早稲田大学大学院理工学研究科 博 士 論 文 概 要 論 文 題 目 新規スクアレン合成酵素阻害剤の合成研究 Synthetic Studies on Novel Inhibitors of Squalene Synthase 申 氏 請 者 石原 司 Tsukasa Ishihara 名 専攻・研究指導 (課程内のみ) 2003年 11月 近年の 外 科 的 療 法や 薬物療法 の進 歩に も拘 わ ら ず、 日本 を含 めた 主要先進諸国 に お い て冠 動 脈 疾 患 は死 因の 上位 を占 め て い る 。冠 動 脈 疾 患 の発 症 率 と血 漿 低 比 重リポ 蛋白 ( L D L )コ レ ス テ ロ ー ル 値と の間 には 正の 相関関係 があることが 多 くの疫 学 的 調 査 より 報告 され 、血 漿n o n − H D L コ レ ス テ ロ ー ルの 高値 は冠 動 脈疾患 の危 険 因 子で あ る こ と が明 らかとなった 。近 年、 高コレステロール 血症 に 対する 治 療 薬として 第 一 選 択 薬と さ れ て い るH M G − C o A 還 元 酵 素 阻 害 剤の 投 与に よ り冠 動 脈 疾 患 の発症率 が低 下し た臨 床 成 績が 得ら れ、 コ レ ス テ ロ ー ル低 下 薬の有効性 は広 く認 知されることとなった 。し か し な が らHMG−CoA 還 元 酵 素 阻 害 剤は 、冠 動 脈 疾 患 の独 立し た他 の危 険 因 子と 提唱 さ れ て い る高 ト リ グ リ セ リド( T G )血 症に 対しては 低下効果 が乏 しく 、増 加す る一 途の 冠 動 脈 疾 患に 対 する治療剤 と し て血 漿n o n − H D L コ レ ス テ ロ ー ル値 の み な ら ず血 漿T G値 を も低下させる新規脂質低下剤が切望されている。 スクアレン 合成酵素 ( S Q S )は コ レ ス テ ロ ー ル生 合 成 経 路 の下 流を 司る 律速 酵素であり 、コ レ ス テ ロ ー ル と非 コ レ ス テ ロ ー ル産 物の 生成 を区 別す る分岐点 に 位置す る こ と か ら、 その 阻 害 剤は 生体必須物質 で あ る各 種イソプレノイド の生 成 を阻害 し な いコ レ ス テ ロ ー ル 低 下 薬と な り う る こ と が期 待されている 。加 えて S QS阻害剤 は、 動物 モ デ ルに お い て血 漿T G値 の低 下 作 用を も示 すことが 報告 さ れ、高 L D Lコレステロール 血症 や高 TG 血症 、あ る い は そ の双 方が 高値 で あ る 混合型高脂血症 に対 する 治 療 薬として 、更 には 冠 動 脈 疾 患に 対す る効果的 な薬 剤 として期待されている。 経 口 投 与で 有効 な新 規 脂 質 低 下 剤 の創 製を 目標 と し て、 著者 は、 優れ た血 漿 脂 質低下作用を示しうるSQS阻害剤を創薬標的として注目し、研究を開始した。 著者は 英国 ゼ ネ カ社 の研究者 に よ りSQS 阻 害 剤として 報告 さ れ た3 −( 4’ − フルオロビフェニル −4 −イ ル) キヌクリジン −3 −オール (1 )を 基本骨格 と した構造修 飾 研 究を 実施 した 。合 成し た化合物 は、 ヒト の血 漿 脂 質 組 成に 類似 し ていることから 高 脂 血 症 治 療 薬の 前 臨 床 試 験に 汎用 さ れ るハ ム ス タ ー を被 験 動 物 として 用い 、SQS 阻害活性 と経 口 投 与( 50 mg/kg/day、 5日 間) 後 における血漿non−HDLコレステロール低下作用を評価した。 著者は 、化合物1 を 基にした 構造修飾 の過 程よ りビ フ ェ ニ リ ル基 とジベンゾチ オ フ ェ ン− 2− イル 基が 生 物 学 的 等 価 体と し て 機能 す る こ と を発 見し 、更 に種 々 の三環性基 を検 討し た結 果、 脂 溶 性の 高い 三環性基 の導 入により 強力 なSQS 阻 害活性 が発 現することを 見出 した 。ま た、 キヌクリジン 核と 三環性基 との 間の 連 結鎖を 検討 し、 分子 の立 体 構 造を 好適 に規 制しうる 連 結 鎖、 あるいは 三 原 子か ら 構成される 連 結 鎖の 導入 に よ りSQS 阻害作用 が向 上することを 見出 した 。