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Title
Non-alcoholic steatohepatitis and preneoplastic lesions develop in
the liver of obese and hypertensive rats: Suppressing effects of
EGCG on the development of liver lesions( 内容と審査の要旨
(Summary) )
Author(s)
河内, 隆宏
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学) 甲第942号
Issue Date
2014-03-25
Type
博士論文
Version
none
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/49075
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
[
隆
]
氏名(本籍)
河
内
宏(岐阜県)
学位の種類
博
士(医学)
学位授与番号
甲第
学位授与日付
平成
学位授与要件
学位規則第4条第1項該当
学位論文題目
Non-alcoholic steatohepatitis and preneoplastic lesions develop in
942
26
年
号
3
月
25
日
the liver of obese and hypertensive rats: Suppressing effects of EGCG
on the development of liver lesions
審 査 委 員
(主査)教授
中
島
茂
(副査)教授
小
澤
修
教授
武
田
純
論文内容の要旨
肥満・糖尿病に高頻度に合併する脂肪肝はメタボリックシンドロームの肝病変とされ,肥満人口
とともに増加にしている。脂肪肝の約 90%は病的意義に乏しい単純脂肪肝であるが,それ以外の約
10%は非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)である。NASH は炎症・壊死や線維化を伴い,30~50%の患
者は肝硬変へと進展し,肝発癌の母地ともなり得る。肝細胞への中性脂肪の沈着が素地となり,さ
らに酸化ストレス,エンドトキシンなどの肝細胞障害要因が加わり NASH が発症するという two-hit
theory が提唱されている。しかし,現状では NASH 発生機序は十分には解明されておらず,確立さ
れた治療法もない。NASH の病態解明,治療法確立のためには病態を反映する動物モデルが重要であ
るが,肥満やインスリン抵抗性とともに肝炎症・線維化・発癌を呈する動物モデルはほとんど知ら
れていない。そこで本研究では,高血圧,肥満,糖尿病を発症する SHRSP.Z-Lepfa/IzmDmcr(SHRSP-ZF)
ラットを用いて,NASH 関連肝発癌モデルを新規に作製した。さらに,緑茶カテキンの主要成分であ
る epigallocatechin gallate (EGCG)の肝腫瘍形成抑制効果を,肝前癌病変である glutathione
S-transferase placental form (GST-P)-positive (GST-P+) foci を指標に検討した。
【対象と方法】
7 週齢の雄 SHRSP-ZF ラットと非肥満・正常血圧対照群である WKY/Izm(WKY)ラットを,4 群に割り
振った。全群に高脂肪食と四塩化炭素(週 2 回腹腔内注射)を 8 週間投与し,第 1 群は WKY ラットに
水道水を,第 2 群は WKY ラットに 0.1%EGCG 含有水を,第 3 群は SHRSP-ZF ラットに水道水を,第 4
群は SHRSP-ZF ラットに 0.1%EGCG 含有水を与え 15 週齢でサンプルを採取した。肝組織はホルマリ
ン固定,パラフィン包埋後に HE 染色,Azan 染色,あるいは α- SMA,8-hydroxy-2’-deoxyguanosine
(8-OHdG),4-hydroxy-2’-nonenal (4-HNE),Mac-1 および GST-P 免疫染色を行った。また,real-time
RT-PCR 法を用いて TNF-α,IL-1β,IL-6,MCP-1,PAI-1,TGF-β1,α-SMA,procollagen-1,TIMP-1,
TIMP-2,MMP-2,MMP-9,angiotensin-converting enzyme (ACE),angiotensin II type 1 receptor
(AT-1R),glutathione peroxidase および catalase の mRNA 発現量を解析した。CYP2E1,JNK タンパ
ク質発現量と JNK リン酸化の解析には Western Blot 法を用いた。さらに,酸化ストレスの指標とし
て肝組織中のヒドロキシプロリン,malondialdehyde (MDA)の定量を行った。血清 AST,ALT,TNF-α,
