第 24 回核融合工学シンポジウム(SOFT 24 th)

第 24 回核融合工学シンポジウム(SOFT 24th)
2006 年 9 月 11 日−15 日(ワルシャワ、ポーランド)
九州大学総合理工学研究院 深田 智、
核融合科学研究所 西村 新
原子力機構 山内 道則
系全般の説明をし、着実に ITER に 1kg/hr 程度の
1.トリチウム関係
本シンポジウムは、核融合工学関連の国際会議
トリチウムを供給し(ZrCo より最近は U による
としては最も古く、1960 年の第1回から2年毎に
供給を考えている)、PERMCAT や CAPER のシス
EU 内で開催され、今回で第 24 回を数え、2006
テムによる(Pd 合金のトリチウム透過と触媒分解
年9月 11-15 日、ポーランドのワルシャワ市中心
法)排ガス処理システムによる不純物除去法が設
に位置する文化科学宮殿(高さは 230m、ポーラ
計検討されている。しかし最大の難点は、トリチ
ンドでは最も高いビルらしい)の4、6階ホール
ウム水処理系にあると思われ、約 1011Bq/L のトリ
で開催された。1960 年当時の参加者は EU だけで
チウム水を LPCE-電解法で 108 の除染係数達成が
あったが、今回の会議は ITER 参加国を中心に発
目標である。発表にあった8mの塔でこの除染係
表件数約500件の大型国際会議となった。ワル
数を達成したとしても、日本の排水中の HTO 濃
シャワと言えば、コペルニクス、ショパン、キュ
度限度は 10-3Bq/L であるので、この減損だけでは
リー夫人であると opening ceremony でも熱心な説
足らず、さらに濃縮分離するか、大量の水で希釈
明があり、会場からそれほど遠くない旧市街付近
する必要がある。ITER クラスでは、低温蒸留同
に彫像や博物館が点在する。ポーランドの町は戦
位体分離法を含めて上に提案されたトリチウム
争で完全に壊滅されたと聞くので、多くの建築物
システムは必要な性能を発揮すると考えられる
や彫像は、旧ソ連支配下で多く建設されたいわゆ
が、今後より複雑な運転パターンや多様化する濃
る箱もの行政の結果であろうか。
度のトリチウムガスや水の除染のニーズに合わ
そこでトリチウム関連の研究報告の紹介であ
せるには、さらに高い信頼性あるトリチウム除去、
るが、口頭発表題目中に、tritium の語句を含むも
濃縮回収法を研究開発する基礎研究の必要性を
のが1件、detritiation を含むものが1件のみであ
感じた。
った。これは核融合関連研究全体が現在プロジェ
トリチウム関連のポスター発表は 14 日木曜日
クト中心に移っていることの現れであり、トリチ
に多く現れ、プログラムを見ると ITER, TBM,
ウム研究の必要性が低いのではなく、大型プロジ
IFMIF, BA 等の横文字の中に20件程度のトリチ
ェクト研究の一部になりつつあることが原因で
ウム研究が散在している。ITER-TBM では中性子
ある。例えば、C. Grisolia らの JET グループが、
照射下のトリチウム挙動を調べつつ、トリチウム
プラズマ対向壁特にダイバーター付近に大量に
回収する技術の達成が特に必要であり、大型研究
蓄積するトリチウムの各除染法(Laser、Flashlamp、
ではロードマップに従って確実に研究進展しつ
Plasma torch、Pxidation)の比較をおこない、いず
つ目標数値達成が要求されており、トリチウムに
れも現状では ITER の安定な運転には不十分であ
科せられた必要条件を満足させるためのシステ
り、今後の研究が必要であるとの結論であった。
ム研究とそれを支える基本現象の解明が現在の
また FZK の M. Glugla らが ITER トリチウム処理
トリチウム研究では必要であることを感じた。
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最後にポーランド訪問の感想を書かせていた
質保証。15.構造解析結果と問題点。16.異常時の
だくが、映画「戦場のピアニスト」の最終場面に
電源システムの動作解析。17.コイル支持接続部の
ある荒廃したポーランドの町から今や完全に変
FEM 解析。18.詳細な構造解析。
貌し、2004 年 EU 加盟後に合わせて開催された本
その他の装置(5 件):KSTAR;冷凍系の設計
会議への意気込みと、特にポーランドの工業化へ
と製作。ASDEX-U;SMES のダンピングシステム
