)である。
〔半遠洋性堆積物〕
下北半島沖・塩屋崎沖:分析値の範囲は,中央粒
ほとんどは,ZeOliteやmanganeSe micr◎nOdule
を含有する試料である。
径値で4.2¢(56.5/上)−8.8¢(2.3〟),最大粒径値
で−0.25¢(1189/l)一3.5¢(87.1¢)である。最
大粒径値が400〟を超えるものは,そのほとんどが
6−1PASSEGAのpelaglC SuSpenSionの
分布との相異
火山灰(軽石)の混合によるものである。
今回行なった粒度分析結果とPASSEGAらの論
〔遠洋性堆積物〕
Penrhyn Basin他:Fig.4の中央粒径値1〟の
−59−
トTツー
8.考 案
文において示されたpelagic suspensionの分布位
置とを比べると,PASSEGAの一連の最后の論文
く波と潮との影響が強いためか,最大粒径値と中央
(1969)の分布位置には,今回の分析結果は,一点
粒径値の減少が見られない。半遠洋性堆積物(大陸
も分布しなかった。しかし,彼らが用いた基礎資料
斜面,海盈堆積物)においては,潮の流れと,生物
とは,よく似た分布を示す(Fig.2,4)
起源の粒子が増加することからか,同様に最大粒
径値の減少はあまり見られないと考えられる。
また,これらの堆積物の中で,霞ケ浦の海成完新
6−2 各種堆積環境の相異・共通点
各堆積環境において中央粒径値,最大粒径値のと
りうる最小の値をみると次のような傾向がみられる。
続の試料が中央粒径値4−8¢間において最大粒径
値が′トさいことを除くと,ほぼ似たような細粒化へ
中央粒径値:遠洋性(赤色粘土)1<湖沼≦内湾<半
漫
遠洋性<開口性湾
の分布を示している。各種の堆積環境に関係なく似
た傾向が見られることから,このような細粒化は浮
最大粒径値:遠洋性(赤色粘土)<湖沼<内湾<半
遠洋性・開口性湾
遊による運搬形態をもつ堆積物の一般的粒径特性と
中央粒径値でみると半遠洋性・開口性湾堆積物に
考えられる。浮遊物質においては,淘汰が悪くなる
おいては,9¢を超えるものは,見られなかった。
ことが「股に知られており(VISHER1969,SCH−
また,これらの堆積物においては,最大粒径値が4
LEE1973など),単一粒子としてよりも,多くが
¢よりも粗粒であった。
flocとして挙動していることが明らかにされさいる
湖沼・内湾堆積物では,生物起源の物質に比べて陸
(KRANK1973,1975など)。C−Mダイヤグラム
源物質が多く,波の影響も少ないことから中央粒径
上でのこのような分布は,その現われとみることが
値が約8¢を超えてから最大粒径値の減少が見られ
できる。
る。何故8¢を超えてこのような現象が見られるの
これらの堆積物の分布をみると,最大粒径値が4
かは問題として残るが,安定した静穏な環境の目安
かも知れない。開口性湾堆積物においては,おそら
¢より細かく,中央粒径値が8¢より粗い範囲内
には,ほとんど分布していない。これは浮遊による
十′七
▲
▲▲▲
□
。ロ:.ヽ、暮
▲句も□い三一人‘
□ 口 上▲■▲
▲▲
一一▲L
TURBtt)tTES
▲ Horn otl札1971
昌 ̄も日印
ロ Yamaもakl ot8日983
▲▲ 一一●●
H088○○t aL1980
0..._一 劇tlamtno●
●一一一一● Clayt8m暮n80
0
盲○■リー∈︼uJ−トNuU∝︼duZ0
50
m●an−mOdO
MEDtAN(mkrOnI
Fig.5.タービダイトのC−Mダイヤグラム上での分布0
−60−
堆積物の特徴かも知れない。
る。一つは,山崎ほかによって示されている,タービ
霞ケ浦の海底完新続の試料は,他と比べて中央粒
M線に沿っての変化が,C値をあまり
径値が4−8¢間において,最大粒径値が細かく,
C=M線により近い位置に分布している。また,最
他方は,HESSEらによって示されている,実理の発
大粒径値のばらつきも非常に小さい。これらのこと
