弾塑性応答解析に用いる地震動の強さの評価に関する検討

2
3
総 合 都 市 研 究 第2
6
号
1
田5
弾塑性応答解析に用いる地震動の強さの評価に関する検討
1 はじめに
2 応答解析用地震動とその破壊力を表わす指標
3 構造物の復元力特性
西川孝夫*
4 応答解析結果とその検討
関
5 まとめ
要
崇夫材
約
構造物の弾塑性域にわたる応答解析を行う場合,その応答は地震動の破壊力と構造物の
力学的特性との関係に支配さ机
しかも地震動の周期特性の影響を強〈受けるために,地
震動の破壊力はその周期特性をも考慮したものであることが望ましい。そこで地震動の破
壊力を表わす指標として 4種類を選以周期特性の異なる地震動の破壊力を同等に評価す
るためには, どのような指標で表わしておくのが適切かそれぞれの指標で基準化した地震
動で数種の復元力に対して 1質点系の弾塑性応答計算を行い,建物の復元力特性と耐カ,
周期にそれらの指標の及ぼす影響について検討した結果,ごく短周期の構造物に対しては
最大加速度,自乗和平方根強度が,また 0.4秒前後以上の比較的周期の長い構造物に対し
てはスベクトル強度,最大速度が適していることが明らかになった。また,構造物の耐力
と塑性率の関係をスベクトル強度を考慮に入れた関係式で定式化し,その関係式を実地震
波に適用してその有効性について検討した。
はじめに
力と構造物の力学的特性との関係であることはよ
く知られている。この地震動の破壊力を表わす指
構造物の耐震設計を行う場合には,設計スベク
標としては,最大加速度・最大速度・最大変位の
トルを用いる場合と地震波を用いる場合がある。
ような最大振幅値,周期特性を考慮に入れたスベ
特に,構造物の塑性域まで至る挙動を解析するた
クトル強度,また地震動のパワーを表わす自乗和
めには地震波を用いた弾塑性応答計算を行う必要
平方根強度などがあり,これらは弾塑性応答計算
があり, この場合には過去の実地震を用いること
を行う際の入力地震動の加速度振幅を操作する指
が多く,構造物の建設場所等の地盤の特性が無視
標でもある。実際の弾塑性応答計算の場合には,
されがちであった。近年,地震動を不規則性を有
最も分かり易い加速度波形の最大振幅値(最大加
する確率事象としてとらえ,特性を予め考慮した
速度)をそろえて(規準化して)用いることが多
人工地震波を作成する種々の手法が提案さ払弾
い。しかし,たとえば,エルセントロのように硬
塑性応答計算に使用されるようになった。その弾
い岩盤上で記録された短周期成分の卓越する地震
塑性応答を大きく支配する要因は,地震動の破壊
波と,八戸のように表層地盤上で得られた比較的
本東京都立大学都市研究センター・工学部
材東京都立大学工学部
第2
6号
総合都市研究
24
長周期成分を多く含む地震波を使って弾塑性応答
"
^
X
.A
CC
.
.
.
. ]qg.4 f1 '~1
計算を行うと,構造物の弾塑性応答は大きく異な
ることがあり両地震動の破壊力を同程度に評価し
ているとは言えない。最近これらの点を考慮し周
I
I
M
E
期の長い高層建物の耐震設計では最大速度を破壊
M
A
X
.ACC. 260.65刷 t
3)10'
力を表わす指標とし地震動を規準化して弾塑性応
.
.
J
答計算に用いるようになった。しかしながら,建
〈
白
,
物の力学的特性や耐力,周期に対してこれら地震
色』
ι
‘
・3
.
