山水電気 プリメインアンプ AU-D907X DECADE 電解コンデンサ・FET・可変抵抗器交換及び電圧調整 筆者:高城柾之 - はじめに この文書は高城が独自に回路を調べ、必要な部品を選定し、実際行った作業を まとめたものである。よって記載されている内容は、メーカー指定の修理代理 店による正式な整備マニュアルとは異なる。 この文書を見てアンプの部品交換や調整をし、状態の悪化・破損・故障・修復 不能(簡単に言えば使い物にならなくなる)など、いかなる場合に陥っても、 筆者:高城柾之は一切責任を負わないものとする。 また、この文書全てまたは一部内容の引用、無断複写・転載を禁じる。 - 注意 バランスアンプなので、 COLD を Earth と共通にしてはならない。ショートし、 トランジスタが破損する。 - 文書内に出てくる略称説明 F-○○○○ 基板番号 VR 半固定抵抗器 C コンデンサ FET 電界効果トランジスタ μF 静電容量の単位(読み:マイクロ ファラド) Ω 抵抗器の単位(読み:オーム) V 電圧の単位(読み:ボルト) NP 無極性(読み:ノンポーラ) BP 両極性(読み:バイポーラ) HOT プラスの電位(読み:ホット) Earth 基準点(0V)GND(グランド)とも言う(読み:アース) COLD マイナスの電位(読み:コールド) NP と BP は同じ意味で、極性の指定が無く、2 極ある端子がどちらもプラス・ マイナスの電位に対応しているというもの。 今回は主に電解コンデンサの交換となる。 使用する部品のメーカーは東信工業、UTSJ オーディオ用ハイグレード(85℃) シリーズ。耐圧及び必要な容量が無い場合、ニチコンのミューズシリーズ(Kz や FG グレード)を使用する。もともと使われている部品が手に入らない場合、 代替品として規格を満たす部品を選定し使用する。 なお部品を固定するための接着剤には、当時トルエンが含まれていたため、各 部品の端子が腐食している場合がある。断線の可能性があるので見つけ次第交 換する。 - プリント基板(番号)と交換対象の部品 F-4266 (Lch) VR 100Ω B カーブ 1個 VR 470Ω B カーブ 1個 C 35V 10μF 6 個 → 耐圧 50V のものに交換(同容量) FET NEC μPA68H → シンガポール製μPA68HA(L ランク)に交換 F-4267 (Rch) VR 100Ω B カーブ 1個 VR 470Ω B カーブ 1個 C 35V 10μF 6 個 → 耐圧 50V のものに交換 FET NEC μPA68H → シンガポール製μPA68HA(L ランク)に交換 F-4268 C 6.3V 100μF 2 個 → 耐圧 16V のものに交換(同容量) F-4269 C 6.3V 100μF 2 個 → 耐圧 16V のものに交換(同容量) F-4553 C NP 10V 100μF 4 個 → ミューズの BP に交換(同容量) C NP 50V 1μF 1 個 → ミューズの BP に交換(同容量) C 50V 4.7μF 2個 C 16V 33μF 1個 C 100V 0.1μF 2個 C 100V 0.47μF 2個 C 50V 1μF 1個 F-4296 VR 1KΩ B カーブ 4個 C 35V 10μF 4 個 → 耐圧 50V のものに交換(同容量) C 50V 470μF 4個 C 50V 100μF 2個 F-4299 C 50V 220μF 14 個 C 50V 470μF 8個 F-4298 VR 100Ω B カーブ 4個 C 25V 100μF 8個 C 25V 10μF 4個 C 35V 470μF 4個 C 50V 100μF 4個 C 16V 100μF 2個 F-4398 C 25V 10μF 4個 C 16V 100μF 6個 C 35V 100μF 4個 補足:ペア FET(2SK146)のメタル缶を割ると、2SK147 が 2 つ出てくる。 2SK147 の代替は 2SK363 または 2SK369 が使用できる。交換・取り付けをす る際は IDSS を測定し、同じ値のものを熱結合しペアとして使う。 熱結合は高城の場合、FET を向かい合わせにし、シリコングリス で接着。外側は銅テープを巻きタイラップで固定した。 - 調整項目・調整箇所・測定箇所 調整を行う前に、十分アンプをヒートランしておく。(約 1 時間) 矢印 調整・測定箇所 ○ 調整箇所 □ 測定箇所 プリアンプセクション Center DC 0V Adjust EQ Lch・Rch 測定箇所拡大 中央のピンは共通なので電圧計の マイナス端子を、上と下のオレンジ 矢印のピンは電圧計の+端子を接 続。 