達した部分の粗粒部(siltlamirae)が,C=M線
から,他の試料の堆積環境に比べて,比較的安定し
から弱干離れていくがほぼ沿うのに対して,細粒部(
た流速下に堆積したものと考えられる。
Claylaminae)は余り変化せず,粗粒部と無関係に
変えずさ
こ平行に細粒化するパターンである。
極細粒部に分布するパターンである。
6→3 Turbidite Mud との相異
既に報告されたTurbidite Mudの粒度分析結果
引用したこれらの分析例では,沖央粒径値が6−
を,C−Mダイヤグラム上にプロットしたのがFig.5で
8¢間において,最大粒径値が63/‘(4¢)よりも細
ある。図上でHORN et al.(1971)は,Hatterasと
かいが,最大粒径値が100〟を超える鼻析例も報告
Sohm深海平原から採取した級化タービダイトをピ
ペット法とふるい分け振とう法によって分析したも
されている(SHIKI et al.1982,PIPER1973,
のである。山崎ほか(1983)は,沖縄トラフにて採
1975)。
これらのタービダイトのC−Mダイヤグラム上での分
取した1ユニットのタービダイトの分析結果であり,
布と,今回分析を行なった細粒堆積物の分析とを比
分析法は,超音波ふるい振とう法である。HESSE
較すると,明らかにその分布形態は異なっている。
et al.(1980)は,Northwest Atlantic MidTOcT
すべてのタービダイトに当てはまるわけではないが,
ean Channelの自然堤防に発達した薬理泥の1ユ
ニットをOmniconalphaimageanalyserによっ
タービダイトの方が,中央粒径値で4−8¢間にお
いてよりC=M線に近く分布し,今回分析した試料
て分析したものである。これらをみると,分析法と
では分布しなかった最大粒径値が4¢よりも細かく
分析量は異なるが,全体はよく似た傾向を示してい
る。細かくみると,細粒部における変化には二種あ
分布する。
bay.0StU8ry
中央粒径値が8¢よりも粗い領域にタービダイトは
一一.霊芯h霊霊….小曲
Fig・6 各種堆積環境(湖沼・内湾・開口性湾・大陸棚斜面・海盆)の細粒堆積物の堆積
様式と細粒タービダイトのC−Mダイヤグラム上での基本分布と堆積様式。
(桑原,1966,REINECK and SINGH1980,0’BRIEN et al.1980,
AZMON1981,KRANK1984をもとに作成)
−61−
rTT・椚−
これらの差異は,今回分析をした試・資料が浮遊
7)各種堆積環境の細粒堆積物およびタービダイト
堆積物であり,flocとして多くが挙動しているため
について堆積様式をまとめるとFig.6のようになる。
に淘汰が悪く,流速が直接強く底質に影響を与えて
いない堆積物であるのに対して,タービダイトでは,
8.謝 辞
中央粒径値で4¢以上の砂と同じくC=M線に平行に
本論文を作成するにあたり,仙台湾および下北半
変化しているところでも,流速が直接堆積物粒子に
島沖の未公表の粒度分析資料を提示していただき,
また粗稿を読んでいただいた地質調査所海洋地質部
影響しており単粒子堆積を行なっている(KRANK
1984)ために,淘汰が良く,qFM線により近い
位置に分布しているものと考えられる。
これらの資料と桑原(1966),AZMON(1981)l●
の西村昭・池原研両氏,また,日頃から御教示いた
だいている水野篤行博士をはじめとする海洋地質部
の方々に厚く謝意を表する。
KRANK(1984)などを参考にして各種細粒堆積物
とタービダイトの堆積様式をまとめたのがFig.6で
ある。
引 用 文 献
AZMON,E.1981:Use ofclayfabricto distin−
guish turbidites from hemlPelagic sntstone,
7 結 論
gedi椚eJけ∂わ£リ,28,733−735.
