コンクリートの微細空隙構造に着目したひずみ速度依存応答メカニズムの

コンクリートの微細空隙構造に着目したひずみ速度依存応答メカニズムの解明
川口淑実
表 2-1 試験パラメータ
1. 研究の目的
本研究の目的は,コンクリート細孔中の間隙水圧が衝撃荷重を受ける
W/C 供試体名 供試体数
30%
構造物の動的応答にどうように関係するのか,そのメカニズムを定量的
に解明することである.雨水に晒された橋梁床版が早期に疲労破壊に至
35%
るマクロな現象を,コンクリートの細孔構造というミクロな部分に着目
して,ひずみ速度応答との関連を理解することを目指すところに本研究
の特徴がある.
40%
50%
2. 試験概要
本研究では一軸圧縮試験と水銀圧入試験を行った.
60%
2.1 一軸圧縮試験 供試体概要
一軸圧縮試験パラメータを表 2-1 に示す.パラメータは,W/C,含水
率,載荷速度の 3 項目とした.W/C は,30%,35%,40%,50%,60%,
65%,70%の 7 種類である.円柱供試体は,φ100×200mm,コンクリ
65%
70%
wl-30
wm-30
wh-30
Wl-35
Wm-35
Wh-35
Dl-35
Dm-35
Dh-35
wl-40
wm-40
wh-40
Wl-50
wm-50
Wm-50
Wh-50
Dl-50
Dm-50
Dh-50
wl-60
wm-60
wh-60
Wl-65
Wm-65
Wh-65
Dl-65
Dm-65
Dh-65
wl-70
wm-70
wh-70
3
3
3
3
5
3
3
3
3
3
3
3
6
3
5
6
3
3
3
3
3
3
3
5
3
3
3
3
3
3
3
乾湿状態
載荷速度
湿潤 乾燥 低速 中速 高速B 高速A
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ートの材料は,普通ポルトランドセメントを使用し,細骨材には大井川
水系陸砂(表乾密度 2.57g/cm3,吸水率 2.64%)を,粗骨材には青梅産硬
質砂岩(表乾密度 2.66 g/cm3, 吸水率 0.58%)を使用した.供試体は打
設後 1 日で脱型,28 日間水中養生を行った.含水率は湿潤状態と乾燥
状態で,湿潤状態のものは試験直前まで水中にあり,表面を軽く拭きと
った.乾燥状態のものは温度 60℃の乾燥炉に入れ,一日あたりの重量
変化が 2g以下になった時点で乾燥と規定した.
2.2 一軸圧縮試験 載荷方法
試 験 は 2000KN 万 能 試 験 機 を 用 い て 行 い , 載 荷 速 度 は 高 速
図 3-1 W/C-圧縮強度平均
A(4.17 × 10−3 𝑚𝑚/𝑠𝑒𝑐 ), 高 速 B(2.085 × 10−3 𝑚𝑚/𝑠𝑒𝑐 ) , 中 速 ( 4.17 ×
10−4 𝑚𝑚/𝑠𝑒𝑐),低速(4.17 × 10−5 𝑚𝑚/𝑠𝑒𝑐)の 4 種類である.
2.3 一軸圧縮試験 計測項目
計測項目は,供試体に作用する荷重ならびに供試体のひずみ量である.
軸方向に対し鉛直方向,水平方向にひずみゲージを対角線上に各 2 枚,
計 4 枚貼ることでひずみ量を計測,ひずみ速度を算出した.ひずみと荷
重はいずれも 0.05 秒間隔で計測した.
2.4 水銀圧入試験
水銀圧入試験は,試料が投入された測定セルに水銀を充填し,セル内
図 3-2 W/C-縦弾性係数平均
部を加圧することによって測定を行う.その過程での水銀侵入量を静電容量検出器で検知し,細孔容積を測定
する.計測試料の W/C は 30,40,50,60,70%の 5 種類である.測定には株式会社島津製作所のオートポ
アⅣ9500 を使用した.試験前日に真空ポンプを用いて約 24 時間真空乾燥させた.
3. 試験結果と考察
3.1 強度
図 3-1 に W/C と圧縮強度の平均値の関係を示す.W/C=50%は試験
パターン 1 及び 2 で 2 回試験を行った為,2 つに分かれている.
W/C=40%のケースを除き高速 A が低速より W/C=35%で 3.3%,
W/C=30%及び 50%以上で 10%以上大きい強度を示した.
3.2 縦弾性係数
図 3-2 に W/C と縦弾性係数の平均値の関係を示す.
W/C=30%,35%,
40%,試験パターン 1 の 50%,試験パターン 2 の 50%,65%,70%
図 3-3 W/C-横弾性係数平均
で,5.5%,4.6%,6.9%,1.1%,9.0%,3.0%,9.6%,2.3%高速 A が
低速より大きい値を示し,載荷速度が 100 倍速くなると,縦弾性係数
は 1.0~10.0%程度大きくなることが示された.
3.3 横弾性係数
図 3-3 に W/C と横弾性係数の平均値の関係を示す.横弾性係数の
算出式を式 3•1 に示す.
𝐸′ =
𝜎1⁄
3
𝜀 ′ 1⁄
(3 ∙ 1)
3
E′を横弾性係数,σ1/3 を最大圧縮応力σの 1/3 の圧縮応力,ε′1/3 をσ1/3
図 3-4 縦-横ひずみ曲線
における横ひずみとした.高速 A と低速を比較すると,W/C=30~50%
表 3-1 W/C とポアソン比
で低速が5%程度大きい横弾性係数を示したが,W/C=60%及び 70%
で高速が 6%程度大きい値を示し,
W/C によって異なる傾向を示した.
3.4 ポアソン比
図 3-4 に W/C=30%の縦-横ひずみ曲線を示す.最大圧縮応力時のポ
アソン比νは高速 A で 0.2~0.3 程度,
低速で 0.3~0.4 程度と示された.
表 3-1 に W/C と最大圧縮応力時のポアソン比νの相関を示す.
W/C=50%~70%は高速 A で個体差が比較的大きい結果が示された.
4. ひずみ速度応答メカニズムの考察
図 3-5 に W/C=30%~70%の細孔直径と累積細孔容積の関係を示す.
黄色の点線分より左側の細孔直径が 10-9~10-6m の範囲で W/C=50%,
60%,40%,70%,30%の順で,黄色の点線分より右側の細孔直径が
10-6~10-3m で W/C=70%,60%,50%,40%,30%の順で累積細孔容
図 3-5 細孔径分布図
積が大きい結果が示された.細孔直径が 10-9~10-6m の細孔量は,湿
潤条件のポアソン比の大きさの違い,細孔直径が 10-6~10-3m の範囲の細孔量は最大圧縮強度に関与している
可能性が高いことが示された.
5. 結論
本研究より以下の知見が得られた.
(1) 湿潤コンクリートの動的応答は W/C に関係している.
(2) W/C は細孔構造に関連している.
(3) 細孔径及び細孔量は圧縮強度及びひずみへの依存性が存在する.
参考文献:空隙の可視化によるコンクリートの強度発現メカニズムの研究,宮川美穂