JPEC レポート JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 第 24 回 2014 年度 平成 27 年 1 月 13 日 マレーシアの石油・ガス産業と 2019 年竣工をめざすマレーシア RAPID プロジェクト 2014 年 4 月、マレーシア国営石油会社の 1. マレーシア経済 ·························· 1 Petronas は、ジョホール州南部で計画してい 2. エネルギー管理体制と国営企業 ···· 2 る大規模な石油ガス統合コンプレックスの 3. エネルギー需給 ·························· 3 Pengerang Integrated Complex(PIC)について 4. 経済変革プログラム···················· 7 最終投資決定(FID)を下した。PIC プロジェ 5. RAPID プロジェクト··················· 9 クトの中核には、 世界規模の石油精製・石油化 学統合開発計画である Refinery and Petrochemical Integrated Development(RAPID)が含まれ ており、2019 年の操業開始を目指して、同国石油ガス産業の最重要プロジェクトが動き出 した。2020 年までに先進国入りを目指すという「Vision 2020」に向け、2010 年に策定した 「経済変革プログラム(ETP:Economic Transformation Programme) 」に基づいて大型プロ ジェクトを進めるマレーシア石油ガス産業と RAPID プロジェクトを紹介する。 マレーシア経済 マレー半島南部とボルネオ島北部からなるマレーシアは、面積が約 33 万 km2 で日本の 約 0.9 倍、人口は 2,995 万人(2013 年)である。マレー系が約 67%を占め、中国系が約 25%、 インド系も約 7%居住している。1963 年に独立した後のマレーシアは、1960 年代に輸入工 業製品の代替を進め、1970 年代には外資を導入して輸出産業を育成し、1980 年代から 2000 年代初めにかけてはマハティール首相の強力なリーダーシップと長期政権による政治的な 安定を背景に、工業化の道を堅実に歩んだ。 1. もともと天然ゴムなどのプランテーションやスズなど鉱物資源に依存した経済構造を持 っていたが、国家主導による工業化・輸出産業の育成が進められた結果、アジア通貨危機 の 1998 年と国際金融危機の 2009 年を除き、経済は堅調な推移(図 1 参照)を示している。 マレーシア経済を支えてきた輸出産品も、機械やエレクトロニクス産業と原油、石油製品 や LNG が両輪となっており、バランスがとれていたことも有効に働いた。 成長率は 1980 年代後半から 1990 年代後半まで毎年 10%近くに達していたが、 2000 年代 に入ってからは 5%前後に鈍化している。さらに、慢性的な財政赤字や日用品への補助金、 国営企業への過度の依存、マレー系を優遇するブミプトラ政策などが問題とされてきた。 政府は 2010 年、新たな時代に対応すべく「政府変革プログラム(GTP:Government 1 JPEC レポート Transformation Programme) 」 、 「新経済モデル(NEM:New Economic Model) 」、 「経済変革 プログラム(ETP:Economic Transformation Programme) 」を策定、 「Vision 2020」に向けた 基本政策を打ち出している。この政府変革プログラムには、Pengerang Integrated Complex を含む石油ガスのハブ構想等が盛り込まれている。 図 1.マレーシアの GDP と成長率の推移 2. エネルギー管理体制と国営企業 2.1. 管理体制 マレーシアのエネルギー政策は、最高決定機関である首相府(Prime Minister's Department) の経済計画局(EPU:Economic Planning Unit)に置かれたエネルギー課(Energy Section) が担当しており、キーファンクションとして、以下の 5 点が掲げている。 