当日配布資料(537KB)

高濃度に亜鉛を含む農作物の
新しい栽培技術の開発
Development of new cultivation techniques
to produce high-zinc containing crop plants
研究責任者:
中村 進一
(秋田県立大学 生物資源科学部)
コーディネーター:
菅原 久春
(秋田県立大学 地域連携・研究推進センター)
植物栄養学の研究が目指すところ
植物体内および植物を取り巻く生育環
境における元素の流れの研究を通じて,
現在より「良い農業」を行うための
技術を開発することを目指しています
(例) 付加価値の高い農作物の生産
農地の拡大
生産性の向上
など
元素動態を変えて植物に付加価値をつける
重金属元素の蓄積量を制御することで農作物は付加
価値を持つことができる。
×
有害重金属元素の茎葉部分(可食部)
への移行・蓄積を抑制する
必要な重金属元素の茎葉部分(可食
部)への移行・蓄積を促進する
研究のニーズ ~亜鉛摂取不足の問題
現代人の亜鉛摂取不足の問題
主な原因
食生活の変化
亜鉛を多く含む食べ物(貝
類、レバー)を食べる機会
が減少
亜鉛の摂取不足は味覚障
害、免疫力の低下等様々
な健康障害を引き起こす
食事摂取基準(厚生労働省)(2010年版)
現代の日本人は必須元素であ
る亜鉛の摂取不足の問題を抱
えている。
日々の食事(農作物)で
亜鉛の摂取量を増やすこ
とができないか?
グルタチオンとは?
グルタミン酸、システイン、グリシンの三種のアミノ酸
からなるペプチド
特徴
SH基(チオール基)(反応性に富む)を分子内に持つ
酸化型・還元型と異なる化学形態が存在する
植物におけるチオール物質の主な生理的機能
ファイトケラチンの前駆体、
グルタチオンは植物
有害物質の液胞への隔離、
体内の物質動態に
活性酸素の除去、
影響を与える物質
光合成の活性化
研究の着眼点_1
植物体のカドミウム処理によって、維管束組織である
篩管に存在するグルタチオン(GSH)濃度が増加した。
篩管内グルタチオン濃度
処理条件:
○:10µMCd
●:30µMCd
シンク組織(根、
未展開葉)の要求
に応えたチオール
化合物の積極的
な輸送では?
処理時間(hr)
Nakamura et al., 2005
研究の着眼点_2
GSH GSH
GSH GSH
GSH
GSH GSH
GSH
GSH
Cd
GSH
GSH
Cd
Cd
Cd
Cd
GSH
GSH
GSH
GSH
GSH
Cd
Cd
Cd処理に応答し
た篩管における
GSH濃度の上昇
植物の部位に特異的にGSHを与え
たらCd動態に影響が出るのでは?
新技術の元となる研究成果(研究シーズ)
植物体に部位特異的に与えたグルタチオンはカドミウ
ムと亜鉛の動態に影響を及ぼす。
根に与えた場合
葉に与えた場合
0.6
1.2
茎葉部分に
おける亜鉛の
蓄積を促進
カドミウム含量(µmol ・g -1DW)
亜鉛含量(µmol ・g -1DW)
1.6
0.8
0.4
茎葉部分におけ
るカドミウムの
蓄積を抑制
0.5
0.3
0.2
0.0
0.0
対照区
処理区
特願2011-156846
対照区
処理区
特願2008-193344
Nakamura et al., 2013
地上部の亜鉛含量(nmol/gDW)
地上部の亜鉛含量(nmol/gDW)
実験結果:植物へのグルタチオン処理が亜鉛の蓄積に及ぼす影響
対照区 4日 10日 4日 10日
葉処理
根処理
対照区 4日 10日 4日 10日
葉処理
根処理
植物体内の亜鉛動態を変える効果があるのは
葉へ部位特異的なグルタチオン処理
ポジトロンイメージング技術とは
ポジトロン(陽電子、e+)放出
検出器
核種で標識された物質につ
いて、消滅γ線をモニタリン
グすることで2次元分布をリ
アルタイムに(生きたままの
形で)計測
植物体内の対象元素の動
態を可視化してみることがで
きる技術
PETの植物版
今回の発表では亜鉛のポジ
トロン放出核種65Znを用いた
実験の結果を紹介
(本研究は日本原子力研究開発機構との共同研究)
ポジトロンイメージング技術を用いた亜鉛動態の可視化
GSH処理区
対照区
GSH処理区
対照区
葉へのGSH処理によって、植物体の地上部への
Znの移行が促進されている
植物における亜鉛の蓄積促進に関する従来技術の問題点
亜鉛剤を土壌に投入
植物にとっての他
の栄養元素の吸
収に影響が出て、
農作物の生育に
悪影響がでる可能
性がある。
遺伝子組み換え
作物の創製
遺伝子組み換え作
物は市場に受け入
れられるのか?
これらの技術は広く利用されるには至っていない。
新技術の特徴・従来技術との比較
本技術では、グルタチオンを植物の葉に部位特
異的に与えることによって植物が本来持つ物質
輸送能を活性化して、植物に蓄積する亜鉛量を
増加させることに成功した。
・ 遺伝子組み換え技術を用いる必要がない
・ 栽培(土壌)環境に及ぼす影響がない
・ 簡単な即効性のある方法で、蓄積する亜鉛
の量を増加させることができる
想定される用途
葉面散布剤
Zn
GSH
GSH
Zn Zn
Zn
GSH Zn
Zn
GSH Zn
GSH
Zn
葉にチオール
物質を与える
植物による亜鉛の地上部
への輸送を促進すること
によって茎葉部分(可食
部分)への亜鉛の蓄積を
促進する
本技術を用いることで、栽培環境に負荷をかける
ことなく高付加価値作物の生産を可能にする。
実用化への課題
葉面散布剤
GSH
GSH
GSH
GSH
GSH
・ 安全な葉面散布剤として
利用する方法の確立
GSH
GSH
・ 生産現場に負担のない、
簡単な方法(施用頻度・施
用期間)でグルタチオンの
効果を発揮させるには?
・ 使用するグルタチオンの
純度は(コストに影響)?
本技術に関する知的財産
発明の名称 : 植物体の茎葉部及び子実への
亜鉛蓄積促進栽培方法及び該
方法により生産した農作物
出願番号
公開番号
: 特願2011-156846
: 特開2013-21928
出願人
: 公立大学法人 秋田県立大学
発明者
: 中村 進一
企業様に期待すること
・ 様々な純度のグルタチオンの安定供給
・ グルタチオンを安全な葉面散布剤として
植物に施用する方法
の技術を持つ企業様との
共同開発を希望しています!
また、植物工場で付加価値作物の生産を
考えている企業様には本技術の導入が有
効であると思われる。
お問い合わせ先
秋田県立大学
地域連携・研究推進センター
コーディネーター 菅原 久春
TEL : 018-872-1557
FAX : 018-872-1673
e-mail : [email protected]