'
動の破壊力を表わす指標がどのような影響を及ぼ
1515Et)
図 -1 加速度波形
すか定量的に研究された例が少ない。本稿では,
周期特性の全く異なる 2種類の人工地震波を作成
震動の継続時間は 15秒である o
し,その破壊力を表わす指標に 4種類選び,それ
次にそれらの周期特性の全く異なる地震波を用
ぞれで規準化した地震波を使って 4種類の復元力
特性に対して 1質点系の弾型性応答解析を行い,
いて応答解析を行った場合,その周期特性の違い
破壊力を表わす指標とその選択が応答に及ぼす影
にかかわらず,地震動の破壊力を同等に評価する
響,又復元力特性の違いとそれらの指標の関係
には,
が応答に及ぼす影響について検討した。
表わしておくのが適切か検討するために,本稿で
どのような指標を用いて地震動の破壊力を
)
は,最大加速度(A.M),最大速度(V.M,
スベクトル強度( S.1),加速度波形の自乗和
2 応答解析用地震動とその破壊力を
平方根強度 (R.M. S)の 4つをその指標とし
表わす指標
て選び種々の考察を行う。ここで
応答解析に用いた地震波形は,周期特性の異な
t
S .1=J~.~SV (h,T )d
種類の人工地震波で,その群はそれぞれ 20
る2
二〔去イb(;)2dtJl/z
1に各ク引ループの
波の波形からなっている。図
平均応答スベクトルを示した治主
R.M. S
TYPE-Sの
グ、ループは地盤の平均的な特性を示し単一なピー
但し,
(
2
)
Sv 速度応答スベクトル
To 地震動の継続時間
クを持つ比較的短周期に顕著な卓越周期(約 0.4
秒)を,
(
1
)
TYPE-Gは地盤の成層性を考慮した
y
比較的長い周期範囲にわたって複数の卓越周期を
地動の加速度波形
応答解析を行う際の各指標聞の具体的な値とし
有するような特性を持つ地震波群である。各ク。ル
ては TYPE-Sの地震動の最大加速度を
ープの地震波形の例を図 - 2に示した。尚,各地
g
a
lとした時の最大速度,スベクトル強度,自乗
・・
ー
・
・
・
,
・
・
"
.
.
I
r
4
速度応答 λ ベクトル
S
.肉 ICH/SEC')
s
図 -2 平均応答スペクトル
、、 、 -
ド/
PERI日
日 I
SECI
SEC)
PER100 I
加速度応答λ ベクトル
1
TYPE
V
/
l3
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S.V I
K1NE1
S
.自 ICH/SEC'1
/
戸
、
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"
.
.
PERI日oISEC)
PERIOO ISEC)
(
3
)
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・
加速度応答スベタトル
3
e
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E
・・
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・
3
2
3
1
0
0
0
速度応答 λ ベタトル
S.V IKINE)
TYPE G
西川・関:弾塑性応答解析に用いる地震動
25
和平方根強度の値を用いることにする。すなわち
最大加速度を地震動の破壊力を表わす指標とする
日I
-LIHE開│日
1
0
目TRI
場合には,全ての地震動の最大加速度が 1000
日Y
g
a
lになるように修正して応答解析を行うことと
E
し,別にスベクトル強度を指標とする場合には,
TYPE-8の最大加速度 1000g
a
lの時のスベ
クトル強度の値 (8.I=154佃)に TYPEn
u
5
L1P
v
n
u
の振幅を修正することにしている。両地震波形の
M阿
e
n
目
-pu-
Gのスベクトル強度が一致するように加速度波形
各指標間の関係は表一 1に示した通りである。し
K &1"~'t
表 -1 両地震波形の各指標聞の関係
T,
(P
E
5 U,日
G
L
E
口
V
自Y
E
.
自Y
E.
自Y
E.
自CC.HRX VE
L
.HRX S.I(2B
7
.
(GALI
8.B
25.2
34.6
22.7
冒.
8
日.32
8.22
8.11
x1自由自.B
159.9
296.自
253.1
8.8
37.1
58.9
32.6
B
.日
8.23
8.17
自.13
538.8 x 88.目
152.3
132.3
‘
1
.
COV
K1NE
(CHI
自由 .
8
514.1
S.D
(
K
I
I
I
E
I
154.自
‘
‘
,
卜D
21由.由
79.日 x 15 .8
132.3
, 世J
D
AYE.
R.H.S
IGALI
1888.8
町E
128.t
図-3 復元ブ榊性
O
.5, O
.75, 1
.0, 1
.5, 2
.0, 3
.0の 6種類
の値に設定して計算を行った。又初期剛性 Klは
,
.1秒
構造物の弾性周期が O
X 21
B.O
2 4.9
B
3
STRIIOAR日日 EYIRTION
COEFFICIEHT OF V肉RIRTION
CH/SEC
O
.1v
'2tt, O
.2秒
,
.3.2β事の計 12周期になるようにそ
れぞれ設定している。
4 応答解析結果とその検討
たがってこの場合,例えば TYPE-8の各地震
波の最大加速度が 1000g
a
lなのに対して,TYPE
i
) 破壊力を表わす指標と応答
- Gの地震波群の平均最大加速度は約 5
1
4g
a
lに
減少することになる。
3 構造物の復元力特性
図 -41:.,地震動の破壊力を表わす指標として
5
1
.