2 JPEC レポート エネルギーセクターの持続可能な発展のための方針と戦略の策定 石油・ガス産業の発展促進 良質で経済的なエネルギーの適切かつ安定的な供給の確保 エネルギーセクターにおけるエネルギー効率向上と再生可能エネルギー利用の拡 大促進 5) エネルギー関連開発プログラムへの予算配分と達成状況の評価 1) 2) 3) 4) 電力エネルギーと環境技術および水資源はエネルギー・グリーンテクノロジー・水省 (KeTTHA:Ministry of Energy, Green Technology & Water)、再生可能エネルギーは持続可 能エネルギー開発庁(SEDA:Sustainable Energy Development Authority) 、鉱物資源は天然 資源・環境省(NRE:Ministry of Natural Resources and Environment) 、原子力は科学技術革 新省(MOSTI:Ministry of Science, Technology & Innovation)傘下の原子力庁(Nuclear Malaysia:Malaysian Nuclear Agency)が所轄している。また、電力およびガス供給産業の指 導監督機関として、エネルギー委員会法(Energy Commission Act 2001)に基づいてエネル ギー委員会(EC:Energy Commission)が置かれている。 2.2. 国営企業 国営石油ガス会社として 1974 年に Petroliam National Berhad(Petronas)が設立され、石 油開発業法(Petroleum Development Act)に基づいて石油資源保有権と精製・石油化学分野 における製造・販売権が付与されている。さらに 2011 年 4 月には、首相府直轄組織として 石油・ガス取引のサービス業務などを担当するマレーシア石油資源公社(MPRC:Malaysia Petroleum Resources Corporation)が設立され、アジア最大のハブ構築を目標に掲げている。 電力事業は、マレー半島を Tenaga National Bhd.(TNB) 、ボルネオ島北部のサバ州を Sabah Electricity Sdn. Bhd.(SESB) 、ボルネオ島北西部のサラワク州を Sarawak Electricity Supply Corp.(SESCO)が担当する。原子力発電計画の推進にあたり、2011 年 1 月に首相府直属 のマレーシア原子力発電公社(MNPC:Malaysia Nuclear Power Corporation)が設立された。 3. エネルギー需給 3.1. エネルギー需要 1970 年代には 1,000 万 toe 以下(石油換算トン、BP 統計、以下同様)であったマレーシ アの 1 次エネルギー消費も、1980 年代末には 2,000 万 toe 台、1990 年代末には 4,000 万 toe を突破し、2010 年には 7,750 万 toe、2013 年は前年比 1.4%増の 8,110 万 toe に達した。2,000 年以前は石油がエネルギー消費の過半を占めていたが、政府は石油の輸出量確保を目的と して石油の消費を抑制したため、天然ガスが急増し、現在では、石油と天然ガスがほぼ同 水準となっている(図 2 参照) 。 アジア金融危機以降、1999 年から 2013 年までの推移をみると、石油は 1999 年の 2,230 万トン(48.9 万 BPD)から 2013 年の 3,120 万トン(72.5 万 BPD)へ約 40%の増加だが、 天然ガスは 1,450 万 toe(161 億 m3)から 3,060 万 toe(340 億 m3)へ 2 倍以上の伸びとな 3 JPEC レポート った。これにより、2013 年のエネルギー消費に占めるシェアは、石油が 38.5%、天然ガス が 37.7%となった。 ただ、天然ガスも LNG として貴重な輸出産品であり、2005 年以降は消費が抑制され、 替わってこのところ急増しているのが石炭である。石炭消費は、1999 年の 190 万 toe から 2013 年の 1,700 万 toe へ、約 80 倍もの伸びを示し、2013 年は全体の 21.0%を占めた。この ほか水力が 2.6%、再生可能エネルギーが 0.4%ある。 図 2 1 次エネルギー消費の推移 マレーシアは、 National Energy Policy として、 エネルギー安定供給のためのソース多様化、 エネルギー有効利用と消費構造改善、エネルギー生産と利用における環境保護の 3 点を基 本方針としてきた。