MicroRNA-31は大腸癌治療の 有望なバイオマーカーとなりうる 札幌医科大学 医学部 消化器・免疫・リウマチ内科 講師 能正 勝彦 1 従来技術とその問題点 • 抗EGFR抗体薬は転移性大腸癌において用いられる分子 標的治療薬であり、 EGFRに結合してそのシグナルを阻害 し、抗腫瘍効果を発揮すると考えられている。 • 抗EGFR抗体薬の投与対象症例は限定されており、 EGFRシグナルの下流に位置し、それを活性化させる KRAS遺伝子変異がない大腸癌となっている。 • しかしながら、同シグナルを活性化する分子異常はKRAS 遺伝子変異以外にも存在するため、その感受性を予測す る新たなバイオマーカーの開発が必要と考えられる。 2 大腸癌のEGFR下流シグナルにおける遺伝子異常 抗EGFR抗体薬 セツキシマブ パニツムマブ EGF系増殖因子 EGFR(受容体) 変異型KRAS がん細胞 BRAF 核 細胞増殖 抗EGFR抗体薬は変異型KRASをもつ大腸癌には無効である 3 EGFR下流シグナル伝達 • 近年,抗EGFR抗体薬がKRAS (codon12/13)野生型大腸癌の治療 に用いられているが、KRASのminor mutation(codon61/146)に加 え、NRAS、BRAF の遺伝子変異やPI3K/AKT経路で重要な働きをす るPIK3CA遺伝子変異により耐性を生じると報告されている。 • よってEGFR下流のシグナル伝達経路に対する研究は分子標的薬剤 における個別化医療や新たな治療標的を探索する上で重要である。 RAS RAF MEK ERK Cell Proliferation EGFR PIK3CA AKT mTOR Cell Growth 4 新規バイオマーカーとしてのmicroRNAの役割 • MicroRNA(miRNA)は21-25個の塩基からなるnon-coding RNAの一種であり、その異常は多くの癌で報告され新規バイオ マーカーとして注目されている。 • しかし大腸癌のEGFR下流シグナルの遺伝子異常を制御する microRNAはほとんど解明されていない。 pre-miRNA Drosha Dicer Exportin 5 pri-miRNA unwind mature miRNA RISC 5’Cap AAAAA ORF RISC Translational repression 5’Cap AAAAA mRNA cleavage 5 大腸癌のアレイ解析によるBRAF 変異群と野生型群のmicroRNA発現 microRNA発現 No. microRNA (miR Base ID) BRAF 変異群 BRAF 野生型群 Fold change (変異群/ 野生型群) P 1 hsa-miR-31-5p 29925 89.3 335.0 0.009 2 hsa-miR-215 7.65 0.10 74.6 0.001 3 hsa-miR-151-3p 1312 24.4 53.8 0.003 4 hsa-miR-31-3p 77.3 2.14 36.1 0.002 5 hsa-miR-539-5p 370 7.57 48.9 0.021 6 hsa-miR-661 3125 91.8 34.1 0.011 7 hsa-miR-197-3p 4.78 0.16 29.2 0.002 8 hsa-miR-483-3p 605 21.9 27.6 0.032 9 hsa-miR-185-5p 15.4 0.56 27.3 0.024 10 hsa-miR-223-3p 10.5 0.40 25.9 0.005 Nosho K et al. Carcinogenesis. 2014 6 大腸癌におけるmiR-31のこれまでの報告 • MicroRNA-31 (miR-31) -5pは消化器癌だけでなく、様々な癌で その発現異常が報告されている。 Valastyan S et al. Cell. 2009 Creighton CJ et al. Cancer Res. 2010 • 大腸癌においてはその発現亢進が明らかとなっており、 oncogenicな働きをするmicroRNAと考えられている。 Cekaite L et al. Neoplasia. 2012 Goel AJ et al. Gastronterology. 2012 • しかしながら大腸癌のEGFR下流シグナルにおけるその働きや 大腸癌の生命予後や分子診断のバイオマーカーとしての報告は これまでになされていなかった。 