1)各種堆積環境における,細粒堆積物の粒度分析
BADER,R.G.,GERARD,R.D.,BENSON,W.
結果から,C−Mダイヤグラム上の分布をみると,
E.,BOLLI,H.M.,HAY,W.WリROTHWELL,
PASSEGA et al.(1969)のpelagic suspension
W.T.Jr.,RUEF,M.H.,RIEDEL,W.R.and
の分布位置には,全く分布しなかった。
SAYLES,F.L1970:InLl.ReplS.DSDP.4,
2)これらの中で,最大粒径値と中央粒径値とに関
Washington.
して各値のとりうる最小粒径値をみると,次の傾向
が見られる。
BLATT,H.,MIDDLETON,G.andMURRAY,R.
1980:Orなi乃 0/∫edfmeがαり′月oc如,2乃d
中央粒径値:遠洋性(赤色粘土)<湖沼≦内湾<半
遠洋性<開口性湾
最大粒径値:遠洋性(赤色粘土)<湖沼<内湾<半
遠洋性,開口性湾
3)各種堆積物は,霞ケ浦の海成完新続を除いて,
中央粒径値の減少にともなう最大粒径値の変化は,
よく似ており,これらの変化は,浮遊堆積物の「股
的特性と考えられる。
4)これらすべての堆積物は,最大粒径値が4¢よ
ed.,Prentice−Hal1.782p.
ENDO,K.,SEKIMOTO,K.and TAKANO,T.
1981: Holocene stratigraphy and paleo−
environmentsin the Kanto Plain,ln relation
to theJomon TranSgreSSion,ノウoc.ITZSt.
肋J.∫Cf.〃f力0刀 と加九gαrr力∫cfリ17,1−16.
HESSE,R.and CHOUGH,S.K.1980:The
North−WeSt Atlantic Mid■Ocean Channel of
the Labrador Sea:ⅡDeposition of parallel
り細かく,中央粒径値が8¢より粗い範囲内には,
laminatedlevee−muds from the viscous sub−
ほとんど分布しない。
layers oflow density turbidity currents,
5)霞ケ浦海成完新続は,他の堆積物と比べて,中
∫gdfme乃わbgγ,27,697−711.
央粒径値が4−8¢間において,よりC=M線に近
く分布し,最大粒径値のばらつきも′トさいことから,
本座栄一・井上英二・有田正史・石原丈実,1982:
安定した流速下に堆積したものと考えられる。
6)既に報告されたタービダイトの粒度分析結果と
日本周辺海域の海洋地質調査活動一昭和56年度
の白嶺丸による調査航海−,地質ニュース,
今回分析した浮遊堆積物とを比較すると,タービダ
551,13−35.
イト泥のほとんどがよりC=M線に近い位置に分布
し,浮遊堆積物が分布しなかった最大粒径値が4¢
より細かく,中央粒径値が8¢よりも粗い範囲にも分
・木下泰正・有田正史・井上英二,1983:
日本周辺海域の海洋地質調査活動一昭和57年度
の白嶺丸による調査航海−,地質ニュース,
545,22−45.
布する。
−62−
HORN,D.R.,EWING,M.,HORN,B.M.and
HASHI,S.1980: Use of clay fabric to
DELACH,M.N.1971:Turbidites of the
distinguish turbiditic and hemlPelaglC Silt−
Hatteras and Sohm abyssalplains,WeStern
StOneS and silts,Sedimentology,27,47−61.
North Atlantic,Marine Geol.,11,287−323.
井内美部,1982:霞ケ浦の湖底をさぐる(2)火山灰
層を使って堆積物に年代の目盛りをうつ,地質ニ
ュース,551,56−63.
・湖沼堆積物研究グループ,1983:湖沼堆
積物の調査技術に関する研究一昭和57年度調査
研究報告−,地質ニュース,545,46−56.
大嶋和雄・横田節裁,1978:北海道石狩湾の堆積
物,地調月報,2管 501−529.
岡田博有,1979:堆積岩と堆積相一砕層岩,岩
波地球科学講座5,地球表層の物質と環境,97
−117.