このなかで、石油の他、天然ガス、石炭、水力、さらに 5 番目として 再生可能エネルギーを利用して石油の消費を抑制するという Five-Fuel Diversification Policy を打ち出し、発電・産業用の天然ガスパイプライン建設(PGU) 、サバ州・サラワク州で の水力発電設備建設などの大型計画を推進するとともに、圧縮天然ガス(CNG)自動車の 普及も進めてきた。石油と天然ガスの使用抑制は今後も続ける方針で、石炭に続いて水力 やバイオマスなど再生可能エネルギーの拡大に努めている。 電力需要は今後も拡大を続けるが、政府は省電力機器などで電力消費量を削減を掲げて いる。電源構成は、石油と天然ガスが減少し、石炭が大幅に増加しているが、石油と天然 ガスの使用抑制は今後も継続し、政府は再生可能エネルギーの拡大に努める方針を打ち出 している。 4 JPEC レポート 3.2. エネルギー生産 石油生産は、1990 年代に入って伸びが鈍化し始め、2004 年の 3,630 万トン(77.6 万 BPD) をピークに下降傾向に転じている。 これにより2013年の石油生産は、 前年比2.2%減の2,960 万トン(65.7 万 BPD)にまで落ちている。前述したように石油需要はかなり抑制されてい るものの、増加は避けられず、生産減により、2010 年以降は、消費が生産を上回っている (図 3 参照) 。 図 3 石油需給の推移 2013 年末現在の石油の確認埋蔵量(BP 統計、以下同様)は、37 億 bbl である。R/P(可 採年数)は 15.3 年であり、世界平均の 53.3 年と比べかなり低い。原油の埋蔵量減少を避け るため生産を一定以下に抑制する National Depletion Policy もあり、埋蔵量は 2008 年頃まで は安定していたが、2009 年以降は一段低い水準となっている。マレーシアは、大水深開発 や増進回収(EOR) 、マージナル油田開発などを進めてはいるが、石油の増産は困難な時 代に入ったといわざるを得ない(図 4 参照) 。 図 4 原油埋蔵量の推移 天然ガス生産は LNG 生産開始とともに急増し、一気に石油生産を追い越したが、2005 年頃から鈍化傾向が出てきており、大水深開発やブルネイとの共同開発エリアなどの新プ ロジェクトが期待されている。2013 年のガス生産は、前年比 4.2%増の 6,210 万 toe(691 5 JPEC レポート 億 m3)となった。2005 年以降、ガス需要は抑制され、ほぼ横ばいで推移している(図 5 参照) 。これにより 2013 年の LNG 輸出は過去最大の 338 億 m3 を記録した。 図 5 天然ガス需給の推移 2013 年末現在の天然ガスの確認埋蔵量は、1.1 兆 m3 で、R/P は 15.8 年である。R/P は世 界平均の 54.8 年と比べ大幅に低く、近隣の LNG 輸出国であるインドネシア(41.6)やブ ルネイ(23.6)と比べてもかなり低い。埋蔵量は、石油と同様に 2008 年頃までは安定して いたが、2009 年以降は、それまでの半分以下の水準に落ちている(図 6 参照) 。大水深開 発など新たなプロジェクトを進めているが、いずれ減産に転じるものとみられる。 図 6 天然ガス埋蔵量の推移 また、マレーシアには需要が拡大している石炭資源も存在するが、ボルネオ島のサラワ ク州に偏在しており、大部分は褐炭と亜歴青炭である。さらに、輸送インフラに欠ける内 陸の坑内採掘が多いため、開発・輸送が困難で、多くを輸入に頼っている。 同国は石油・ガス資源に恵まれていたため、原子力は最後のオプションとしてきたが、 石油の減産に続いて天然ガスの生産減も予測されるなか、2009 年 7 月には国家エネルギー 政策のなかに原子力を位置づけることを決定した。政府は 1,000MW×2 基の原子力発電所 建設を検討しているが、 福島第 1 原発事故以降、 同国でも原子力への懸念が広がっており、 6 JPEC レポート 当初の計画より遅れが出ている。 今後は、石油や天然ガスの生産減に対応し、石油・ガスのバリューチェーン創設など持 続可能なエネルギー産業の新たな展望を切り開いていく必要があり、その一環としてマレ ーシアをアジアにおける主導的な石油・ガスのハブとして育成していくことが考えられて いる。 