論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

氏
論
文
名
朴
名
Study on the regulation of intestinal absorption by theaflavins in Caco-2 cells
夏
英
(テアフラビンによる腸管吸収調節作用の解明に関する研究)
論文調査委員
主
査
九州大学
教授
松井
利郎
副
査
九州大学
教授
下田
満哉
副
査
九州大学
教授
宮本
敬久
論
文
審
査
の
結
果
の
要
旨
本論文は、紅茶などの発酵茶に存在するカテキン 2 量体であるテアフラビン類(TF)の腸管吸収
調節作用の解明を行ったものである。まず、腸管上皮モデル細胞である Caco-2 細胞の単層膜を用い
て低分子ペプチドの膜透過性に対する TF の調節作用を検討している。なお、100 µM TF を用いた
Caco-2 膜透過試験において側基底膜側溶液から TF は検出されなかったことから、TF は非透過性ポ
リフェノールであると結論付けている。次いで、TF 処理(10 - 20 µM、3 - 6 h)した Caco-2 膜を用
いて腸管ペプチドトランスポーターPEPT1 合成基質である Gly-Sar の透過試験を行い、TF 処理によ
って見かけの透過係数(Papp)が有意に低下することを明らかにしている(未処理膜, 2.2 ± 0.2×10-5
cm/s; TF 処理膜, 1.3 ± 0.2×10-5 cm/s)。また、TF 処理した Caco-2 膜での P app 値の低下は他のジペプ
チド(Val-Tyr、Ile-Phe)においても同様に認められた。これら P app 値の低下作用は TF 基本骨格で
あるベンゾトロポロン 7 員環構造に起因することを示している。さらに、TF 処理した Caco-2 細胞
において PEPT1 発現量の低下と AMP-activated kinase(AMPK)阻害による Papp 値の回復が認められ
たことから、TF の Papp 値の低下は AMPK の活性化を介した PEPT1 発現の抑制によるものである
ことを明らかにしている。
次に、腸管バリア性を担うタイトジャンクション(TJ)を介した腸管吸収系に対する TF の調節
作用について検討を行っている。その結果、TF 処理した Caco-2 膜において TJ 透過指標物質である
フルオレセインの Papp 値の低下と経上皮電気抵抗値の有意な増大を認めている(未処理膜, 110 ± 2
Ω∙cm2 ; TF 処理膜, 145 ± 16 Ω∙cm2)。さらに、TF 処理した Caco-2 細胞において TJ 構成タンパク質で
ある occludin、claudin-1 および ZO-1 の発現が有意に増加したことから、TF は TJ 構成タンパク質の
発現を誘導し、TJ を強化する作用があることを明らかにしている。なお、モノカテキン類では同様
の作用は認められず、ベンゾトロポロン骨格特異的な作用であることを示している。
以上要するに、本研究は重合ポリフェノールである TF が腸管上皮モデル細胞での低分子ペプチ
ドの膜透過を抑制し、かつ膜バリア性を向上させる作用を持った機能性成分であることを明示した
ものである。これらの成果は、腸管における重合ポリフェノールの生理作用について新たな知見を
与えるものであり、食品分析学および食品機能学の発展に寄与する価値ある業績と認める。
よって、本研究者は博士(農学)の学位を得る資格を有するものと認める。