.
I
Q
R
I
G
I
N
J
.
.
.
冨
・
.
52
,
l
・
ルを用いることにした。それらの復元力特性の概
略の形状を図ー 3にす。 B
i-l
i
n
e
a
r型の場合出¥
:
2
ZU︼口・"
ginOriented(Origin)
型
, Slip型の 4つのモデ
︻
Degrading Tri-linear(D-TR I型), Ori-
・
応答計算用復元力特性としては, Bi-linear型
,
= K1/I0としているが,他の 3つのモデルは,
K3= K2/ 2 0, Qc=Qy/3としている。又
降伏点剛性 Kyは Kl/4と仮定して降伏変形を
I Tf~-:"
l
TPE S
命
.
.
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1
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PERI日o15fCI
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TYI
'B-S(AM=lOOOgal)
---nll~τEι
'
.
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1
.
.
PERIO日 (SECJ
,
a
l)
!
b TYPE-G(AM=lOOOg
定めている。構造物の降伏強度 Qyは
, TYPE
Sの最大加速度を 1000g
a
lにしていることを
勘案して,建物の降伏せん断力係数 Cyにして,
.
図-4 弾塑性変位応答スペク卜)1,-
26
総合都市研究 第 26号
最大加速度を用いた(全ての地震動の最大加速度
のように最大加速度で地震動の破壊力を表わした
a
lに統一されている。)場合の, Oriは 1000 g
場合には,主にその地震動の有する周期特性によ
gin型復元力特性に対する弾塑性変位応答スベク
って,構造物に与える破壊力は相当異なってくる
トルを示した。尚,地震動の周期特性の差による
ことがわかる。そこで本稿で用いた 4つの指標で
応答の違いが明瞭に分別できるように,各グルー
各々の地震動を基準化した場合,地震動の周期特
プごとに地震波群に対する応答の平均をそれぞれ
性や構造物の復元カ特性,耐力,周期の違いによ
グループ別に示している。スベクトルの図中の 6
る応答の違いがどの様であるかを定性的に見るた
本の線はそれぞれ降伏せん断力係数 Cyに対応し,
めに, TYPE-Gに対する応答の最大値を TY
点線は弾性である。この図から明らかなように,
PE-Sに対する応答変位で除したものを Cyが
地震動の破壊力を最大加速度を用いて評価すると,
1
.0について各復元力ごとに図一 5に示した。と
TYPE-Gに対する応答が TYPE-Sに対す
の図で縦軸が1.0になる時,両地震動の破壊力が
る応答より全体的にかなり大きくなっている。こ
同等であると評価すると,最大加速度で破壊力を
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目.
s
.
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PERIOO ISECI
図 -5 最大変位の比 (TYPE-G/TYPE-S)
考えた場合には,構造物の強度にかかわらず,ご
し
, O
.2~ O
.3秒付近の周期を持つ建物に対して
く短周期部分を除いて長周期成分を多く含む TY
は,本解析によると最大加速度よりもむしろ加速
PE-Gの地震動の破壊力は TYPE-Sの地震
度波形の自乗和平方根強度を用いる方が適当と考
えられるが,この指標は波形の継続時聞をパラメータ
動の破壊力よりかなり大きいことが明瞭に読みと
れる。また最大速度あるいはスベクトル強度を用
として含むことを考慮すると,従来から言われて
いると,特に弾性周期が 0.4秒前後以上の構造物
いるように最大加速度で地震動の破壊力を表わす
に対しては,地震動の周期特性にかかわらず,そ
のが適切と思われる。
の破壊力を同等に評価し得ることが分かる。しか
また,図 - 6に地震動の周期特性の違いが応答
2
7
西J
I
I・関:蝉塑性応答解析に用いる地震動
B
I
L
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C
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日
図-6 変位応答の変動係数
値のばらつきに及ぼす影響を見るために応答値の
平均値からのばらつきを表わす変動係数 (
COV)
を示したものである。この図で縦軸の値が小さい
ほど応答のばらつきが少ないことを示している。
る
。
i
i
) 復元ブ榊性と応答
図一 7には,復元力特性の違いが応答にどの様
復元力特性による多少の違いはあるが,構造物の
に関連しているか見るために,各タイプの応答を
周期が比較的短い範囲では,最大加速度,自乗和
それぞれ Bil
i
n
e
a
rに対する応答で除したもの
平方根強度で基準化した方が,最大速度,スベク
を示した。短周期成分では,剛性低下をする復元
トル強度で基準化した場合よりも変動係数が小さ
inearに
力に対する応答は剛性低下しない Bi-l
く安定している。しかし,周期が長くなると全体
対する応答よりはるかに大きくなっていること,
的に変動係数は小さくなり,なかでもスペグトル
その傾向は地震動の破壊力が強い程顕著であるこ
強度,最大速度で基準化した場合が最小となる傾
とが分かる。又,地震波群の違いによる応答を見
向がある。
ると,
TYPE-Sに対しては図一 1の応答スベク
以上より建物の周期が 0
.