経済変革プログラム マレーシア政府が 2010 年 9 月から開始した経済変革プログラム(ETP)は、2020 年ま でに1人当たり国民総所得(GNI)を 15,000 ドルに引き上げ、先進国並みの水準にするこ とを目指すという国家変革プログラムの一環として策定されたもので、総額 4,440 億ドル の投資事業を実施し、330 万人の雇用を創出するとしている。 4. ETP は、下記に示す 12 の国家重要経済分野(NKEA)を中心とし、各 NKEA には 6〜 20 件、計 149 のエントリー・ポイント・プロジェクト(EPP)が設定されている。12 の NKEA のなかでは、石油・ガス・電力産業の比重が最大で、EPP を実施することで、同分野の GNI は、2009 年の 1,100 億リンギット(RM)から 2020 年には 1,310 億 RM 増加して 2,410 億 RM になると見積もられている。これは全体の約 19%を占める。 1) 石油・ガスおよびエネルギー(電力)産業 7) 商業 2) パームオイル・天然ゴム産業 8) 教育 3) 金融サービス 9) ヘルスケア 4) 観光 10) コミュニケーションコンテンツ・インフラ 5) ビジネスサービス 11) 農業 6) 電機・電子産業 12) 大クアラルンプール・首都圏開発 石油・ガス・電力分野に関して ETP は、前述した石油の生産減や天然ガス生産の頭打ちに 対応することを大きなテーマとしている。ETP によれば、マレーシア経済は石油と天然ガ スが中軸を担い、GDP の 19%を占めているが(2009 年) 、今後は生産減に対応していくた め、持続可能なエネルギー・プラットフォームに向け石油・ガスのバリューチェーンを強 化していく必要があり、マレーシアをアジアにおける主導的な石油・ガスのハブとし、石 油貯蔵、ロジスティックス及びトレーディングの機能を強化し、ガス需要拡大と新たなガ スベースの産業育成に向けて LNG 輸入を開始する。また、これと同時にエネルギーの効 率化と多角化、持続可能なエネルギーミックス、再生可能エネルギーや原子力発電の検討 を進めるとしている。 ETP は同分野において、EOR による増産、小規模油ガス田開発、探鉱活動強化、トレー ディングハブ構築、マレー半島部ガス供給事業、石油ガス・サービス及び機器産業育成、原 子力発電、再生可能エネルギーなど 13 の EPP を設定している(表 1 参照) 。このなかで EPP 4 として設定されているのが、貯蔵・トレーディングハブ構築である。2011 年 4 月に設 7 JPEC レポート 立されたマレーシア石油資源公社(MPRC)がプロモートし、Dialog Group や Royal Vopak、 Petronas などが参加している(図 7 参照) 。 表 1 ETP における石油・ガス・エネルギー部門の EPP 図 7 EPP4 における貯蔵・トレーディングハブ計画 8 JPEC レポート 5. RAPID プロジェクト 5.1. RAPID の概要 ETP の一環として、マレー半島ジョホール州の南東部、Pengerang に、原油や石油製品、 LNG の一大貯蔵・トレーディングハブを建設しようという計画を進めており、その中心と なるのが 30 万 BPD の製油所と製造能力合計 770 万トン/年の石化プラントからなる Refinery and Petrochemical Integrated Development(RAPID)計画である。現在、マレーシア には、表 2 に示す通り 7 ヶ所の製油所(1 ヶ所閉鎖、1 ヶ所ビチューメン生産用途)がある (表 2 参照及び図 8 参照) 。RAPID が完成すれば、同国最大の最新鋭製油所となる。精製・ 石化コンプレックスと同時に LNG 再ガス化プラント、熱併給発電所、空気分離プラント、 給水システムやユーティリティも建設する(図 9 参照) 。 表 2 マレーシアの製油所 図 7 マレーシアの製油所の概略配置図 9 JPEC レポート 図 9 RAPID プロジェクトの概念図 5.2. 石油精製事業 RAPID を推進する Petronas は、最終投資決定(FID)を 2013 年 6 月、操業開始を 2016 年後半としていたが、FID は 2014 年 4 月 3 日にずれ込み、操業開始は 2019 年前半になる 見込みである。