平成 26 年度 都市計画専攻 卒業論文中間発表 2014/11/19 高度成長期に建設されたUR賃貸住宅団地の再編に関する課題-自治体とURの計画意向の比較を通して理工学群 社会工学類 都市計画主専攻 4 年 学籍番号 201111257 信太 一郎 指導教員:有田智一 1. はじめに 1-1 研究の背景・目的 我が国では、戦後の住宅不足に対応するため昭和 30 年代以降に日本住宅公団(現、都市再生機構。以下、 UR)によって、多くの賃貸住宅団地の開発が行われ てきた。これらの団地開発は国の住宅政策の一環とし て、当時の我が国の住宅不足解消に大きく貢献してき た。しかし、建設から 50 年前後を経た現在、開発初期 の団地においては、設備が老朽化・陳腐化し、住宅の 規模や間取りは現在の住宅ニーズにそぐわなくなって きている。 このような背景の中、UR は平成 19 年に「UR 賃貸住 宅ストック再生・再編方針」を策定し、個別団地ごと に再編を実施するとしている。この再編方針に則って、 UR は昭和 30 年代に管理開始された団地に対して、建て 替え事業を実施し、すでに事業が完了している団地も 見られる。今後は、膨大なストックを抱えている昭和 40 年代に管理が開始された団地の再編が中心になると 考えられる。 一方、UR 賃貸住宅の社会的位置づけも変化してきて おり、公団住宅(現、UR住宅)は中堅労働者向けの 住宅とされていたが、平成 18 年の住生活基本法や平成 19 年の住宅セーフティネット法を受けて、公営住宅と ともに社会的セーフティネット機能を担う役割に位置 づけられている。 これらより、UR 団地の再編については、団地個別の 課題や再編計画のみに着目するのではなく、各自治体 による住宅政策の観点から団地再編について議論する ことが重要であると考える。特に、高度成長期に建設 された団地では、団地そのものの劣化に加え、同時期 に住民が多く入居したことによる高齢世帯の増加や、 自治体の税収不足、コミュニティの崩壊、孤独死とい った懸念があり、団地の再編はもはや団地管理事業者 の対応だけではなく、自治体の対応も併せて議論する 必要があろう。 団地再編に関する既往研究を整理すると、団地再編 による団地空間の変容に関するもの(1)(2)(3)、、居住者の 住み替えに焦点を当てたもの(4)(5)、団地再編計画への 居住者参加の方法論を考察したもの (6)が挙げられる。 これらは建替えの際に生じる問題・課題に着目してい るが、建替えが実施されてない団地を対象に扱った研 究は蓄積が少ない。また、団地管理事業者・自治体の 双方の立場から団地再編について論じたもの(7)(8)は、 平成 19 年の住宅政策転換以前の計画に基づいた場合を 想定している。そのため、現在の社会変化を受けて、 自治体の住宅政策と併せて再度団地再編について論じ る必要性があると考える。 このような背景を踏まえ、本研究では最も多くのU R団地が供給された首都圏において、今後、荒廃が懸 念される昭和 40 年代のUR団地が立地する地域に着目 する。 そして、対象地域に立地する昭和 40 年代のUR団地 を対象に、居住実態を調査・分析し、居住実態を踏ま えた将来的な課題を明らかにする。さらに、対象地域 の自治体の団地再編に対する計画意向と UR の団地再編 に対する計画意向を比較することで、今後の団地再編 における政策・施策のあり方について示唆を得ること を目的とする。 エリア 団地数 戸数 首都圏 911 中部圏 139 58,598 近畿圏 429 208,676 九州圏 172 48,414 81 16,764 その他 418,445 表 1:エリア毎のUR団地数 (参考文献 10 より引用) 1-2 研究の構成 本研究のフローは図 1 の通りである。 図 1:研究フロー 2. URにおけるストック活用方針団地の位置付け 2-1 団地再編方針の整理 ここでは、URの団地再編方針を整理する。URは 平成 19 年 12 月 24 日の 「独立行政法人整理合理化計画」 の閣議決定を受け、同年 12 月 26 日に平成 30 年度まで の方向性を示した「UR賃貸住宅ストック再生・再編 方針」を策定した。これは、UR賃貸住宅ストック約 77 万戸について、従来の供給年代ごとの単一的な管 理・整備から、団地毎の特性に応じた多様な事業手法 へ転換することを基本とし、全団地について特性に応 じて 4 つの基本的類型に類型化している。 また、この方針では平成 30 年度までに約 10 万戸の 再編に着手し、約 5 万戸のストックを削減するとして 1 いる。