1
.
.
.
.
.
.
.o
.3秒範囲の比較
トルから予想されるように,問。性低下が極端に生
的剛性の高い構造物に対しては地震動の破壊力を
じず,短周期部分でもそれほど大きな倍率とはな
TYPE-Gに対しては,その地震動
表わす指標としては,最大加速度,自乗和平方根
らないが,
強度を, 0.4秒前後以上より長い周期については,
の持つ周期特性の影響で剛性低下が大きく起こり,
最大速度,スペクトル強度等の速度に関するもの
応答値は Biιlinearよりもはるかに大きくなっ
を用いて地動の加速度波形の規準化を行うと,周
ている様子が分かる。
期特性の全く異なる地震動の構造物に対する破壊
力を同等にとらえることが可能であると思われ
28
総 合 都 市 研 究 第 26号
.
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2
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2.d
.
自
"
図-7 復元力特性と応答の関係
i
i
) 応答の塑性率と建物の強度
構造物の破壊は,地震動の入力エネルギーと構
造物の累積歪エネルギー,弾性振動エネルギー,
と建物の強度の関係を表わす。この両者の関係を
定式化するために,まず図 - 8に示すような 1質
点の完全弾塑性系を考える。
減衰による吸収エネルギーで定量的に評価できる
一般に弾塑性応答の場合 C点、までに復元力がな
ことが秋山等により示されている。しかし,応答
す仕事は,弾性応答の場合に復元力が A点までに
計算を行うたびに上記のエネルギーを計算するの
なす仕事に等しいこと(エネルギ一一定則)より,
はやっかいである。そこで,ここでは地震動の破
降伏せん断力係数( Cy )とせん断力係数 (Ce)
壊力としてスベクトル強度を,また構造物の強度
の関係は(司式で表わせる。
として降伏せん断力係数を用いて,応答の塑性率
西1
1
1・関:弾塑性応答解析に用いる地震動
2
9
a :Ke/Ky (Ke
Cy(C.
弾性剛性
Ky: 降伏点剛性)
s:Cc/Cy (Cc: ひび割れ
せん断力係数)
r:Kp/Ke (Kp Bi-linear 型の
。
第二次剛性)
t
l
o
.
c:未定係数
,
c
m)
(l/
ここでは , a=4, s=1/3, r=1/10と
C/
C
.
した。
そこで,この関係式と弾塑性応答解析より得ら
れた結果との対応を見るために,最大加速度,ス
ベクトル強度の 2つを破壊力を表わす指標として,
建物の降伏せん断力係数(CBy)と応答の塑性率
(μ)の関係を先の 4種類の復元力モデルに関し
て建物の周期が 0
.
2秒
, 0
.
4秒の場合について得
図-8 非線形復元カモデル
られた結果を図- 9に示した。縦軸は降伏せん断
Cy
Ce
(
3
)
〆玄石士了
また,弾塑性系の復元力がなす仕事と初期の運動
4
)
式で表わされ
エネルギーが等しいことにより (
7MV2max=τ.Q
y
・ δr
(
2十
(
4
)式でVmaxは,速度応答スベクトル 8v (T,
h )で表わされるから
V2(th)=÷ 附 (
2μ-1)
伏せん断力係数(CBy)と地動の加速度を 1000
g
a
lで除した値との比
yニ
1)μ)
士
山
力係数で最大加速度で規準化する時は,建物の降
伺
CBv
ザ
地動の最大加速度(g
a
l)/1000g
a
l
(
9
)
文,スベクトル強度で規準化する場合には
y
CBv
地動のスベクトル強度 (
c
m
)/ 1
5
4
c
m
0
0
である。
但し, CBy
建物の降伏せん断力係数
(
5
)
式の表現が可能となる。ここで,ハウスナーの
.0, 1
.5, 2
.
