フェーズドアレイUT による大型ロ-タシャフトの内部品質

技 術 報 告
フェーズドアレイ UT による大型ロ-タシャフトの内部品質評価方法の確立
フェーズドアレイ UT による大型ロ-タシャフトの内部品質評価方法の確立
Internal Quality Evaluation Technique by Phased Array UT for Large
Monoblock Rotor Shaft Forging
星 延幸 *
吉田 一 *
仁村 弘樹 *
成ヶ澤 秀明 *
Nobuyuki Hoshi
Hajime Yoshida
Hiroki Nimura
Hideaki Narigasawa
要 旨
大型のロータシャフトにおいて、従 来 U T による欠 陥 検出能は長いビーム路 程により要 求されるレベルを満 足できない
場 合がある。 加えて V G B 規 格のような垂 直 探 傷に加えていくつかの斜 角探 傷を要 求する検 査 仕 様に従う場合、検査
作業に非常に多くの時間がかかる。フェーズドアレイ UT の特徴である“ビームの集束”と“セクタ走 査 ”は上 記の問 題
の解 決に有 効である。そこで、私たちはフェーズドアレイ UT に関する探傷条件適正化の調査を行い、自動 UT 装置
によるフェーズアレイ U T 技 術を用いた大 型ロータシャフトの内部品質評価手法を確立した。その結果、欠陥検出能お
よび検 査 効 率を従 来 U T よりも向 上させることができ、より正 確で信 頼 性のある大 型ロータシャフトの検 査が可 能である
ことを確 認した。
Synopsis
For large monoblock rotor shaft forging, the detectability of indications by Conventional UT cannot always satisfy the
requirement due to the long beam path. In addition it takes much time to conduct the inspection in accordance with some inspection
specifications such as the VGB standard, which requires several angle beam methods in addition to the straight beam method. The
characteristics of Phased Array UT technique, namely,“zone focusing”and“sector scan”are effective to solve the above problems.
Investigations regarding the optimal testing conditions of Phased Array UT were performed and we have established the internal
quality evaluation technique for large monoblock rotor shaft forging by Phased Array UT technique with an automated UT system.
As a result, the detectability of indications and efficiency of inspection have been improved compared with Conventional UT, and we
have confirmed that large monoblock rotor shaft forging can be inspected more reliably and accurately by this evaluation technique.
1. 緒 言
用いた場合、中心部では要求される欠陥検出能を満足で
きない場合がある。これはロータシャフトの大径化により、
当社で製造されるロータシャフトは大型化が進み、現在
超音波がロータシャフト内部を伝搬する距離が長くなり超
は最新鋭の原子力発電所向け低圧タービンロータシャフト
音波ビームが拡がることで、中心部では広範囲の結晶粒界
を想定し、外径がφ 3,200 mm まで達している。ロータシ
からの反射波がノイズとなり、欠陥検出能が悪化してしまう
ャフトの大型化が進む一方で、製品に要求される品質レベ
ためである。
ルは高く、製品の内部品質を評価する超音波探傷試験(以
また、ロータシャフトの大型化により検査作業時間が増
下、UT)ではロータシャフトの中心部においてφ 0.9 mm
加するという問題がある。顧客から要求される UT 仕様の
程度の欠陥の識別を要求する検査仕様がある。
