氏 名 (本 籍 ) 学 位 の 種 類 博 士 (薬 学 位 記 番 号 薬 第 544 学位授 与年月 日 平 成 23 年 9 月 7 日 学位授 与 の要件 学 位 規 則 第 4条 第 1項 該 当 最 終 学 学) 号 歴 学 位 論 文 題 目 ケ トンお よび芳香族複 素環化合物 の平衡 的 ロジウム触媒 チオ化 反応 彦 則 治 雅 義 好 口 東 捌 山 根 岩 113 授 授 授 教 教 教 @ 往 論 文 審 査 委 員 論 文 内 容 要 旨 有機イオ ウ化合物は合成 医薬品 と材料科学 において有用 な物質である。その合成 には一般 に反応性の 高いイオ ウ試薬 と有機ハ ロゲ ン化合物の置換反応が用い られてきた。 しか し, この方法では基質合成 に 多段階合成が必要であ り,C-S結合の形成 に伴 って脱離基 由来の金属ハ ロゲン化物等が副生す る問題が ある。C-H 結合 を直接 C-S結合に変換できれば,有機合成化学上魅力 ある反応 となる。当研究室では, 先に α -( フェニルチオ)ケ トンと α -メチルチオ ー p-シア ノアセ トフェノン lの ロジウム触媒 メチルチ オ化反応 を見出 した ( e q.1)1 。 この反応 は,α-C-H 結合 を活性化 して直接 C-S結合に変換す る新 しい ロ ジウム触媒平衡反応である。 これ をもとに本論文ではよ り酸性度の低い化合物のチオ化反応の研究 を行 い,α-フェニルケ トン,活性化基 を持たないケ トンお よび芳香族複素環の反応 を開発 したので報告す る。 oR h H ( P P h 3 )o l % ) B u 4 0. pN C 6 H ∧ t -C SPh 5eq d f E T 't _ B us s o p M e 4( 4m L SMe 1 THF・r ef l ・ , 4h 4 o 八 h . p_ NCC6H 5 % ( eq.., 4 1.c l -フェニルケ トンの c l -メチルチオ化反応 RhH( PPh,) .( 4m01 %) と dppe( 8m01 %), ( MeS)2( 1 2mol %)存在下, I , 2-ジフェニルエ タノンに 1を 反応 させ ると, メチルチオ化反応が収率 よく進行 した ( e q.2) 1または ( MeS) 2を用いない と収率は低 0 下 したことか ら, ( MeS) 2は触媒 として作用 していると考え られ る。また,反応 は可逆的で,平衡反応で あるこ とを確かめた。 1 , 3 -ジフェニル -2-プ ロパ ノン, 1 -フェニル 2-ブタノン,2-フェニル シクロペ ンタノンや 2-フェニル シクロ-キサ ノンは収率 よく α-メチルチオ生成物 を与 えた ( e q. 2,3)。 R入 / ph . . ;n ・ R R T MP e h THF,r ef l . , 3h 5eq &H RhH( PPh3) 4( 4mol %) dppe( 8mol %) ( MeS) 2( 12mol %) A . :E e , h n R= h ht22 6 8 ; " : y . P p j ( . h) (e q ・2) =Et( 3) 6 4% n= 168% ( 1h) =2 50% =3 35% ( eq.3) 5eq 2.活性化基を持たないケ トンの O-メチルチオ化反応 上述の反応の生成物である 2-メチルチオ ー1 , 2-ジフェニルエタノン 2をメチルチオ化剤 として用いる - 1 14 - と,プ ロピオフェノンのよ うに活性化基 を持たないケ トンの α-メチルチオ化反応が進行 した ( e q. 4)。 g RhH( PPh3) 4( 4mol %) dppe( 8moJ %) ( MeS) 2( 12moJ %) Q ん + ph∼ ph 5eq ・ phj l :e THF,r ef r . ,3h MP e h 491% 2 phj - ph ( eql4, 94% 非対称ケ トンである 2 -ベ ンジル シクロ- キサ ノンでは, よ り置換基の多い炭素上で反応 し,主に 2 ベ ンジル -2- ( メチルチオ)シクロ-キサ ノンを与 えた ( e q.5)。 これ は熱力学的エ ノラ- トを経 由 して -( t -ブチル) シクロ- キサ ノンのメチルチオ化反応では ar i al選択性 がみ られ,熱 いる と説明できる。4 力学的に安定な生成物 を与えた ( e q.6)2 。 >2 z d R ?. 2 Rhcat 4 5eq 5eq 器 SMe ・ 47% 30% R=Bn ( 3h) R=Me( 24h) t _ B u ー よ♂P+ 2 R O 4R O ( eq.5) SMe 11% 7% > ・S 0 ・ t B u d s o M e ′ ■ ヽ L J _ M e t B U 4 18% 47% α -フェニル ケ トンのメチルチオ化反応では,速度論生成物か ら熱力学的生成物-のメチルチオ基の移 動 を確認できた ( e q.7)。