アンサンブル平均を利用した材料の吸音特性の in-situ

アンサンブル平均を利用した材料の吸音特性の
in-situ 測定法 −小空間への適用−∗
○岡本則子 (大分大・VBL), 大鶴徹, 富来礼次, ナズリ チェ ディン,
△クスノ アスニアワティ (大分大・工)
1
序
筆者らはアンサンブル平均を利用した材料の吸音特
性の in-situ 測定法を提案してきた
[1, 2]
.同手法は,
・試料 2:ニードルフェルト(10mm 厚)
なお,可搬性を考慮し,試料面積は何れも 600 × 300
簡便な測定装置で,材料の厚さや背後空気層を反映
mm2 とした.
話声,歩行音,鳥声,空調室外機からの定常騒音の
した吸音特性の傾向の把握が可能である.また,その
存在する大分大学構内の車道に駐車し,車室の後部
場に存在するアンビエントノイズとともに,室境界
座席に上記試料をそれぞれ設置した状態で実験を行っ
からの反射音も音源として利用でき,他の吸音特性
た.但し,試料背後にはコンクリート壁を設置し,側
測定手法に比べ測定音場に対する制限が少ない.す
面をアクリル板で覆った.
なわち,小空間音場における測定も期待され,既報
[3]
で試行的に車室内音場における測定可能性の検討
も行っている.
音源条件として,以下に示す 5 種を設定した.
・a:アンビエントノイズ(ドアを全閉状態)
・b:アンビエントノイズ(ドアを全開状態)
本稿では,小空間における提案手法の適用範囲を
・c:a に音源を付加(小型のスピーカ 1 台)
明らかにするため,吸音率の異なる 2 種の材を対象
・d:b に音源を付加(小型のスピーカ 1 台)
に測定を行う.同測定結果を,残響室における提案手
・e:b に音源を付加(小型のスピーカ 3 台)
法による測定結果と比較し,一致する周波数および
スピーカからは音源信号としてピンクノイズを出力
吸音率の範囲を示す.続いて,車室内の材の吸音特性
した.音源条件 a∼d の場合に試料表面で測定した音
を測定した結果を示す.
圧レベルを Fig. 2 に示す.音源条件および周波数に
よらず,全般的に車 A に比べ車 B の音圧レベルが高
2 測定値の普遍性に関する検討
2.1 実験の概要
くなった.
本稿では,実験環境に対する安定性を考慮し,セン
まず,容積の異なる 2 種の車内空間に,吸音率の異
なる 2 種の測定試料を持ち込み提案手法で測定する.
続いて,小空間における測定結果の妥当性を検証す
るため,得られた測定結果を残響室において提案手
法で測定した結果と試料毎に比較する.
小空間として,以下の 2 種の車室を対象とした.
・車 A:5 ドア,7 人乗りミニバン型普通乗用車
(室内寸法:2825×1470×1355 mm3 )
・車 B:5 ドア,4 人乗りトールワゴン型軽乗用車
(室内寸法:1795×1255×1255 mm3 )
対象とする試料は,Fig. 1 に示すように,異なる
垂直入射吸音率を有する以下の 2 種とした.
3
・試料 1:グラスウール(密度 32 kg/m ,50mm 厚)
サに 2 本の直径 1/2 インチマイクロフォン(B&K:
Type 4190)を用いて伝達関数を測定し,ノーマルイ
ンピーダンス(Zn )を求めた [1] .試料とセンサ間の
距離を 10 mm,2 本のセンサ間の距離を 13 mm とし
て,センサを試料の中央に設置した.FFT の設定は,
周波数領域:0∼2000 Hz,周波数分解能:1.25 Hz,窓
関数:ハニング窓,frame 数:150 とした.
他方,比較には,大分大学不整形残響室(約 165 m3 )
において上記 2 種の試料の測定した値を用いる.これ
らは,互いに無相関のピンクノイズを出力する 7 個
のスピーカを設置した音場内で,試料面積 1820×910
mm2 を対象として測定を行った結果である.
(a) Car-A
(b) Car-B
Fig. 1 Normal incidence absorption coefficients of
material-1(Glass wool) and material-2 (Needle felt) measured by tube method.