本 知 見を基 に不 斉 中 心を 有さない 化 合 物を 志向 して 構造修飾 を継 続し 、強 力な S Q S 阻 害 活 性を 示す (Z )− 3− [2 −( 9H −フ ル オ レ ン −2 −イ ル オ キ シ )エ チ リデン ]キ ヌ ク リ ジ ン(3 1 )を 見出 した 。化合物3 1 は経 口 投 与に お い て化 合物1 と同 等の 血漿 n o n − H D Lコ レ ス テ ロ ー ル 低下作用 を示 した (第一章 ) 。 化合物3 1 に代 表される (Z )− 3− (2 −ア リ ー ル オ キ シ エ チ リ デ ン) キヌ ク リ ジ ン誘 導 体 の合 成に は、 その 中 間 体と し て [メ チ ル ( Z) −3 −キヌクリ ジ ニ リ デ ン ア セ タ ー ト] −N −ボ ラ ン (2 7 )が重 要で あ る 。し か し 、そ の立 体選択的合成法 は報 告さ れ て い な い。 そ こ で著 者は 、化合物2 7 の立体選択的 合成法 の開 発を 行っ た。 MM 3分 子 軌 道 計 算に 基づ きメチル 3 −キヌクリジニ リ デ ン ア セ タ ー ト誘 導 体 の熱 力 学 的 安 定 性 に着 目し 検討 した 結果 、化 合 物 2 7 の立 体 異 性 体である [メチル ( E) −3 −キ ヌ ク リ ジ ニ リ デ ン ア セ タ ー ト] − N−ボラン (2 8 )が塩 基 性 条 件 下 所 望の 化 合 物2 7 へと異性化 す る こ と を見 出した 。本 異 性 化 反 応を Honer−Wadsworth−Emmons 反応 と 連続し て実 施し 、3 −キ ヌ ク リ ジ ノ ン を原 料として 立 体 選 択 的に 化 合 物2 7 を 合成する手法を確立した(以上、第二章)。 更に著 者は 、( Z) −3 −( 2− アリールオキシエチリデン )キ ヌ ク リ ジ ンを 基 本 骨 格と し、 経 口 投 与 に お け る 血漿 n o n − H D Lコ レ ス テ ロ ー ル 低 下 作 用 の 更なる 増強 を目 標と し構造最適化研究 を継 続し た。 著者 は三 環 性 基に 注目 して 構 造変換 を実 施し 、経 口 投 与に お い て化合物1 を 凌駕 する 血漿 n o n − H D Lコ レ ステロール 低下作用 を示 す( Z ) −2 −[ 2− (キ ヌ ク リ ジ ン− 3− イリデン ) エ ト キ シ] −9 H− カ ル バ ゾ ー ル (4 1 )を見 出し た。 この 探索 の過 程に お い て分 子 量の 減 少 及び 分子全体 の部 分 極 性 面 積の 増大 に伴 い、 経口投与 における 血 漿n o n − H D Lコ レ ス テ ロ ー ル 低下作用 が増 強す る現 象を 発見 した 。本知見 を 踏ま え た更 なる 構造修飾 に よ り、 化 合 物4 1 をも上 回る 優れ た経 口 活 性を 示す N−( 2− アミノエチル )− 9H −カ ル バ ゾ ー ル体5 9 を見 出し た。 本 研 究の リード 化 合 物とした 化 合 物1 及び 化 合 物5 9 は、ラット への 経口投与 において アミノ 基 転 移 酵 素 活 性( G O T , G P T ) を上 昇させる 傾向 が観 測さ れ た こ と か ら肝 機 能 障 害を 誘発 す る こ と が示 唆された 。一 方、 9H −カ ル バ ゾ ー ル体4 1 はア ミ ノ基転移酵素活性 の変 動は 確認 さ れ ず、 化 合 物1 及び 化 合 物4 1 による 肝機能障害 の発 現は S Q S阻 害に 基づ く作 用ではないことが 強く 示唆 さ れ た。 著 者は、 良好 な経 口 活 性を 有し 、か つ肝機能障害 を惹 起しない 9位 無 置 換の 9H − カ ル バ ゾ ー ル誘 導 体 に注 目し 更な る構 造 修 飾を 行っ た結 果、 エ チ リ デ ン鎖 へフ ル オロ基 を導 入し た( E) −2 −[ 2− フルオロ −2 −( キヌクリジン −3 −イ リ デン) エトキシ ]− 9H −カ ル バ ゾ ー ル(6 2 )が 強力 なSQS 阻害活性 を示 し、か つ、 経口投与 において 化 合 物5 9 に匹敵 する 優れ た血 漿non−HDL コレステロール 低下作用 を示 すことを 見出 した 。