タングステン混合層中からの炭化水素放出ダイナミックス

2014.9.11-12
第9回QUEST研究会
九州大学筑紫キャンパス応用理力学研究所
水素照射下における
炭素-タングステン混合層中からの
炭化水素放出ダイナミックス
湯山健太1, 佐藤美咲1, Li Xiao-Chun1, Long Zhang1,芦川直子2,
相良明男2,吉田直売3, 波多野雄治4, 大矢恭久1, 奥野健二1
1静岡大学大学院理学研究科
2核融合科学研究所
3九州大学応用力学研究所
4富山大学水素同位体科学研究センター
研究背景・目的
Plasma
プラズマから漏洩した不純物炭素
D+T→He+n
プラズマ対向壁材料(W)に照射
W-C混合層の形成
W-C層
CHx
: 炭素
W
: 水素同位体
図 タングステン(W)表面における
水素リサイクリング
炭化水素スパッタリング
プラズマ: 幅広い粒子エネルギー分布
対向壁中炭素濃度 : 場所により変化
→CHxの対向壁への付着率、放出の変化[1]
→プラズマ中の不純物、水素同位体量変化
核融合反応率の低下
W-C混合層からの炭化水素スパッタリング実験
 スパッタリング挙動の水素照射エネルギー依存性
 W-C混合層中における炭化水素化学種の炭素濃度依存性
W-C混合層からの各炭化水素化学種の放出メカニズム理解
[1] 上田良夫 核融合工学部会会報(2003)
研究の目的
W-C混合層からの炭化水素放出におよぼす
水素エネルギー変化の影響
 炭素と水素の相互作用の理解
高配向性熱分解黒鉛(HOPG)に水素エネルギーを変化させて照射
入射エネルギー とスパッタリング化学種の相関
 W-C混合層中の炭素と水素の反応理解
炭化W(WC)、炭素照射W(C imp.W)に水素エネルギーを変化させて照射
W-C結晶とW-C混合層の違いによる放出挙動への影響評価
W-C混合層からの各炭化水素化学種の放出メカニズムの理解
実験操作 1
1. 炭化水素スパッタリング化学種の水素エネルギー依存性
高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、炭化タングステン(WC)、歪み取加工済みタングステン
C+ 銃
He+ (or D2+)銃
QMS
D2+ 銃
照射室
図 3種同時イオン照射システム
実験操作 1
1. 炭化水素スパッタリング化学種の水素エネルギー依存性
高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、炭化タングステン(WC)、歪み取加工済みタングステン
He+ (or D2+)銃
C+ 銃
水素照射
エネルギー:(0.3 – 3.0) keV H2+ for HOPG
(0.6 – 3.0) keV H2+ for WC,C imp.W
フラックス : 1.0×1018 H+ m-2 s-1
照射温度:673 K
QMS
炭素照射W(C imp.W)作成
エネルギー:10 keV C+
フラックス :1.0×1017 C+ m-2 s-1
21 C+ m-2
フルエンス:1.0×10
D2+ 銃
照射温度:R.T.