の熱意が感じられた学会であった。現在まだユー
への応用。FFHR;間接冷却超伝導コイルの概念
ロへの通貨切り替えがおこなわれておらず、ズロ
設計。JET;プラズマの上下方向運動の抑制のた
ーチと円の換算から計算した物価はかなり安い。
めの Radial Field Amplifier の概念設計。
JT-60;JT-60
ポ ー ラ ン ドで は 最 近 シャ ー プ 等 の会 社 の 大 型
改修用超伝導コイルシステム設計。
その他(9 件)
:AC/DC コンバータ用電源。RT-1
LCD 工場の建設が決まり、日本からの多くの投資
が見込まれるというのもそのせいかもしれない。
用磁気浮上コイル。TF-CS ハイブリッドコイルの
会議参加後の一つ心残りは、宮殿の最上階に行き、
応力解析。X 線トモグラフィーによる多芯線材の
市内を遠望することを忘れたことであった。
非破壊検査。リップルの電磁気的検討。Nb3Al 導
(文責
九大
深田)
体の臨界電流のひずみ依存性。原子炉照射後のシ
アネートエステルとエポキシのブレンド樹脂の
2.超伝導マグネット関係
超伝導マグネットと電源の分野の Poster 発表は
全部で 47 件であった。
(招待講演の 3 件を含める
強度。プラズマ制御電源の制御。超伝導磁石材料
の中性子照射効果。
ITER 関係と Wendelstein 7-X 関係の Poster 発表
と全部で 50 件)順不同で、装置毎に大きく分け、
が多数を占めていたことがわかる。
Poster 内容を以下に紹介する。
ITER 関係(15 件)
:1.電気絶縁材料の原子炉照
超伝導関係の招待講演は Rainer Wesche による
射後疲労強度。2.TF コイルの Pre-compression。
ITER の電流リードに関する講演、Manfred Wanner
3.ESD の電磁力解析。4.ラディアルプレートの製
に よ る Wendelstein 7-X の 現 状 の 話 、 Alfredo
作法。5.TF コイルの溶接性、加工性。6.PF コイル
Portone による欧州超伝導ダイポールに関するも
の設計。7.コイルの高電圧設計。8.冷凍系の運転
のの 3 件であった。また、Plenary 講演として、Felix
モード解析。9.シェアキーの許容度評価。10.ラデ
Schauer による W7-X の建設状況の報告があった。
ィアルプレートの最適製造法。11.TF コイル容器
W7-X の Assembly の責任者は Maurizio Gasparotto
用 JJ1、316LN の製造。12.TF コイル容器の破壊力
が務めていたが、彼が ITER Cadarache に移った後、
学的解析。13.CICC 導体の熱、流体解析。14.PF
F. Schauer が Assembly の責任者となった。W7-X
コイルの企業での製作法検討。15.Poloidal Field
の建設は大変遅れており、その原因の一つは超伝
Conductor Insert Coil(PFCI)の製作。
導コイル製作である。非平面コイル 50 個、平面
Wendelstein 7-X 関係(18 件):1.電源制御。2.
コイル 20 個作る予定であるが、これまでに正式
マグネットの絶縁試験。3.クエンチ検出器。4.マ
にメーカーから受け入れたコイルは非平面コイ
グネットの受入検査。5.中央支持構造の製作。6.
ル 6 個(内 1 個は予備コイル)、平面コイルは 3
バスバーの構造評価。7.中小企業のプロジェクト
個である。2012 年の完成を目指してコイル試験設
参加。8.超伝導バスラインの設計と製作。9.バス
備の増強も考えているようであり、人員増も要求
バー接続部の設計。10.コイル支持構造の製作。11.
しているようである。ITER の建設と住み分けが
コイル支持構造の問題点。12.ボルト接合継ぎ手の
できるように上手く調整が進むことを期待する。
強度試験。13.Full size 接合部試験結果。14.アルミ
後述するように、2 年後の第 25 回 SOFT は
ニウムシームレス溶接部と鋳造コイル容器の品
Greifswald の近くの Rostock で開催される。順調
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に建設が進んでいる状況を参加者に示すことが
は 今 後 の 進 め 方 の 検 討 が 進 ん で い た が 、 D.