化合物6 2 は化合物4 1 同様 、 アミノ 基 転 移 酵 素 活 性を 上昇 さ せ ず、 肝 機 能 障 害を 回避 し う る化合物 で あ る こ と が示唆 さ れ た。 また 、化合物4 1 及び6 2 はヒ トSQS に対 し て も強 力な 阻害 作用を示した(各々IC50=160nM,79nM)(以上、第三章)。 化合物4 1 (Y M − 5 3 5 7 9 )及び化 合 物6 2 (Y M −53601 )を選 択し、 H M G − C o A還 元 酵 素 阻 害 剤 で あ るP r a v a s t a t i n を対照薬 と した更 なる 薬理学的評価 を行 った 。評 価に はH M G − C o A 還 元 酵 素 阻 害 剤が 唯 一反応 する 齧 歯 類である モ ル モ ッ トを 被験動物 と し て用 いた 。評 価の 結果 、Y M − 5 3 5 7 9 及びY M −53601 には、経 口 投 与に お い て血 漿non−H DLコレステロール 値を 低下 さ せ る傾 向が 認め ら れ た。 S Q S阻害剤 は動 物モ デ ルにおいて 血漿 TG 値の 低下作用 を示 すことが 報告 されているが 、キヌクリジン 型S Q S阻 害 剤 Y M − 5 3 5 7 9 及びY M −5 3 6 0 1 に お い て も同 様に 血漿 TG値 を低 下させる 傾向 があることも 確認 さ れ た。 加え て、Y M − 53579 及びY M − 5 3 60 1 には、血漿 H D Lコレステロール 値を 上昇 さ せ る傾 向が 見出された 。血 漿T G値 の低 下 作 用と 血漿 H D Lコレステロール 値の 上昇作用 は 、 Pravastatin には 認められなかった 現象 であった 。血 漿HDL コレス テ ロ ー ルの 高値 は冠 動 脈 疾 患 の発 症 率 を低 減さ せ る こ と が報 告さ れ て い る こ と か ら、Y M − 53579及びYM− 53601は高non−HDL コレステロー ル血 症 及び 高T G血 症の 治 療 薬として 、加 えて 、冠動脈疾患 の治 療あ る い は予 防 薬として好適な脂質変動作用を示しうることが示唆された。 Y M −5 3 5 7 9 及びYM− 5 3 6 0 1 に関し経 口 投 与 後の 薬 動 力 学 的 評 価 を実施 した 結果 、Y M − 53601が優れた経口吸収性 を示 すことが 見出 され た。ま た著 者は 、Y M − 5 3 6 0 1 とヒトS Q Sと の結 合モデル を構 築し 、S QS阻 害 活 性の 発現 に関 する 考察 を行 った 。本研究 における 構造修飾研究 より 得 られた 構造活性相関 は、 上記Y M − 53601 /SQS 結合 モ デ ルの 妥 当 性を 支持するものと考えられた(以上、第四章)。 以 上 著 者は 、新 規な 脂 質 低 下 剤の 創製 を志 向し S Q S阻 害 剤 の研 究を 行っ た結 果、肝機能 への 影響 を回 避しつつ 経口投与 において 優れ た血 漿non−HDL コ レ ス テ ロ ー ル低 下 作 用及 び血 漿T G低 下 作 用を 示すY M − 5 3 5 7 9 及びY M − 53601 を創製した 。Y M − 53579及びYM− 53601は加えて血 漿H D Lコレステロール 値を 上昇 させるという 興 味 深い 薬理学的性質 を示 した 。 著者は 、こ れ ら の脂 質 変 動 作 用をもたらすY M − 53579 及びY M −536 0 1 が高 脂 血 症 及び 冠 動 脈 疾 患に 対す る治 療 薬 あ る い は 予 防 薬と し て 臨 床 応 用 されることを期待する。 F X O N N O N OH 1 31 41; X = H 62; X = F H N
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