has-microRNA-31-5p 7 大腸癌の遺伝子変異によるmiR-31発現の比較 miR-31-5p発現 (mean±SD) *P < 0.0001 148±327 63±246 37±59 BRAF 遺伝子 変異群 (N=39) KRAS 遺伝子 変異群 (N=202) KRAS& PIK3CA 遺伝子 変異群 (N=33) 22±99 PIK3CA すべての 遺伝子が 遺伝子 変異群 野生型の群 (N=407) (N=40) 8 大腸癌のmiR-31発現による予後解析 Kaplan-Meier生存曲線 Survival probability 1.0 0.8 Log-rank P = 0.0013 0.6 0.4 低発現 Q1 Q2 Q3 Q4 miR-31-5p 発現 0.2 高発現 0 1 2 3 4 5 years Nosho K et al. Carcinogenesis. 2014 9 細胞増殖 1.8 * P = 0.0001 1.6 1.4 negative control miR-31阻害薬 1.2 * 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0h 24h 48h 72h 96h Nosho K et al. Carcinogenesis. 2014 10 抗EGFR抗体薬を投与した転移性大腸癌におけるKRAS、BRAF、NRAS 遺伝子変異の有無とmiR-31発現、無増悪生存期間との関係 無増悪生存期間 Survival probability 1.0 KRAS、BRAF、NRAS いずれか 一つの遺伝子変異を認める群 N = 17 (20%) miR-31 低発現群(すべて変異なし) miR-31 高発現群(すべて変異なし) 0.8 0.6 Log-rank P = 0.049 miR-31 高発現群 (3遺伝子すべて変異なし) N = 6 (7%) 0.4 0.2 0 10 20 30 40 months 高発現群 N = 11 (13%) 低発現群 miR-31 低発現群 (3遺伝子すべて変異なし) N = 60 (72%) N = 72 (87%) 11 新技術の特徴・従来技術との比較 • microRNA-31(miR-31)-5pは大腸癌のBRAF 遺伝子変異や不良な 予後と相関し、EGFR下流シグナルを制御する可能性も示唆された。 • またmiR-31阻害薬は大腸癌細胞株を用いたアッセイにおいて有意な 抗腫瘍効果を示した。 • 本来であれば抗EGFR抗体薬の効果が期待されるKRAS 、BRAF、 NRAS 遺伝子がいずれも野生型の群においてもmiR-31高発現症例 はその無増悪生存期間が有意に短縮されることが明らかとなった。 12 想定される用途 • 従来の遺伝子変異解析にmiR-31-5pを加えることで、抗EGFR抗体 投与例におけるより正確なコンパニオン診断の実現が期待される。 • またmiR-31は一部の大腸前癌病変でも高発現していることから糞便 等を利用した超早期分子診断への応用も可能と考えられる。 13 実用化に向けた課題 • 現在、大腸癌のパラフィン包埋ブロックからのmicroRNA抽出、 miR-31の測定は可能。しかし、miR-31高発現群のカットオフ の設定が未解決である。 • よって今後、更に症例数を増やし、適切なカットオフの設定を 行う必要がある。 14 企業への期待 • 現在、我々が使用しているmiR-31阻害剤は 実験レベルの薬剤であるため、ヒトの人体へ の投与可能なものに改変する必要性があり、 その技術をもつ企業との提携を希望する。 • またmiR-31阻害薬の病変部位への局所的な 投与を可能にするドラッグデリバリー等の技 術を持つ、企業との共同研究も希望する。 15 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称: 大腸癌を治療および/または診断する ための組成物ならびにその利用 • 出願番号 : JP2014/065615 • 出願人: 北海道公立大学法人 札幌医科大学 • 発明者: 能正勝彦、鈴木拓、山本博幸、篠村恭久 16 お問い合わせ先 札幌医科大学 附属産学・地域連携センター 和田 一葉 TEL 011 - 611 - 2111 FAX 011 - 611 - 2282 e-mail [email protected] 17
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