車種構成最適化モデルの挙動解析 ― パラメータ設定と

C2-09
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
車種構成最適化モデルの挙動解析 ― パラメータ設定と車種構成解の関係 ―
An analysis of behavior of the vehicle mix optimization model
○原
卓也* 1)、志賀孝広
1)
Takuya Hara, Takahiro Shiga
1) 株式会社豊田中央研究所
*[email protected]
1.
はじめに
走行距離需要クラスについてある基準での最適な車種
温暖化対策において,運輸部門なかでも乗用車部門か
らの CO2 排出量は他部門と比較して増加が著しく,この
部門での CO2 排出削減は重要となっている.このような
背景から,運輸部門・乗用車部門に特に焦点を当てて最
適化型エネルギーモデルの枠組みで構築されたモデルを
用いた研究が多くなされている 1),2).筆者らは,これらの
先行研究であまり考慮されてこなかった 1) 次世代自動
車の現実的制約,および 2) 最適解周辺の車種構成解に着
目した分析を試みてきた 3).その結果,先行研究では平均
値 1 クラスしか考慮されていない走行距離需要クラス
(一定期間の乗用車の走行距離をある基準ごとに区分した
(基準としてはコストや CO2 排出量など) を割り当て,全
体として最適な車種構成解を求める問題である.
「1 時点」
という限定が意味するのは,ある 1 時点で販売される車
種についての最適化問題であるということであり,複数
時点を考慮した多期間の最適化問題の簡略ケースにあた
る.
多期間の最適化問題では,線形計画モデルによるモデ
ル化が実用的であるが,その場合走行距離需要クラスは
離散的に扱う必要がある.一方,1 時点の車種選択問題で
は,生涯走行距離を連続分布で記述した取り扱いが可能
階級) について複数クラスを考慮すると,
得られる最適解
である.今回は,生涯走行距離分布を連続分布として扱
が大きく異なる場合があるということがわかった.
った場合と離散分布として扱った場合の差にも着目する.
一般に,モデルから得られる結果はモデルの前提条件
(パラメータ・外生変数の設定値) に依存するため,モデ
2.2.
設定
ル分析により得られた結果が成立する前提条件の範囲
走行距離需要クラスの設定の仕方については,a) 自動
(あるいは成立しなくなる前提条件) に関する情報 (モデ
車の生涯走行距離の分布が従う連続分布の設定と,b) そ
ルの挙動に関する情報) を整理し明示することが重要で
の連続分布と整合的な離散分布の設定の仕方の二点につ
あるが,これまでの研究ではあまり意識されてこなかっ
いて考慮する.
たように思われる.筆者らは,今後のモデル分析におい
目的関数は乗用車全体の総ライフサイクルコスト (総
ては,(ある特定の前提条件の下で) 得られる結果に着目
LCC, 各クラスでの選択車種の初期コストとランニング
するという従来の視点から,モデルの前提条件と結果の
コストの総和) とする.簡単のため割引率を 0 とすると,
対応関係を把握するという視点に基づく分析 (包括的な
挙動解析) が必要であると考えている.
ある生涯走行距離 x の車種 k の LCC は次式
LCC = a k x + bk
そこで本研究では,包括的な挙動解析の試みとして,1
時点の車種選択問題 (これはすなわち LCA による複数車
で表される.ただし
種の比較と同等の問題設定となる) における,1) 走行距
a k : 車種 k の単位ランニングコスト (円/km/台)
離需要クラスの設定,2) 車種パラメータの設定,3) 車種
b k : 車種 k の初期コスト(円/台)
構成最適解,4) 目的関数値,の四要素の基本的な関係を
(1)
である.
把握することを目的とする.なお,このようなアプロー
異なるパラメータ値 ak ,bk をもつ複数の車種を考慮す
チは,要素技術の比較評価手法としての LCA と,システ
る (今回は 3 車種).LCC は生涯走行距離できまり,生涯
ム評価手法としての最適化型モデル分析の関係を理解す
走行距離はある分布に従うから,生涯走行距離のある領
ることにも有用であると考えている.
域ごとに最適な車種が存在する.与えられた生涯走行距
2.
離分布と,車種パラメータのもとで,総 LCC を最小化す
1 時点の車種選択問題
2.1.
る車種構成が車種構成最適解となる.総 LCC は次式
概要
自動車の生涯走行距離がある分布に従うと仮定し,各
3
xk
TotalLCC = ∑ ⌠
 ( ak x + bk ) f ( x )dx
k =1⌡ x
k −1
- 216 -
(2)
第 7 回日本LCA学会研究発表会講演要旨集(2012 年3月)
最小である生涯走行距離領域 xk-1 ~ xk における生涯
で表される.ただし
f(x) : 生涯走行距離 x が従う連続分布
走行距離分布の累積密度
xk : 車種 k と k + 1 の LCC が等しくなる損益分岐距離
xk
zk = ⌠

