「1型糖尿病の起源」 今年最後のテーマ抄読会は,1 型糖尿病はどうして始まるのか?という疑問の解明に関し,これまでの定説と 最近報告された疾患感受性 MHC と抗原ペプチド register に関する論文をまとめてみました。 引用文献: GI Bell et al. Diabetes. 1984; 33(2):176-83, Pugliese et al. Nature Genetics 1997; 15:293-297, Moriyama H et al PNAS 2003; 100.18:10376-81, Noso S et al Diabetes 2010; 59:2579-87, Wegmann DR et al. Eur J Immunol 1994;24:1853-7, Wong FS et al. Nat Med 1999;5:1026-31, Abiru N et al. J Autoimmun 2000;14:231-7, Nakayama M et al. Nature 2005;435:220-3, Lovitch SB et al. Immunol Rev 2005;207:293-313, Mohan JF et al. Nat Immunol 2010;11:350-4/ J Exp Med 2011;208:2375-83, 1 型糖尿病のはじまりの過程では,これまで,①胸腺でのインスリン発現低下が,自己反応性 T 細胞のネガティブセレクションからの逸脱を促進し,疾患感受性を亢進すること,②インスリン の B 鎖 9∼23 番目のアミノ酸ペプチド(B:9-23 ペプチド)が,NOD マウスの膵島浸潤 CD4+/CD8+ T 細胞の主要抗原であり,この B:9-23 ペプチドこそが,1 型糖尿病のはじまりに必須な primary epitope であることが,Eisenbarth らの研究で証明されてきました。しかし,B:9-23 ペプチドを 認識する自己反応性T細胞が,どうやって胸腺でのネガティブセレクションから逃れ,さらに,膵 島局所で活性化されるのかは解決されない謎でした. 近年, Emil R. Unanue らは,NOD マウス膵島に浸潤する複数の CD4+T 細胞クローン株を樹立し, その中に,インスリンそのものに反応する type A T 細胞株だけでなく,インスリンそのものには 反応しないが,B:9-23 ペプチドのみに反応する type B T 細胞株の存在を同定し,type B T 細胞の みが病原性を有することを見出しました.NOD の MHC(ヒトの HLA に相当) class II である I-Ag7 は,ペプチドを提示する溝構造に特異性を持ち, register と呼ばれる複数の結合様式を有します が,type A T 細胞は,高親和性 register;B:13-21 を,type B T 細胞は,低親和性の register; B:12-20 を認識していました.これらの結果より、彼らは,胸腺では,インスリンそのものを抗原 として B:13-21 のみが提示され,認 Peripheral Tissue Thymus ß cell mTEC 識する type A T 細胞は,ネガティブ Pro-insulin セレクションにより排除されます が,type B T 細胞は,ネガティブセレ Secretory granule Insulin protein Conventional Peptide クションから逃れることが可能であ る.一方,膵島局所のβ細胞では,イ islet-APC Non-conventional Peptide I-Ag7 B:13-21 High affinity register Type A T cell “Type A” T cell depleted by Apoptosis ンスリン分泌顆粒内に大量の抗原が 存在し,インスリン精製の過程で,分 Type B T cell “Type B” T cell escapes negative selection B:12-20 low affinity register 解,切断が行われる結果,膵島 APC 上 に 偶 発 的 に , 低 親 和 性 register B:12-20 が提示されてしまい,不幸に Activation of “Type B” T cell leading to autoimmune T cell response も、type B T 細胞が,活性化される のではないかと、考えました。他の 研究室でも,I-Ag7 と低親和性 register,病原性T細胞について報告が相次ぎ,この仮説は、自己 免疫疾患の起源のメカニズムの一つとして,注目されるようになってきました。(文責:阿比留)
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