さらに、平成 60 年頃までに現在のストックの概 ね 3 割を削減することを明示している。 対象地域の選定に当たっては、URが策定した団地 別整備方針書(9)に記載されているデータを使用した。 まず、はじめに①今後、荒廃が懸念される団地(収 益性が低く、将来も需要の改善が見込めない団地)を 抽出する。②次に、①で抽出した団地が立地する地域 の自治体に着目する。そして①において選定した自治 体の中から、住宅マスタープランや住生活基本計画に おいて団地再編について検討している自治体を研究対 象地域として選定する。 表 2:UR賃貸住宅ストック再生・再編方針 (参考文献 10 より筆者作成) 基本的類型 ①団地再生 ②ストック活用 ③用途転換 ④土地所有者への譲渡、返還等 計 団地数 約 16 万戸 約 57 万戸 約 1 万戸 約 3 万戸 約 77 万戸 ①今後、荒廃が懸念される団地の抽出 ・昭和 40 年代に管理開始されたストック活用団地の抽出 ・将来的に需要の低下が懸念される団地の抽出 (団地別整備方針書において、「将来的な需要の低下が 懸念される」という記載を基に抽出) ・最寄り駅からバス圏(徒歩 10 分以上)に立地している団 地の抽出 ②①で選定した団地が立地する自治体の選定 ・①により、14 自治体に立地する 23 団地を抽出。続いて、 住宅マスタープラン、住生活基本計画において、団地再 編について積極的に検討している自治体を選定 表 3:基本的類型の手法概要 (参考文献 10 より筆者作成) 基本的類型 ①団地再生 ②ストック活用 ③用途転換 ④土地所有者への 譲渡、返還等 手法 建替え、リニューアル等 計画的修繕、バリアフリー化 住宅用途以外で活用 全面借地方式市街地住宅、特別借受賃貸 住宅は、土地所有者へ譲渡・返還 上記の選定方法により、本研究では、 「日野市」、 「町 田市」を本研究の対象地域とする。 2-1-2. URの経営改善に向けた計画・目標 URは経営改善に向けて、平成 26 年に「独立行政法 人都市再生機構 第三期中期目標・計画」を策定し、平 成 26 年から平成 31 年までの期間における中期計画と 目標について定めている。これによると賃貸住宅事業 においては、収益改善効果が高い団地については集中 投資するとしているが、収益性が低く将来も需要の改 善が見込めない団地については統廃合を加速していく 方針を打ち出している。このことから、収益改善に向 けて選択的に団地再編に取り組んでいく方針であるこ とが分かる。 2-2 団地再編の現状と動向の把握 URによる建替え事業の実施状況を整理した。図 2 をみると昭和 30 年代の団地の建替えに関しては、概ね 事業完了または実施中となっており、今後は昭和 40 年 代の団地再生に順次、着手するとしている。 このことから、今後は昭和 40 年代の中でも膨大なス トックを抱えるストック活用団地が団地再編の中心に なると考えられる。団地再生の団地が順次建替えられ る中、ストック活用に分類されている団地への対応は、 計画的な修繕やバリアフリー化のみとなっており、抜 本的な住戸改善などの追加投資は行われない。なお、 昭和 40 年代のストック活用団地は、首都圏に約 14 万 戸、118 団地立地している。 表 4:①の選定方法により抽出された自治体と団地数 (参考文献 9 を用いて筆者作成) 該当団地数 自治体 自治体 該当団地数 横浜市 6 川崎市 1 吉川市 1 町田市 2 久喜市 1 東久留米市 1 上尾市 2 日高市 1 世田谷区 1 日野市 2 清瀬市 1 八潮市 1 北区 1 立川市 2 図 3:①の選定方法により抽出された団地の立地図 (参考文献 9 を用いて筆者作成) 3. 対象地域におけるUR団地再編の必要性の検証 3-1 日野市概要と町田市概要 日野市は、都心部から西に 35kmに位置している。 日野市は昭和 30 年代に多摩平団地の開発に伴い、市街 地化が進行した都市である。 また、町田市は都心部から南西に 35kmに位置して いる。町田市も日野市同様に、昭和 40 年代の団地開発 が契機となり、市街地化が進行した。 現在、両市に立地するUR団地では、居住者の高齢 化が進む中、エレベーターの設置やバリアフリー化な 図 2:管理開始年代別の建替え実施戸数 (参考文献 9 より筆者作成) 2-3 対象地域の選定 以後、本研究では昭和 40 年代に管理開始されたスト ック活用団地に着目する。 2 どの対応が必要となっている。 