0V±5mV に調整する。 調整はオレンジの○で囲んだ基板番号 F-4298 の 100Ωの VR で行う。 Center DC 0V Adjust CONTROL Lch・Rch 測定箇所拡大 □で囲んでいるコネクターに電圧計を当てて測定。白と黒のケーブルが通って いる端子に当てる。 Lch および Rch を測定して、0V±5mV に調整する。 調整箇所はオレンジの○で囲んだ基板番号 F-4298 の 100Ωの VR で行う。 パワーアンプセクション HOT-COLD DC 0V Adjust 測定箇所拡大 スピーカー端子の HOT 端子 と COLD 端子に電圧計を当 てる。 Lch および Rch を測定して、0V±5mV に調整する。 調整はオレンジの○で囲んだ基板番号 F-4266(Lch)および F-4267(Rch)の 100Ωの VR で行う。 HOT-Earth DC 0V Adjust スピーカー端子の HOT 端子と Earth に電圧計を当てて測定をする。 Lch および Rch を測定して、0V±5mV に調整する。 調整はオレンジの○で囲んだ基板番号 F-4266(Lch)および F-4267(Rch)の 470Ωの VR で行う。 Bias Current DC 20mV Adjust 測定箇所拡大 3 本ピンのうち、両脇の 2 本に電圧計を当てて測定する。バランスアンプのため Lch・Rch ともに 2 カ所ずつ、計 4 カ所測定を行う。 20mV±2mV に調整する。 調整はオレンジの○で囲んだ基板番号 F-4296 の 1kΩの VR で行う。 - 作業を終えて Center DC 0V Adjust EQ Lch・Rch 半固定抵抗の回転角に対し数値の変動が大きいものの、規定値に入れることは 可能。ただし温度による数値の変動が大きい。 Center DC 0V Adjust CONTROL Lch・Rch 比較的楽に 0V に調整することが可能。 電圧の変動が極めて少なくほぼズレが生じないため、調整する機会は他の項目 と比べて少ない。 HOT-COLD DC 0V Adjust 比較的楽に 0V に調整することが可能。電源を投入し、スピーカーリレーが動作 した直後は DC が漏れているものの、時間が経過するにつれどんどん数値が 0V へ近づいてゆく。温度による変動がある程度見受けられる。 HOT-Earth DC 0V Adjust 半固定抵抗の回転角に対し数値の変動が大きいものの、規定値に入れることは 可能。ただし温度による数値の変動が大きい。 Bias Current DC 20mV Adjust 比較的楽に 20mV に調整することが可能。電圧の変動が極めて少なくほぼズレ が生じないため、調整する機会は他の項目と比べて少ない。 - 交換した部品たち - 外した電解コンデンサと、50V 470μF の電解コンデンサ比較画像。 銀色の電解コンデンサが今回使用した東信工業 UTSJ である。 外した半固定抵抗(青色)と NP 電解コンデンサ(水色)。グリー ンの電解コンデンサが今回使用 したミューズの BP である。 左が取り外した NEC 製の μPA68H。 右は今回使用したシンガポ ール製のμPA68HA。 - 最後に 部品交換・調整前はプロテクト解除まで 12 秒かかっていたが、交換・調整後は 7 秒程度で解除され音が出るようになった。なお、スピーカーを接続して左右の 音量バランスが悪い場合、スピーカーリレーの接点を洗浄すると解決する可能 性がある。 AU-D907X DECADE は 1985 年製のため、現在では手に入らない部品(特に FET)が多く、今後は代替品を入手することすら困難になるだろう。 山水電気は 2014 年 7 月に破産手続き開始決定を受け倒産してしまったが、手元 には自分にとって最高の製品が残っている。今後は自分の手でメンテナンスを しようという気持ちから、部品交換と調整に踏み切った。 今回、一部の FET と電解コンデンサ全てを交換したことで、出力される音が驚 くほど変わった。かつての力を取り戻したかのように力強くスピーカーを駆動 するようになり、ほぼベストに近い状態になったと確信している。 - 山のごとき不動の理念と水の如き潜在の力 - 山水電気 Sansui INTEGRATED AMPLIFIER AU-D907X DECADE TWIN DIAMOND BALANCED CIRCUIT
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