IASBディスカッション・ペーパー「料金規制の財務上の影響の報告」 に対する意見 平 成 27年 1 月 15日 日本公認会計士協会 日本公認会計士協会は、国際会計基準審議会(IASB)の継続的な努力に敬意を表すと ともに、ディスカッション・ペーパー「料金規制の財務上の影響の報告」(以下「DP」 という。)に対するコメントの機会を歓迎する。 我々は、料金規制に関する特別な会計基準を設定するニーズが幅広く存在することは 認識している。しかしながら、IFRSにおいては、原則として、特定の産業にのみ関連す る会計基準を策定するべきではないと考える。IFRSを適用する際に産業固有の問題が生 じる場合もあるが、IFRSが原則主義であることに鑑みれば、そのような問題については、 IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い、他の類似する項目を 扱うIFRSや概念フレームワークの資産、負債、収益、費用の定義及び認識・測定に関す る考え方等を参考に個々の企業が会計処理を検討することが適当と考える。 仮にIFRSにおいて料金規制対象活動に関する会計基準を開発する場合であっても、そ の適用範囲は極めて限定的とすべきであり、基準設定の意図よりも拡大解釈されること で、多くの企業が行う料金規制対象以外の活動の会計処理に影響が及ぶことがあっては ならないものと考える。 以上の懸念に関連し、以下、DPの質問項目のうち、質問3から7及び質問9について コメントする。 - 1 - 質問3 このプロジェクトを進めるためには、IASB は、料金規制が具体的な会計処理のガ イダンスの開発が必要となる可能性のある権利と義務の組合せを創出するのかどう かに関して、焦点をより絞った議論のための共通の出発点を提供するために、定義 された種類の料金規制(セクション4 参照)に焦点を当てるべきであることに同意 するか(3.6 項から3.7 項参照)。 同意しない場合には、セクション3 で要約している料金規制の種類の多様性に IASB がどのように対処することを提案するか。 【コメント】 同意する。 IASB は、純粋なインセンティブに基づく料金規制スキームについては具体的な会計 処理の要求事項の開発への要望を受けていないことから、これに焦点を当てる必要はな い。一方で、混合型の料金規制(定義された料金規制)は純粋なインセンティブに基づ く料金規制スキームを除いたものであり、焦点をより絞った議論のための共通の出発点 として適切である(第 3.21 項、第 3.33 項及び第 3.38 項)。 質問4 2.11 項では、IASB は、市場における不十分な競争力を補うために使用される限 定的又は「市場」料金規制の形式について、特別の会計処理の要求事項の開発を求 める要望は受けていないと述べている(3.30 項から3.33 項参照)。 (a) この種類の料金規制は、著しく異なる経済環境を創出しないので、具体的な会 計処理の要求事項の開発を要しないということに同意するか。同意しない場合、 理由は何か。 (b) この種類の料金規制が具体的な会計処理の要求事項の開発を要しないことに同 意する場合、IASB がその代わりに具体的な開示要求の開発を検討すべきだと考え るか。 そう考える場合、どのような内容を提案するか、また、理由は何か。 【コメント】 (a) 同意する。 (b) 具体的な開示要求の開発を検討すべきと考えるが、関係者のニーズについてアウト リーチを行うとともに、既に基準化されている IFRS 第 14 号「規制繰延勘定」の適用 事例の検討が必要と考える。 - 2 - 質問5 4.4 項から4.6 項では、定義された料金規制の主要な特徴を要約している。これ らの特徴は、定義された料金規制が、一般目的財務諸表の利用者に目的適合性のあ る情報を提供するために具体的な会計処理のガイダンス又は要求事項が開発される 可能性のある権利と義務の組合せを創出するのかどうかについての、IASB の検討の 焦点となってきた。 (a) 定義された料金規制の記述が、料金規制スキームの適切な母集団を範囲に取り 込んでいると考えるか。そう考える場合、理由は何か。そう考えない場合、理由 は何か。 (b) 記述している特徴のいずれかを、特定の種類の料金規制スキーム又は料金規制 対象活動を定義された料金規制の範囲に含めるか又はそこから除外するために、 修正すべきだと考えるか。