⌡x
(車種の並びは LCC について昇順に並んでいるものと
する)
(3)
で与えられる (導出は SI 参照).
である.
以下では,1) 連続分布の設定,2) 離散分布の設定,3)
・ 離散分布での最適解における車種 k の比率 z*k は,車
種 k の LCC が最小となる需要クラス i (ただし
車種別のパラメータの設定の三要素について,各々2 種類,
{i | xk −1 < xi ≤ xk } )
全体で 23 = 8 つのケースについて計算をおこなった結果
における頻度 hi の和
z ∗k =
を試算例として示す.
(1) 連続確率分布
∑ hi
{i | x k −1 < xi ≤ x k }
x *k
=⌠

⌡x*
対数正規分布とする.パラメータ設定を表 S1 に示す.
(2) 離散確率分布
布について,走行距離需要クラス数の設定を,1,2,3,
最大値である (SI 参照).
・ したがって車種 k の解析解と離散分布の解の差は
5,10,50 とした.設定例として連続分布 I と整合的な離
zk − z
散確率分布を図 S1 に示す.走行距離需要クラス数が 1 の
ときは,2 つの離散分布は同一となる (連続分布の期待値
k
*
(xk - x*k がゼロに近づく) から,離散確率分布の最適解
は連続確率分布の最適解に近くなる.ただしその挙
のコストパラメータを表 S2 のように設定した.この設定
動はパラメータ設定により異なる.
での車種別生涯走行距離と総コストの関係を図 S2に示す.
は 10 万 kmに対し,設定 (ii) では 7 万 kmとなるように
xk
xk
⌠
=  f ( x )dx − ⌠
 * f ( x )dx
⌡x k −1
⌡xk −1
要クラスが大きくなれば xkと x*kの一致度は高くなる
(3) 車種別コストパラメータ
仮想的な 3 車種 (A~C) を選択するものとし,各車種
A と B のコストが等しくなる生涯走行距離が設定 (i) で
*
となり,xk, x*k,f(x) の三要素に依存する.一般に需
を代表値とする頻度 1 の分布).
設定 (i) と設定 (ii) の違いは車種 A の設定である.車種
k −1
車種 k の LCC が最小となる需要クラス i の区分点の
度離散分布,2) 等区間離散分布,の 2 種類を考慮する.
それぞれの設定方法については SI に示す.各離散確率分
(4)
f ( x )dx
で与えられる.ただし xi は第 i 区間の代表値.x*kは
連続確率分布と整合的な離散確率分布として,1) 等頻
引用文献
1)
Yeh S., Farrell A., Plevin R., Sanstad A., Weyant J.: Env.
Sci. & Tech., 42 (22), (2008), pp.8202-8210.
している.
2)
3.
f ( x )dx
k −1
Grahn M., Azar C., Williander M., Anderson J., Mueller S.,
Wallington T.: Env. Sci. & Tech., 43 (9), (2009),
結果
pp.3365-3371.
各設定での車種構成最適解を求めた結果を図 1に示す.
連続確率分布の設定別・車種コストのパラメータ設定別
3)
(イ~ニ) に,離散確率分布・生涯走行距離需要クラス (以
原卓也,志賀孝広:第 30 回エネルギー・資源学会研
究発表会,東京,(2011).
下,
需要クラス) の設定別の車種構成最適解を示している.
総台数は 1 で正規化している.
得られた結果は以下のようにまとめられる.
・ 需要クラス数 1 での車種構成最適解では 1 車種しか
選択されないのに対し,連続確率分布での車種構成
解 (解析解) は複数の車種が選択される.よって需要
クラス数の設定が 1 つしかないモデルで得られる解
は生涯走行距離需要の多様性を反映しない不適切な
解といえる.
・ 解析解における車種 k の比率 zk は,車種 k の LCC が
図 1
- 217 -
設定別の最適解の比較
Supporting Information
SI-2 離散確率分布の設定方法
SI-1 車種構成最適化問題の解析解の導出
車種構成最適化問題において,生涯走行距離が連続確率分布
連続確率分布からクラス数 (区関数) n の離散確率分布を決定
に従う場合の最適解(解析解)は,総 LCC が最小となる車種 k の
するには各クラスの (1) 区間[x*i-1,x*i],(2) 各クラスの代表値 xi ,
比率である.よって解析解を zk とおくと,zk は車種 k の LCC が
(3) 各クラスの頻度 hi,の 3 項目を決定する必要がある.決定の
最小である生涯走行距離領域 xk-1 ~ xk における生涯走行距離分
仕方は無数にあるが,本研究では (a) 等頻度離散分布と (b) 等
布の累積密度
区間離散分布の2 種類の方法を用いた.
連続確率分布と整合的な離散確率分布とは,次の条件を満た
xk
zk = ⌠