している。 図 4:日野市と町田市の立地図 (参考文献 9 を用いて筆者作成) 図 6:高幡台団地の住棟配置図 (ゼンリンを用いて筆者作成) 3-2 日野市内におけるUR団地の概要 日野市内に立地するUR団地は図 5 のように位置し ており、昭和 40 年代の団地としては、高幡台団地と百 草団地がある。 この 2 団地の立地する場所は丘陵部で、 段差や急勾配が多い地域である。昭和 30 年代に管理開 始された多摩平団地は市・UR・住民による3者勉強 会を経て、平成19年に建替えが完了している。 3-4 町田市内におけるUR団地の概要 町田市内に立地するUR団地は図 7 のように位置し ており、昭和 40 年代の団地としては、鶴川団地、町田 山崎団地、藤の台団地がある。鶴川団地は団地再生方 針に分類される団地であり、現在は再編に向けて市・ UR・住民による協議が行われている。小山田桜台団 地は昭和 50 年代のストック活用団地である。 図 5:日野市内に立地するUR団地<赤字:研究対象団地> (ゼンリンを用いて筆者作成) 3-3 高幡台団地における取り組み 現在、高幡台団地は団地再編に向けて動き出してい る。ここでは、高幡台団地における団地再編に対して、 日野市がどのように関わり、URとどのような協議を 行っているのかを「日野市まちづくり部都市計画課」 へのヒアリング調査 1)をもとに把握した。 3-3-1. 高幡台団地再編に向けた取組の契機 平成 23 年度に、高幡台団地 73 号棟の解体が決定し た。これに伴いURでは、73 号棟跡地の売却を検討し、 「一団地の住宅施設」の変更を日野市へ要望した。し かし、日野市としては、以前から高幡台団地に若者世 帯を呼び込みたいという意向があったため、URにま ちづくり条例に基づく「地区まちづくり計画」を策定 し、団地全体の魅力向上に繋がる再編方針を計画する よう要望した。日野市としては、地区まちづくり条例 策定後に「一団地の住宅施設」の変更に取り掛かると している。 3-3-2. 高幡台団地における日野市の計画意向 日野市としては「一団地の住宅施設の変更」という 手段をURとの交渉ツールにしていることがわかる。 また、日野市は「地区まちづくり計画」の中で、73 号 棟の跡地活用方針だけではなく、住戸の住み替えやリ ニューアルの実施についても計画するようURに要望 図 7:町田市内に立地するUR団地<赤字:研究対象団地> (ゼンリンを用いて筆者作成) 3-5 町田山崎団地における取り組み 現在、町田山崎団地では市所有の学校跡地活用に併 せて、団地全体の再編に向けた取組が行われている。 ここでは、町田山崎団地の団地再編に対して、町田市・ URがどのような協議を行っているのかを「町田市都 市づくり部建物住宅政策課」へのヒアリング調査 2)を もとに把握した。 3-5-1. 町田山崎団地再編に向けた取組の契機 町田山崎団地内には閉校となった 5 つの学校跡地が ある。これを受けて、市では平成 23 年より協議会を発 足し、学校跡地の活用について協議してきた。平成 25 年には活用の方針が定まり、2014 年 11 月下旬に図 8 で 示す学校跡地②③の公募を開始する予定である。 3-3-3. 町田山崎団地における町田市の計画意向 町田市は、5 つの学校跡地の活用が完了次第、段階的 に住棟の建替えやリニューアルといった住戸の魅力向 上に繋がる建物更新をURへ要望している。しかし、 現在URでは町田山崎団地で建て替えや抜本的なリニ ューアルを行う意向はなく、ここに町田市とURの団 地再編に対する意向に齟齬が見られる。 3 Rの役割を住棟の建替えやリニューアル化、市の役割 を団地活性化のための協議会設置支援やワークショッ プ開催などのソフト面と位置づけていた。 4-3 小括 日野市、町田市の団地再編に対する計画意向の把握 を通して、以下について明らかになった。 自治体としては、URに団地の魅力向上に繋がるハ ード面の更新を期待し、ファミリー世帯・若者世帯の 入居を望んでいること。一方、URは団地再編に対し て消極的であり、現時点では建替えを実施する意向が ないと考えられること。 市とURの役割分担・連携における問題点としては、 URが意向しない限り、団地再編には至らず、自治体 の意向が反映されていないことや自治体が団地再編に 関与できるのは、余剰地売却などURが団地再編に向 けて具体的に取り組んだ時であることである。今後は、 URに再編意向がない団地をどのようにして市が主導 して、再編に導くのかについてその対応策を検討する 必要がある。 