学) 学 位 の 種 類

まなぶ
氏
名
(本 籍 )
学 し
学 位 の 種 類
博
学 位 記 番 号
薬
学位授 与年月 日
4 年 3 月 27 日
平 成 2
学位授 与 の要件
学位 規則 第 4条 第 1項 該 当
研 究 科 、専 攻
東 北大 学 大 学 院薬 学研 究 科
士
博
(薬
学)
462
第
号
(
博士課程)創薬化学専攻
学 位 論 文 題 目
ベ ンジル ケ トン C-C結合 お よびニ トロベ ンゼ ン C-H結合切 断
を伴 う有機イオ ウ ・リン化合物 の ロジウム触媒合成反応
彦 行 利
雅 隆 英
口 井 山
山 土 徳
25
授 授 授
教 教 教
郡
は
論 文 審 査 委 員
論 文 内 容 要 旨
有機イオ ウ ・リン化合物 は様 々な生理活性 と物性 を示すので,医薬 品 と機能性材料 に広 く含 まれてい
る。当研究室では遷移金属触媒 を用いた有機イオ ウ ・リン化合物の研究 を行 っている。 この中で, ロジ
S
,
CS
,CI
P
,CF
,
CH結合な ど様 々な結合 を切断でき,有機イオ ウ化合物や有機
ウム触媒 を用いると S
リン化合物 と単結合 メタセシス反応 を起 こす ことを明 らかに した。1
)この背景 をもとに私 はい くつかの
メタセシス反応 を検討 し,効率的な有機イオ ウ ・リン化合物の合成法を開発 した。
1
.
塩化 ロジウムを用いるインス リンのジスル フィ ド交換反応
近年,
遷移金属触媒 を用いてタンパ ク質 を修飾す ることが検討 されている。従来の方法では困難であっ
たア ミノ酸残基の修飾 を選択的に行 うことができる と期待 されているためであるO先に当研究室では ロ
ジウム触媒的ジスル フィ ドS
S結合間の交換反応 を開発 した。塩化 ロジウム触媒 を用いると無保護 のペ
プチ ドジスル フィ ド交換反応 を水 中均一系で行 えることを示 した。また,イ ンス リンのジスル フィ ドの
交換反応 も検討 されたが,収率や生成物の構造決定,精製 な どが十分な されていなかった。私 はこの反
応 を詳細 に調べ ることに した。イ ンス リンのジスル フィ ド交換 は,濃塩酸 を用いた方法 とチオール とジ
スル フィ ドを用いた塩基性条件の反応が知 られていたが,収率は極 めて低い。遷移金属錯体 を用いた例
はなかった。
イ ンス リンとジチオジグ リコール酸 S
2(
5
0
0当量) を塩化 ロジウム (
3
0
0m0
1
%)存在 下,水 中室温で
2がジスル フィ ド交換 した化合物 トmo
n
o
S,2分子の S
2
作用 させた。その結果,イ ンス リンと 1分子の S
が反応 した化合物 I
h
i
s
s,イ ンス リン Ac
h
a
i
nが 1分子 の S
2と反応 した化合物 Amo
n
o
S,Ac
h
a
i
nが 2
分子の S
2と反応 した化合物 Ah
i
s
s
,
Bc
h
a
i
nが 1分子の S
2と反応 した化合物を B一
mo
n
o
Sを与えた (
F
i
g
u
r
e
1
)。粗生成物 を炭酸アンモニ ウム水溶液に溶解 し,再沈殿 を行 った後,陰イオン交換 クロマ トグラフィー
GI
VE轟
& gl
s
l
L
YQLENY
P2
3 Ac
ha
in
6
5声
H。.
G:c
E
H
Q
2
S
FVNGHLを sHL
VEAL
YL
Vi.
qERGFF凝
"oF
Ov
C
N
C
G
"
荒ら SHLVEALYLVき1
GE
Bp
c
ki
i
n
9 RGFFYT
I
nsul
i
n
トmonoS
l
l
s
Y
"
p2
N
O Ac
ha
i
n
"H
O.
0.
C
Gc
?
v
c
"
E
:
Q
:
6
gfASVきsEY
"ac
L
EN
O
I
H。.