∗
Fig. 2 Sound pressure levels around the material in
different sound source condition.
Ensemble averaged absorption characteristics of materials using an in-situ technique -Application to a small spaceby OKAMOTO, Noriko, OTSURU, Toru, TOMIKU, Reiji, CHE DIN Nazli, KUSNO Asniawaty (Oita Univ.)
Seat(backrest)
(b) Car-B
Absorption coefficient Normalized impedance
(a) Car-A
Floor
(a) measured materials
Fig. 3 Comparisons of normalized impedance of
Material-1 among different sound source conditions.
50
25
Real part
0
Imaginary part
-25
Seat(backrest)
Floor(carpet)
-50
1
0.8
Seat(backrest)
Floor(carpet)
0.6
0.4
0.2
0
0
500
1000
Frequency [Hz]
1500
(b) absorption characteristics
Fig. 5 Photo and absorption characteristics of measured materials.
環境騒音や簡便な付加音源を用いた提案手法による
(a) Car-A
車室内の測定結果は,残響室内の測定結果と良く一
致すると考える.一方,300 Hz 以下の低周波数帯域
および垂直入射吸音率 0.4 以下の材に関しては,小空
間で安定した測定結果が得られる音源の開発等を今
後行っていく予定である.
(b) Car-B
3 施工された材の測定
3.1 実験の概要
前章の結果を踏まえ,本章では,実際に施工されて
いる材を対象に,提案手法で試行的に測定を行う.
前章で示した車 A 内の,床(カーペット)および
座席の吸音特性を測定した.音源条件は前章の e と
Fig. 4 Comparisons of normalized impedance of
Material-2 among different sound source conditions.
2.2 結果・考察
Fig. 3(a) に車 A において音源条件 a∼d で測定さ
れた試料 1 のノーマルインピーダンス Zn を,また,
Fig. 3(b) に車 B において同音源条件で測定された試
し,その他の設定は前章と同様とした.
3.2 結果・考察
Fig. 5 に,車内に取付けられている座席および床
(カーペット)の,写真に示す箇所のノーマルインピー
ダンス Zn の測定結果および局所作用を仮定し算出し
た垂直入射吸音率を示す.座席については,500 Hz
以上で 0.8 以上と高い吸音率を示したが,透過まで含
料 1 の Zn を,それぞれ残響室で測定された Zn と併
まれた測定値であるため,予測・設計を行うには注意
せて示す.音源条件 a を除き,300 Hz 以上では車種お
が必要である.床(カーペット)については吸音率が
よび音源条件によらず,車室で測定された結果は,残
音圧レベルも考慮すると,音源条件 a については,測
0.3 以下であるため参考値となるが,座席の吸音特性
との相違は明確に現れている.数値シミュレーション
や実際の車室内音響設計に適用する際の測定結果の
定に必要な音量が十分に確保されていないと考える.
処理方法については,今後の課題である.
響室で測定された結果と良く一致している.Fig. 2 の
Fig. 4(a) に車 A において全音源条件で測定され
た試料 2 の Zn を,また,Fig. 4(b) に車 B において
結
以上,アンサンブル平均を利用した材料の吸音特
音源条件 a∼d で測定された試料 2 の Zn を,それぞ
性の in − situ 測定法の適用範囲の検証として,車室
れ残響室で測定された Zn と併せて示す.試料 1 に比
内で測定した結果を報告した.
べ,車種および音源条件による測定結果間の差異およ
び残響室における測定結果との差異が大きいものの,
謝辞 本研究は本研究室の田嶋技官,修論生の松本,芝田各君の協
力と,大分大学 VBL プロジェクト研究 A の助成を頂いた.
周波数特性は概ね捉え,周波数が高くなるに従い,測
参考文献
定結果間の差異は小さくなっている.
[1] Y. Takahashi et al., Appl. Acoust., 66, 845-865, 2005.
[2] T. Otsuru et al., J. Acoust. Soc. Am., 125(6), 3784-3791,
2009.
[3] 沓掛他, 日本建築学会大会学術講演梗概集 D-1, 247-248, 2007.
以上より,300 Hz 以上の中・高周波数帯域で,垂
直入射吸音率 0.4 以上の材の場合,その場に存在する
4