提案する特徴の修正を明示し、その根拠となる理由を 示していただきたい(特に、その特徴が、財務諸表利用者にとっての特定の情報 ニーズを生じる状況となる理由又はならない理由に言及のこと)。 (c) 定義された料金規制の範囲を確定するために含めるべきだと考える追加的な特 徴はあるか。あるいは、記述している特徴のいずれかを除外するか。追加又は除 外する特徴を明示し、その根拠となる理由を示されたい。 【コメント】 (a) 適切な母集団を範囲に取り込んでいるとは考えない。 質問3で回答したとおり、定義された料金規制は、それが実務で適用可能な定義と なっている限りにおいて、共通の出発点として適切である。しかし、現在 DP で示さ れている定義では、以下(b)及び(c)に対する回答に記載のとおり、ある企業が定義さ れた料金規制に該当するかどうかを実務において判断するには十分ではないと考え る。特に、定義された料金規制が拡大解釈されることにより、料金規制対象以外の活 動の会計処理が影響を受けることにならないようにすることが必要であると考える。 また、例えばある保険契約が、定義された料金規制に該当するような場合において、 保険契約に係る会計基準と料金規制に係る会計基準のいずれが優先して適用される のか、検討が必要であると考える。 (b) 以下の特徴については修正を検討すべきと考える。 ・ 供給のための有効な競争がない(第 4.4(a)(i)項)。第 4.36 項に記載のとおり、 有効な競争が「全くない」企業に適用範囲を限定するものとし、拡大解釈を防止す べきである。 ・ 財又はサービスの供給及び企業の他の料金規制対象活動の利用可能性及び質を維 持するための変数を設定する(第 4.4(b)項) 。これらは独占的な財又はサービスの - 3 - 提供においては不可欠の考慮事項ではあるが、企業が一般に提供する財又はサービ スにおいても法令等によって定められた安全基準や品質基準に従うものは多数存 在するため、それらとの相違について明確に区別できるよう、要件を修正すべきで ある。 (c) 以下の特徴については除外すべきと考える。 ・ 財又はサービスが顧客にとって不可欠である(第 4.4(a)(ii)項)。財又はサービ スが不可欠か否かについては主観的な判断を要するものであり、普遍的な適用がな されない可能性がある。したがって、当該特徴はあくまで例示として、定義された 料金規制の特徴からは除外すべきである。 また、以下の特徴については追加を検討すべきと考える。 ・ 料金規制を行う当事者が、国又は政府といった公的機関であるか否か。財務情報 の忠実な表現の観点からは、当事者の性質によって会計処理が変わることは望まし くない。しかし、それによってもたらされる情報が目的適合性があるのであれば、 例えば料金規制の当事者が国又は政府といった公的機関である場合に限り、当該基 準の適用を認めることも検討する価値はあるものと考える。同様の規定は現行 IAS 第 20 号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」や IFRIC 第 12 号「サービス 委譲契約」にもみられるものであり、我々は必ずしも賛同するものではないものの、 次善の措置として検討する価値はあると考える。 ・ 同様に、料金規制を行う当事者が国又は政府には該当しないが、その国の法令等 で定められた規制を行う場合についても、検討する価値があるものと考える。 質問6 4.62 項から4.72 項は、定義された料金規制の特徴から生じる権利及び義務の分 析を内容としている。 (a) IASB が考慮すべきだと考える追加的な権利又は義務はあるか。明示して、理由 を示されたい。 (b) 記述している権利と義務の組合せを会計処理するための具体的な会計処理のガ イダンス又は要求事項をIASB が開発すべきだと考えるか。賛成又は反対の理由は 何か。 【コメント】 (a) 権利及び義務の強制(第 4.73 項)について、明確な立法及び規制上の方針といっ た規制上の合意(料金ルール)が強制可能な権利と義務を創出するという分析には同 - 4 - 意する。