中には、垂直探傷に加えて複数の斜角探傷を適用するこ
しかし、大型のロータシャフトにおいて従来 UT 方法を
とがあり、GE と共同で適用に取り組んでいるヨーロッパの
*:室蘭製作所
Muroran Plant
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2. 目 標
VGB 検査仕様では垂直探傷に加えて 7°
, 14°
, 21°
, 28°など
の複数の斜角探傷が要求される。大型ロータシャフトへヨ
ーロッパ検査仕様の適用を想定した場合、検査作業時間に
本研究では前述した従来 UT における問題点を改善すべ
1 ヶ月間程度を要してしまい、製造工期に大きな影響を与
く以下の点を満足する PA-UT を用いた大型ロータシャフト
え、生産性の低下を招いてしまうことが予想される。
の検査方法の確立を目指した。
そこで、以下に示す特徴を有したフェーズドアレイ UT
(以下、PA-UT)を大型ロータシャフトの検査手法へ適用す
ることでこれらの問題の改善が期待できる。
(1)垂直探傷により、可能な限り表層からロータシャフトの中
心部までの範囲においてφ 0.9 mm EFBH(等価欠陥サイ
ズ)
、中心部から反対面に相当する底面エコーまでの範囲
(1)PA-UT では図 1 に示すように超音波を任意の位置へ集束
させることができる。従来 UT では超音波の伝搬距離が
長くなることで超音波ビームが拡がり広範囲の結晶粒界か
においてはφ1.6 mm EFBH を検出できること。
(2)7°
, 14°
, 21°
, 28°
の角度を持つ縦波斜角探傷を一つの探触
子で一度の走査で実施すること。
らの反射波をノイズとして検出することが考えられる。一
方で、PA-UT では超音波の拡がりを制御することができ
また、上記の検査方法を自動 UT 装置により実施するこ
るため、結晶粒界からの反射波を低減し、欠陥検出能の
とを目標とした。自動 UT 装置を使用することで、一度の
向上が期待できる。
走査ですべての探傷データを採取することができ、検査作
業の効率化が期待できる。また、探傷データを画像処理す
ることが出来るため、より信頼性の高く正確な検査作業を
行うことができる。なお、本研究では胴径がφ 2,800 mm
のロータシャフトを想定した。
3. 使用機器
本研究において使用する機器および主な仕様を示す。
(1)探傷器
装置名称:DYNARAY(128/128PR)
(図 3 参照)
図 1 フェーズドアレイ UT の特徴 -1
(ゾーンフォーカス)
(2)PA-UT では図 2 に示すように一つの探触子で複数の角度
製造者:ZETEC 社
(2)探触子
装置名称:QUAD (図 4 参照)
へ超音波を入射することができるため、一度に複数の斜
製造者:ZETEC 社及び IMASONIC 社
角探傷を実施することが可能であり検査時間の効率化が
主な仕様:周波数 /2 MHz、振動子数 /128 ヶ(32 × 4)
、
期待できる。
図 2 フェーズドアレイ UT の特徴 -2
(セクタ走査)
開口寸法 /64 mm x 64 mm
図 3 探傷器 /DYNARAY
そこで本研究では PA-UT を大型ロータシャフトの検査
手法として適用することを目的とし、その評価方法の確立
を行う。
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図 4 探触子 /QUAD
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4. 評価方法の確立
4.1.2 探傷条件
探傷範囲は表層から 2,800 mm と幅広く、この範囲の全
4.1 垂直探傷
てで目標の欠陥検出能を満足しなければならない。従来
4.1.1 欠陥検出能の確認
UT では一つの探触子により近距離と遠距離の欠陥検出能
欠陥検出能に対する PA-UT によるゾーンフォーカスの
を同時に満足させることは不可能である。しかし、PA-UT
効果を確認するために図 5 に示す人工欠陥を有する試験片
は振動子を電子的に制御し超音波ビームを形成することで
を用いて、従来 UT と PA-UT による欠陥検出能の比較を
任意の深度に超音波ビームを集束させることが可能であり、
行った。対象とした人工欠陥はビーム路程で 1,294 mm の
使用する振動子の組み合わせにより探傷範囲全てで目標と
位置に加工したφ 1.6 mm 平底穴(以下、FBH)である。
する欠陥検出能を満足できる可能性がある。そこで、以下
調査結果を図 6 に示す。φ 1.6 mm FBH からのエコー高
の条件を満足する超音波ビームの形状(フォーカルロー)の
さ(S)とノイズレベル(N)を比較すると S/N 比は、従来
選定を行った。
UT では 2 であるのに対して、PA-UT では 20 であった。