⌡x
f ( x )dx
す分布をいう:
k −1
n
∑ hi = 1
K
i =1
で与えられる.ただし ∑ z k = 1 である.
n
k =1
∑ xi hi = E .
xk は車種k と車種 k+1 のLCC が一致する距離であり,
a k xk + bk = a k +1 xk + bk +1
i =1
(a) 等頻度離散分布
b −b
xk = k + 1 k
a k − a k +1
各クラスの頻度hi を等しく hi =
・
第 1 区間から第i 区間 [0,x*i] の頻度の合計について,
∗
xi
⌠ f ( x )dx = 1 erf u ∗i + 1 = i

⌡x0
n
2
から,車種コストパラメータの設定値によって決定される.
次に連続確率分布を対数正規分布としたときの解析解を導出
 (ln x − µ ) 2 
 の期
exp −
2σ 2
2p σx




待値,中央値はそれぞれ exp µ +
(
xk
 (ln x − µ )
exp −
2σ 2
2p σx

2

dx

1 ⌠u
2
 exp − u du
p ⌡u
(
)
k −1
=
erf (uk ) − erf (uk −1 )
2
1
となる.ただし u =
数 erf ( x ) ≡
2σ
x
xf ( x )dx をみたす. xi は
i −1
1 x
xi = ⌠
 xf ( x )dx
hi ⌡x
∗
i −1
1
k
∗
*
i
k −1
=
第 i クラスの代表値 xi は
x ∗i
zk = ⌠
 f ( x )dx
⌡x
k −1
)
xi ⋅ hi = ⌠

⌡x
このとき解析解は
(ln x − µ ) である.
x ∗i = exp 2σu ∗i + µ と決定される.
・
⌠
=
⌡x
2σ
 i

u ∗i = erf −1  2 − 1 として値が決まるから
 n

期待値 E,中央値 M となるパラメータは µ = ln M ,
xk
1
また, u =
1 2
σ  ,exp(µ ) であるから,
2 
σ = 2(ln E − M ) となる.
( ( ) )
が成り立つ (ただし x*n=+∞).
1
する.対数正規分布 f ( x ) =
1
とおく.
n
・
(ln x − µ ) とおいている.また誤差関
( )
2 ⌠
2
 exp − t dt を利用している.
p ⌡0
*
k