しかし、料金規制下にはない民間企業が取引当事者との間で締結した商業上 の契約についても、当事者に対して強制可能な権利や義務を創出するといった点 (IFRS 第 15 号「顧客との契約から生じる収益」第 10 項)では同様の効果があり、 むしろ国や政府によっては民間企業が創出する権利や義務よりも強制力に劣る場合 もある。こうした点につき、両者の違いは何か、なぜ前者のみ特別な会計基準が必要 なのかについて、説得力のある分析を追加で実施すべきである。 (b) 我々は、IFRS においては、特定の産業のみに関連する会計基準の開発は原則とし て行うべきではないと考えている。しかしながら、仮に、料金規制について会計基準 を開発する場合には、(a)に記載のとおり、料金規制下にない民間企業が創出する権 利や義務との相違について明確なガイダンス又は要求事項を開発すべきと考える。 質問7 セクション5 は、本ディスカッション・ペーパーから受け取るフィードバックに 応じて、IASB がさらに開発を検討する可能性のあるいくつかの考え得るアプローチ を概説している。それぞれのアプローチのいくつかの利点と不利益を明らかにして いる。 (a) どのアプローチ(もしあれば)が、定義された料金規制の財務上の影響をIFRS 財 務諸表に最も適切に描写し、投資者及び融資者が投資及び融資の意思決定に役立 てるために最も目的適合性があると考える情報を提供する可能性が最も高いと考 えるか。回答の理由を示されたい。 (b) IASB が考慮すべき他のアプローチがあるか。その場合、それを明示し、こうし たアプローチがどのように投資者及び融資者に料金規制の財務上の影響に関する 目的適合性のある情報を提供できるのかを説明されたい。 (c) これらのアプローチのいずれかをさらに開発すべきかどうかを決定する前に、 IASBが考慮すべき追加的な利点又は不利益はあるか。その場合、それらを記述さ れたい。 資産・負債アプローチについてコメントする場合には、関連があれば、回答者の コメントが「概念フレームワーク」における資産及び負債の現行の定義又は2013 年 7 月に公表された「概念フレームワーク」ディスカッション・ペーパーで提案され た定義案を反映しているのかどうかを明示されたい。 【コメント】 (a) DP で議論されているアプローチは、いずれも目的適合性に欠けるものと考える。 ・ 無形資産として認識するアプローチは、規制繰延勘定残高が負の値になる可能性 - 5 - があること、活発な市場がない状況での再評価を行うために IAS 第 38 号「無形資 産」を修正する必要が生じることから適当ではない(第 5.40 項、第 5.41 項及び第 5.42 項) 。 ・ 料金規制機関が規定している会計処理を一般目的の IFRS 財務諸表において使用 することを認めるアプローチは、料金規制が要求している会計方針を IFRS の一般 的な要求事項に従って設定される会計方針に優先させることを許容又は要求する ことが必要になる(第 5.47 項)ことから実質的に業種別の会計処理を認めること につながるため適当ではない。 ・ 原価・収益の繰延・加速化を行う具体的な IFRS 要求事項を開発するアプローチ は、規制上の要求事項を反映させるように IFRS を修正することになり(第 5.55 項) 、 実質的に業種別の会計処理を認めることにつながるため適当ではない。 ・ 規制繰延勘定残高を IFRS 財務諸表に認識することを禁止するアプローチは、質 問3にある議論の共通の出発点を否定するものであり、仮に料金規制産業に関する 会計基準を開発する場合には、適当ではない。 質問9 本ディスカッション・ペーパー及び「概念フレームワーク」プロジェクトからの フィードバックを検討した後に、IASB がIFRS 財務諸表における規制繰延勘定残高 の認識を禁止すると決定するとした場合には、IASB は具体的な開示のみの要求事項 の開発を検討すべきだと考えるか。そう考えない場合、その理由は何か。そう考え る場合、どのような種類の情報が、投資者及び融資者が投資又は融資の意思決定を 行う際に目的適合性があると考えるのかを理由とともに明示されたい。 【コメント】 同意する。 どのような情報が目的適合性があるかについては、関係者に対して広くアウトリーチ を行うべきと考える。 以 - 6 - 上
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