できれば大成功である。
Ciazvnski の報告は全体として Negative な雰囲気
中国 Heifei の IPP で EAST の建設が進んでいる。
が漂っており、導体設計のやり直し(Redesign)
IPP の副所長の Wu Songtao が EAST の建設状況を
という強い印象を聴衆に与えた。実際、4 本の導
Plenary talk で紹介した。TF コイル、PF コイルと
体試験は従来の導体に比べてどのような変更を
もに超伝導化したトカマク型のプラズマ実験装
行ったのかという点には全く触れず、ただ上手く
置であり、2006 年 2 月から 3 月にかけて一度 4.5 K
行かなかったことだけが強調された。そのため、
までの冷却に成功している。2006 年 8 月から第 2
質疑の中で、コイルの運転温度を下げてはどうか
回目の冷却を開始したが、4 台ある膨張タービン
といったコメントがあった。また、Holtkamp は、
のうち、第一段目の膨張タービンが損傷し、全体
3 日前(この週の月曜日)の彼自身の講演で、今
が 50-60 K 付近で維持された状態で冷却が止まっ
年の 12 月には全て決めるといったのに、あなた
ているとのことであった。第一段目のタービン入
の講演を聴いていると何も決めることができな
口でヘリウムガス中の不純物が固化し、それがタ
いではないかという発言をした。この講演があっ
ービン内に流れ込んでタービンが異常回転し、軸
た日の午後に、ITER に関係する会議がもたれた
受け部分が損傷し機能が低下したものと考えら
ようで、その会議中に Ciazynski の講演に対する
れている。ロシア製のタービンであり、9 月 12 日
否定的な評価が話題になったとのことである。翌
の Wu Songtao の講演の時点では新しいタービン
日に聞いた話では、彼の講演内容は彼の個人的見
の入手時期が確定されていなかった。(その後の
解であり、EU の ITER 超伝導関係者の一致した見
Wu Songtao の話では、9 月 18 日にタービンが IPP
解ではないという見方がなされたようである。
に到着し、9 月末から 10 月はじめの First Plasma
Alfredo Portone が「Superconducting R&D for the
を目標に、冷却を再開するとのことであった。そ
European Superconducting Dipole」と題する招待講
して実際、9 月 27 日に First Plasma の点火に成功
演を行った。この Dipole magnet プロジェクト
し、プラズマ実験が開始された。)
(ESD)は 2 年前(2004 年 10 月)から開始され
も う 一 つ の 超 伝 導 関 係 の Plenary talk は
たもので、12.5 T の磁場を 1.2 m の長さにわって
Cadarache の Daniel Ciazynski による「Review of
作り出すことができる。これまでの導体試験はス
Nb3Sn Conductors for ITER」であった。彼は CS モ
イスの CRPP の SULTAN で行われてきたが、
デルコイルを用いて行われた TF インサートコイ
SULTAN のスプリットコイルでは磁場分布が平坦
ルの繰り返し通電試験(2001 年)から話を起こし、
でなく、コイル中心から離れるほど磁場が低下す
繰り返し通電により電流分流開始温度(Current
る分布を持っている。より平坦な磁場分布の中で
sharing temperature. Tcs)が低下することを紹介し
の導体試験を実施するため、Dipole magnet を用い
た。低下の原因は電磁力による素線の曲げひずみ
た導体試験装置が建設されることになった。ESD
(もしくは局部的な塑性ひずみ)であり、11.8 T、
は SULTAN の横に設置される予定である。導体の
68 kA、電磁力が約 80 ton/m という非常に厳しい
製作に多少遅れがあるようであるが、R&D は順調
条件下での運転に耐えなければならない。今年の
に進んでいるとのことであった。
(文責
春から 4 本の導体試験を行ったが全て ITER 要求
条件を満足しなかった。この結果については、既
核融合研
西村)
3.中性子工学関係
に 8 月末から 9 月上旬にかけて米国の Seattle で開
ニュートロニクスは核融合のコンポーネント
催 さ れ た Applied Superconductivity Conference
でなく1つの技術分野の名称で、関連する発表は
(ASC)で報告されており、一部の関係者の間で
10 種類に分類されたトピックスの随所に断片的
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に現れた。その内容を概観すると、放射線に対す
Frascati 研究所が協力して開発したものである。
る遮蔽解析と設計評価、遮蔽実験と解析、トリチ
通常、放射化解析では、予め計算した運転中の中
ウム増殖ブランケット関連の実験と解析、IFMIF
性子束分布に基づいて停止時のガンマ線源とそ
の放射化関連評価、新たな計算ツールの開発と評
れによる線量率を計算するのに対し、上記の方法
価、核反応データの測定と評価、トカマク以外の