0, 3.0)
(0.5, 0.75, 1
スベクトル強度の定義式(
1
)
式を考慮、すると,降伏
である。建物の周期について見ると,どの復元カ
.I)
せん断力係数(Cy )とスベクトル強度(8
モデルについても建物の周期が長くなると同ーの
の関係は
降伏せん断力係数値での塑性率のばらつきが小さ
Cy
1
L
•
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(
6
)
(
6
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式で表わすことができる。
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i
n
e
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, Tri-1
i
n
e
a
r型の復元カモデ
らかにその傾向が見られる。また,地震動の破壊
強度について降伏せん断力係数と塑性率の関係を
表わすほうが,最大加速度に関して表わすよりも
Bi-l
i
n
e
a
r型
塑性率のばらつきはかなり小さくなり,建物の周
Cy
8.I
Origin型
, 8lip 型の場合には,明
力を表わす指標聞で比較するならば,スベクトル
ルの場合は, (
7
)-(8)式で表わすことができる。
一
一 =c・
し特に
十(
十
十 μ-1)
一
十
/1 r
(
7
)
期が 0
.
4秒になるとプロットされたデータにある
一定の傾向があることが認められる。
また,図中の実線は,
Tri-l
i
n
回 r型
れv
~=ç ・
8.I
c=1
.0としたときの (
7
)
(
8
)式の値をプロットしたものである。この図よ
ゾ 1十( 1+去)戸
/
2P.-1+(1ーを)戸
り特に構造物の周期が 0
.
4秒のとき,ほぽ応答計
(8)
算より得られた降伏せん断力係数と塑性率の関係
を包絡する傾向がみられることにより, この関係
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図 -9 規準化別の降伏せん断力係数と塑性率
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西川・関:蝉塑性応答解析に用いる地震動
式を用い最小 2乗法により周期ごとに Cの値を算
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定した。その結果の一例を図一 10に示した。図
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図ー 1
0 降伏せん断力係数と塑性率(人工地震波)
32
総 合 都 市 研 究 第 26号
中の実線は得られた C の値を使って(7}~(8)式をプ
したときの関係つまり, ~1),制式として
ロットした結果である。これを見ると, B
i←
1
in
e
a
r
Cy _
7
)
モテ、ルに関しては,それぞれの周期についても (
S
.1
式でかなりシュミレートできることが分かる。し
ゾ1+r
(
す+μ
/
かし,他の 3復元モデルについては,そのように
near
モデル, D-Tri モデルのように履歴吸収エ
~1)
唱
/1+(1-去
)s
円 "
簡単に表現できない場合がある。これは, Bi-li-
1-B)
ー
す
旬
"n¥
t τ = C +j
2
(μ+D)ー1+(1ーを)s判
ネルキ
が明確に定義されている復元力モデルと
降伏せん断力係数と塑性率の関係を表わす,図中
異なり,
S1
i
p,原点指向(Origin)モデル等が,
の破線は ~1) , ω式により得られた結果を示してい
e
過去の最大応答値を超えない範囲では履歴吸収エ
る。実線と比較すると全ての復元力モデルについ
ネルギーがないことや,復元力モデルの形状を決
てもかなりよく傾向を捉えている。
s, r
等)の設定値,
定する諸バラメ→ター (α
及び地震動の入力の大きさの影響が含まれている
i
v
) 実地震波への適用
ものと思われる。特に, D-Triモデルに対して
次に,この関係式を実地震波に適用してみた。
は入力レベルが小さく,応答が塑性域にそれほど
使用した地震波は,エルセントロ( 1940N S,
)
入らなかったと考えられる。しかし,これらの場
八戸 (NS. EW),宮城(N S )の 4成分でそ
合も全体としての傾向は (
8
)
式と相似な関係にある
れぞれ周期特性の異なる地震動であり規準化の値
c=1
.0と
は人工地震波(最大加速度 1000g
a
l,スベクト
7
),(
8
)式に補正項を付加し
と思われ, (
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図ー 1
1 降伏せん断力係数と塑性率(実地震波)
ル強度 154cm)の場合と同様である。図
11
に建物の周期が 0.2秒
, 0.4秒の場合について降
動の破壊力を表わしておけば適切か 4種類の復元
力特性について,周期特性の異なる人工地震波に
伏せん断力係数と塑性率の関係を復元カモデルご
対する 1質点系弾塑性応答計算を行い,地震動の
とに示した。図中の実線及び破線は図一 10と同
破壊力を定量的に表わす指標が(最大加速度,最
Bi-l
i
n
e
a
rモデルについて見る
犬速度,スベクトル強度,自乗和平方根強度)構
と,人工地震波と同様実地震波についてもかなり
造物の力勃情性,耐力や周期にどのような影響
じものであり
その傾向をとらえており,他の 3復元カモデルに
を及ぼすか検討し,ごく短周期の構造物に対して
ついてもやや小めにではあるがこれらの関係式が
は,最大加速度,自乗和平方根強度で,また, 0
.