この結果より PA-UT を適用することにより、従来 UT に
(1)表層からロータシャフトの中心部までの範囲においてφ 0.9
比べ欠陥検出能を 10 倍程度改善できることを確認できた。
mm EFBH、中心部から反対面に相当する底面エコーまで
次に、より具体的な探傷条件について検討を行った。
の範囲においてはφ1.6 mm EFBH を検出できること。
(2)検出された欠陥のサイズ評価を正確に行えること。
欠陥のサイズ評価は超音波ビームの特性曲線より算出す
るが、近距離音場内における超音波ビームの特性曲線は非
常に複雑である。そのため、近距離音場内で欠陥のサイズ
を評価することは非常に難しい。この近距離音場の長さは
フォーカルローに依存しており、適切なフォーカルローを選
定することで近距離音場の長さを調整することが可能であ
る。PA-UT ではフォーカルローを調整することが可能であ
るため、適切な条件を選定することで欠陥サイズの評価を
容易に実施することができる。そのため、本研究では上記
の 2 点を満足するフォーカルローの選定を行った。
図 5 試験片の概略図
4.1.3 欠陥検出能の調査
使用するフォーカルローの欠陥検出能を調査するために、
図 5 の試験片に加えて 5 つの試験片(代表の試験片の写真
を図 7 に示す)を用いた。これらの試験片には 5 mm から
1,294 mm の深さにφ 1.6 mm FBH が加工されている。
さまざまなフォーカルローの欠陥検出能を調査した結果、
図 8 に示すように各深度に適した 3 種類のフォーカルロー
を用いることで深さ 25 mm から 1,294 mm の範囲におい
てφ 0.9 mm FBH を明瞭に検出できることを確認した。ま
た、実機ロータシャフトの胴部(φ 2,740 mm)の外周面に
φ 1.6 mm FBH を加工し、検出状況の確認を行った。そ
の結果、大型ロータシャフトの中心部から胴部反対面に相
当する底面エコーまでの範囲においてφ 1.6 mm FBH を明
瞭に検出できることを確認した。探傷結果として代表的な
探傷波形および距離振幅特性曲線を図 9 および図 10 に示
図 6 従来 UT とフェーズドアレイ UT の検出能の比較
す。また、近距離音場が狭くなるようフォーカルローを選定
したことで、深度で 25mm 以降の探傷範囲が近距離音場
内とならないようにすることができ、欠陥のサイズ評価も正
確に実施することができる。
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4.2 斜角探傷
斜角探傷は方向性を有する欠陥を検出することを目的と
して、7°
, 14°
, 21°
, 28°の周方向縦波斜角法を用いて実施す
る。斜角探傷において目標とする欠陥検出能をφ 1.6mm
FBH を検出できることとし、必要な補正量や欠陥検出能の
検証を行った。検証にはそれぞれの角度においてビーム路
程が 50mm, 500mm, 1,000mm となるφ 4.0mm 横穴(以
下、SDH)を用いた。
図 7 試験片の概略図
超音波ビームに角度を持たせることで生じる超音波ビーム
の減衰量の測定を行った。減衰量を表 1、代表的な探傷波
形を図 11 に示す。超音波ビームの角度を 0°
から 28°
の範囲
に変化させた場合、最大で -5.0 dB の超音波ビームが減衰
することを確認した。この値にφ 1.6 mm FBH とφ 4.0 mm
SDH の反射率の違いを加えることで、7°から 28°の斜角探
傷を実施する場合の補正量を決定することができる。
求めた補正量より斜角探傷における欠陥検出能を調査し
た結果、表 2 に示すように従来 UT の不感帯幅に相当する
50 mm 深さからφ 1.6 mm FBH を明瞭に検出できること
図 8 垂直探傷における超音波ビーム
を確認した。
表 1 垂直探傷と斜角探傷の感度差
図 9 垂直探傷の代表探傷波形
図 11 斜角探傷の代表探傷波形
表 2 斜角探傷の感度差
図 10 距離振幅特性曲線
* 1: φ 1.6mmFBH とφ 4.0mm SDHにおける超音波ビームの反射率の差
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4.3 走査条件の選定
PA-UT は自動 UT 装置を用いて実 施 するため、 自動
UT 装置による走査条件を定める必要がある。自動 UT 装
置による走査は一定の間隔で行うため、適切な走査間隔を
定めなければ欠陥を正しく評価できない。そのため走査の
条件を -6 dB の超音波ビーム幅に基づいて定めることとし
た。-6 dB の超音波ビーム幅とは欠陥からの反射エコーが
最大のエコー高さに対して 1/2 の高さとなる超音波ビームの
幅であり、その範囲では適切に欠陥を検出することが可能
である。そこで探傷に用いる 3 つのフォーカルローの -6 dB