1 -フェニル -2ブタノンの反応は,3時間では 1 -メチルチオ化体 3を 47% で与 S結合エネルギー えたが,24時間継続す ると,3が減少 して 3-メチルチオ化体 5の収率が増大 した.C について 3が速度論的生成物 ,Sが熱力学的生成物 と考え られ る。 0 ph〉 1 人/ 甚 / SMe 3 . 2ユ ph 3 5eq . phJ 5 3h 47% 13% 24h 17% 66% ki net i cpr oduct i SMe ( eq.7) t he「 modynami cpr oduct メチルチオ化剤 として 1と 2を用いた場合 を比較 した ( Ta bl e 。1は o L -チオケ トン,α-フェニル ケ l) - 115 - トンのメチルチオ化に有効であるが,よ り酸性度の高い β -ケ トエステルや酸性度の低いシクロ-キサ ノ ンには有効でない。一方 ,2は酸性度の低いシクロ-キサ ノンと α一フェニルケ トンのメチルチオ化に有 効であ り,酸性度の高い β -ケ トエステルや α-チオケ トンでは収率が低い。 これは,反応基質の C-H結 合 とチオ化剤 の C-S結合に相関があるため と考 えた。即 ち,2- ( フェニルチオ)シクロ- キサ ノンの酸 性度 の高い C-H結合 は,弱い C-S結合 を有す る 1によ りメチルチオ化 され るO-方,活性化基 を持た ないシクロ-キサ ノンの C-H結合は,強い C-S結合 を有す る 2によ り収率 よくメチルチオ化 され る。 Ta bl e1Re a c t i vi t i e sofIand2i nt her hodi um-C at al y z e dme t hyl t hi o l at i onr e ac t i on. s u b s t r a t e pKaa p N C C 6 H 4 A l sMe. Ph TMP : 2 & co2 Et 1 4. 2 e かp h み sph . 81 7 . 9・ 8 H 2 61 5 t r a c e apKav al u e so fa c e t o n ed er i v a t i v e s 3 3. 芳香族複素環のチオ化反応 ケ トンよ りもさらに強い C-H結合 を有す る芳香族複素環 を直接 C-S結合に変換す る反応 を開発 した。 プロピオフェノンの α-メチルチオ化体 4を 1 , 3 -ベ ンゾチアゾールに作用 させ ると,2-メチルチオ ー1 , 3 ベ ンゾチア ゾール を 1 3% で与 えた。イ ソプチ ロフェノンのメチルチオ化体 6を用いた ところ,収率 は 43% に向上 した。 この結果 は,強い C-H結合 の変換 には強い C-S結合 を有す るメチル チオ化剤 を用い る相関が適用できることを示唆 した ( e q. 8)0 RhH( PPh3) 4( 4mol %) dppe( 8mol %) ( MeS) 2( 1 2mol %) 駄 S " i ) ・ ph堰 5eq SMe 2 4 6 l . ,3h THF,r ef l l = = l = = R ≡ph,R2≡H R Me,R2 H R R2 Me N S y sMe ・ Notdet ec t ed 13% 43% - 116- ph専 ( eq18, イ オ ウ置換基 の効果 について検討 し, フェニルチオ体 7を用 い る と高収率で反応 が進行す るこ とを見 出 した。RhH( PPh3) 4( 4m01 %) と dppe配位子 ( 8m01 %)存在下, 1 , 3-ベ ンゾチア ゾール と 7( 1e q)をク , 3-ベ ンゾチア ゾール を 92% で与 え ロロベ ンゼ ン還流下にて 3時間反応 した ところ,2-フェニルチオ ー1 た( e q. 9)。6-メ トキシ, 6-メチル , 6-クロロ, 6- トリフルオ ロメチル置換体 な ども収率 よ く反応 した ( e q・ 9)0 RhH( PPh3)4( 4mol %) dppe( 8mol %) x J 3E 3 > leq ・ phA f h 7 x J Sl Cl , r ef l . , 3h C6H5 項 i lM. F e, 0 66% 91% 92% ( eq. 9) 94% 92% 1 , 3 -ベ ンゾオキサ ゾ-ルお よび 5 -メ トキシ,5 -メチル ,5 -クロロ置換体 もフェニルチオ化 された ( e q. 1 0)。ただ し,5 - トリフルオ ロメチル体 では収率が低下 した。 髄: 1 ) x ・ RhH( PPh3)4( 4moJ %) dppe( 8m01 %) 7 S x C6H5 Cl ,r ef l ・ ,6h N . 1 > sph X=MeO X=Me 80% 79% …≡S. X≡CF3 …喜: : :( eq・1 0) 48% 3eq 本研究で,ケ トンと芳香族複素環 C-H 結合 の ロジウム触媒チオ化反応 を開発 した。 