PASSEGA,R.1957:Textuic as chracteristic
Ofclasticdeposition,Bull,Am.Assoc.Petrol.
KOMAR,P・D・andCUI,B・1984‥ Theanalysis
Geoわgねね,41,1952−1984. 一r■
Of grain▼Size measurements by sieving and
Settling−tube techniques,Jour.Sediment.
員打化止,54,603−614.
1964:Grain size representation byCM
PattemS aS ageOlogicaltool,Jour.Sediment.
タefro7.,34,830−847. 阜
KRANK,K・1973:Flocculation of suspended
Sedimentin the sea,Nature,246,348−350.
−1975:Sediment deposition from fl0−
and BYRAMJEE、11969: Grain−Size
image of clastic deposits,Sedimentology,13,
233−252.
cclatedsuspensions,Sedimentology,22,111−
,RIZZINI,A.and BORGHETTI,G.
124.
1967: Transport of sediments by waves,
1984: Grain−Size characteristics of
turbidites,In Fine・Grained Sediments:deep
Adriatic coastaishelf,Italy,Bull.Am.Assoc.
pefr()J.Ggobが∫ね,51,1304−1319.
WaterPrOCeSSeSandJbcies,eds.STOW,D.A.
PETTIJOHN,F.J.1975:SedimentaTy Rocks
V・andPIPER,D・J.W.,Geol.Soc.London
3rd ed.Harper &Row,Publishers.718p.
∫pec.九址,15,83−92.
PIPER,D・J・P・1973:The sedimentology of
桑原 徹,1966:沖積層の土質工学的性質とその
意義,第四紀研究,5,121−138.
Silt turbidites from theGulfofAlaska,Init.
Rep持.かぶかタ,18,847−867.
松本英二・斎藤文紀,1984:東京湾の人為的環境
変化一地質時代の環境変化との比較一 地詞月報,
− and BRISCO,C.D.1975:Deep−Water
COntinenta1−margin sedimentation,DSDP Leg
55,243−260.
宮本隆実・鈴木一久・志岐常正,1983:砂,砂岩
一粒度組成,堆積物の研究法,砕層性堆積物研
28,Antactica,Init.Repts.DSDP,28,727−
755.
REINECK,H,且 and SINGH,Ⅰ.B.1980:
究会編 地学双書24,164−212.
野原昌人・西村 昭・白井 朗・棚橋 学・山崎俊
嗣・池原 研・渡辺和明・盛谷智之,1983:深
βepo∫frわ〃αJged加g〃招けg乃γわ・0乃me乃J∫,2円d
海底鉱物資源に関する地質学的研究一昭和57年
SCHLEE,J.1973:Atrantic continental shelf
度研究航海(OH82−4)−,地質ニュース,545,
and slope of the Umited States−Sediment
textue ofthe northeasternpart.G.S.A.prof:
9−21,
・奥田義久・西村 昭・白井 朗・山崎俊
P叩er529し,64p‥
嗣・斎藤文紀・宮崎純一・盛谷智之,1984:深
SHIKI,T.YAMASAKI,T.and HISATOMI,K.
海底鉱物資源に関する地質学的研究一昭和58年
1982:Featuresofgrain−Size distributionand
度研究航海(GH83−3)−,地質ニュース,
mineralComposition of turbiditic sediments
from the Middle America Trench off Guate一
555,12−25.
0’BRIEN,N.R.,NAKAZAWA,K.andTOKU−
mala,九九月gpはβ且DP,67,537−548.
−63−
㌣サー
ed・Springer−Verlag,549p..
庄司力偉,1971:堆積学,朝倉書店,284p.
TRASK,P.D.1932:Originandenvironmentof
source sediments ofpetroleum,GulfPublish−
ing Company,Houston,Texas.
VISHER,G,S.1969:Grainsizedistributionand
deposition processes,Jour.Sediment.Petrol・,
39,1077−1106.
山崎貞治・志岐常正,1983:沖縄troughのター
ビダイトの粒度組成について(2),日本地質学会第
90年学術大会講演要旨(鹿児島),212.
−64−