図 8:町田山崎団地の住棟配置図 (ゼンリンを用いて筆者作成) 4. 自治体およびURによる計画意向と現在の取組 4-1 団地再編における日野市の計画意向 日野市まちづくり部都市計画課へのヒアリング調査 1) をもとに、日野市の団地再編に対する計画意向につい て整理した。 5. 今後の方針とスケジュール 小括を踏まえ今後は以下の作業を行う。 ① 日野市・町田市を担当するUR支社へのヒアリン グ調査 URとしてどのような再編計画を意向しているのか、 また団地再編への着手条件についてはどのように考え ているのかについて調査する。 ② 日野市・町田市のUR団地居住者を対象に、アン ケート調査 日野市、町田市に立地するUR団地には現状どのよ うな属性をもった住民が居住しているのか、住民はど のような再編意向を持っているのかについて調査する。 ①、②を踏まえて、団地再編に対するURと自治体 の役割・連携の在り方と対応策について検討する。 表 5:日野市による団地再編計画意向 日野市では、多世代入居による世代間バランスのと れた団地へと再編することを意向しており、その実現 のためには住戸の抜本的な改善が不可欠だと考えてい ることが明らかとなった。また、日野市としては、団 地再編は管理事業者であるURが行うべきものと認識 しており、URを制度面の運用により誘導し、URに 団地再編を実施してもらうことを検討している。 4-2 団地再編における町田市の計画意向 町田市都市づくり部建物住宅対策課へのヒアリング 調査 2)をもとに、町田市の団地再編に対する計画意向 について整理した。 [補注] 1)日時:2014 年 10 月 24 日 13:00~15:00、場所:日野市役所 2)日時:2014 年 10 月 31 日 10:00~12:00、場所:町田市役所 [参考文献] (1) 福本 優 , 岡 絵理子(2013)「地域環境としての市街地立地集合住宅団 地の更新手法に関する研究 : 大阪市内の UR 都市機構団地の更新事例」 都市計画論文集 No.48 pp.957-962 (2) 新井 信幸 , 延藤 安弘 , 森永 良丙(2004)「高齢社会における公団賃 貸住宅団地再生計画の基礎的研究 : 高齢者の生活環境からみた全面建 替え型再生事業の評価」都市計画論文集 No.39 pp.613-618 (3) 原田 陽子(2009)「香里団地とその周辺地域における空間特性と団地周 辺居住者の住環境評価と居住実態--団地とその周辺地域との関係性の 再 構 築 に 関 す る 研 究 」 日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 Vol.74 No.640 pp.1349-1357 (4) 齊藤 千紗・後藤 春彦・佐藤 宏亮(2014)「横浜市郊外の交通脆弱地 域に立地する公団団地における若年層の流入と定着要因」都市計画論文 集 Vol.49 no.3 pp.807-812 (5) 原田 陽子(2007)「高蔵寺ニュータウンにおける住宅ストック,居住世帯 と住み替えとの関係性 : 郊外大規模団地の再生に関する研究」都市計 画論文集 No.618 pp.9-16 (6) 瀬戸口 剛(1991)「公団賃貸住宅居住者が主体となる団地更新計画づく り--公団武蔵野緑町団地での試み」都市計画論文集 No.26-B pp.637-642 (7) 小山 雄資 , 吉田 友彦(2007)「転居の可能性からみた廃止・削減を伴 う公営住宅の再編に関する研究 : 香川県営住宅を事例として」都市計 画論文集 Vol.42 No.3 pp.211-216 (8) 高見澤 邦郎 , 饗庭 伸 , 平澤 哲彦(2005)「経年化した郊外団地の実 態とその賦活に関する問題整理 : 「団地お断り」時代につくられた東 京都町田市の公団・公社住宅を中心に」日本建築学会計画系論文集 No.595 pp.117-124 (9) 団地別整備方針書 (10) UR賃貸住宅ストック再生・再編方針 (11) 独立行政法人都市再生機構 第三期中期目標・計画 表 6:町田市による団地再編計画意向 多世代入居の実現を要望している点や団地再編に着 手する団地は住民発意がある団地から行うとしている 点は日野市と同様であった。しかし、町田市はURと 市の役割を分担し、連携して団地再編へと着手する意 向であり、制度の運用を用いてURを誘導することで、 再編着手を検討する日野市とは異なる。町田市は、U 4
© Copyright 2024 ExpyDoc