3
実際の地震動にもある程度有効であることが分か
-0.4秒前後以上の比較的周期の長い構造物につ
る。また,この関係式を用いることにより,たと
いては,最大速度,スベクトル強度等の速度に関
えば構造物の周期(T ),復元力の破壊形式(復
する指標が適していることを述べた。
元力モデル
Cy ),設計時の許容塑性変形量(
μ
)
また,構造物の耐力と強震時に予想される,塑
が既定されれば, (6)-(8) と ~1)-制式により地震動
性率の関係をスベクトル強度を考慮に入れた関係
の入力レベル( S .I)が与えられ構造物の応答
で定式化し,その関係式を実地震波の場合に適用
計算を行う場合の入力地震動の大まかな規準化の
しその有効性について検証を行った結果,実際の
レベルを算定することができると思われる。
地震動の場合でも比較的短周期の建物に対しては
4 -i )で定式化した関係式がある程度有効であ
5 まとめ
ることが分かった。また,この関係式を用いるこ
周期特性の異なる地震動に対してもその破壊力
破壊形式,許容塑性変形量等)を定めると入力地
を同等に評価するために,どのような指標で地震
震動の規準化の値を求めることができると思われ
とにより対象とする建物の諸パラメータ(周期,
34
総 合 都 市 研 究 第 26号
る
。
関崇夫・西川孝夫
1984
文献一覧
大会学術講演梗概集 Jpp .655~ 6560
長橋純男・小林啓美
1969
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構造物の破壊作用を対象とした地震動の強
日本建築学会論文報告集 J
さの評価 Jr
第 160号
,
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r
地震動の強さを評価する簡便な尺度として
r
の地震動最大振幅 J 日本建築学会論文報告
集』第 181号
, pp. 15~ 210
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Nishikawa, T., Hayama, S., Seki,T.
1984
秋山宏
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Motion for Non-Linear Response
Analyses o
f Structrue" Proc. 8
r
蝉塑性応答解析に用いる地震動の強さの評
r
価に関する検討J 日本建築学会関東支部研
究報告集 Jpp.109~ 1120
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関崇夫・西川孝夫
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関崇夫・西川孝夫
1983
<<Normalization Parameters o
f
Maximum Values o
f Earthquake
関崇夫・西川孝夫
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鉄筋コンクリート構造物の弾塑性応答解析
に用いる地震動の強さの評価に関する検討」
長橋純男・小林啓美
1971
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弾塑性応答解析に用いる地震動の強さの評
日本建築学会
価に関する検討(その 3)Jr
価に関する検討(その 4 )J 日本建築学会
r
弾塑性応答解析に用いる地震動の強さの評
価に関する検討(その 2 )J
r日本建築学会
大会学術講演梗概集 Jpp.125~ 1260
大会学術講演梗概集 Jpp 705~706o
0
Key Words (キー・ワード)
Maximun Acceleration (最大加速度) Maximun Velocity (最大速度) ,
Spectrun Intensi
ty (スベクトル強度) , Root Mean Square (自乗和平方根) ,
DuctiIity Factor (塑性率) ,Destructive Power of Earthquake Motion(地震動
Non-Ii
near Response AnaI
yses (非線形解析) ,
の破壊力),
Normalization Parameters (規準化バラメータ) ,Hysteresis Rules (履歴ルーノレ) ,
Response Spectrum (応答スベクトル)