では、モンテカルロ法による運転中の中性子の酔
核融合炉概念の核設計、中性子計測等となり、発
歩の計算中に崩壊ガンマ線を発生させ、停止時の
表件数は概略約 30 件であった。全体の1割足ら
線量率まで一気に計算する。イタリアと英国のグ
ずであるが、初めて本格的に中性子を発生する
ループは JET の実験結果と比較して、この方法
DT 核融合炉といえる ITER 以降の核融合炉開発
が充分精度の良い計算法であることを報告した。
にとって、いずれの発表も重要な役割を果たして
目から鱗が落ちた人はぜひ詳細な論文を読んで
いると思う。この分野で日本からは、原子力機構
下さい。遮蔽計算の信頼性を評価できる実験施設
と大阪大学から論文の筆頭著者として計 7 件の発
は世界広しといえども多くはなく、原子力機構の
表があった。
FNS では計測ポートの側壁と遮蔽プラグの隙間
遮蔽解析としては、ITER の ECRH 遮蔽性能評
を模擬した鉄スリット体系で 14MeV 中性子のス
価、ポートを含む 40°セクターの放射線分布計算、
トリーミング実験を実施し、MCNP-4C コードに
ポートプラグ操作と廃棄物処理時の被曝評価、
よるモンテカルロ計算でスリット内の中性子束
JT-60SA の遮蔽設計、JET 真空容器内外での停止
を 10%程度の精度で評価できることを報告した。
時空間線量率評価等の発表があった。核融合施設
ITER のような大型の装置で炉心から外側まで
はボイド領域が複雑な形状で繋がっているのが
の遮蔽解析をするためのもう1つの問題は、形状
特徴で、通常そこでの放射線透過計算は MCNP
を表現する入力データ作成の労力である。現在
等のモンテカルロ法が適している。ただし体系が
EU、中国、米、日の4極で CAD データを利用す
大きくなると計算結果の統計精度を上げるのに
る 方 法 の 開発 が 進 め られ て い る が、 中 国 か ら
時間がかかり、計算の信頼性をあげるのが大変で
ITER の3次元形状をモンテカルロ計算用に変換
ある。ITER の 40°セクターの解析ではこの問題
するプログラム MCAM と Sn 計算用に変換する
に対し、複雑なトカマク構造を3次元の有限要素
プログラム SNAM のベンチマークテストの結果
でモデル化して Sn 法で輸送方程式を解くことを
が報告された。Sn 計算の結果を図示するツール
試みている。計算コードは米国の民間会社で開発
も紹介され、モンテカルロと Sn の計算結果は矛
された ATTILA コードで、ITER では1∼2年前
盾なく一致したとのこと。これらのプログラムは
から計算結果の信頼性が検討されている。その結
実用化が近いと宣伝していた。
果は MCNP による計算とも比較され、20%以内
増殖ブランケットの関係では、EU が ITER に
の差で良く合ったと報告されたが、元来 Sn 計算
搭載するヘリウム冷却型ペブルベッド(HCPB)の
は Ray Effect(角度分点が少ないことによる問題)
核特性実験、核性能解析、トリチウム生成率の感
を避けるためにストリーミングの強い方向に充
度と不確かさの解析、中性子とガンマ線スペクト
分な数の角度分点をとる必要があり、角度の異な
ルの測定と解析、及び ITER に装荷した時の核熱
るポートやボイドが多数存在するトカマク構造
的共存性評価の5件についてまとめて発表した。
でどこまで遮蔽設計に必要な精度を出せるかが
最初の核特性実験はイタリア ENEA Frascati 研
今後の課題であろう。JET の停止時線量率評価に
究所の FNG 装置を使って行われたもので、他の
用いられた方法は Direct One Step Monte Carlo
4件を含む総論的な内容がニュートロニクスの
Method と呼ばれ、ITER 国際チームと ENEA
分野で唯一、FNG グループ長の P. Batistoni によ
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り口頭発表された。トリチウム増殖率の解析結果
今回の SOFT では以上の他にも、3次元形状で核
はどの計算結果も実験値に比べて過小評価され
分裂物質の燃焼を詳細に扱うハイブリッド炉計
ており、彼らの HCPB は充分保守的に設計され
算法の開発と炉の設計、材料損傷や核発熱評価に
ているとのことである。
重要な2重微分断面積の測定、低放射化フェライ
IFMIF 関連では、腐食生成物によるターゲット
ト鋼の放射化をさらに低減するための方法等、い
材リチウム中の放射能評価、重水素に対する放射
ろいろ興味深いアイディアや努力が報告された。
化データライブラリーの拡充、新たな放射化計算
参加の都合がつかなかった人にはぜひそれらの
コードと核データの信頼性評価等放射化に関す
論文を読んで頂く事を勧めます。
る発表が多かった。ターゲット中の D-Li 反応生
(文責
成物といえる 7Be は効率的に除去可能であるが、
その他の放射能については個別に設計で対応す
る必要があり、被曝に対する安全性確保のために
精度の良い評価が重要であろう。
SOFT の会場となったスターリンゴシック様式の文化科学宮殿
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原子力機構
山内)