計画遅延の理由は明らかにされていないが、工業用水の確保や参加パート ナーの調整、用地確保にあたっての村落の移転、事業環境の変化などによるものではない かといわれている。FID により、Petronas 傘下の PRPC Refinery and Cracker によって、6 月 から10 月にかけて、 RAPID の精製ユニットや関連設備のEPCC 業務が相次いで発注され、 関連事業のパートナーなども決定している。主要コントラクターは以下の通りである。 ・ Technip/Fluor まず 6 月に、Technip が Fluor と共同でプログラム・マネジメント・コンサルタント (PMC)業務を受注した。2012 年 3 月の基本設計(FEED)業務に続く受注である。 両社は、RAPID のユーティリティおよび接続設備、オフサイトに関する設計・機材調 達・建設マネジメント(EPCm)業務も受注した。 ・ 中石化煉化工程(集団)股份有限公司(SEG) 中国石油化工集団公司(Sinopec)傘下の EPC コントラクターである SEG が、原油 処理能力年間 1500 万トン(30 万 BPD)の常圧蒸留装置、同 880 万トン(17.6 万 BPD) の残油水素化脱硫装置、水素回収・供給装置および燃料油系統に関する設計・機材調 達・建設工事・試運転(EPCC)業務を 13 億 2,900 万ドルで受注した。工期は 52 カ月 の予定である。 2013 年 11 月の入札には、Tecnicas Reunidas や CTCI なども参加したが、積極的な海 外事業戦略を進めている SEG が、激しい競争を勝ち抜いた。SEG は、2012 年 9 月に Sinopec がエンジニアリング部門を再編・強化するため設立した企業で、2013 年 5 月に 10 JPEC レポート ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香港で上場している。 Tecnicas Reunidas 水素化精製設備、 接触改質設備、 水素製造設備、 SAT ガス設備および付帯設備の EPCC 業務を約 15 億ドルで受注した。各ユニットは、灯油水素化精製設備、軽油水素化精製 設備、ナフサ水素化精製設備、分解ナフサ水素化精製設備、連続触媒再生式接触改質 設備(CCRU)などから構成されるとみられる。 中鼎工程股份有限公司(CTCI)/千代田化工建設/Synerlitz(Malaysia)/MIE Industrial 14 万 BPD の残油流動接触分解設備(RFCCU) 、6.5 万 BPD の LPG 処理設備および プロピレン回収設備などを約 13 億ドルで受注した。 Petrofac 3 基の硫黄回収設備、2 基のアミン再生設備、2 基の酸性水処理設備、各 1 基の液体 硫黄貯蔵設備と硫黄固化設備の EPCC 業務を 5 億ドル強で受注した。2013 年 11 月の入 札では Saipem が有力とも伝えられたが、Petrofac が受注に成功した。 なお、 2012 年9 月に、 Jacobs Engineering が3 基の硫黄回収設備に対してSUPERCLAUS 法をライセンスすると発表している。Jacobs が、基本設計のパッケージを提供、欧州 規格に適合した環境負荷の低い石油製品の生産が可能になる。 東洋エンジニアリング(TOYO) Toyo-Malaysia と共同でスチーム・クラッカー・コンプレックス(SCC)を受注した。 年産 110 万トンのエチレン製造設備、分解ガソリン製造設備、ブタジエン抽出設備、 ベンゼン抽出設備、MTBE 製造設備、用役および付帯設備の設計・機器資材調達・工事・ 試運転(EPCC)までの一括受注で、契約金額は約 2,400 億円である。EPCC 商談は、 2013 年 12 月の入札を経て、中国 SEG を筆頭に、CTCI および TOYO の争いとなった が、TOYO の実績が評価され、逆転受注に成功した。 プロセスは、 エチレン、 分解ガソリン、 ブタジエンが CB&I 傘下の Lummus Technology、 ベンゼンが GTC Technology、MTBE が CDTech(Lummus に統合) 。同パッケージのプ ロセスに関しては、2012 年 7 月に Lummus Technology がライセンス供与に合意したと 発表している。