G:c
E
H
Q
2
6
5F
HOZj
c
N
C
G
"
蒔
s
L
l
l
SLYQLENY
P2
a Ac
ha
i
n
SHL
VEAL
YLV喜1
GE
Bp
c
ki
i
n
9 RGFFYT
s
s
c
H
2
C
O
O
H
Q
E
N
j
q
A
c
h
a
i
n
1
gl
s
L
Y L Y
A・
monoS
トbi
sS
"oZ?
N
C
G
"
a≡ら sHLVEALYLVS
iS
G
C
E
"
R
2
G
CF
OF
O
X,
B
a i
n
1
9
1
s
s2
c
H2
COh
OH
"H
O.
0.
C
Gc
?
v
c
"
E
:
Q
:
6
5g7
ASVきl
s
EY
"ac
L2N
O
Y
"
p
B
Ac
in
a
8・
monoS
A.
hi
ss
Fi
g
ur
eI
-26 -
によ り精製す ることで,生成物の単離 とロジウム種の除去 を行なった。化合物の構造 はキモ トリプシン
ESトMSで解析 して決定 した。 ここで ロジウム触媒 ジスル フィ
によって加水分解 し,ペプチ ド断片を LC/
/
B7間の鎖間ジスル フィ ド結合で起 こることがわかった。 これ は遷移金属錯体 を用いて
ド交換 はまず A7
イ ンス リンのジスル フィ ド結合 を効率的に交換 したものである。
2)
2.ロジウム触媒 を用いるニ トロベンゼンの還元的ホスフイノイルオキシ化反応
ニ トロベ ンゼ ンを還元す るとともに ヒ ドロキシル化 してア ミノフェノール を与える反応が知 られてい
る。一般 に強酸条件 を用いる必要があ り, よ り温和な条件で行 うことが望 まれ る。今回 ロジウム触媒 を
用いてニ トロベ ンゼ ンとジフェニル ホスフィンオキシ ドを作用 させ る と,中性条件下で 0位優先的にホ
5m01
%)存在下ニ トロ
スフイノイル オキシ化 されたアニ リンを与える反応 を開発 した。酢酸 ロジウム (
3当量) を作用 させ ると,0
-(
ホスフイノイルオキシ)ア
ベ ンゼ ン 1とジフェニルホスフィンオキシ ド (
e
q.
ニ リン 3が得 られ た (
I) 0
-位 にか さ高い置換基 を導入す ることでア ゾキシ体の副生 を抑制でき
3) 0
る。ニ トロベ ンゼ ンの p位 に電子供与お よび電子求引性基 を導入 して も同 じよ うに反応す る。本反応で
は p-H 結合 を活性化 してニ トロ基 を還元 して, ヒ ドロキシル ア ミン リン酸エステル 2を形成 した後, ロ
ジウム触媒的に 0
-位 に転位す ると考えている。
HPOPh
2
(
3e
q.
)
l
Rh
(
OAc
)
2
]
2(
5moe
%)
t
o
l
u
e
n
e,
8
00
C
t
BU
N一二 0
1
】
OPPh
2
(
e
q.
1
)
Rhcat
.
、
一
一
で c
a
t
・
t
Bu6
2
b
FPh
2
]
/
き
X=H 5
6
%
X=OPh5
4%
X=t
Bu71
%
X=Me 5
2%
X=Ph 77%
X=Br 5
0
%
X=CF
35
8
%
3.ベンジルケ トン C
C結合 とチオエステル C
S結合の単結合切断再配列反応
有機化合物の C-C結合 を触媒的に切断 して変換反応 に利用できれば様 々な用途があるが,限 られた例
しか知 られていない。 これは C-C結合が熱力学的に安定であ り,金属が挿入 されて生 じる中間体が不安
定であるので,挿入 されても速やかに安定な C-C結合 に戻 るためである。効率的に C-C結合 を切断 し,
変換反応 に利用す るために,原料の環ひずみを利用 した り,シアノ基や配向基 を用いて中間体 C-C緒合
切断中間体 を安定化 させ る工夫がなされている。 このよ うな効果 を用いずに,鎖状化合物の C-C結合 を
切断 しメタセシス反応 に利用 した例 は少ない。
今回, ロジウム触媒 を用いることで鎖状化合物 のベ ンジル ケ トン C-C結合 とチオエステル C-S結合
が単結合 メタセ シス反応す ることを示 したoRhH(
CO)(
PPh3
)
3(
5mol
%) と dppBz(
1
0m01
%) 存在下,
ベ ンジル フェニル ケ トン 4と S
-メチル p-(
1
-ブチル)チオ安息香酸エステル 5(
3e
q.
