ゲームの理論(2) 展開型ゲーム

「初級ミクロ経済学 3」(宮澤和俊)
第 23 講
2015/1/16
ゲームの理論 (2) 展開型ゲーム
逐次手番ゲームを説明する.展開型ゲーム (extensive form game) という.
例 1(男女の争い)
男
女
映画
映画
100, 50
サッカー
0, 0
サッカー
20, −10
50, 100
前回紹介した男女の争いゲームに手番を導入する.最初に女が映画,サッ
カーのいずれかを選択する.次に男が,女の選択を観察したのち,映画,サッ
カーのいずれかを選択する.利得が確定する.ゲームの構造は樹形図で表現
できる(板書参照).
後手番の男の立ち位置は,先手番の女の選択に依存する.女が映画を選択
したときの左の立ち位置を P ,サッカーを選択したときの右の立ち位置を Q
とする.男の戦略とは,単なる映画,サッカーの選択ではない.点 P での選
択と点 Q での選択をペアにして,すべての可能性を書き尽くさなければなら
ない.例えば,点 P では映画,点 Q ではサッカーを選択するという戦略を
(映, サ) と表現するとしよう.男の戦略は 4 通り.ゲームは次のような標準
型ゲームとして表現できる.
男 (映, 映)
女
映画
サッカー
問題 1
(映, サ)
(サ, 映)
100, 50
0, 0
(サ, サ)
20, −10
50, 100
利得表を完成し,ナッシュ均衡を求めよ.
2. 信用されない脅し
(サッカー,(サ, サ))はナッシュ均衡である.いったん均衡が達成される
と女も男も戦略を変える誘因を持たないから.しかし,この均衡は現実的だ
ろうか.男の (サ, サ) 戦略は一種の脅しである.女が脅しを信じればサッカー
を選んでくれる.しかし,女が映画を選び,男の立ち位置が点 P で確定し
たならば,戦略 (サ, サ) はもはや脅しとして通用しない.信用されない脅し
(incredible threat) という.均衡概念を改良した方が良い.
3. 部分ゲーム完全均衡
樹形図を下から部分に分けて最適戦略を導出する.点 P における男の選択
は映画,点 Q における男の選択はサッカー.男の最適戦略は (映, サ) であ
る.このときの女の最適戦略は映画である.均衡は(映画,(映, サ))の 1 つ.
部分ゲーム完全均衡 (subgame perfect equilibrium) という.後手番のプレー
ヤーから順に問題を解いていくので,後ろ向き帰納法 (backward induction)
という1 .
1第
19 講のシュタッケルベルク均衡を参照せよ.
1
問題 2 (ゼロ和ゲーム)
個人 B
個人 A
1
I
II
−10, 10
40, −40
2
−30, 30
20, −20
先手番が個人 A,後手番が個人 B であるとする.樹形図を作成し,部分ゲー
(1, (II, I))2
ム完全均衡を求めよ.
4. 繰返しゲーム
個人 B
個人 A
C
C
100, 100
N
0, 150
N
150, 0
50, 50
2 人の個人が協調 C ,非協調 N を選択する同時手番ゲームを考える.ナッ
シュ均衡は (N, N ) である.望ましい均衡 (C, C) は達成されない.世の中そ
んなに非協調ばかりだろうか.そうは思わない.日本人は助け合って生きて
いる.囚人のジレンマを解消するアイデアはないか.
上のゲームを何度も繰り返すゲームを考える.以下の戦略を仮定する3 .
(1) 相手が協調するならば,こちらも協調する.
(2) 相手が非協調を選択したら,次回からはずっと非協調を選択する.
最初の状態が (C, C) だったとして,これは維持されるだろうか.結論は個
人が将来をどのくらい重視するかに依存する.割引因子を 0 < δ < 1 とする.
(C, C) が繰返されるときの総利得の割引現在価値は,
100 + 100δ + 100δ 2 + · · · =
100
1−δ
である.
ある時点で非協調を選択し,その後 (N, N ) が繰返されるときの総利得の
割引現在価値は,
150 + 50δ + 50δ 2 + · · · =
150 − 100δ
1−δ
である.上の方が大きくなるのは,
1
<δ<1
2
(1)
のとき.(1) 式が満たされるとき,両者ともに協調関係を壊す誘因を持たな
い.(C, C) は維持される.δ が大きいとは将来を重視するということである.
目先の利益を追わず将来を重視する姿勢を持ちましょう.
講義資料
http://www1.doshisha.ac.jp/˜kmiyazaw/
2 後手番が得をするゲームもある.second
mover advantage という.
3 トリガー戦略という.
2