スパッタリング
化学種
加熱処理
1173 K、30 min
17
Sputtering rate / 10 molecule m s
-2
2.4
HOPG 3.0keV
-2
2.0
1.6
1.2
0.8
3 keV H2
CH
CH2
CH3
CH4
+
0.4
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
22
+
-2
Hydrogen fluence / 10 H m
図 3.0 keVにてH2+照射したHOPGからの
スパッタリング放出挙動
2.4
HOPG 0.3 keV
2.0
0.3 keV H2
CH
CH2
CH3
CH4
1.6
17
Sputtering rate / 10 molecule m s
-1
-1
化学種の水素照射エネルギー依存性(HOPG)
1.0
1.2
+
0.8
0.4
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
22
+
Hydrogen fluence / 10 H m
-2
図 0.3 keVにてH2+照射したHOPGからの
スパッタリング放出挙動
 3.0 keV照射 : CH4が主な放出化学種
 0.3 keV照射 : CH4が減少、CH3の放出量が約40%
スパッタリング過程の変化
物理スパッタリング : 高エネルギー粒子照射による弾き出し
化学スパッタリング : 水素や酸素等が打ち込まれた際に化学結合を形成し放出
照射エネルギー変化による各スパッタリング過程の割合変化が予想
1.0
物理スパッタリングしきいエネルギー
0.06
0.05
Vacancy / ion
+
H2 energy / keV
0.3
3.0
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
0
20
40
Depth / nm
60
80
図 各深さにおける欠陥導入量
物理スパッタリングしきいエネルギー計算
 物理スパッタリングが生じるしきいエネルギー(Et)は下記の式で計算される[2]
1 5.7(mi / mt)
Et 
 Eb
γ
Eb : 材料の結合エネルギー
mi : 照射粒子の原子質量
4mi  mt
γ
2
(mi  mt)
mt : ターゲットの原子質量
HOPG中の炭素の物理スパッタリングに要するエネルギー : 24 eV
[2] 杉本達律 セラミックス基板研究センター年報(2006)
物理スパッタリングしきいエネルギー
0.06
0.05
Vacancy / ion
+
H2 energy / keV
0.3
3.0
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
0
20
40
Depth / nm
60
80
図 各深さにおける欠陥導入量
物理スパッタリングしきいエネルギー計算
 物理スパッタリングが生じるしきいエネルギー(Et)は下記の式で計算される[2]
1 5.7(mi / mt)
Et 
 Eb
γ
Eb : 材料の結合エネルギー
mi : 照射粒子の原子質量
4mi  mt
γ
2
(mi  mt)
mt : ターゲットの原子質量
低エネルギー照射時の方が表面近くでの欠陥導入量が多い⇒物理スパッタ増加
[2] 杉本達律 セラミックス基板研究センター年報(2006)
1.0
WC
Ratio of sputtering particles / -
Ratio of sputtering particles / -
WCおよびC imp.Wからの放出化学種
CH
CH2
CH3
CH4
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.6
3
+
H2 energy / keV
図 各水素各エネルギーにおける
WCからの各分子種放出割合
1.0
C imp. W
CH
CH2
CH3
CH4
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.6
3
+
H2 energy / keV
図 各水素各エネルギーにおける
C imp.Wからの各分子種放出割合
低エネルギー水素照射 : C-H結合量の少ない炭化水素が放出
WC
C imp.W
•炭素濃度50%、C-W結合
•炭素濃度30%、C-W結合
• CH4の減少およびCH3の増加
• CH3の減少およびCH2の増加
放出化学種は炭素材と炭素照射材により変化
⇒物理および化学スパッタリング割合の変化が示唆
各放出化学種と量
表 各水素エネルギーにおけるWCからの炭化水素放出量 (m-2 s-1)
CH
CH2
CH3
CH4
Total C
Total H
0.6 keV
~0
1.2×1016 3.3×1016 3.4×1016 7.9×1016 2.6×1017