)を 1
,
3
-ジメチル
5
0o
Cで 1
2時間作用 させ ると,ベ ンジル p-(
i
-ブチル) フェニルケ トン 6 (
81
%)
イ ミダ ゾリジノン中 1
とS
-メチルチオ安息香酸エステル 7(61%) を与 えた (eq.2)。ベ ンジルケ トンの芳香環 p位 に電子求引
-2
7-
性基 を用いる と,収率良 く反応す る。 これ はベ ンジル位水素の酸性度が高いため と考えている。また,
逆反応が進行 したことか ら,平衡反応であることを確かめた。
0
W
三
B
u
J
OA
,h
4
R=CN
R
RhH(
CO)
(
PPh3
)
3(
5mol
%)
dppBz(
10mo暮
%)
0
・ph人
DMl
,1500
C,12h
sMe
6
5(
3叫 )
7
81
%
7
2%
8
3
%
CO2Et
Cl
sMe (
eq・2)
61%
59%
71%
ベ ンジルアル キルケ トンでも同様の傾向を示 した (
eq.3)。これ よ り反応の適用範囲が広いことがわかっ
た。
0
nC8H.7W
≡
B
u
R
RhH(
CO)
(
PPh3
)
3(
1
0mol
%)
dppBz(
20mol
%)
0
+
nC8
H17人 sMe
(
eq・
3)
DMl
,1
500
C,12h
A
sMe
3eq.
R= CN
84%
61
%
59%
CO2Et
Cl
80%
60%
54%
芳香族カルボン酸ア リールエステルでも反応す る (
eq.4)0
RhH(
CO)
(
PPh3
)
3(
10
2
0mol
%)
dppBz(
n_
C8H.7人
/訂
n
:
C
8
H
.
,
八。
(
eq.
4)
b_
C.
C6
H4
)
,1
500
C,6h
C・
" R且 。(
p_
C.
C6
H.,DMl
3eq.
46
%
R= pI
MeOC6
H4
46%
39%
39%
pCI
C6H4
ジベ ンジルケ トン 8をロジウム触媒条件下作用 させ る と,対称 ジケ トン 9
,1
0を与 えた。 ロジウム触
媒が鎖状 C
C結合 を直接切断 して単結合 メタセシスを起 こす ことを示 した (
eq.
5)0
C・ d
Rp
h
p
"
e
(
?
2
0
0
)
Lp
.
7
0
,
h
.
冒
)
3(
1
0mo'
%)
DMl
,1
500
C,1
2h
1
0
2
5
%
-2
8-
以上,ロジウム触媒 を用いて,鎖状有機化合物 の C
C結合 を切断 して,変換 を行 えるこ とを示 した 4)0
上述 の反応 の検討 中に, メチル チオエステル とベ ンジル フェニル ケ トンか ら 1
,
5ジケ トンが得 られ た
(
e
q.6)。重水素化 メチル チオ基 を有す るチオエステル を用い る と, メチ レン基が重水素化 され た 1
,
5ジ
ケ トンを与 えた。従 って, メチル基が炭素源 であるこ とを確 かめた。 メチル チオ基がホル ムアルデ ヒ ド
と等価 の 1炭素源 として利用 できるこ とになる。アル ゴン雰囲気 下ではほ とん ど反応 しないので,空気
中の酸素が影響 してい る。 ラジカル捕捉剤 を 1当量添加 して も反応 に影響 しない。従 って, ラジカル反
応 ではな く, ロジウム触媒がチオエステル S-Me結合 を切断 した と考 えている。
0
0
0
0
Rh
H(
PPh
3
)
4(
2
0mo
l
%)
(
e
q.
6)
,h
W
?"
ph
且 sMe 賢
一
CN
(
2R'
,
4R'
)
CN
(
2R'
,
4S'
)
15%
13%
以上私 は 3つの反応 を効率的に行 う研究 を行 った。一連 の研究 を通 して, ロジウム触媒が C-H結合や
C-C結合 な どの様 々な結合 を切断す ることを示 した。
Re
f
e
r
e
nc
e
I
)M.