この反応 は塩基 を 用い るこ とな く,触媒的に C-H結合 を直接的に C-S結合形成できる特徴 があるo 一連 の反応 開発 において, ある反応 で得 られ たチオ化生成物 をよ り酸性度の低い化合物 の反応 に利用 す る方法論が有効 であった。す なわち, 1 , 2-ジフェニルエ タノンのチオ化生成物 2をプ ロピオフェノン のチオ化反応 に用 い ( e q.2,4), プ ロピオ フェノンのチオ化 生成物 4を 1 , 3-ベ ンゾチア ゾール の反応 に e q.8). 1 , 2-ジフェニルエ タノン, プ ロピオ フェノン, 1 , 3-ベ ンゾチア ゾール の pKa 3は 1 7. 7, 用いた ( 24. 4,27. 0であ り,酸性度 の高い基質か ら低い基質 について順 に検討 し,有機イオ ウ化合物 に変換す る 方法 を開発 した。 【 参考文献】 I . Ar i s a wa, M. ;Suwa,K. ; Ya ma guc hi ,M.Oy g・ Le f t . 2009,l l,625. 2. Tr os t , B. M. ・ ,Sal zma nn, T. N. ・ ,Hi r oi ,K. J. Am.Che m. Soc .1 976,98, 4887. , 3・Bor dwe l l ,F・G・Ac c ・Che m.Re s・1 988,21,456;Bor dwe l l ,F・G・ ;Zha ng,S・ ;Zha ng,X・ -M・ ;Li u WrZ・J ・Am・ Che m.Soc.1 995,1 17 ,7092;Bor dwe l l ,F. G;Ha r r e l s on, J . A. ,J r .Can. J.Che m.1 990,68,1 71 4. - 117 - 審 査 結 果 の 要 旨 有機イオウ化合物 は合成 医薬品あるいは機能性材料 のための重要な物質である。化学的に合成す るた めには炭素 -イオ ウ結合 を生成す る必要があるが,一般 に反応性 の高いイオ ウ試薬 と有機ハ ロゲ ン化合 物の置換反応 が用い られてきた。 しか し, この方法では合成が多段階 とな り,結果 として廃棄物 を多量 に生 じる問題 がある。炭素 一水素結合 を直接炭素 -イオ ウ結合 に変換す ることができれば, よ り効率の 高い合成が可能 となると期待 されているが,そのための方法の開発 は未開拓である。本論文の内容 は, ロジウム触媒を用いて,ケ トン α一位お よび芳香族複素環化合物 を直接有機イオウ化合物 に変換す る方法 が開発 したものである。 これ によって金属廃棄物 を生 じる原因 となる塩基 を用いずに,炭素 一水素結合 を効率的に炭素 -イオ ウ結合 に変換できることを示 した。 あわせて, このよ うな反応 を開発す るための 研究方法論が提示 された。 まず, ロジウム触媒存在下で α -フェニル ケ トンを α -メチルチオ化す る反応が開発 された。 ここでは α-メチルチオアセ トフェノンをイオ ウ化反応剤 に用いると効率的に反応が進行 した。また,触媒 として ロジウム錯体 とジメチル ジスル フィ ドを組み合わせて用いた。 この方法は α-フェニル基を持たないケ トンおよびアルデ ヒ ドに適用す ることができなかったので,吹 -メチルチオ ー1 , 2 にそのための検討が行われた。結果 として,イオ ウ化反応剤 に上の反応で得 られた 2 ジフェニル ート エタノンを用いることによって, この問題 が解決 された。様 々なケ トンとアルデ ヒ ドに 適用可能であ り,非対称ケ トンの反応ではよ り置換基の多い炭素上で反応 した生成物 を与 えた。また, 平衡反応であることか ら,速度論的生成物か ら熱力学的生成物に変換す る現象 も認め られた。 さらに,芳香族複素環化合物の水素 をフェニルチオ基で置換す る方法が開発 された。 ここでイオ ウ化 反応剤 は α-メチルチオプ ロピオフェノンあるいは α-フェニルチオイ ソプチ ロフェノンが有効であった。 この方法によってベ ンゾチアゾールな どの 2位 にフェニルチオ基 を直接導入す ることが可能 となった。 合理的に新 しい反応 を開発す るこ とは容易でない とされているが,本論文でそのための有効な方法論 が提示 された。すなわち,酸性度が高 く反応性 の高い基質の反応か ら始 めて,イオ ウ反応剤 を適切 に選 択 しなが ら酸性度が低 く反応性の低い基質の反応に順次すす めることに成功 した。 本論文は, ロジウム触媒 を利用 して有機イオ ウ化合物 を合成す る新規で効率的な方法を開発 したもの であ り,研究方法論 として も新規で重要な知見が含まれている。その内容は博士 ( 薬学)の学位論文 と して価値があるもの と判断 され るので,合格 と認める。 -11 8-
© Copyright 2024 ExpyDoc