また、2014 年 10 月に、CB&I が TOYO からエチレンヒーターのエンジ ニアリングおよび供給業務を 2 億ドルで受注した。 Punj Lloyd Group RAPID プロジェクトのタンク群建設を 351 億 5,000 万ルピー(約 5 億 8,100 万ドル) で受注した。各種タンク建設のプロジェクトマネジメント(PM)から EPC 業務まで を含む。 その他 オフローディング用ジェティや建設用キャンプ、アクセスロードなどを Zelan Construction、 UEM Builders/Projek Penyelenggaraan Lebuhraya、 WCT、 Syarikat Ismail Ibrahim、 Bumi Dagang、Gadang Engineering が受注した。 また、横河電機はマレーシア子会社の Yokogawa Kontrol (Malaysia)を通じて、RAPID プロジェクトの制御担当会社 (MAC:Main Automation Contractor) に選定された。 11 JPEC レポート 5.3. 石油化学事業 前述したようにエチレンプラントは Lummus プロセスで TOYO が建設するが、中間原料 や合成樹脂などの石油化学製品についても参加企業や EPC コントラクター選定が進めら れている。 2012 年 3 月に、Petronas と BASF は、RAPID においてイソノナノール(INA) 、ポリイ ソブチレン、非イオン系界面活性剤、メタンスルホン酸、炭素繊維用原糸(プリカーサ) など特殊化学品事業を実施することに基本合意したが、 これは 2013 年 1 月に撤回が正式発 表された。それとほぼ同時に、Evonik Industries が RAPID に参加することに合意、一部は 撤退した BASF の特殊化学品事業を肩代わりすることが決定した。計画によれば、年産 25 万トンの過酸化水素(HP)と 11 万トンの 1-ブテンおよび 22 万トンの INA の生産プラン トを建設する。HP は、Evonik と ThyssenKrupp Uhde が共同開発した環境負荷の低いプロピ レンオキサイド(PO)を生産する HPPO プロセスに、1-ブテンはポリエチレンのコモノマ ーに使用する。 伊藤忠商事は 2012 年 5 月、RAPID の一部石油化学事業において Petronas と共同で FS を 行う覚書を締結した。2 社間の覚書に加え、タイ PTT Global Chemical(PTTGC)を含めた 3 社間の覚書も締結した。ただ、PTTGC は 2014 年 2 月、採算性が低いとして RAPID から の撤退を表明した。 INEOS Technologies は 2012 年 11 月、RAPID のリニア低密度ポリエチレン/高密度ポリエ チレン(LLDPE/HDPE)プラントに同社の Innovene G プロセスを供与すると発表した。 LLDPE/HDPE プラントは、エチレン誘導品のメイン・プラントの 1 つで、規模は年産 35 万トンとされている。 直後の 2012 年 12 月には LyondellBasell がポリプロピレン(PP)プラントに同社のプロ セスを供与することに合意した。2014 年 12 月に生産能力は年産 90 万トンで、Spherizone および Spheripol の両プロセスを使用すると発表された。 2015 年 2 月までに FEED を完了、 2015 年 11 月から EPCC 作業を開始し、2018 年 7 月の生産開始を目指す。 2012 年 7 月には Eni の石油化学子会社である Versalis が RAPID での合成ゴム・エラスト マー事業に基本合意し、2013 年 11 月に出資契約を締結した。Petronas 側が 60%、Versalis が 40%を出資し、Versalis のプロセスを使用して 4 系列のプラントを建設すると発表して おり、溶液重合 SBR(S-SBR)やエチレン・プロピレンゴム(EPDM)などを生産するもの とみられる。 このほか、エチレンオキサイド(EO)とエチレングリコール(EG) 、フェノール、ビス フェノール A とポリカーボネートなども計画されている。 12 JPEC レポート 5.4. 関連事業 FID 以降、関連事業も具体化へ向けて進んでいる。 ・ 熱併給発電所 Petronas は、2914 年 6 月に Pengerang 熱併給発電所(PCP)を Siemens/Siemens Malaysia/MMC Engineering のコンソーシアムに発注、11 月に起工式を行った。PCP は 1220MW の発電能力と毎時 1,480 トンの蒸気発生能力を持つ。4 ユニットのうち 1 号ユ ニットは 2017 年半ばに完成し、残り 3 ユニットも RAPID が操業を開始する 2019 年ま でにコミッショニングを終える予定である。 ・ 貯蔵タンクターミナル すでに、Dialog Group が 46%、Royal Vopak が 44%、Johor State Secretary Inc(ジョホ ール州)が 10%を出資し、フェーズ 1 となる 130 万 m3 の貯蔵タンクターミナルと深海 バースを建設、2014 年 6 月に完成した。Dialog E&C が、設計・機器調達・建設・コミッ ショニング(EPCC)業務を担当した。 これに続いて、Petronas が同ターミナルのフェーズ2に参加することを決定、2014 年12 月にDialog Group および Royal Vopak との間で出資契約に調印した。 これにより、 Petronas が 40%、Dialog が 25%、Vopak が 25%、ジョホール州が 10%を出資して 210 万m3 の貯蔵タンクターミナルと12のバースを建設する。 完成は2019年の予定である。 ・ LNG 輸入・再ガス化ターミナル Dialog Group 傘下の Dialog LNG は 2014 年 11 月、Petronas 傘下の Petronas Gas が進め る Pengerang の LNG 輸入・再ガス化ターミナル計画に参加することに合意し、Petronas Gas が 65%、Dialog LNG が 25%、ジョホール州が 10%で事業を進めることになった。 ターミナルの LNG 受入能力は年間 350 万トンで、貯蔵容量 20 万 m3 の LNG タンク 2 基および再ガス化プラントなどからなる。総投資額は 8 億 700 万ドルである。 また、Petronas Gas は Whessoe Engineering/Science-Tech Solutions/韓国三星物産 (Samsung C&T)のコンソーシアムに Pengerang ターミナルの EPCC 業務を 4 億 8700 万ドルで発注した。操業開始は 2017 年第 4 四半期を予定している。 ・ 空気分離ユニット Petronas Gas が 2014 年 11 月に Linde との間で合弁事業に基本合意した。主に酸素と 窒素を PIC のユーザーに供給する。 生産能力は、 酸素が日量 1,600 トンと窒素が同 1,800 トンで、2018 年第 4 四半期に操業を開始する。 13 JPEC レポート <参考資料> (1) Economic Planning Unit http://www.epu.gov.my/en/tenaga1 (2) KeTTHA http://www.kettha.gov.my/ (3) 経済変革プログラム http://etp.pemandu.gov.my/ (4) Petronas http://www.petronas.com.my/ (5) MPRC http://www.mprc.gov.my/ (6) Dialog Group http://www.dialogasia.com/ (7) 東アジアの石油産業と石油化学工業 2014 年版(東西貿易通信社) (8) East & West Report 各号(東西貿易通信社) 以上 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析 したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected] までお願いします。 Copyright 2015 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2014 年度 第 25 回)は 「イランの石油・エネルギー産業」 を予定しています。 14
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