σ 2 ⌠ v
 exp − v 2 dv
exp µ +
=
2 ⌡v
p

n
= E erf ( v *i ) − erf ( v *i −1 )
2
n
(
∗
i −1
{
となる.ただし v =
)
}
1
(ln x − ( µ + σ ))とおいている.
2
2σ
n
代表値 xi と頻度の積の総和 ∑ xi ⋅ hi = E となり,もとの連続
i =1
確率分布である対数正規分布の期待値に一致する.
ここで max i k = max(i | x k −1 < x i ≤ x k ) とおき,
(b) 等区間離散分布
・
i = 1 ~ n-1 の各区間の区間幅を等しく x *i − x *i −1 =
xK
n
x *k = x *max i とおくと,
k
し i=n で x*n=+∞とする).
連続確率分布に基づく目的関数値 TotalLCC と,離散確率分布
に基づく目的関数値 TotalLCC*の差は,xk と x*k の一致度 (xk - x*k
x *i
hi = ⌠
 f ( x )dx
⌡x
1
= ( erf (u *i ) − erf (u *i −1 ))
2
のゼロへの近さ) および,その領域での f(x) の密度に依存する
∗
i −1
・
1
ことがわかる.
(ln x − µ ) とおいている.
2σ
1 ⌠x

hi ⌡x
=E
*
i
∗
i −1
等頻度離散分布
ff ( x )dx
1
3
(ln x − ( µ + σ ))とおいている.
2
2σ
こちらも代表値 xi と頻度の積の総和
等間隔離散分布
2
( erf ( v *i ) − erf ( v *i −1 ))
( erf (u *i ) − erf (u *i −1 ))
となる.ただし v =
SI-4 図表
走行距離需要
クラス数
1
第 i クラスの代表値 xi は
xi =
k −1
と表すことができる.
第 i クラスの頻度hi は
となる.ただし u =
x *k
3
TotalLCC* = ∑ ⌠
 ( ak x + bk ) f ( x )dx
k =1⌡ x *
i
*
とおく.よって各区間の区分点は x i = x K となる (ただ
n
n
∑ xi ⋅ hi = E
となり,
i =1
5
10
もとの連続確率分布である対数正規分布の期待値に一致する.
50
SI-3 目的関数値の計算
(1) 連続確率分布の場合
∞(連続分布)
目的関数 TotalLCC は
生涯走行距離(105km)
xk
3
TotalLCC = ∑ ⌠
 ( ak x + bk ) f ( x )dx
k =1⌡ x
k −1
で表される.対数正規分布の積分を誤差関数で表すまでの展開
はすでに示したので,結果だけ示すと
となる.vk,uk はSI-2 (b) と同様である.
設定(ii)
設定(i)
車種A
車種B
車種C
600
600
500
400
400
300
200
最適車種

σ2 
1
( erf ( vk ) − erf ( vk −1 ))
TotalLCC = ∑
{ak exp µ +
2 
k =1 2( erf ( u K ) + 1)

+ bk ( erf (uk ) − erf (uk −1 ))}
K
ライフサイクルコスト(104円/台)
図 S1 生涯走行距離の離散分布の設定(連続分布 I)
200
A
0
0
C100 A
B
B
0
10
20
30 0 7 10
生涯走行距離(104km)
C
20
30
図 S2 車種別生涯走行距離とLCC の関係
(2) 離散確率分布の場合
目的関数 TotalLCC*は
3
TotalLCC* = ∑
∑ (ak xi + bk )⋅ hi
表 S1 連続確率分布の
パラメータ設定
k =1 {i | x k −1 < x i ≤ x k }
で表される.
{i | x k −1 < xi
≤ x k }は車種 kのLCCが最小となる需要クラス
i の集合を表している.TotalLCC*の式は,各車種k について対応
する離散分布の需要クラス i について,代表値 xi における LCC
と頻度の積の総和を求めればよいことを示している.
μ
σ
2
平均[exp(μ+0.5σ )]
中央値[exp(μ)]
最頻値[exp(μ-σ2)]
分布I
11.2898
0.6680
100,000
80,000
51,200
表 S2 車種別
パラメータ設定
分布II
車種A 車種B 車種C
11.7753 設定(i)
a (円/km・台)
15
10
5
0.5350
100
150
250
b (104円/台)
150,000 設定(ii)
130,000
a (円/km・台) 11.5385
10
5
97,644
150
250
b (104円/台) 139.231