の超音波ビーム幅をφ 1.6 mm FBH を用いて、ロータシャ
フトの軸方向および円周方向に一致する方向で測定した。
測定結果を図 12 に示す。軸方向の -6 dB の超音波ビー
図 13 外周自動 UT 装置(TUROMAN5)
ム幅はビーム路程で 50 mm となる位置で最小となり、その
幅は 7.5 mm であった。また周方向おいてはビーム路程で
上記の条件により得られた探傷データを確認した結果、
15 mm となる位置で最小となり、ビーム幅は 7 mm であっ
データ取り込み不良はなく問題ない探傷データが採取可能
た。この結果より、探傷範囲を -6 dB のビーム幅で少なく
であることを確認した。採取した代表的な探傷波形およ
とも 1 回探傷することを条件とした場合は、自動 UT 装置
び従来 UT による探傷波形を図 14 に示す。探傷波形より
による走査条件が「軸方向で 7.5 mm 以下、円周方向で 7
欠陥検出能を示す最小検出欠陥サイズ(MDFS)を算出
mm 以下の間隔で走査すること」となる。
した結果、図 15 に示すように、PA-UT では従来 UT より
も大幅に欠陥検出能を向上させ、目標とした検出能を満足で
きることを確認した。また、垂直探傷および 7°
, 14°
, 21°
, 28°
の斜角探傷を一度の探傷走査で同時に実施しすることが
でき、探傷データの取り込みも正常に行われることを確認
した。従来 UT では 9 回の探傷走査を行う必要があるが、
PA-UT では 1 回の探傷走査ですべての探傷を実施するこ
とが可能であり、探傷走査回数を 1/9 とし、探傷時間を従
来 UT に比べ 90% 程度削減することができる。
図 12 -6 dB ビーム幅
5. 大型ロータシャフトにおける検証
これまでに定めた探傷条件を用いて、実際の大型ロータ
シャフトに対して自動 UT 装置を用いた探傷を行った。下
記の条件に示すように複数の探傷を同時に実施することで、
図 14 大型ロータにおける代表探傷波形
探傷データの抜けや探傷速度の低下が予想されるため、そ
の点を注視し実際の探傷を行った。
探傷条件を以下に示す。
(1)探傷部外径:φ 2,811 mm
(2)探傷チャンネル数 / 垂直探傷:3 チャンネル
/ 斜角探傷:8 チャンネル
( 7~2 8°
, 時計および反時計方向)
(3)走査条件 / 取り込み周期:7 mm(軸方向)
、
:0.2°
(周方向)/ 探傷速度:100 mm/sec
(4)自動 UT 装置:ロータシャフト外周自動 UT 装置
(装置名称:TUROMAN5/Actemium Cegelec 社製 図 13)
図 15 大型ロータにおける MDFS
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6. 結 言
フェーズドアレイ UT 手法を用いることで、大型ロータシャ
フトにおける欠陥検出能の向上や複数の超音波探傷を同時
に実施することができることを確認した。この結果より自動
UT 装置を用いたフェーズドアレイ UT 手法による大型ロータ
シャフトの内部品質評価方法を確立し、この手法を適用する
ことで正確で信頼性のある大型ロータシャフトの検査が実施
可能である。
(1)垂直探傷による欠陥検出能
大型ロータシャフトにおいて各深度に適した 3 種類のフォー
カルローを用いることで以下の欠陥検出能を得ることを確認
した。従来 UT の不感帯に一致する深さ 25 mm からロー
タシャフトの中心部までの範囲でφ 0.9 mm EFBH を
明瞭に検 出することが出来る。 ロータシャフトの中
心部から反対面に相当する底面エコーまでの範囲では
φ1.6 mm EFBHを明瞭に検出することが出来る。
また、
従来 UT において要求される欠陥検出能を満足できな
い場合がある大型ロータシャフトの中心部において欠陥
検出能を大幅に向上させることが可能である。
(2)斜角探傷による欠陥検出能
大型ロータシャフトにおいて、1 種類のフォーカルローを用
いることで表層から反対面に相当する底面エコーまでの範
囲でφ1.6 mm EFBH を明瞭に検出することが可能であ
る。また、表層部は従来 UT の不感帯に一致する 50 mm
深さにおいてφ1.6 mm EFBH を明瞭に検出することが出
来る。
(3)検査時間
垂直探傷および斜角探傷として 7°
, 14°
, 21°
, 28°
の時計およ
び反時計方向の 2 方向での探傷を自動 UT 装置にて一度
の走査で実施可能である。検査作業時間については、従
来 UT に比べ探傷走査回数を 1/9 にすることができる。
そのため、探傷時間を 90% 程度削減することが出来る。
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日本製鋼所技報 No.65(2014.10)