Ar
i
s
a
wa
,
a
ndM.
Ya
ma
g
uc
hi
.
,
J.S
yn.Or
g.Che
m.Soc
.
J
pn.
,2007,65,1
21
3.
Ar
i
s
a
wa
,
M.
Kuwa
j
i
ma
,
A.
Suwa
,
a
ndM.
Ya
ma
g
uc
hi
,
He
t
e
r
oc
yc
l
e
s
"201
0,80,1
239.
2)M.
Ar
i
s
a
wa
,
M.
Kuwa
j
i
ma
,
a
ndM.
Ya
ma
g
uc
hi
,T
e
t
r
ahe
dr
onLe
f
t
"201
0,51
,311
6.
3)M.
Ar
i
s
a
wa
,
M.
Kuwa
j
i
ma
,
a
ndM.
Ya
ma
g
uc
hi
,Or
g.
Le
f
t
"201
2,1
4,3804.
4)M.
- 291
審 査 結 果 の 要 旨
経済性 と環境調和の観点か ら,有機合成化学において C-H 結合 と C-C結合な どの不活性 な結合 を直
接活性化 して変換す る触媒的合成法が求め られている。本論文は ロジウム触媒 を用いて,芳香環 C-H 結
合およびケ トン α位 C-C結合 を活性化 し,効率的な有機イオ ウ ・リン化合物の合成法を開発 したもので
ある。
ロジウム触媒存在下で,ホスフィンによってニ トロベ ンゼ ンを還元す るとともに, 0- 位ホスフイノイ
ルオキシ化 したアニ リンを与える反応 を開発 したO芳香環の 0-位 C-H 結合 を活性化 して C-0結合 を形
成 したものである。また,基質であるニ トロベ ンゼ ン 0
-位 にかさ高い置換基 を導入す ると,効率的に反
応す ることを示 している。関連 した芳香環 の変換反応 に くらべて,強酸条件 を用いていないために,磨
棄物 を生 じにくい合成的利点がある。
ロジウム触媒 を用いる と,ベ ンジル ケ トンのケ トン α位 C-C結合 を切断 して,チオエステル C-S結
合あるいは芳香族エステル C-0結合 と反応す ることを見出 した。中性 の有機化合物であるベ ンジルケ ト
ンがチオエステルな どのベ ンジル化剤 に利用できることを示 した ものであ り,従来の有機金属化合物 を
用いる方法に比べて,金属廃棄物の生成 を大 きく減 じることができた。一方で,ベ ンジルケ トンか ら簡
便 にチオエステル あるいは芳香族エステル を与える反応 とみ ることもできる。ベ ンジル ケ トンの芳香環
p一位 に電子求引性基 を導入す ることで効率的に反応す る工夫が行われ,反応機構的な検討が行われ, ロ
ジウム錯体が直接 C-C結合 を切断 していることを示 した。すなわち, この反応 はベ ンジル基が他の分子
のエステル上 を次々に移動す るもので,従来知 られていない新 しい化学反応様式であることになる。環
ひずみやキ レーシ ョン効果 を用いず に,ケ トン α位 C-C結合 を切断 して反応 させた点は特筆すべきであ
り, ロジウム触媒によって C-C結合が予想外 に容易に切断できることを示 したことは本研究の成果であ
る。
本論文には, ロジウム触媒 を用いたイ ンス リンのジスル フィ ド結合交換反応 も述べ られている。遷移
金属触媒を用いてタンパ ク質のこのよ うなジスル フィ ド修飾 を行 った例 はな く,新 しい方法論である。
本論文は ロジウム触媒 を用いて,い くつかの新 しい物質変換 に成功 したものである。 とくに不活性な
芳香環 C-H 結合お よびケ トン α位 C-C結合 を活性化 して物質変換 を行 うことに成功 している.また,
一連の研究 を通 して ロジウム錯体 が様 々な結合 を切断できることを示 してお り, この内容は有機合成化
学において高い価値があると考え られ る。 よって,
本論文は博士 (
薬学)の学位論文 として合格 と認める。
-
30-