IL-6,インスリン,グルコース,アディポネクチン,レプチン,総コレステロール,中性脂肪,遊
離脂肪酸および reactive oxygen metabolites (d-ROMs)濃度を測定し,各群間で比較検討した。
【結果】
第 1 群と比較して第 3 群では,体重,相対的肝・脂肪重量の増加を,また第 4 群では第 3 群に比
べて体重の増加を認めた。第 3 群では第 1 群に比べて,血清 AST,ALT 値の上昇,インスリン,グル
コース値の上昇,アディポネクチン値の低下,レプチン値の上昇,総コレステロール,中性脂肪お
よび遊離脂肪酸値の上昇を認めた。これらの中では,遊離脂肪酸値のみ第 4 群で第 3 群と比べて有
意に低下していた。HE 染色,Mac-1 免疫染色では,すべての群に脂肪蓄積,小葉内炎症,肝細胞の
風船様変化およびマロリー小体を認めた。NASH activity score は第 3 群では第 1 群に比べて有意
に高く,第 4 群では第 3 群よりも有意に低下していた。GST-P+ foci はすべての群で発生していた
が,第 3 群では第 1 群に比べて有意に増加しており,第 4 群では第 3 群よりも有意に減少していた。
Azan 染色,α-SMA 免疫染色では陽性領域が第 3 群では第 1 群に比べて有意に増加しており,第 4
群では第 3 群に比べて有意に減少していた。また,肝組織中ヒドロキシプロリンおよび肝 MMP-2,
MMP-9,TIMP-1,TIMP-2,α-SMA,procollagen-1,TGF-β1,PAI-1 の mRNA,また血清アンギオテン
シン II 濃度および肝 ACE と AT-1R の mRNA,さらには肝組織中 TNF-α,IL-1β,IL-6 および MCP-1
の mRNA および,血清 d-ROMs 値,肝組織中 MDA,肝 CYP2E1,JNK,p-JNK に関しても同様であった。
一方,肝組織中 glutathione peroxidase,catalase mRNA は逆に第 3 群では第 1 群に比べて有意に
減少しており,第 4 群では第 3 群よりも有意に増加していた。
【考察】
70%近くを占めていた C 型肝炎ウィルス起因の肝細胞癌の減少とともに,NASH からの発癌が注目
されている。有効な予防,治療戦略を確立するためにもヒトの NASH 病態を反映する動物モデルの作
成が必要であった。RAS(レニン・アンギオテンシン系)は肝を含む様々な臓器で発現し,炎症や酸化
ストレスを惹起するとともに,肝では線維化の進展に深く関与している。本研究で作成した
SHRSP-ZF ラットモデルにおいても,肥満,高血圧,糖尿病,脂質異常,アディポカイン異常,慢性
肝障害に加え,RAS(血清 angiotensin II の上昇,大腸粘膜における ACE,AT-1R mRNA 発現の亢進)
の活性化とともに,炎症や酸化ストレスの誘導,肝線維化の促進,肝前癌病変が認められた。これ
らの結果は,RAS の亢進が NASH 関連肝発癌に重要な役割を担っていることを強く示唆している。ま
た,EGCG は RAS の抑制ならびに炎症や酸化ストレスの緩和を介して肝線維化を軽減することにより,
前癌病変の発生を阻害していることが明らかとなった。
【結論】
高脂肪食と四塩化炭素投与を行った SHRSP-ZF ラットは,肥満に伴う種々の異常を背景に肝前癌病
変を多発したことより,新規 NASH 関連肝発癌モデルとして有用と考えられた。また,緑茶カテキン
が NASH に起因する肝線維化および肝腫瘍形成を抑制する可能性が示唆された。
論文審査の結果の要旨
申請者
河内隆宏
は高血圧,肥満,耐糖能異常を呈する SHRSP-ZF ラットでは高脂肪食と四塩化炭
素投与により肝線維化と前癌病変が強く誘導されること,および緑茶カテキンである EGCG がこれら
の出現を有意に抑制することを見出した。さらに,EGCG はレニン・アンギオテンシン系および酸化
ストレスや慢性炎症を抑えることにより,肝線維化・前癌病変の出現を抑制することを明らかにし
た。これらの研究成果は,非アルコール性脂肪性肝疾患の病態形成とその制御機構の理解に新たな
知見を加えるものであり,消化器病学の発展に少なからず寄与するものと認める。
[主論文公表誌]
Takahiro Kochi, Masahito Shimizu, Daishi Terakura, Atsushi Baba, Tomohiko Ohno, Masaya Kubota ,
Yohei Shirakami, Hisashi Tsurumi, Takuji Tanaka, Hisataka Moriwaki: Non-alcoholic
steatohepatitis and preneoplastic lesions develop in the liver of obese and hypertensive rats:
Suppressing effects of EGCG on the development of liver lesions
Cancer Lett. 342, 60-69 (2014)