3 keV
~0
2.8×1016 5.0×1015 7.5×1016 1.1×1017 3.7×1017
表 各水素エネルギーにおけるC
CH
CH2
imp. Wからの炭化水素放出量(m-2 s-1)
CH3
CH4
Total C
Total H
0.6 keV
3.0×1014 1.0×1015 5.6×1014
~0
1.9×1015 5.5×1015
3 keV
5.2×1015 2.6×1016 3.2×1016
~0
6.3×1016 1.5×1017
低エネルギー水素照射した際のWCからの炭化水素放出量は
高エネルギー照射時と比較し約80%
C imp.からの炭化水素放出量
(表面反射率、炭素濃度を考慮) : 高エネルギー照射時と比較し約3%
0.6 keV水素照射したWCと比較して放出量は2%
W-C混合層の構造が炭化水素放出速度に影響したことが示唆
各放出化学種と量
表 各水素エネルギーにおけるWCからの炭化水素放出量 (m-2 s-1)
CH
CH2
CH3
CH4
Total C
Total H
0.6 keV
~0
1.2×1016 3.3×1016 3.4×1016 7.9×1016 2.6×1017
3 keV
~0
2.8×1016 5.0×1015 7.5×1016 1.1×1017 3.7×1017
表 各水素エネルギーにおけるC
CH
CH2
imp. Wからの炭化水素放出量(m-2 s-1)
CH3
CH4
Total C
Total H
0.6 keV
3.0×1014 1.0×1015 5.6×1014
~0
1.9×1015 5.5×1015
3 keV
5.2×1015 2.6×1016 3.2×1016
~0
6.3×1016 1.5×1017
低エネルギー水素照射した際のWCからの炭化水素放出量は
高エネルギー照射時と比較し約80%
C imp.からの炭化水素放出量
(表面反射率、炭素濃度を考慮) : 高エネルギー照射時と比較し約3%
0.6 keV水素照射したWCと比較して放出量は2%
W-C混合層の構造が炭化水素放出速度に影響したことが示唆
各放出化学種と量
表 各水素エネルギーにおけるWCからの炭化水素放出量 (m-2 s-1)
CH
CH2
CH3
CH4
Total C
Total H
0.6 keV
~0
1.2×1016 3.3×1016 3.4×1016 7.9×1016 2.6×1017
3 keV
~0
2.8×1016 5.0×1015 7.5×1016 1.1×1017 3.7×1017
表 各水素エネルギーにおけるC
CH
CH2
imp. Wからの炭化水素放出量(m-2 s-1)
CH3
CH4
Total C
Total H
0.6 keV
3.0×1014 1.0×1015 5.6×1014
~0
1.9×1015 5.5×1015
3 keV
5.2×1015 2.6×1016 3.2×1016
~0
6.3×1016 1.5×1017
低エネルギー水素照射した際のWCからの炭化水素放出量は
高エネルギー照射時と比較し約80%
C imp.からの炭化水素放出量
(表面反射率、炭素濃度を考慮) : 高エネルギー照射時と比較し約3%
0.6 keV水素照射したWCと比較して放出量は2%
W-C混合層の構造が炭化水素放出速度に影響したことが示唆
W-C混合層と水素打ち込み深さ
H ion distribution / m
-2
0.10
0.08
3 keV H2
+
0.3 keV H2
0.06
+
0.04
0.02
0.00
0
10
20
30
Depth / nm
40
50
図 C imp.Wに形成したW-C混合層の深さ方向TEM像と水素打ち込み深さ
C imp.Wに形成したW-C混合層は深さ方向において密度が異なる構造
• 低エネルギー照射時 : 低密度W-C混合層に水素が注入
• 高エネルギー照射時 : 高密度W-C混合層領域にも水素が注入
低エネルギー照射時において炭素と反応せず脱離する水素量が多く
W-C結晶と比較して放出量の低下、C-H結合の少ない炭化水素放出
まとめ
W-C混合層からの各炭化水素化学種の放出メカニズム理解
W-C混合層に対し照射される水素のエネルギーで化学種が変化
 物理スパッタリングにより放出する化学種は化学スパッタリング時と
比較しC-H結合量が減少
W-C混合層中の構造および化学状態で放出化学種、速度が変化
 W-C混合層の表面密度の変化により放出量が変化
 W-C混合層中の炭素化学状態に関して炭素濃度が低下すると
C-H結合量が減少
W-C混合層中の炭素化学状態および混合層に照射される水素エネルギーで
スパッタリング化学種が決定
実機プラズマ対向壁における各場所での炭素量、水素量及びそのエネルギーを
検討することで核融合炉全体におけるスパッタリングによる水素同位体
リサイクリングを理解できる。